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「思想がなくクオリティだけ高いものに反骨したかった」| Pacific FC 田代楽

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photo by Gaku Tashiro / text by Kazuki Okamoto

田代楽海外初企画2024パシフィックFCユニフォームローンチ

田代楽が海をわたり、早くも1年が経とうとしている。

紆余曲折を経て、現在はカナダのビクトリアにあるサッカークラブ「Pacific FC」のクラブスタッフとして働いている田代楽にとって、初めての海外での企画となるユニフォームローンチが行われた。

その背景にある想いや熱意をぜひご覧いただきたい。

Vancouver Island is Trident Territory

今回のユニフォームができあがる背景を教えてください。

ユニフォームの企画自体は1年ほど前から行われるので、僕がこのクラブに入る前から「Vancouver Island is Trident Territory」というコンセプトのもと、クラブとMACRONの間で話は進められていました。クラブモチーフであるトリデンテが羅列されたパターンを使用して、この島であればどこでもクラブのホームタウン、つまりクラブを構成する大きな要素であることをユニフォームの柄を使ってファンや市民に提案しています。紫の1stユニフォームに関してはベーシックなデザインとなっていますが、次回の記事でお話する2ndユニフォームはかなりこだわっているので楽しみにしていてください笑

カナディアン・プレミアリーグは全チームMACRONなのですね。

はい。他社メーカーだと決まったテンプレートがあったりしますがMACRONは全てのクラブがオリジナルデザインのユニフォームを作成することができるので、デザインやコンセプトを一から作ることができます。そこはクラブにとって間違いなく良い点です。

今回のユニフォームをプロモーションするにあたってどのような企画を立てたのでしょうか?

最近のトレンドとして選手をスタジオで撮影したりプロのモデルを起用したりしていますが、あえてそれらをアンチテーゼとして、クラブに関わるファン、市民、スポンサーの人たちにユニフォームを着てもらい、とにかくローカルにこだわってプロモーションしました。

Photo:Gaku Tashiro

この方もクラブの関係者になるのでしょうか?

ファンであり市民です。この方はうちのクラブ関係者がよく行くカフェの常連さんです。日本と違って「クラブ関係者」の概念が異なり、ファンもクラブの一員であると思っているので、ファン=お客さんではないんですよね。厳密にいえばお客さんにカテゴライズされるかもしれないですが、一緒にクラブをつくる大事な存在だと思っています。

なるほど。島にいるファンと一緒にクラブを育てていくという感覚ですね。

はい。このユニフォームが島の代表的な衣装であると考えているので、ファンを含めたクラブの関係者に着てもらって撮影しました。共通しているのは、みんなサッカーが好きでPacific FCに関心があること。「クラブとファンと市民が同じ目線を揃えて一つのクラブをつくっていこう」というメッセージが込められています。

今回撮影されたのはどなたなのでしょうか?

メインの写真はクラブオフィシャルの方ですが僕も少し撮っています。最終編集はクラブですが、撮影自体は島の人にお願いしました。

そうなると、撮影した場所は島の中になりますか?

はい。とにかくローカルにこだわりました。先ほどのおじいちゃんが写っているカフェは日本人からしてみれば「The 外国のカフェ」です。おじいちゃんやおばあちゃんが朝からコーヒーを飲みにくるような場所。他にはスタジアム近くのタコス屋さんや海、あとはオフィスでも撮りましたね。

Photo:Gaku Tashiro
Photo:Pacific FC

今回撮影した場所の中で、印象に残った場所はありますか?

島唯一のヴィンテージショップで撮影できたのはよかったですね。そこでタトゥーの入ったイケてる若い店員さんを撮影することで若者を置いていかない態度をみせられたというか、本来であればプロのモデルとして起用するような方を島の中から見つけたのは大きかったですね。その方もクラブスタッフの繋がりではあるんですけど、「なぜこのモデルで撮影したのか」という説明がファンだけではなく、撮る側にもできます。結果として良い作品に仕上がったのは、撮る側とのコニュニケーションも十分できたことは間違いないですね。

僕もサッカークラブのユニフォーム撮影に関わることがありますが、企画する人、撮る人、撮られる人の連携はかなり重要だと思っています。その他に気づいたことはありますか?

ユニフォームのローンチに合わせてタイアップ形式で発信していくんですけど、街の人を撮ることで彼らが主語として「Pacific FC」を使えるというのはいいですね。プロのモデルさんを起用して撮影することに対して否定はしないですけど、そのモデルさんからすると「○○というサッカークラブのプロモーションに参加しました」みたいな感じになると思うんです。でもそうじゃなくて、「クラブと一緒に企画してタイアップをしました」と彼らの主体性も企画を促進する要素になるので、島にとってもよいプロモーションになりました。

Photo:Gaku Tashiro

つくった考えた人間がしっかりと説明する態度を諦めたらダメだなと。批評や批判の先を明確にしないとこれから何かを作る上でよいものをつくることができなくなる。

ユニフォームローンチに関して日本のサッカークラブとの違いはありますか?

日本のクラブでユニフォームローンチに関して責任者として関わったことはないんですけど、基本的にアディダスやナイキ、PUMAといった各クラブのユニフォームのサプライヤーが主導となるので、決裁がサプライヤー側にあるという違いが明確にあります。したがってサプライヤーが絵コンテやカメラマンを用意するので彼らのセンスがクラブの見栄えとスタンスに直結します。そうなるとサプライヤー側に相当なセンスがないと良いものはつくることはできません。ここでの「センス」というのは、写真や映像といった目に見える美的センスと「このキャスティングをこの場所で撮る」と決めるセンス、要はクラブと街を知っている必要があるってことです。今から言うことは太字にしてほしいんですけど、サッカークラブのユニフォームローンチってめちゃくちゃ大事だと思っていて、これをどうやって出すかによってクラブのスタンスが決まるし、誰に対してなにを売ろうとしているのかもわかる。もっといえばクラブの現状がすべて見えてきます。そんな重要なものを、街のこと、クラブのことを深く知らないクリエイティブエージェンシーのセンスだけでつくるのは僕からしたらなしです。そんななんとなくカッコいいものが量産されるだけの現状に対して反骨できるものをつくりたかったというのが本音です。

MACRONがサプライヤーであることはクラブにとっても田代くんにとってもよかったのではないでしょうか?

はい。当然細かいやりとりはあるにせよ、大まかなデザインやコンセプトに関して基本的にクラブに委ねてくれました。僕の立場からすると、ボスの首を縦にすることさえできればよいので、今回の企画に対して理解を示してくれたボスとチームには感謝しかないです。

他のスタッフとはどういったコミュニケーションがあったのでしょうか?

ボス含めて5人のチームで企画をしたのですが、その1人にこのクラブとは別でPR会社の仕事をされている方がいて、その方がローカルビジネスに精通していたこともあり、キャスティングや撮影場所の部分でめちゃくちゃ頼りになりました。間違いなく今回のプロモーションのキーパーソンです。今回で言えば、若者が集うヴィンテージショップとのタイアップは過去に事例がなかったので、その部分は特に話し合いましたね。イタリアのヴェネツィアFCと似ている部分もあるかもしれないですが、島(街)を全面に使用してプロモーションしたことをメディアに対してプレスリリースに出したりもしました。

この記事を読んでくださった方は納得されると信じているのですが、最近のユニフォームローンチには、フットボール的文脈の思想が薄いけれど単にクオリティが高いだけのものがありふれていませんか?今回のPacific FCのローンチについて「写真が微妙とか、被写体が微妙だった」って言われる点については、クラブの100%の力を発揮したので納得して反省ができるのですが、コンセプトに関して何か言われても徹底的に対抗できる自信があるんですよね。仮に海外に住んでいる方に「微妙だね」って言われても「そもそも今回のターゲットは海外に住んでいるあなたではなくて、ビクトリアに住んでいる人たちなので」って。今回の企画で島(街)にフォーカスしローカルにこだわったことによって、僕らは島との新しいコミュニケーションができて、来年以降に繋がったと自負しています。ここの部分をビクトリア出身でもない日本人が関わることができたというのは僕にとっても大きな財産です。

Photo:Gaku Tashiro

とにかくローカルにこだわったと仰っていますが、プロのモデルを起用する話はなかったのでしょうか?

そもそも卓上にその話を出しませんでした。例えば若くて可愛いモデルさんを起用するのって言葉を選ばずに言うとクラブのファンに対しての冒涜だと思っていて。僕にはそれが「我々のクラブとしてはこういう人たちに着てほしいんです」っていうメッセージにしか聞こえなくて、仮にそのクラブが「新しい客層を取り込みたい」という意図があってそのモデルを起用したとするならば、より熱をもっているファンともっとコミュニケーションをとるべきだと思っています。当然それが簡単なことではないというのは、前職時代に肌で感じていますが、それくらい大事なことだと思っています。

サッカークラブとは何か?に繋がりそうですね。地域に根ざしたサッカークラブと謳いながら、全く逆の路線に突っ走ってしまい、これまでクラブを応援していた方達が少しずつ離れてしまっては元も子もないですよね。

同感です。僕の持論ですが、プロフェッショナルな人がローカルの人をピックアップする方がどう考えてもカッコいいんですよ。「モデルの顔」を映すのではなくて「ずっとクラブを見てきた人や島で育った人にしかできない顔」を映す方がよっぽど価値がある。プロのモデルを起用するのであれば、その街にゆかりのある方を起用すべきかなって。そういったものを全部批判する覚悟で企画することは僕のボスにも言いましたし、その意図をもってプロモーションしました。

次回は2ndユニフォームの制作についてお話をお聞きしますが、最後にお伝えしたいことがあればお願いします。

こんなにも公共性があっていろんな組織と一緒に連携しているサッカークラブが、何かを打ち出す時に熱意をもって説明することは最低限のマナーだと思うんです。これまでの慣例や海外で流行っていることをやるというのは決して間違ってはいないですが、「あなたは何も考えていないですよね」という風に思われてもおかしくない。つくった考えた人間がしっかりと説明する態度を諦めたらダメだなと。批評や批判の先を明確にしないとこれから何かを作る上でよいものをつくることができなくなると思っています。…と、これは2024年における僕のスタンスで来年言っていることが真逆になっていたらそれはそれでフットボールだね、ということにしてください。

PROFILE

田代 楽
田代 楽
カナディアン・プレミアリーグ パシフィックFC マーケティンググループ。26歳。バンクーバー在住。 大学卒業後、Jリーグ・川崎フロンターレでプロモーションを担当。国内のカルチャーと融合した企画を得意とし、22年、23年のJ開幕戦の企画責任者を務める。格闘技団体「RIZIN」とのタイアップを含む10個以上のイベントを企画・実行。配信しているPodcast「Football a Go Go」はポッドキャストランキング・スポーツカテゴリで最高6位入賞。Instagram:@gaku.tashiro

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