BASKETBALL | [連載] New Voyage ~東海大男子バスケットボール部”SEAGULLS”の挑戦

New Voyage ~東海大男子バスケットボール部”SEAGULLS”の挑戦

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photo by Kazuki Okamoto / text by Miho Awokie

新生東海大男子バスケットボール部の初陣となった『関東大学バスケットボール選手権』は5位という結果で終わった。

特別指定選手としてBリーグに帯同したポイントガードの轟琉維(3年)、センターの渡邉伶音(1年)の合流が遅れ、フォワードの佐藤友(2年)がケガで大会直前に離脱。チームケミストリーを作り上げるのに苦労した中、準優勝の白鷗大と準々決勝で大接戦(66-70)を展開し、順位決定戦の2試合にもしっかり勝った。新指揮官を迎えてのシーズン初戦としては胸を張れる結果と言っていい。

ヘッドコーチの入野貴幸は大会を次のように総括した。

「(白鷗大戦の)4点差の責任は私にあります。タイムアウト1つ、交代1つ、指示1つ、ほんのちょっとの差だったと思うので。その上でコーチ陣の中では、新シーズンが始まってから取り組んできたことが徹底できなかったことが一番の反省材料として挙がりました。『Get Ready』…要はボールを持たれる前のディフェンスを頑張ろうということなんですが、時間が経つにつれてそこがソフトになってしまった。ただ、彼らなりに持てる力を発揮してくれた大会だったように思いますね。選手たちには『方向性は間違っていないから、これからも見失わないように』というようなことを話しました」

入野は学生たちに自発的な行動を求める指導者だ。他者から促されるのでなく、自らのパッションや行動で現状を変えてほしいと願っている。そして、今大会はそれが至るところで見られたという。

「順位決定トーナメントの青山学院大戦で、江川晴(2年)が『自分、いつでも繋ぐんで出してください』みたいなことを言ってきたんです。直井隼也(3年)もベンチに戻ってきてすぐ『いつでもディフェンスレディしてるから呼んでください』と言ってきた。極めつけは赤間賢人(2年)。中央戦の第4クォーターに『残り5分から行くよ』って言って一旦下げたんですけど、それくらいの時間になったら自分から『入野さん、5分です』って言いに来ました。プレー以上の『Get Ready』が大会期間中に選手から出たのが一番の収穫ですね」

#16 赤間賢人

関東トーナメントを終えたチームは、すぐに新人戦に向けた準備を始めていた。高校時代から頭一つ抜けていたシュート力に2年間でディフェンス力を積んだ赤間、この大会で復帰が予定される大黒柱の佐藤、泥臭く身体を張れるムスタファ ンバアイの2年生トリオに、スーパールーキーの渡邊、十返翔里も加わる東海大は優勝候補の一角。狙うはもちろん関東と全国の二冠獲りだ。

「去年の新人チームとはちょっと違うギラつき方をしてますね。みんなが『俺はこれができる』『お前がこうなら俺はこうやる』っていう感じ。陸さん(陸川章アソシエイトコーチ)のよく言う『ジャジーなバスケット』ができそうです」

関東トーナメントの白鷗大戦、鈴木暉將(かがと、4年)は陸川と君座武志(4年)の間で広い肩を小さく丸め込みながら、試合の行方を見守っていた。

鈴木は入野組の記念すべき初代キャプテンだ。高校時代まで全国大会出場の経験はないが、ひょんな縁も重なって東海大に進学した。

「進路のことを考え始めた高2の夏、東海大OBの徳川慎之介選手(東京ユナイテッドバスケットボールクラブ)が練習に来てくださったんです。たまたま進路の話になって、関東1部の大学に行きたいと言ったら『東海とかどう?』って言われて。徳さんが東海OBって知らなかったんでびっくりしました。そこから陸さんにプレー動画を送って、何度か練習や試合を見てもらっていたら『一緒にバスケをやらないか』って言われたので、迷いなく『お願いします』とお返事をしました」

191cm89kgの堂々たる体躯。ハンドリングスキルや身体能力、フィジカルに優れ、トレーニングやコンディション管理をコツコツやり続られる芯の強さも備えている。入野が「ポテンシャルはスタートクラス」と評するだけの力があるが、トーナメント終盤はあまりプレータイムを得られず、キャプテンとしての振る舞いもどこか自信なさげだった。

「隠れている」

鈴木は40分程度のインタビューの中で、似たようなニュアンスの言葉を何度か口にした。

自認している性格は内気。自分の考え、バスケットへの愛情と熱意、プロになりたいという夢。いろいろなものを心の奥に大切にしまい込み、育て、鍛錬を積み重ねてきた。しかし、最終学年となった鈴木はそれを少しずつ心の外に出し、周囲に伝えていこうとしている。キャプテン就任はその最たる例だ。

「確かインカレ前に同期を集めて『キャプテンをやりたい』と言いました。自分のすべてを犠牲にできるチームがここだって思えたからって。絶対自分ならこのチームを日本一にできる。どんな形でも、ベンチにいようと、もしかしたら応援席にいようと、コートに立ってようと、日本一のチーム、日本一のビッグファミリーに絶対にするって伝えたら、『お前がやれ』って言ってもらえました」

新人戦では君座がキャプテンを務めていた。当然、君座もキャプテンをやる気があったのではないかと鈴木は推測する。しかし鈴木は譲らなかった。

「あの時は…あの時はっていうか今もですけど、なんか、譲らないあれが…理由はちょっと忘れちゃったっていうか、あれですけど、譲れない何かがあったっす」

覚束ない言葉だったが、籠もった気持ちは十二分に伝わった。

鈴木は今、ローテーションメンバーのボーダーライン上にいる。シーズン当初は、主力ではない立場でどのようにリーダーシップをふるえばいいのか、チームを見ながらどのように自分のプレーに集中すればいいのかがわからず悩んだ。学生コーチの田中秀吾(4年)は「チームのことを考えるだけがお前の仕事じゃない」、昨年キャプテンを務めた大久保颯太(岐阜スゥープス)は「キャプテンとしてじゃなくプレーヤーとしてもできるだけの力量がある」と励ましてくれた。

そして、鈴木は自信の理想像を結んだ。すなわち、練習でも試合でも、自分がどのような状況であっても決してあきらめずに戦い続けることだ。

下級生の頃からいろんな人に「もっとできる」と言われてきた。でも、自信が持てなかった。ベンチに下がるたびに入野に謝り、「同じことを言い続けるのなら試合には出せない」と言われた。しかし昨年、東海大の先輩にあたる西田優大(シーホース三河)を取り上げたドキュメンタリー動画を見て、心が動いた。

「もう4年生なんだからやり切らなきゃいけないなと思えたし、コーチ、同期、全員を信じ続けて、コツコツ努力し続けたら、コート上で感情を出して暴れ回れる選手になれるって思えたんです。次の日のゼミで『東海大のモンスターになります』ってみんなに宣言しました」

午前中に行った取材時、鈴木は風邪明けで声が枯れていた。夕方の練習ではそれを必死に張り上げ、手を叩き、仲間たちにハッスルを促した。チームの柱を形成するフットワークのメニュー中は、常に足の先から指先まで神経がはりめぐらされていて、その所作は美しくさえあった。

「キャプテンとしてあるべき姿はもう体現してくれている。あとは自分の殻を破り切って、好きなバスケを思いっきりやるだけなんじゃないかと思いますね」(入野)

内気で口下手な青年が、自らの内なる熱を開放し、怪物へと変貌していく──。そんな物語はまだ始まったばかりだ。

PROFILE

入野 貴幸(Irino Takayuki)
入野 貴幸(Irino Takayuki)
1982年生まれ、神奈川県出身。東海大学付属第三高(現東海大学付属諏訪高)〜東海大。4年次に主将として創部初の関東大学リーグ1部昇格に貢献した。卒業後は東海大三高男子部監督としてインターハイベスト4などの成績を残し、今年度より東海大ヘッドコーチに就任。

著者

青木 美帆(Miho Awokie)
青木 美帆(Miho Awokie)
フリーライター。高校3年時にたまたまインターハイを観戦したことをきっかけにバスケに取り憑かれ、早稲田大学入学後に取材・執筆活動を開始。小4の息子に口喧嘩で負ける。 X:@awokie Instagram:@miho.awokie

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