FOOTBALL | [連載] 田代楽のキカク噺

なぜ「日本サッカーの制作物」は世界のトップに届いていないのか。

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photo by Gaku Tashiro / text by Gaku Tashiro

「コペンハーゲンの夏は最高である。」

つい数年前まで海外に住むことになんて興味もなかったであろう妻にそう囁かれ、留学をしていた友だちにそう伝達され、ついにインスタグラムのアルゴリズムにそう唆され、気がつけばこの原稿をコペンハーゲンの夏の水辺で書いています。

川沿いに鎮座するウッドデッキにタオルをしき、太陽が文庫本をてらし、隣のカップルが話すローカル言語はなにもわからない。それでも確かにこう思うのです。

「コペンハーゲンの夏は最高である。」


それは離陸後に寝て起きたらもう5時間たってるとか、携帯の充電が1%にも関わらず家まで音楽が途切れずに帰ってこれたとか、ふらっと入った古着屋でドンピシャのトラックジャケットを見つけるとか、そういう類の、人生を全肯定してくれるような最高さ。これはどこで生きるべきなのかを再考したくなるような夏です。

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目の前には鈴木淳之介選手が座っていて、両サイドにはFCコペンハーゲンのビデオグラファーとメディア統括。ふたりは日本語でゆっくりと話す我々をただ不思議と見つめていました。前日にBBCの「世界の不思議な虫特集」をみていたので、みられる虫側の気持ちが少しわかりました。

「彼は寡黙だよ。」

そう事前に言われていた淳くんの印象は、言葉数は少ないけれど自分のことを良いメタ視点でみているタイプだろうなと思いました。言葉の節々にそれを感じて、誠実なんですよね。

そこから、淳くんのことを考えつづけた3ヶ月でした。
「(移籍の)ほんの1年半前まで、試合にはほとんど出てなかったですから」と話す彼が異国でデカい男たちを容赦なく削っていて、その態度がファンに愛され、世界の舞台で実績をもって名前を染み込ませる。いい選手です本当に。

鈴木淳之介選手のドキュメンタリーをFCコペンハーゲンと制作しました。5月末に納品していた映像は、音声編集者のバケーション、権利部門の休暇、そしてプロジェクト決裁者の夏休みによって然るべき遅延をうけ、マルティネッリの放ったボールがザイオンの左手をかすめたまさにそのときに「やぁ、ガク!制作してくれた動画は来週いよいよ投稿されるよ!」と承認され、その後キャンプインによりどこか可愛げすら感じる待機時間を経て、先日ようやく世にでました。まぁでもコペンハーゲンの夏は最高ですから、W杯の前に出せてたらもっといっぱい見られてただろうね、みたいなことはいいんです。あ、動画も最高ですので、ぜひご覧ください。

あらためて淳くん、本当にお疲れさまでした。
これからもその姿に夢をみさせてください。

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4月までてっきり「W杯はカナダ代表で撮影しているんだろうな」と思っていたら、まさかヨーロッパで齷齪(あくせく)する展開になったわけですが、もちろん人生はつづきます。史上最高といわれた日本代表は「W杯のブラジル」を前にして惜敗し、連日連夜メディアでは『どうやって世界のトップと差を埋めるのか』が議論されているわけです。「いやそれを議論しているメディアがイケてないんじゃん」と5年ほど前の河内一馬くんが言ってましたので本件はそれにて完結といたしますが、日本と世界のフットボール界、特に僕のいまの領域である映像分野に大きなギャップはあるのでしょうか。考えてみましたのでいくつか羅列します。

① みんな自分のインスタに作った動画をガンガンあげている

この世界でコペンハーゲンの夏に続いて最高なことといえば東京都立川市の存在そのものですが、そのミニ集落で生まれ育った日本人マインドのぼくには「自分の作品で成り上がっていく」そのスタンスをインストールされる機会は最近までありませんでした。もっとお淑やかに、どこか申し訳なく、いつだって周りに気を遣っていきていくべきだとふんわり膜を張っている日本社会にとって、この分野がもっとも苦手なことはなんとなく察しがつきます。そして本気で「フットボールクラブの制作分野」を世界基準にしたいのであれば、どうにかしなければいけない領域な気がしています。アメリカ・カナダでは毎日のように「このプロジェクト関わったわ。みてくれ」と自信満々の投稿がなされ、そこには「GOAT」「TOP」「SPACE SHUTTLE」などのコメントが並びます。

【創る・載せる・賞賛される】

いっけん「お前が目立ちたいだけじゃないか!」と思えるこの風潮が、下記のメリットを生みだします。

② 誰がなにをやっているかがわかる

よく考えたら当たり前のことではあります。が、それはつまり現在のポジションを顔をだして守っているとも言い換えることができるはずです。日本の外では、どこのオフィシャルフォトグラファー、ビデオグラファーも自分の制作を当たり前にポートフォリオとして使う権利があって、それを縛るルールがいい意味で形式的です。日本でJリーグの試合を撮影している方がどれくらい自分のソーシャルメディアに撮った映像を掲載できるかはわかりませんが、この構造が透明性、競争、そして賃金の上昇を施していることは現場にいるとわかります。そもそもいろんなものを犠牲にして生みだしたものなのに「なんか自信ありげに披露されると鼻につく」って風潮、悲しすぎるかも。

③ 外国にチャレンジすることがステータスである

FCコペンハーゲンのフォトグラファーはアルゼンチン人にも関わらず、デンマークで働き、インドネシア代表のオフィシャルもときどき行っています。単に彼の写真が世界でウケるクオリティなことは間違いがありませんが、日本人には理解しがたい「二重国籍」がこれを助長しています。先日一緒に仕事をしたスペイン一部のクラブ広報の女性は「両親がブラジル人なんだけど、オランダで生まれて、LAで勉強して、いまスペインで働いているんだよね」と自己紹介してくれました。シンプルに「なんて?」と思いました。実写版地球の歩き方?
英語、ポルトガル語、スペイン語、フランス語が話せてどこのクラブでも働けると。世界は広いですほんとうに。感覚としては岐阜(スペイン)から愛知(ポルトガル)に移る感覚で他のクラブに転職しているわけで、日本人としては岐阜にプロクラブが18チームないことを恨むしかないかなと思いました。

④ フットボールの専門性がないとそもそも入れない

おそらく大きな、大きな大きな大きな乖離(かいり)です。
クラブで雇われているもしくは過去に契約していた複数のビデオグラファーとやりとりをしても、LinkedInで募集要項をみていても、もれなく「フットボールである。」ことを作業者に求められる環境があります。つまり与件とディレクションとをフットボール軸で疑うことができる能力であり、それが文脈と歴史の解釈ミスが少ないことにつながります。書いていても話をしていても「そりゃそうだよな」と誰もが思う項目も、実際にリソースがないとなると普段広告を撮影しているひとにお願いしなければいけない苦悩は現場がいちばんわかっているはずです。だからこそ世界との差がひらいていく悲しい現実をなんとなく感じています。逆に選手と同じで一度市場にさえ乗ってしまえば、そしてそれなりの言語力があれば、どこの国でも働けるんでしょうね。

⑤ ルーツのクラブで働くことがイケているというゴッツイ風潮

正直これが海外で働いていて、もっとも嬉しかったことかもしれません。この業界にこの認識(しかも僕と同じような30歳付近の制作者に多くある感覚)がある限り、未来はあかるいなぁと思います。ハイドレーションタイムとか、VARとか、別に気にならないくらい大事なものです。つまり世界のどこで働いていてもいつかは地元の小さなクラブに戻りたい、それで貢献したいと思うひとがいっぱいいるわけです。バンクーバーFCで写真を撮っていたボウは両親のルーツであるサウサンプトンと契約することが大きなモチベーションだそうです。全然ちいさくないじゃん。ちぃかわいくない。

FCコペンハーゲンで毎日のように一緒にいたアンドレアスは、アーセナルの大ファンでいつかそこに行くのが目標だそうです。それでもコペンハーゲンで生まれ育った彼はクラブに貢献することが嬉しいから、イギリスにいくのは簡単な決断じゃないんだよねと話してくれました。まぁ夏、最高だもんね。

『どうやって世界のトップと差を埋めるのか』と考えるなら、僕らに足りないものがこれ以上にあるとするならば、それは「愛」とか「気持ち」とか、なんだか口にするのが恥ずかしいそれらなんじゃないかなと思います。そしてそれを大きな声で発言することが「ダサいかもしれないけど大事だよな」の空気感なんじゃないかと、メッシの写真を幸せそうに撮るアルゼンチン人をみて思うんです。こいつらに勝てるわけないよなと思ってしまうもの。

日本人の技術は世界でもトップクラスであるけれど、それをフットボールに落とし込むアイデアがまだ少ない。これは「自分の名前がでないから」「みんながみんな、そのクラブで働きたくてキャリアを始めたわけでないから」「自分のフィールドにフットボールのガワを入れるから」起こることです。

逆にいえばいくつかのルールが緩和されて、もしくはみんなで無視する度胸をつけて、文脈通りのものをつくりつづければ、写真と映像はすぐに世界のトップにタッチするチャンスがある分野です。

せっかくなら選手より先にそこに辿り着きたいと、本気で思いました。

著者

田代 楽(Gaku Tashiro)
田代 楽(Gaku Tashiro)
カナディアン・プレミアリーグ パシフィックFC マーケティンググループ。26歳。ビクトリア在住。 大学卒業後、Jリーグ・川崎フロンターレでプロモーションを担当。国内のカルチャーと融合した企画を得意とし、22年、23年のJ開幕戦の企画責任者を務める。格闘技団体「RIZIN」とのタイアップを含む10個以上のイベントを企画・実行。配信しているPodcast「Football a Go Go」はポッドキャストランキング・スポーツカテゴリで最高6位入賞。Instagram:@gaku.tashiro

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