BASKETBALL | [連載] 篠山竜青が今、考えていること

篠山竜青が今、考えていること【後編】(2026/05/12)

interview |

photo by Kazuki Okamoto / text by Miho Awokie

今シーズンの川崎が抱えていた問題の一つに、前々回の連載でも取り上げた「遂行力の低さ」がある。

チームで「やろう」と取り決めたことがやれない。やれないのか、そもそもできないのか、やろうとしないのかもわからないと篠山は言った。そのような状況に篠山は苛立ち、試合後の振り返りコメントで何度も「フラストレーションが溜まってしまった」というような言葉を口にしていた。

ネガティブな感情がパフォーマンスに影響することは、プロ選手としては決して褒められたものではない。ベテランの立場ならなおさらだろう。ただ、これまで長らく「怒り」という意思を他者に伝達できずにいた篠山個人にフォーカスすればこれは、前編で取り上げた若手への厳しい言葉がけにも繋がる、いい変化だったのかもしれない。

──去年までは感情や言いたいことを押し殺してしまい、誰かを怒れないタイプだったそうですが、今年は怒りを少し表に出すようになりましたよね。

「僕はある意味”いい変化”と受け取っています。厳しく言わなきゃいけないところは厳しく言っていくことができるようになってきたなと感じますし、まわりの人にも『そういうことができるようになってきたんだね』って言われましたし、成長したかなと」

──そう指摘されたのは誰だったんですか?

「賢次さん(佐藤賢次アシスタントGM)です。シーズン終わりの面談で言われました」

──佐藤さんはコーチ時代から、言いたいことを飲み込み続けていた篠山選手をよく知っているわけですから、なんとも感慨深いものがあったでしょうね。ところで篠山選手は3人の息子さんのお父さんですが、苦手とは言えお子さんたちもビシッと叱っているんですか?

「いやそう、それに似てきたというか。息子たちを怒るように怒れるようになってきたのか、後輩たちを怒るように息子たちを怒れるようになってきたのかわかんないけど、成長できたのは息子たちのお陰かもしれない。『ここで怒らなきゃいけない』っていうところでちゃんとスイッチをパーンって入れられるようになったのは、やっぱり息子たちで練習できてるからなのかな。もちろん息子たちを怒るときのほうが高圧的ではありますけど」

──世の中には感情だけで怒ってしまう人がたくさんいるわけで、理性で怒る・怒らないを制御していることは素晴らしいです。

「逆に言うと、『怒ろう』と気持ちを奮い立たせないと怒れないんですよ。長男と次男がケンカしているのを『あ〜、怒りたくないなあ』って思いながら見ていて、どちらかが手を出したらぱっと出ていく。正直めんどくさいっていう気持ちもあります(笑)。奥さんが先に怒っていたら『俺はいいかな』ってなるし、ジェフさん(勝久ジェフリーヘッドコーチ)がしんどそうにしてるときは『俺が怒ってあげなきゃいけないな』となる」

──プレーだけでなくマインドも進化していますね。

「最近はフロントにも自分の意見を言うようになりました。若い時は『選手しかやってきていない自分には想像しきれないくらい、いろんな背景や事情があるんだろうな』って考えちゃって、言わずに飲み込むのが当たり前でしたけど、ここまでキャリアを重ねると、自分が言わないと下の選手たちがかわいそうだなとか、自分が言っていかないと組織が変わらないかもしれないという責任感は持つようになりましたね。『いろんな事情があるのはもちろんわかってるんだけど、でも言わせてください』みたいなことが増えたかもしれない」

──今季、何度か練習を見学させてもらって、練習中の篠山選手の元気の良さにびっくりしました。練習の最初から最後まで大きな声を出してまわりを盛り上げて、すべてのメニューに全力で取り組んでいました。

「うーん。まぁ、そこも含めて自分の仕事というか。そういうところを見せられるのも自分の武器だし仕事かなって再認識したところはあったかもしれないですね。それこそ若い子たち、落ち着いているというかテンションが低かったから。(米須)玲音はけっこう声を出してやるタイプだったけど、他の選手とかはそうでもなかったからっていうのもあったかな。あとは、そういうところでも自分の存在価値みたいなものを見せていかなければいけないフェーズに入っているとは思います」

──シーズン中に「川崎ブレイブサンダースらしさって何だと思いますか?」とうかがったとき、「どんなときも明るく楽しく立ち向かうこと」とおっしゃっていましたよね。練習にもそのような雰囲気を持ち込みたいという思いもありましたか?

「そうしたほうが楽しいからっていうのが一番だと思うけど……それが自分の武器でもあるからかもしれない。僕が入ったころの東芝は落ち着いた方が多かったから、元気よくムードメーカーのつもりでやっていたらそれが評価されて、26歳でキャプテンに指名されて、そのままずっとキャプテンをやるようになって。僕が代表活動でいないときの練習の雰囲気が悪くなって、途中で終わっちゃったみたいな話も聞いているうちに、これも自分の武器なのかもなって思うようになりました。キャプテンを長くやってるうちに、自分しか元気よくやってないし、それが評価されてるかどうかもわからないし、『このキャラ、必要とされてねえのか』みたいに考えて疲れていた時期もあります。でも、それこそこの2シーズンでヘッドコーチが変わって、新たなスタイルになって、その中で自分がまたゼロからアピールしなきゃいけないっていう環境になったから、改めて自分の武器だと再認識してたというところはありますかね」

チームやクラブを構成する一人ひとりが、いくつものドラマや成長を内包していたことはもちろん知っている。ただ、より俯瞰的に見た川崎ブレイブサンダースのこの2シーズンは、控えめな表現をすればモラトリアム期の大学生のようだった。プロスポーツチームとしての最大の成功──勝利を願うファンたちがそろそろしびれを切らしてもおかしくないタイミング、折しも新リーグ化する初年度に合わせて、クラブはようやく補強らしい補強に踏み切った。

琉球ゴールデンキングスを常勝チームに育て上げ、現在は男子日本代表で指揮をとる桶谷大のヘッドコーチ就任が決まり、ニック・ファジーカスの引退以来不在だった帰化選手に、アルバルク東京時代にBリーグ制覇、琉球時代に天皇杯制覇の経験を持つアレックス・カークが加わることが発表された(余談だが篠山の長子はカークの大ファンらしい)。

ポイントガードには高確率の3ポイントシュートを持つ松山駿が加わり、ウイングの荒谷裕秀もセカンドガードとしてプレーできる。ケガで今シーズンの大半を棒に振ることになってしまった米須が全開でプレーし、加入2季目の津山尚大もよりチームカルチャーになじむだろう来季、篠山は自身のチームにおける役割や位置づけに何らかの変化が出ると見越している。

さまざまな苦しさを抱えつつも、このチームでプレーする喜びを全身で表現していた2年間とまったく同じ姿は、もしかしたら見られないかもしれない。ただ、バスケットボールへの情熱が尽きぬ限り、これまでと同じように新たな発見があり、成長があるはずだ。

在籍16シーズン目を迎える彼の旅路には、一体どのような世界が開けていくのか。これからも一人の取材者として見つめ、問いを重ねながら、その歩みを記録していけたらと思う。

PROFILE

篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
1988年生まれ、神奈川県横浜市出身。178センチ(ウイングスパンは約190センチ)。小学生のときに兄姉の影響でバスケを始め、北陸高校、日本大学時代には日本一を達成。2011年にクラブの前身にあたる東芝バスケ部に加入。主力のポイントガードとして長きに渡ってチームを牽引してきた。好きな漫画は松本大洋の「ピンポン」。

著者

青木 美帆(Miho Awokie)
青木 美帆(Miho Awokie)
フリーライター。高校3年時にたまたまインターハイを観戦したことをきっかけにバスケに取り憑かれ、早稲田大学入学後に取材・執筆活動を開始。小4の息子に口喧嘩で負ける。 X:@awokie Instagram:@miho.awokie

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