BASKETBALL | [連載] 篠山竜青が今、考えていること

篠山竜青が今、考えていること(2024/01/24)

interview |

photo by Kazuki Okamoto / text by Miho Awokie

――かっこいい男とは。

取材日の前日、ふと、聞いてみたくなった。

「いいじゃないですか」と篠山は言った。「年越しとかオールスターのことを話そうかなと思っていたけど、そういうのはどこでもやれるかなっていう感じはしてたので」

篠山はつらつらと、これまでの人生で『かっこいい』と思った人のことを話し始めた。

1.人を笑わせられる人
「やっぱり二枚目より三枚目の方が僕は好きですね。面白さとかユーモアとか、人を笑顔にすることができる力があってこそかなって。男としては。だからSMAPだったらやっぱり中居くんがすごいなって思うし、俳優さんも三枚目を演じられる俳優さんのほうが魅力的だと感じることのほうが多いですよね。完璧かどうかっていうよりも、欠点があったとしても、人を笑顔にできる、人を笑わせられる。そういう人がかっこいい男だと思います。私は」

2.余裕のある二枚目
「でも子供のときは違いましたね。スラムダンクなら流川が一番だと思っていた時も長いし、藤真もそうだし。でも自分はそういうタイプではないなっていうのは当時から気づいてました。クラスではしゃいでる僕の後ろでクスクス笑ってるサッカー部が一番モテる。そこに対しての憧れというか、『そっちに行きたい!』っていう思い。それがこじれて、大学時代、ちょっとおかしなことになったんです。そっち側の人間を目指そうとしたらただの人見知りみたいになっちゃって、部活以外で友達ができなかった。大失敗でした」

3.天才肌
「サッカーでいうと(元日本代表の)遠藤保仁さんみたいな感じ。一見のらりくらりしてるように見えるのに移動距離を見てみたら一番多いところとか、全部のパスに意味があって、遠藤さんを起点に得点につながってるところとか。ずっと、肩の力が抜けててクールで、みたいな人が好きです。自分がそういうタイプの選手じゃないからこそ。でもシュートを決めた後とか、いいパスが通って相手がタイムアウトになってっていう時は、はしゃぐっていうよりはちょっとスカすことのほうが多いですね、我ながら。スカしたいの。スカしていたいんです。ずっと」

4.普通な人
「人としてかっこいいなと思ったのは、やっぱり(元川崎フロンターレの)中村憲剛さん。2017年に雑誌の取材で対談したんですよ。フロンターレでアルバイトをしていた知人から『中村憲剛はバイトの俺らにも挨拶してくれる』と聞いていたので、どんな人なんだろうって楽しみにしてて。実際会ってみたら、事前に僕やチームのことを下調べしてくれたりとか色んな気遣いがあって『あ、すごいな』って。そこから『こういう人になりたいな』ってずっと思ってます」

中村はフロンターレ一筋17年の現役生活を過ごした司令塔。自身もクラブも不遇の時間が長かったが、36歳でクラブ初のJ1制覇を達成し、リーグ史上最年長MVPを獲得している。篠山は先の対談から交友を持ち、以来、彼は節目節目で篠山のともしびになっているという。

「憲剛さんって、すごく普通なんです。中田英寿さんとか本田圭佑さんみたいに『ザ・スター』っていうオーラをまとった人もかっこいいですけど、僕は身近にいそうな、感覚が普通の人に魅力を感じるタイプなので、普通のお兄さんみたいな感じで、すごく染みました。普通なのが嬉しかった。(漫画家の)井上雄彦さんもそんな感じでしたね。すごい人なのにすごく普通で、普通に会話ができる。普通のおじさん。僕はそこがかっこいいなと思いました」

この日、篠山に聞きたいことがもう1つあった。今の自身について。チームは黒星を重ね、チャンピオンシップ出場ラインの瀬戸際にまで追い詰められた。篠山自身も乗り切ったパフォーマンスを挙げられているとは言えない状況だ。

――今、プレーヤーとして『かっこいい自分』をどれくらい表現できていますか?

そう尋ねると、篠山は「今…」と繰り返し、少しうなった後に話し出した。

「やっぱり危機感はすごいありますね。チームとして勝ちきれていない部分はもちろんなんですけど、ガードとしてもそうですし」

口調が柔らかくなる。感情が高ぶりそうなとき、篠山はつとめて優しく穏やかに言葉を発しようとする傾向がある。

「自分のところでもうちょっとこうしておけば…っていうところがすごい多いので。現状。そこはもう本当におなかが痛い思い(苦笑)。まぁ、でもやるしかないんでっていうところです」

――キャリアを積み重ねて、たいていのことでは動じなくなったと話していました。現状はどうなんでしょう?

「経験の範疇ですよ。もっと苦しい時、いっぱいあったし、もっともっとやらかしていた時期もいっぱいあったし。だからまぁ全然『初めての体験でパニックです』みたいなことはないです。若い時はシーズンの半分くらいやらかしていて、でもなんとか、辻(直人)とか、ニック(ファジーカス)とか、(藤井)祐眞とかがつないでつないで強豪チームとしてやれていたっていうだけ。大体半分くらい考えすぎたり、エラーばっかりしたり。終盤戦でバーンと跳ねるために、今は色々やらかしながら反省しなきゃいけない時期だなと思って、割り切ってやってはいるんですけど。取り返さないといけないですね。これから」

昨年、CSクォーターファイナルで横浜ビー・コルセアーズに負けてシーズンが終了したあと、篠山はそれをスパッと忘れてオフに入ったと話していた。同じように、近々に犯したエラーもさっぱり忘れて前に進んでいるのか。そう問うと、篠山は「あ、ぜんっぜん割り切れないです」と即答した。

「シーズンが終わっちゃえば割り切れます。でもシーズンはまだ続くし、反省して修正して成長させていかないといけないところがあるので。自分の性格的にも、大いに尾を引いて、反省して、なんとか次の試合に向かうみたいな感じですね」

――引きずったものっていうのは、いいプレーをすることで徐々に薄れていくものなんですか?

「…んー………………今シーズンが続く限りは、どっかにずっとあるでしょうね。それが積み重ねでもあると思うんで。『悪いイメージをずっと持ってる』みたいなネガティブなことではなくて、失敗があったっていうことを忘れずに、次に生かすみたいな感じなんで。何て言ったらいいんですかね。『引きずる』とかとはまたちょっとニュアンスが変わってくるのかなと」

――『抱える』のほうが近いですかね。

「そうっすね。失敗も成功も全部積み重ねて。練習で『こうなったらこうしよう』っていう教材になるんで、本当に積み重ねていくしかないなっていう感じですよ」

「なぜ」と聞かれても言語化できないのだが、この連載は「では最後に改めて…」というような、定型化された言葉で締めたくないと思っている。

毎度のごとく収まりの悪いやり取りでインタビューを終えると、篠山は「かっこいい男ねえ…」と独りごちた後、最近かっこいいと思う人は誰かというような雑談を始め、その中でNHKのドキュメンタリー番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出ていた俳優の小栗旬と自身の考えが似ていて驚いたと言った。

彼の熱烈なファンでなく、当の番組を見ていない立場で書かせていただくが、小栗旬というのは、いくつものヒット作を持っているにもかかわらず、自己評価の高い役者ではないらしい。そして、自分から強烈な矢印を出すというよりは、人々との関係性の中で自分の立ち位置を決めていくようなタイプらしい。

番組の公式noteで、NHKのディレクターが次のように書いている。

“常に視点は自分ではなく、他。周りがハッピーかどうかにある。そして、「人の顔色ばっかり見てるから、良い役者になれないんだよ。」と喫煙所でぼやく。気を遣って、気を遣って、時に自分が嫌になって弱音が出る。なりたい自分に全然なれないよと、吐露する。”

この一文に、篠山の姿が驚くほどすっと重なった。


奇しくもインタビュー中に、「なりたい自分になれないもどかしさ」について話題がおよんだ。篠山は「着たい服と似合う服が違うのと一緒ですね」とたとえた。

十代のころはヒップホップ系のルーズな着こなしに憧れ、二十代のころはこじゃれた挿し色を使った可愛らしいコーディネイトに憧れ、そして35歳になった今は”好きな服”でなく、骨格診断やパーソナルカラー診断を基準とした”似合うとされる服”ばかりを選んでいるという。

バスケットボールにおいてもメディア対応においても、篠山は”自らを押し出す”というより”求められたものを忠実に表現する”という意識が強い選手だ。生き様は服選びにも投影されるものなのかと、妙に感心した。

「いや〜〜〜〜〜。いや、まだまだ。まだまだ未熟だなっていう感じることがすごい多いですね。もっと大人っぽくなってるはずだったんですけど。35歳って。ほんとに20歳ぐらいからなんも変わってねえなって感じますね」

——かっこいい男とは。

なりたいものになれた者は文句なしにかっこいい。しかし、なりたいものになれないないことを受け入れ、そこから不器用に前に進もうとする者もかっこいい。

PROFILE

篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
1988年生まれ、神奈川県横浜市出身。178センチ(ウイングスパンは約190センチ)。小学生のときに兄姉の影響でバスケを始め、北陸高校、日本大学時代には日本一を達成。2011年にクラブの前身にあたる東芝バスケ部に加入。主力のポイントガードとして長きに渡ってチームを牽引してきた。好きな漫画は松本大洋の「ピンポン」。

著者

青木 美帆(Miho Awokie)
青木 美帆(Miho Awokie)
フリーライター。高校3年時にたまたまインターハイを観戦したことをきっかけにバスケに取り憑かれ、早稲田大学入学後に取材・執筆活動を開始。岡元氏とはご近所仲間。小2の息子に口喧嘩で負ける。 X:@awokie Instagram:@miho.awokie

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