BASKETBALL | [連載] New Voyage ~東海大男子バスケットボール部”SEAGULLS”の挑戦

New Voyage ~東海大男子バスケットボール部”SEAGULLS”の挑戦(2025/10/20)

interview |

photo by Kazuki Okamoto / text by Miho Awokie

10月14日。約3カ月ぶりに訪れた研究室は、10月だというのに暑かった。すでに中央管理の冷房は作動しないため、我々を迎え入れた入野貴幸は窓を大きく開いた。金木犀がごくごく慎ましく香る。湿度の影響なのだろうか、2日前は同じキャンパス内でとてつもない存在感を放っていたのだが。

10月11日と12日、東海大シーガルスは関東大学リーグ戦における毎年恒例のホームゲームを実施した。

シーガルスが同校で開催されるリーグ戦を「ホームゲーム」というエンターテインメントとしたのは2008年。カレッジスポーツの本場であるアメリカに留学し、華やかなホームゲームを体感した陸川章(現アソシエイトコーチ)のアイディアで始まり、現在は同大体育学部スポーツ・レジャーマネジメント学科の学生やチアリーディング部、吹奏楽部、一般企業など、バスケットボールの外側にいる人々を百人規模で巻き込んだ一大イベントとなった。

「学内の別のイベントとタイアップした影響で、例年より開催が2週間早かったんです。スポーツ・レジャーマネジメント学科の学生を中心に、タイトなスケジュールの中で新しいことに取り組んでくれたおかげで盛大なものになりました。我々としても大勝のゲームと逆転勝ちのゲームといういい形で終えられることができました」

1日目の日大戦に1630人、2日目の筑波大戦に1657人の観客を動員した2日間を、入野はこのように総括した。

日大に80-54と快勝して迎えた翌日の筑波大戦(83-77で勝利)は、前半終了時は30-41と劣勢だった。ハーフタイムで2桁差をつけられた試合はこのリーグ戦でほとんどない。しかし入野は、勝利が掌中に収まろうとしていた第4クォーター残り1分までタイムアウトを取らなかった。理由を問うと、こう答えた。

「1回巻き直したらやっぱり力はあるんです。ただ、簡単な話、出ている選手がほとんど3年生以下なので若さから不安定さが出たり、うまく状況に対応できないときがあるというのが課題なんです。土曜日はガーンと点差を離して勝てても、日曜日はスタートのメンバーのトーンが合わなくて、セカンドで巻き返してっていう試合が多くて」

ハーフタイムでロッカールームに戻ると、入野はまず、ホワイトボードに「スコアボードを見るな」と書いたという。

「点差があるとどうしても一気に追いつきたくなるものですが、そこを意識せず、1プレーずつ集中してディフェンスして、1点ずつ追いついていくことが大事だと話をしたら、気づいたら同点でした。選手たちも(9月27日の)日体大戦で似たような展開を経験しているので、落ち着いてファイトしていたと思います」

入野は追い上げのきっかけを作った選手として、優れたゲームコントロールを披露したルーニー慧(3年)と、3ポイントシュートや速攻で得点を重ねた中川知定真(3年)の名前を挙げた。

192cmの身長と強靭なフィジカル、シュート力と突破力を備えた中川は今シーズン、思うようなパフォーマンスを発揮できず苦しんでいた。学生日本代表としていくつかの合宿と海外遠征に参加し、大きな経験を得たものの、一方で自チームにうまくフィットできないことにもどかしさを募らせた。

中川は言う。

「今シーズンはチームに関わってる時間が今までで1番短くて。ジョーンズカップから帰って『やっと練習できる』と思ったら最終戦の前にケガをしてしまって、何週間もチーム練習に合流できなくて、ようやく合流したと思ったら3日後にもうカナダ遠征、みたいな。ずっと『遅れているな』って感じながら練習や試合をしていました」

吐露は続く。

「「チームにいなかった自分が試合に出させてもらっていることに対する責任感とか色々なものが、いいほうに出ていかなくて、リーグ序盤から流れをつかみきれないまま『あ、もうホームゲームだ』って。変わるならここだなと思って、学生コーチの田中秀吾さんにも色々相談をして、シューティングの量も増やして『ホームゲームでは自信を持って打っていこう』って決めて。そうしたらやってきたことが出たなっていう感じがしました」

機動力のあるウイングを守るのに苦労した近々の試合を受け、ガードの直井隼也(3年)に1対1のマッチアップパートナーを依頼し、ディフェンスの脚や感覚を磨いてきた。筑波大戦は第1ピリオドに放った2本の3ポイントシュートはいずれもリングにかすりもしなかったが、「入らないからやめよう」とは考えず、後半の追い上げ時にしっかりと成功させた。

入野は筑波大戦後、詰めかけた観客に向け「ホームゲームでなかったら勝てなかったかもしれません」と言った。選手たちもおそらく同じ思いだっただろう。

運営に携わった人たち、クラスやゼミの友人たち、体育会の仲間たち、近隣の子どもたち。負けられない理由があるから彼らは戦い、中川はこれを目がけて変わろうと思い、行動し、このリーグ戦において初めて大きな達成感を手に入れた。

この連載は、入野の知見を借りながら「大学バスケの価値」について考えることを一つのテーマとしている。自校の体育館で、学生たちの力を持ち寄って開催するホームゲームも価値を示す一つだが、東海大ではこれをさらに高める大きなプロジェクトが動き出している。

学生が汗を流すための「体育館」でなく、学外の人々をも巻き込んだ……アメリカのカレッジバスケットボールのような「観戦型のアリーナ」を大学が持つという構想だ。

これまでの華やかな実績を鑑みるともはや意外に感じるが、シーガルスは専用練習場を持っていない。本拠地とする総合体育館は日中は授業でフル稼働、課外時間もバレー部やハンドボール部などとスペースと時間を分け合いながら活動しているため、空き時間などに自主練習を行うのも難しい環境だ。さらに今年は7月から9月まで大規模な改修工事があり、この間は近隣の体育館を日ごとに移動せざるを得なかった。

入野は回顧する。

「チーム練習も自主練のシューティングも、できる時間が今まで以上に限られました。特に授業が始まったリーグ1巡目は朝6時から9時までの間しか使える体育館がなく、朝食の時間を考えると8時半には終わらせないといけない。そういった意味で非常に苦しかったですが、選手たちも学生スタッフたちもよくやったと思います」

アリーナ計画はまだ構想段階で、確定している要素はない。しかし、練習場所の確保に苦労し、新たな部の価値を模索しているシーガルスにとっては大きな希望だ。

「我々は『このチームでやりたい』と思える環境作りをしていかなければなりません。そういった意味で、ファンの方たちに楽しんでいただくのはもちろん、プレイヤーが育つ場所にしたい。良い選手が集まって、整った環境で鍛えて、Bリーグや代表に送り届けられる機関でありたいですよね」

ホームゲームを終え、本稿執筆時点でリーグ戦は残すところ4試合となった。

暫定2位のシーガルスは今週末の25日、首位を走る早稲田大と首位攻防戦を戦う。ゲーム差はわずか1。総得点でぶっちぎりのトップを記録している早稲田大と、こちらも総失点が突出して少ないシーガルス。両極端なスタイルが激突する非常にアイコニックな一戦で、勝利をもって自分たちのアイデンティティを証明できるか。

PROFILE

入野 貴幸(Irino Takayuki)
入野 貴幸(Irino Takayuki)
1982年生まれ、神奈川県出身。東海大学付属第三高(現東海大学付属諏訪高)〜東海大。4年次に主将として創部初の関東大学リーグ1部昇格に貢献した。卒業後は東海大三高男子部監督としてインターハイベスト4などの成績を残し、今年度より東海大ヘッドコーチに就任。

著者

青木 美帆(Miho Awokie)
青木 美帆(Miho Awokie)
フリーライター。高校3年時にたまたまインターハイを観戦したことをきっかけにバスケに取り憑かれ、早稲田大学入学後に取材・執筆活動を開始。 X:@awokie Instagram:@miho.awokie

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