篠山竜青に「今、考えていること」を聞いて書くこの連載が始まって4度目のシーズン開幕が間近に迫った。毎年馬鹿の一つ覚えのように「どんなお気持ちですか?」「何かいつもと違ったことはありますか?」というようなことを聞き、「そんなに変わりはないです」と返され続けてきたが、今年は珍しく違う言葉が聞けた。
「今年に関しては揃ってないので、選手が。ヘッドコーチも変わってますし。例年に比べると少し忙しいですね。頭の中がまだ」
山内ジャヘル琉人とアレックス・カークは日本代表として、8月末に契約が発表されたモハメド-アリ・アブドゥル-ラフマンはサウジアラビア代表として9月10日開幕のアジア競技大会を戦った。日本代表ヘッドコーチを兼任する桶谷大ヘッドコーチが腰を据えてチームを指導するようになったのも9月に入ってからだ。
どんなことで頭が忙しいんですか?
桶さんのバスケはけっこうシステムが多いんです。シーズンを経ていく中で引き出しを増やしていくコーチもいるけれど、桶さんはたぶん最初に1回全部見せるタイプで、今は一通り全部の引き出しを開けてもらったような感じですね。ポイントガードなのでいつ、どこで、どのシチュエーションで、どの引き出しを開けるかは大事にしなきゃいけない。それこそ、近代的なバスケットって相手がどういう守り方をしているか、自分たちのフロアバランスがどうなっているか、みたいなことを考える前に早くスムーズにボールを動かすことを優先させるバスケットで、ネノ(ギンズブルグ前ヘッドコーチ)もそういうスタイルでしたけど、桶さんはどちらかというと「前もって準備していた戦術でポイントを作って、その中で流動的にプレーする」みたいな感じ。なので、よりポイントガードに求められるものが増えるだろうな、というところは感じていますね。
コートの状況と引き出しの内容を照らし合わせて、瞬時にプレーを選択する。
ポイントガードだけじゃなくてみんながそれを理解して、「このマッチアップでこのセットプレーがコールされたってことは、ここでこいつにこのプレーをやらせるためだ」みたいなことが分かってないと深みが出てこないよねっていう感じですかね。
桶谷ヘッドコーチは篠山選手の目から見てどんな方ですか?
一言で言ったら時の人ですよね。今の日本バスケ界で八村塁、河村勇輝の次ぐらいに注目されていると言っても過言ではない人なので、いろいろ大変だろうなって思いながら見てます。普段は話しやすいですし、本当に気さくなおじちゃんって感じの人です。
今日の練習が終わった後も、桶谷ヘッドコーチ、篠山選手、長谷川技選手の3人で何やら話しこんでいました。
私がいた頃の代表と今の代表は違いますねっていう話とか、桶さんがどこに住んでるかとか、開幕する前に1回ぐらい飲みに行きたいっすよねみたいな話をしました。だからそんなにまだ深い話をしてはいないですね。一回面談があったくらい。
面談ではどんなお話になったんですか?
桶さんが僕に求めてることを話してくれたんですけど、私に関してはやっぱりゲームコントロールのところであったりとか、ゲームチェンジャー的なところであったりとか、ベテランとしてどうこう、みたいな話でした。
プレシーズンゲームや練習の様子を見ると、篠山選手は二番手三番手で出てくる選手たちと組んで、フォローして……という役回りを担っているように見えました。
今はそういう組み合わせが多いですね。でもまあ、そろそろそういうフェーズなんだろうなとは思っていましたし、想像の範疇ではありましたよ。祥平さん(菊地祥平ディベロップメントサポートコーチ)からも「若手を育てるために手伝ってもらうところがあると思う」と言われていましたし、全体練習はもちろん、ワークアウトとかでも若手のフォロー役が増えていくのかなって思ったりはしています。
なるほど。ただ、おそらく先発PGを務めるのだろう米須玲音選手について、桶谷ヘッドコーチは「今はプレイングタイムを与えられている段階」「竜青を実力で追い越していかないといけない」と話されていました。
まあ若いんでね、玲音もまだ。いつでもケツに火がついてる状態じゃないといけないと思うし、そういう意図もあってのことなんだろうなとは思いますけど。まあ、その、なんて言ったらいいんですかね。チーム全体っていうところを考えたら自分のフェーズが徐々に変わってきているのは間違いないんですけど、だからといって全部を米須くんに譲るとか「もう自分じゃないんです」っていうマインドになってるかって言ったら、全然そうではないし…そりゃあ…そりゃあ…っていうところの…………分かります?(笑)
分かった気で曲解したら怖いので、教えてください(笑)。
「こういう役割もやっていかなきゃいけないですよね」って納得してやるっていうだけで、「試合に出なくていいです」とか「玲音の時代なんで僕は若手の育成を頑張ります」みたいなことではないんです。前の2年でシュートをアグレッシブに狙いに行くとか、脅威に思われるということはすごくできたと思っているので、得点力がある外国籍や起点となれるウイング陣に快適に仕事してもらう、ボールを預ける……それこそ桶さんのよく言う「生産性の高いバスケットボール」を展開する中で、相手が捨てきれない選手というか、いいところでポンと1、2本決めてくるのが理想形というか。切れ味のいい刀を鞘にしまっておける状態ではいられるんじゃないかなって思ってはいますけどね。
プレシーズンゲームの長崎ヴェルカ戦で、プレータイムや経験の少ない選手たちとのラインナップでゲームコントロールを任された時間があって、率直に大変そうだなと感じました。
2番ハセ(長谷川)、3番(野本)建吾、4番ロイ(伊久江ロイ英輝)、5番ジェイ(ジェイデン・リディ)とかね。「はじめまして」みたいなラインナップ(笑)。まあ、でもそこを回してこそ……みたいなところはやっぱりありますし、それが集大成とまではいかないですけど、選手としての一つの完成形なのかな。ニック(ファジーカス)、辻(直人)、(藤井)祐眞にどうやってバスケットしてもらうか、みたいなことを考えてずっとゲームコントロールをやってきて、彼らがいなくなってもう一回自分の刀を磨き直した2年間を経ての。だから、やりがいはすごくありますよ。変則的なラインナップになればなるほど「桶さんに試されてんな」みたいな(笑)。そういうことを託されてこそだなって思ってやれているので、いいメンタルかなと思います。

今季は2023-24シーズンより3シーズン連続、東芝時代からの通算で12シーズン務めたキャプテンを米須選手に譲られました。変化は感じますか?
それこそ、必勝祈願の後に「肩の荷が降りましたか?」って言われたじゃないですか。その時は「いやー、そんな変わんないけどな」って思って流したんですけど、その後の出陣式で玲音がキャプテン就任挨拶からスローガンの発表と説明、だるまの目入れ、締めの挨拶まで全部やってるのを見て「大変そうだなあ」って思って、そこで初めて「あ、キャプテンって大変だったんだ。俺、これをずっとやってたんだ」って思いました。だから実際だいぶ気が楽になりましたね(笑)
東芝時代の先輩だった菊地コーチの加入にはどんな影響を感じていますか?
最近は自分より年下のコーチが多くなってきたこともあって、入ってきた時からすごくリスペクトしていただけていて、若いやつには色々言っても「竜青は竜青のペースでやってくれればいいから」みたいなことになりがちではありました。そういうところで直属の大先輩が入ってきたのでビシッとはしますよね。「もっとプレッシャーをかけろ」とか「走れ」とか「サボるな」とか当たり前に言われるので。
菊地さんは41歳までB1でプレーされたわけですから、まだ38歳なのにへばってるんじゃないよという気持ちもあるんでしょうね。年下から崇め奉られている場合じゃないですね(笑)。
むしろ下民に逆戻りです(笑)よかったです。

新たなシーズンの幕開けは楽しみですか?
楽しみですよ、楽しみ楽しみ。オンザコートフリーになって、ペリメーターもできる外国籍選手がすごい増えてきてるじゃないですか。例えば茨城のヴィック・ローとか仙台のジェイク・レイマンみたいな選手に対して、うちはたぶん肉弾戦に持ち込むような戦い方になると思うんですよね。ゴール下の肉弾戦。フィジカルゲーム。そういう意味では見ていて面白い、爽快感のあるゲームができたらいいなって思います。
今シーズン、個人として掲げたい目標はありますか?
これは去年と一緒ですね。怪我をしない。風邪を引かない。あとはチームが勝つ、もう勝ちたいっていうところ。そこかなって思います。
桶谷ヘッドコーチは、開幕から一気に結果が出るかは分からないけど、シーズンを通して力を積み重ねて、終盤にはプレーオフ進出圏内に入っていたいと話されていました。篠山選手はいかがですか?
一緒です。僕は日本ハムファイターズの新庄剛志監督の考え方が好きなんです。新庄さんって監督に就任したときに「優勝なんか一切目指しません」って言ったんですよね。ただその日その日の試合と成長にフォーカスして、Bリーグで言うと2月とか3月ぐらいに「あれ、これプレーオフ目指せるんじゃね?」みたいになったら初めて次の戦い方が見えてくると。だから足元を見て一歩一歩、とりあえず歩くだけのほうがいいんだろうなって思います。

やれと言われたことを、やる。
篠山はこれまでの取材の中で、自分のそのような気質を自嘲気味に話すことが多々あった。
目を見張るような身体能力も、天才的なひらめきも、絶対的なリーダーシップも、自分にはないのだと話す篠山はいつも少し淋しげだ。しかし、Bリーグで10年、ブレイブサンダースで15年プレーし続け、今もなおチームに求められている理由の根っこは、おそらくここにある。
桶谷は川崎のバスケットボールに新たなコンセプトをいくつか持ち込んだ。その一つを、篠山は誰よりもわかりやすく、全力で徹底している。そう言うと、篠山はきまり悪そうに「それが私の真骨頂ですよね……」と笑い、今まであまり使っていなかった筋肉を使っているので大変だと言った。
やれと言われたことを、やる。
篠山の力は、新たな時代に進み出す川崎ブレイブサンダースの確かな礎になるはずだ。