BASKETBALL | [連載] New Voyage ~東海大男子バスケットボール部”SEAGULLS”の挑戦

New Voyage ~東海大男子バスケットボール部”SEAGULLS”の挑戦(2025/06/10)

interview |

photo by Kazuki Okamoto / text by Miho Awokie

6月初旬に閉幕した関東大学バスケットボール新人戦において、東海大は入野貴幸ヘッドコーチ体制として初めての冠を手に入れた。

勝ち上がりは以下の通りだ。

vs慶應義塾大 75-45
vs大東文化大 81-53
vs山梨学院大 75-59
vs中央大 70-58
vs白鷗大 65-56

全5試合を通して失点60点以下。陸川章前ヘッドコーチ(現アソシエイトコーチ)時代から掲げているチーム指標をクリアしての勝利だった。

189cmの赤間賢人(2年)と193cmの十返翔里(1年)をウイング、211cmのムスタファ ンバアイ(2年)と208cmの渡邉伶音(1年)をポストで同時起用する東海大の高さは、出場チーム中屈指。下位回戦ではこの高さが逆にミスマッチになったと入野は振り返る。

「サイズが上がったことによるやりづらさがありましたし、相手の思い切りのいい3ポイントがよく入ったことで流れがつかみづらいゲームが続きました。決勝の白鷗大戦はようやくポジションごとにガチっとサイズが噛み合ったなという印象ですが、それでも自分たちのやるべきことをフォーカスしたので、全試合60失点以下で抑えられたんだと思います」

攻守の大黒柱を担うキャプテンの佐藤友(2年)が、約2ヶ月の故障期間からの復帰直後でプレータイムが限られ、ガードの渡邊大翔(1年)、フォワードの江川晴(2年)もコンディション不良。そのようなチーム状況でステップアップした選手の一人として、入野は朝日開路(1年)を挙げた。

「プレータイム自体は多く取れなかったかもしれませんが、大会を通して彼のハッスルやエナジーがチームに勢いをもたらす時間帯が多々ありました。まだセットプレーを覚えるなどエクスキューション(遂行力)には課題がありますが、それを上回るエナジーを発揮して、大会を通して伸びたと思います。試合を、流れを呼び込むって簡単じゃないので。方法論でなく熱量で持ってこなければならない部分があると思うので、それを体現してくれていたのがよかったですね」

がむしゃらなルーズボールやディフェンスでチームを盛り上げた朝日は、筆者を含む外部の人間が”東海大らしい選手”と感じる典型的な選手だろう。「1分で5リバウンド拾うから出してください」と入野に訴え、その鼻息の荒さが記者席にまで伝わるようなエナジーを出していた江川も同様だ。

「開路や晴が、みなさんのイメージするシーガルスらしさなんでしょうね」

入野はそう言い、続けた。

「でも全員がそうじゃないのが、チームとして面白いところかなと思います」

入野のインタビュー前に、佐藤と赤間のインタビューを行っていた。

自分の意志を言葉や振る舞いで明確に発露させる佐藤と、それを自身の内側で醸成させる傾向が強い赤間。赤と青、両極端な熱を宿す二人は良いコンビだと入野は言う。

佐藤は前述のとおり、キャプテンとしてチームを引っ張った。別メニューでリハビリをする時間も長く、本番のプレータイムも20分程度と限られたが、コート内外で入野やチームメートと積極的に意見を交換した。佐藤がコートに立つと、浮き足立ったチームにすっと一本の柱が生まれた。

「復帰して1週間という短い時間でチームにフィットするのはすごい難しかったです。特に最初の2試合は試合勘が戻らなくて難しいゲームになったんですけど、代々木(第二体育館)に来てからは……自分、代々木が一番好きな体育館なので、ようやく自分のパフォーマンスを出せたかなと思ってます」

佐藤はこのように大会を振り返った。

赤間は決勝の白鷗大戦で14得点9リバウンドというスタッツを挙げただけでなく、前半だけで15得点を挙げていた白鷗大の小川瑛次郎(2年)に後半マッチアップし、わずか3得点にシャットアウト。大会MVPに輝いた。

朝日や江川がわかりやすく”シーガルスらしい選手”だとしたら、赤間は一見すると”シーガルスらしくない選手”だ。

試合中にほとんど喜怒哀楽を見せない。決勝戦の残り51.3秒、3ポイントシュートを沈めて9点差をつけたビッグプレーの後にも一切表情を変えなかった。取材対応も淡白で「(質問されるだろうことを)先に考えておいて、それをしゃべっているだけ」とのことだった。

「個人としてのパフォーマンスはそんなに良くはなかったですが、チームとしては失点60点以下という目標を毎試合達成できたのがすごく良かった。改善点も見つかったので、新人インカレまでにそこを取り組んでいきたいです」

大会を振り返ったこの言葉も、もしかしたら前もって用意していたものだったのかもしれない。

ただ、その胸の中には燃えるようなものが宿っていると入野は言う。

「負けず嫌いさはもう随所に出ていますよ。守りに1つとっても得点1つとっても『絶対決めてやる』『負けない』って。それが表に出てればシーガルスってわけではないと思うんですね」

シーガルスとは。シーガルスらしさとは。

その解釈と表現方法はそれぞれ異なっていていいというのが入野の考え方だ。

「自分の思いを表に出してプレーすることはもちろん良いことなんですが、『面従腹背』という言葉があるように、表立ったパフォーマンスと内側のマインドにズレが生じることは往々にしてあります。だから今はそれぞれのやり方でいいと思うんです。彼らはまだ下級生ですし、チームの伝統を深く理解するにはまだまだ時間がかかると思うし、『もっとこうあるべきだ』という思いが彼らなりに響いてくるとときが来ると思うんです。こちらが拙速に『こうあるべき』を求めすぎないことのほうが大事かな。今の私の考えはそこにいますね」

7月5日から始まる新人インカレで東海大が目指すのは優勝だ。十返と渡邊がU22日本代表の合宿でチームから離脱する期間も踏まえ、新しい戦術などは加えず、関東で準備したものをブラッシュアップしていく方向性だと入野は話した。

「今回関東で優勝できたのは上級生のおかげなんです。3、4年生が本当に一生懸命…それこそ上級生の大会前じゃないかっていうぐらい新人チームの練習に付き合ってくれた。教育実習に行っていた4年生も戻ってきますし、新人インカレもチーム総力で望みたいですね。あとは慢心せずに成長し続けること、自分たちの課題を棚上げせずにちゃんと向き合うことが大事だと思います。そこに向き合って成長に結びつけられれば結果は後からついてくると思ってるので、過程を大事にしたいなと思います」

昨年4位という結果に終わった佐藤、赤間ら2年生にとってはリベンジマッチだ。

「オフェンスはもっと遂行力を高めて、ディフェンスは60失点以内を継続させつつ細かい部分を修正していけば、新人インカレも優勝できる。去年本当に悔しい思いをしてるので、目標は本当に優勝しかありません。チームとしてもう一段階レベルアップして臨みたいです」(佐藤)

「まわりのチームは『絶対に東海を倒そう』っていう意識で来ると思うんで、そこで受け身にならずに自分たちのバスケットをやって優勝したいです」(赤間)

PROFILE

入野 貴幸(Irino Takayuki)
入野 貴幸(Irino Takayuki)
1982年生まれ、神奈川県出身。東海大学付属第三高(現東海大学付属諏訪高)〜東海大。4年次に主将として創部初の関東大学リーグ1部昇格に貢献した。卒業後は東海大三高男子部監督としてインターハイベスト4などの成績を残し、今年度より東海大ヘッドコーチに就任。

著者

青木 美帆(Miho Awokie)
青木 美帆(Miho Awokie)
フリーライター。高校3年時にたまたまインターハイを観戦したことをきっかけにバスケに取り憑かれ、早稲田大学入学後に取材・執筆活動を開始。小4の息子に口喧嘩で負ける。 X:@awokie Instagram:@miho.awokie

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