BASKETBALL | [連載] 篠山竜青が今、考えていること

篠山竜青が今、考えていること(2024/03/24)

interview |

photo by Kazuki Okamoto / text by Miho Awokie

川崎ブレイブサンダースvs佐賀バルーナーズの第2戦。第2クォーター残り2分19秒、35-39という場面で篠山竜青がトップからの3ポイントシュートを沈めると、アリーナMCが叫んだ。

「B1個人通算300回目の3ポイントを沈めました!」

コート上ではすでに次の攻防が始まっている。篠山はそのままディフェンスポジションに走り、とどろきアリーナは大きなどよめきに包まれた。試合後、コートサイドで試合を撮影していた岡元は、「ポジションの関係であのシーンを押さえられませんでした」と悔しそうに言った。

だが、当の本人にとっては、この瞬間はさしてエモーショナルなものではなかったようだ。

「(300本が近いということは)把握はしてなかったですね。アナウンスを聞いて『ほえー』ってなりました」

78-87で敗れた試合後、数人の記者による囲み取材の中で記録達成について聞くと、篠山はそう言った。

質問を重ねた。

ーー300本成功は「早いな」なのか「遅いな」なのか。どういう印象ですか。

「……わかんないです。他の人のそういうのも別に気にしたことがないので。 言い方アレですけど、あんまり興味がないです(笑)」

ーー例えばこれがアシストなど別の記録だったら違いますか? それとも個人記録そのものに興味がない?

「基本的に(記録への興味が)あんまりないですね。だってBリーグになる前からプレーしているし、何の通算なのっていう」

そのときは、言われてみればそのとおりだとばかり思った。ただ、取材音源を聞き直し、それを文字に書き起こしたものを眺めているうちに違和感を覚えた。複数のメディアが取り囲んだ状態での、キャッチーなトピックに関する質問。篠山が得意とする、ウィットに富んだコメントが飛び出してもおかしくない場面だったからだ。

篠山はおそらく疲れていた。

試合後だから、という以上に疲れていた。声も少し枯れていた。

この試合はいわゆる『荒れた試合』だった。乱闘やそれ寸前の出来事があったわけでもないのに、アンスポーツマンライクファウルが5つ、テクニカルファウルが1つ宣告されるという異様な試合だった。ノーマルファウルか、アンスポーツライクファウルかを確認するためのビデオ判定で、何度もゲームが止まった。両チームともに、一体何と戦っているのかと思わされた。

2月のバイウィーク明けから、篠山のプレーは少し変わった。

藤井祐眞とニック・ファジーカスの2メンゲームという、誰の目にも明らかなチームの強みは、シーズンを追うごとに対策を強められている。篠山はポイントガードとして、これと異なる強みを作り出そうという意識を持ってシーズンに入ったと話すが、その意識がより如実に、より明確な意図をもってプレーに表れるシーンが増えた。

ディフェンスを収縮させるためのペイントタッチ。そこからのミドルショット。ファジーカス以外にシュートを打たせる、もしくはいくつかの布石を打った上でファジーカスに打たせるプレーコール。決定率は高いとは言えないが、3ポイントシュートの思い切りも良くなった。

「自分は大体、祐眞とニックとのハイピックが続いてる時間帯で投入されるので、積極的にオフェンスコールを出して、目先を変えてっていうことは意識しています。そういう意味では自分がちゃんと鍵を握ってるっていうか。そういう役割をいかに遂行してチームを楽にさせてあげるかっていうところは意識しているし、コーチからそれをやらせてもらえてるしっていう感じですかね」

藤井は強烈に尖った強みはあれど決して器用なプレーヤーではない。今季よりポイントガードに本格挑戦した納見悠仁も、コート上で多くの経験を積めぬままシーズン終盤を迎えた。篠山は今、『彼らにできないことを全部やる』という役割を担っている。

「30を超えて、祐眞がメインで1番をやるようになってから、いろんなところでいろんな使われ方をしてきました。自分の調子がいい・悪いは関係なしに、チームがこういう状況だったらやるしかない、みたいな。どういう使われ方をされても、それに応えるのが自分の武器だと思っているし、一番のストロングポイントだと思っているので、それに応えたいという気持ちが一番大きいです」

このような篠山の意識と行動が、川崎のバスケットボールに変化を与えていることは間違いない。ただ、思考と身体と結果は必ずしもイコールでつながるわけではない。それがもどかしく、苦しい。

「コールの選択とか、ディフェンスのチェンジングの判断とかでいくらでも跳ね返せるチャンスはあったと思うので、そこは本当に反省点です。第4クォーターの頭で『あれをやっておけばよかった』っていうコールが2つ3つあるし。我慢強くやれるようにはなってきてると思うんですよ。間違いなくね。もう1発、もう1ステップ、2ステップ、追いついて逆転していくっていうところまでが足りてないところなのかなとは思いますけど」

ここまで言って、篠山は「その…」と5秒ほど考え込んだ。様々なフラストレーションを吐き出すように舌を鳴らし、「もうちょっとなんすけどね」とぼそりと言った。

「どういう意味でですか?」。尋ねると「跳ね返すところまで」と答えた。

「もう少しだと思うし。『もう少し』ってここ2~3年、ずっと言っているような気もするし。みたいな感じです」

篠山は日本代表として活動していた2018年ごろを境に、試合前のルーティーンを持つのをやめた。

「ルーティーンはね、昔は好きだったんです。若い頃はこだわってやってた時もあるかな。でも代表戦とか海外の試合ってイレギュラーなことが多いでしょ。そういうときにルーティーンをこなせないことで心が乱れるほうが嫌だなと思って、『意図的に作らない』っていうのをやり出しました」

ところが佐賀戦の次節の富山グラウジーズ戦から、篠山はあるルーティーンを取り入れている。

試合最初のコートイン時、小さな四股を2度踏む。両足裏を3度フロアに強く押し当てた後に、上半身を揺らす。

不動のスターティングメンバーであったときに常としていたしぐさを、スタートでもそうでないときも取り入れるようになった。何かを変えたかった。

4月11日現在、川崎の成績は27勝24敗の中地区5位。中地区2位のシーホース三河、ワイルドカード2位の島根スサノオマジックともに3ゲーム差という位置にいる。千葉ジェッツと広島ドラゴンフライズに悲痛な連敗を喫し、どん底まで落ちたチームだったが、同地区のライバル・サンロッカーズ渋谷に完勝を収め、チャンピオンシップに向けて『首の皮一枚』という状況をキープしている。

レギュラーシーズンは残りあと9試合。

両足を踏み鳴らして、篠山は進む。調子が悪くても、得意なことでなくても、プレータイムが少なくても、やれることをやる。

あと一歩。もう一歩。さらに一歩。

PROFILE

篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
1988年生まれ、神奈川県横浜市出身。178センチ(ウイングスパンは約190センチ)。小学生のときに兄姉の影響でバスケを始め、北陸高校、日本大学時代には日本一を達成。2011年にクラブの前身にあたる東芝バスケ部に加入。主力のポイントガードとして長きに渡ってチームを牽引してきた。好きな漫画は松本大洋の「ピンポン」。

著者

青木 美帆(Miho Awokie)
青木 美帆(Miho Awokie)
フリーライター。高校3年時にたまたまインターハイを観戦したことをきっかけにバスケに取り憑かれ、早稲田大学入学後に取材・執筆活動を開始。岡元氏とはご近所仲間。小2の息子に口喧嘩で負ける。 X:@awokie Instagram:@miho.awokie

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