BASKETBALL | [連載] 篠山竜青が今、考えていること

篠山竜青が今、考えていること(2024/04/30)

interview |

photo by Kazuki Okamoto / text by Miho Awokie

ーーサンロッカーズ渋谷戦の第2戦が終わってからのことを振り返っていただけたらなと。まず、試合が終わったあとは記者会見に出られて、そのままバスに乗ってクラブハウスに戻られた?

試合の2日目は現地解散が許可されているので、とどろきアリーナから家族と一緒に、家に真っすぐ帰りました。

ーーこの日はご家族がかなりコートに近いところでご観戦なさっていたそうですね。

そうそうそう。ホーム最終戦だったから、チケットを買って見させてもらいました。

ーーあの距離で家族が観戦されるのは珍しいですか?

めったにないです。ほぼ初めてじゃないかな。だから次男とかはすごく興奮してましたよ。

ーーご家族が一緒だったら、帰宅中も日常モードというか、試合に浸るという感じでもなさそうですね。

そうっすね。バタバタで帰ってきました。 今回は月曜が祝日だったからまだアレでしたけど、 普段は日曜ゲームの試合の後って結構忙しいんですよ。急いでご飯食べて、お風呂入れて、寝かしつけて。この日は普段よりはあわてずに色々なことができたけど、この日も特別な余韻に浸るとかはなくっていう感じでした。 

ーーお子さんと試合の話はされましたか?

下のフロアだと見やすいだの、後半は(オフェンスが)見れなかっただの、見てるんだか見てないんだかよくわかんないような会話が多いですね(笑)。小1と年中で、三男は赤ちゃんだし。ニック(・ファジーカス)のセレモニーのこととかもあんまりよくわかってなかったんじゃないですかね。多分。

ーー上のお子さんは、もちろんファジーカス選手のことはよく知っていらっしゃいますよね。

引退することも知ってはいます。シーズン中から「もう見れなくなっちゃうのが寂しい」ってちょこちょこ言っていました。「引退して次は何をするんだろうね。野球かな?」とか(笑)。

ーーパパについては特になんか言ってなかったんですか。「かっこよかった」とか。

あんまりないっすね。私に関してはいつもなんですけど。

ーー近くで見ても、遠くで見ても。

はい。もうちょっとなんかあってもいいんじゃないかなって毎回思うんですけど(笑)。昔に比べればヒーローインタビューに選ばれたとか、「今日のヒーローインタビューは父ちゃんでもよかったんじゃないか」とか言うようになりましたけど、具体的なところはわかんないですかね。 次男とか「レイアップシュートできる?」とか言ってくるぐらいですからね。「知ってる?」って聞かれて「知ってるよ」って言うんですけど。

ーーこの日はよく眠れましたか?

あんまり寝れないのは普段通りです。2日目の試合の後の寝付きが悪くて、月曜は1日中眠いっていうのはもう通常運転なので、そこも含めてあまり変わったことはなくって感じですかね。ただ…改めて自覚したんですけど、多分ニックが引退するっていうことに一番実感が湧いてないのかもしれないですね。いまだに。私自身が。

ーーなぜなんでしょうね。

12年も一緒にやってますからね。いることがもう当たり前すぎて。いなくなって改めて実感が湧くんじゃないですか、きっと。だから、来シーズン蓋を開けてみて、ニックがいないってことに多分改めて実感が湧くんだろうなっていうのは感じます。

ーー引退セレモニーの間、篠山選手はファジーカス選手と一度も目を合わされていなかったんじゃないかと。

そうかな。そんなことはないと思うけど(笑)。

ーー映像で見ただけなんで、定かではないですが。

油断したらやっぱり泣いちゃいそうになっちゃうし、家族も来てたし、我慢してたのはもちろんあります。まだ2試合あるしっていうところも大きいですね。

ーーまだ「おつかれ」みたいなことを言うタイミングではないと。

はい。あと2つ残ってるっていうのと、あんまり簡単に泣きたくないっていうのと(笑)。まぁ色々かな。主役はニックさんだし、(藤井)祐眞も泣いていたし、1人くらいは我慢しておかないとなっていう。そんな感じです。

ーー試合2日目の夜は大抵寝つけないとおっしゃってましたけど、それはなぜなんですか?

試合でアドレナリンが出ているし、頭もフル回転で冴えちゃっている状態が長く続くので寝れないんだろうなとは思ってます。まぁ、1日目の夜も寝つけないんですけどね。

ーー何かをごちゃごちゃ考え込んでるっていうよりは、もう単純に寝れない。

はい。ごちゃごちゃ考えてるのはもう365日ずっとなので。基本的には、寝る前はいろんなこと考えて寝つきが悪いっていうのは子どもの時からの性格ですね。寝つきが良かったことなんてないと思います。多分。修学旅行とかでも絶対一番最後まで起きていた自信がありますね。

ーー4月17日のファイティングイーグルス名古屋戦後にお話をうかがったとき、目の下に隈が出ていて驚きました。

寝られていないのがある一線を超えると、ぱっと出るんじゃないですか。基本、睡眠というものにはすごく課題を感じてますよ。寝付けなくてあきらめて携帯を見始めたら、本当に寝られなくなると思うので、一度目をつぶったらゴロゴロしてるだけです。目をつぶって横になってるだけでけっこう回復するみたいなので、そこは頑張ろうと思っています。

ーー寝付くのはどれぐらいなんですかね。

2日目は12時過ぎに布団に入って、体感2時過ぎぐらじゃないですかね。

ーーで、平日はお子さんと一緒に起きられる。

そうですね。長男が小学生になったので早いと7時に起きます。時々「寝かせてくれ」ってお願いすることもありますけど。

ーーこの月曜日は何をしていたんですか。

お休みだったんで、9時過ぎくらいまでゆっくり寝ました。……あれ、月曜って昨日っすよね。

——昨日です。

昨日、何してたっけ……。あ、昨日は姪っ子が遊びに来てくれました。ゴールデンウィークだしどこも多分混んでるだろうから家の中で遊んで、ファミレスでご飯食べて、ぐらいの感じです。

ーー平和な一日ですね(笑)。じゃあ1日中家族とずっと過ごされていた。

はい。私は基本的にはそうです。休日は、9割5分ぐらいは家族と過ごします。

ーー試合の棚卸しみたいなものは、どのタイミングでされるんですか。

そういう時間を意図的にはとってはいないです。基本的にずっと頭の中にいてしまうものなんで。昨日もなんだかんだ色々考えながら過ごしていましたし。なんていうんですかね。日常の中に常にいます。あります。だらだらだらだら振り返りながら1週間を過ごすんです。私は。何かのスイッチを入れて「ここから1時間は昨日の試合の振り返りをする」っていう器用なことはまったくできないので。寝る前もそうだし、朝起きてからもそうだし、頭の4分の1ぐらいでずーっと試合が回想されてるようなイメージですね。嫌ですよ、だから。

ーーそういう嫌なものを頭に抱えながらでも、目の前のご家族とはフラットに過ごせるものなんですか?

いや、まあ引っ張られてると思いますよ。多分。機嫌がいい時もあるし、機嫌が悪いとまではいかないですけど、明らかにテンションが低い日も多分あるでしょうし。そこはめちゃめちゃ引っ張られてると思います。仕事に。

ーーお恥ずかしい話ですが、私は仕事で煮詰まると家族を邪険に扱いがちです。「考えごとをしているから邪魔するな」と。

僕はそこまでのキャパは取らない…かな。重くなる時はありますよ。パソコンの動作が重くなるのと一緒で、明らかに返答が遅いとか。「無視してんのかな?」って言われて「ああ、すいませんすいません」みたいなことはけっこうあります。

ーーぼんやり考え込んじゃってる時もある。

もちろん。ずっとそんな感じです。

ーー1週間だらだら考えてる中で、どのようなまとめに行き着くんですか。

チームミーティングでビデオを見ながら振り返るので、ある程度は整理整頓されますよ。理屈としては。「作戦上はこうだった」とか、プレーの1つの断面を切り取って「ここはこうするべきだった」みたいなものはもちろんやるし、できるんですけど、その時に向き合っていた自分の精神状態がどうだったのかとか、メンタルな部分でどうだったのかっていうところは……なんて言うんですかね。言葉にする・できるところもありますけど、したとて解決するものでもないし、そこと向き合って、次に対してどういう風に臨戦態勢をとっていくのかっていうところは、なかなかバキッと切り替えられない部分もあるし、引きずっちゃうところもあるし、次が怖くなってしまう時もあるし、とか、色々あるんですけどね。まあ、そうやってずっとモヤモヤモヤモヤしながら、なんとかあがいて、あがいて……13年間ですかね。

ーー篠山選手はよく「簡単な1つの答えや行動で物事は解決しない」と話されますが、答えを出していた時期もあるんですか。

若い時はもっとシンプルでしたよ、きっと。シンプルに色々やっつけられた部分はあると思います。やっぱり年齢を重ねてきて、組織がプロになって、もっと複雑になったかなって思います。自分の役割も変わって、いろんな角度から物事が見れるようになった分、逆にそれが苦しくなったり、自分だけでは解決できないところまで来てるんだなって勘ぐってしまったり。なんか、そういうのは色々出てきてるかなとは思いますけどね。

ーー会見では「まだ冷静に振り返られていない」とのことでしたが、今、改めてSR渋谷戦の第2戦がどういう試合だったか、うかがえますか。

お互いマストウィンの状況だったので、すごい集中力の高いゲームだったとは思います。 本当にちょっとしたところだと思うんですけど。1つのボックスアウトだったり、1つのクローズアウトだったり、そういったところが渋谷のほうが上だったと思います。なんて言うんですかね、突き詰められなかった部分も含めて、今の川崎っぽいゲームになったかなっていう感じではあります。ある種、うちらしく戦ったんじゃないかなとは思いますけどね。

ーー課題だったワイドオープンのスリーポイントを打たれるシチュエーションもかなり打ち消せていたし、ボールもよく回っていた。大枠で見たら川崎らしい、いいバスケットをしていました。でも、おっしゃったとおり小さなミスも多かった。

うんうん、そうですね。ただ間違いなく言えるのは、会場の声援。一体感。これに関してはすごく熱を感じましたし、多分Bリーグが始まってからの歴史の中で、1番会場が揺れたんじゃないかなって思いました。結果は残念でしたけど、応援してくれてる人たちの声援、一体感とか、雰囲気というか。そういったところの成長……成長っていうとすごい上からになってしまって申し訳ないんですけど、それはすごく感じました。あれは本当に鳥肌ものでしたね。そこはすごく嬉しかったですよ、やっぱり。

ニックも会見で言っていましたけど、トム(トーマス・ウィンブッシュ)の同点のスリーポイントの時とか、本当にすごいなって感じましたね。ブレックスアリーナとか沖縄アリーナで感じる、痺れる感じというか、「これがホームなのが羨ましいな」と思っていたのがとどろきで感じられたなって思いましたね。

ーー週末の横浜ビー・コルセアーズ戦がレギュラーシーズンの最後の試合になります。どういう戦いになりそうか、現時点でのイメージを聞かせてください。

横浜さんはcsや降格はないとは言え、やっぱりホームでの残り2試合、シーズンの締めくくりっていうところで、絶対気持ちは入ってると思います。うちも最低2勝して他のところの結果を祈る。マストウィンが2つ続くので、 難しい試合にはなると思います。神奈川ダービーっていうところももちろんあるし、ヒリヒリする苦しい試合にはなるだろうなと思いますけど、やっぱり最後の最後まであきらめずに可能性を信じてっていう気持ちはみんな持っているし、「All-In」というスローガンにふさわしい2試合を見せられると思います。

ーー会見で「納得の行く形でレギュラーシーズンを終えたい」とおっしゃっていました。篠山選手にとって「納得の行く形」とはどのようなものなんでしょうか。

………チームとしてやろうとしていることを体現したい。その日調子がいい選手もいれば悪い選手もいる。遂行できる選手もいれば遂行できない選手もいる。人間の仕事なので、下ぶれ、上ぶれはやっぱりあるんでしょうから。それでも全員でチームのやりたいことに真摯に向き合って、40分戦えればいいなって思います。

PROFILE

篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
1988年生まれ、神奈川県横浜市出身。178センチ(ウイングスパンは約190センチ)。小学生のときに兄姉の影響でバスケを始め、北陸高校、日本大学時代には日本一を達成。2011年にクラブの前身にあたる東芝バスケ部に加入。主力のポイントガードとして長きに渡ってチームを牽引してきた。好きな漫画は松本大洋の「ピンポン」。

著者

青木 美帆(Miho Awokie)
青木 美帆(Miho Awokie)
フリーライター。高校3年時にたまたまインターハイを観戦したことをきっかけにバスケに取り憑かれ、早稲田大学入学後に取材・執筆活動を開始。岡元氏とはご近所仲間。小2の息子に口喧嘩で負ける。 X:@awokie Instagram:@miho.awokie

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