FOOTBALL | [連載] 水色の街とカルチョ

【#4】水色の街とカルチョ/ 文・小林海青

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photo by Miharu Kobayashi / text by Miharu Kobayashi

常夏かと思われたナポリにもとうとう冬がやって来た。

同じく国外からやって来たチームメイト達と街へ出かける。

私たちはここではゴリゴリの外国人だ。

もっと北の方へ行けばそうでもないのかもしれないけど、ナポリに来てから本当に日本人に会わない。

外へ出ればめちゃくちゃ視線を感じるし、大抵なんか言われている。

別にいいけど。

ciaoだよそんなの。

でも先日スーパーで出会った少年には、キラッキラの瞳で「日本人なの?」と聞かれ握手を求められた。

サッカー選手だとは伝えていないのにも関わらず、だ。

可愛かった。

クリスマスマーケットへ行く予定だったが、まだ始まっていなかった。

さすがナポリ。

どうやらイタリアにはナポリ時間なるものが存在するらしい。

日本で言う、沖縄時間みたいなものなのかな。

もっとひどいけど。

待てど暮らせど約束の時間に人が来なかったりするとみんな口を揃えてまぁナポリだからねって言う。

イタリア人がそう言うなら仕方ない。

みんな諦めている。

南の方へ行けば行くほど約束の時間なんてものが存在しなくなるらしい。

私が今住んでいる家はいまだにお湯が出ない。

入居してから2ヶ月ほどが経った。

水回りを直してくれるのはGianniという男性らしい。

一度家の様子を見に来た彼は、一通り確認した後に今日は無理だね、水曜日にまた来るよと言って帰って行った。

そして迎えた水曜日、彼は当然のように来なかった。

その後クラブ関係者からいくら今日Gianniが来ますと連絡が入ろうが、彼は来ない。

いつまで経っても来ない。

どこで何してるのGianni。

けれどクラブ関係者がスマホで連絡を入れるとものすごい速さでとんでもなく長い言い訳のボイスメッセージを送ってくる。

イタリア語が全然分からない自分でもこれがただの言い訳だと理解できる。

多分、暇だ。

けれど来ない。

1ヶ月経っても来ない。

明日来る、水曜日か木曜日に来る、次の月曜日に来る、今日の夕方に来る、全ての約束の日に来ない。

ここまでくると彼は幻だったのかもしれないとさえ思う。

ナポリまだ暑いしまぁいいかと思っていたらお湯が出ないまま冬を迎えてしまった。

さすがにもう寒い。別にGianniじゃなくてもいいんだ、頼むから誰か直しに来て。

でもまぁ、ナポリだからね。

時間が経てば経つほど、ますますここは異国なんだなと痛感するような出来事が増えていく。

どこもかしこもこんな感じで、治安も悪くて、でもなんだか憎めないカオスな街。

最後に、チームメイトのハロウィンの仮装を載せとこう。

これで夜道歩いてきたって言ってた。ナポリ怖すぎ。

水色に溢れたナポリの街は、今日もこんな感じ。

PROFILE

小林 海青(Miharu Kobayashi)
小林 海青(Miharu Kobayashi)
サッカー選手。日テレ・東京ヴェルディベレーザ、ノジマステラ神奈川相模原を経て、2023年9月にSSDナポリ・フェミニーレへ移籍。カメラが趣味の左サイドバック。1992年生まれ。Instagram:@umiao_17

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