最強オーダーを組めなかったワケ
昨年4月から始まった中央大学陸上競技部長距離ブロックの藤原正和監督への月一のインタビュー企画。その最終回をお届けする。
第102回箱根駅伝では優勝候補の一角と目された中大は、3区の本間楓(区間賞)がトップに立つと、4区の岡田開成も区間2位の走りを見せ、2位の早稲田大学に1分12秒差をつけて5区の柴田大地に襷を繋いだ。しかし、早稲田大学と青山学院大学に追い抜かれ、芦ノ湖に辿りついた時の順位は3位。先頭の青山学院大とは1分36秒差だった。
逆転優勝の可能性を僅かに残したまま復路に臨んだが、結果的には力及ばず総合5位でレースを終えた。箱根での選手たちの走りについて、藤原監督の評価を聞いてみた。
「往路に関しては1、2、3、4区と本当に想定通り、しっかりと自分たちでレースを作って先頭に抜け出してくれたので、4区までは110点くらいの走りをしてくれたと思います。
5区の柴田大地に関しても、工藤慎作君と黒田朝日君という実力者に飲まれてしまった部分があったのは確かですが、大崩れせずに72分16秒で持ってきたという点は評価してあげたいなと思っています。復路を含めたトータルで考えても、85点とか90点くらいのレース内容ではありました」
復路には主将である吉居駿恭、MARCH対抗戦で27分53秒85(10000m)を記録した濱口大和(1年)が控えていたものの、コンディション不良の影響もあり、当初想定していた最強メンバーは組めなかった。“たら・れば”にはなるが、「このオーダーの方が良かったかもしれない」という後悔は藤原監督の中にあるのだろうか。
「1月2日、3日を迎えるにあたって、『今年のチームはこうやって戦おう』ということを年単位でずっと考えてきてあの10人を使ったわけですから、最善の手を尽くしたという自負はありますし、後悔なくその10人を使えたという点には自信を持っています。
とはいえ、“たられば”を言ってしまえるのであれば、吉居が感じていたストレスやプレッシャーをもう少し共有してあげて、分散させて、できるだけいい状態にコンディショニングをしてあげれば、足にもストレスがかからなかったのかな、という思いはあります。
元々は『吉居を1区あるいは7区に』というプランでした。仮に吉居を1区に使った場合は、7区に藤田大智を持ってくることができた。國學院大の高山豪起君(7区区間賞)が走ったような『遅れていたら挽回する、前にいたらそこで勝負をつける』という走りを藤田に託したかったので、吉居の使いどころが9区しかなかった点は、後手に回ってしまった1つの原因であったと思います。
箱根前に1年生の濱口大和と三宅悠斗、4年生の吉中祐太と白川陽大の4人の状態が似たようなところで推移しており、実際には最後の最後までアンカーは濱口で考えていました。
ただ、往路の結果から復路の展開を考えると、突っ込まざるを得ない、そして追いかけていかないといけないという判断で、最後に吉中に変えました。そこは1番、我々が責められるべきところ。彼の走りを見て、そういう風に(批判を)言われるのは仕方がないと思っています。当然、その判断リスクというのがあったと受け止めた上で、今後も様々なことを検証していかなければなりません」
今回走った10人の中で監督の期待を超えてきた選手がいるのか聞いてみると、次のような答えが返ってきた。
「やはり1区の藤田は自分でレース作って、あれだけの走りをしましたし(区間新)、まさか吉居大和の記録(2022年)を抜いてくるとは思ってなかったので、いい意味でサプライズでした。
岡田開成はレース展開的に単独走になったので、少し不安に思っていた部分がありましたが、あれだけしっかり走ってくれました。彼ら2人が往路では非常にいい働きをしてくれたなと。
あとは6区の並川颯太です。『あそこまで遅いか!』というくらい登りが遅くて、『これ絶対ダメじゃん』と思いました(笑)。ただ、並川は下りで勝負だと思って見ていたらあれだけ挽回してきたので、もう少し登りを鍛えていければ、もしかしたら区間新記録の56分30秒が今後見えてくるのかなと。あと2年間期待していきたいなと思っています」

勝負を分けた一番のポイントは…
今年の箱根駅伝で最も話題になったのは間違いなく黒田朝日だろう。黒田が襷を受け取った時、トップの中央大学とは3分24秒差だった。そこから爆発的な走りを見せ、5位から1位に一気に躍り出た。藤原監督の目線から見ても、勝負を分けたポイントは山の5区だったのだろうか。
「はい、5区でした。黒田君が我々の運営管理者の横を通った時、『あ、これ、先頭に行くな』という別物、化け物のような登り方をしていて。平地みたいに小気味よく足が前に出て、登りの概念がこう僕の中でガラッと変わったと言いますか…。
今後はこういう選手を目指して育成していかないと、山は通用しなくなる時代が来たんだなと。それくらいの衝撃を受けた。彼を5区に置くという配置ができた青山学院さんがチームとして抜きん出ていたのは必然だったなと思います」
前回の第101回も今回も、結果的には総合5位。しかしながら、今回は優勝を狙えるメンバーを揃えて、明らかな優勝候補の一角として臨んだ。同じ結果でも受け止め方は異なるはずだ。
「(5位の意味は)全く変わります。前年度は全日本大学駅伝で12位でしたし、箱根では5位以内を目標にしていたチームで、結果もなんとか5位でした。3位という表彰台が見えたので、それを逃した悔しさもありましたけど、どちらかというと『ほっとした』と言いますか、戦えるチームだったことを証明できた5位という結果でした。
今回はあれだけ優勝を意識してやってきて、届かなかった。大きな壁に跳ね返されてしまったという5位でしたので、かなり意味合いは違います。個人的にも、箱根が終わってからのダメージ、引きずり方がすごかったなと(苦笑)。
選手の反応に関して言えば、それぞれ異なります。藤田や本間は求められた働きができてほっとした部分もあるでしょうから、それはそれでいいと思うんです。逆にうまくいかなかった選手は凹んだ部分があったでしょうし、『自分がもうちょっといい走りをしていれば』と背負ってしまう部分もあったと思うので、その辺りは走りによりきりだったのかなと」
吉居のコンディショニングや柴田の登り、アンカー吉中の走りなど、5位という結果に繋がった要因は複数挙げられる。藤原監督としては、どこが最も想定外だったのだろうか。
「結果論にはなりますけど、往路を走った選手たちはしっかりと想定通りに走ってきてくれたので、ピーキングは上手くいったのかなと思います。ただ、(登録メンバーの全員が)ほぼ同じような流れで練習してきた中で、復路では7区の七枝直(区間7位)は想定より50秒くらい遅く、8区の佐藤大介(区間4位)は想定より30秒ほど遅かった。そう考えると、やはり復路メンバーのレベルの子たちには調整の負荷が少し高かったのかな、というのが1つあります。オーダーに入るかどうかのボーダーラインに並ぶ選手たちが練習の段階で頑張ってしまって、今回のようなエラーが起きているなと。
次に、『勝ち続けてる青山学院さんとの差ってなんだっけ?』と考えると、高いレベルの選手たちを16人並べられるのが青山学院さんで、うちは復路の選手たちを往路の選手たちのレベルまでは上げきれておらず、そこが1番の課題。マネージメント側としては、これらを今後改善していかないといけないと考えています」

『山は出会いだ』
スピードを磨いていくという藤原監督の方針によって、中央大学は箱根登録メンバーの10000mの平均タイムを27分台に乗せた唯一の大学になった。その強化方針は今後も継続していくものだとして、当落線上にいるメンバーたちの強化を今後どう変化させていくのか、話を向けた。
「現状は僕が見ているトップ層のグループ、大石(大石港与プレイングコーチ)が見てくれている中間層、山本(山本亮コーチ)が見ている下位層と、大まかに3つのグループがあります。駅伝シーズンは全員がほとんど同じ流れで練習するので、誰の調子が悪いのかすぐに分かりますが、トラックシーズンでは個々人に対して各指導者がアプローチしているので、『本当にどれだけ調子がいいのか』というのは、タイムでしか伺い知れない。なので、トラックシーズンでもチーム内の競争というのをもっと意識させたいな、というのが一つあります。
また、トラックシーズンの試合の選択には自由度があるのですが、『チームとして1、2ヶ月の間でここを狙っていくよ』というラインはある程度設定してあげて、そこに向けた流れを全グループでできるだけ合わせつつ、グループ間の出し入れをもう少し増やしていく。トップ層のレベルが高まっている中で、そこに中間層の選手を入れた時にどういう化学反応が出てくるかを、色々と試行錯誤しながら進めていきたいです。そうすることで、年間を通して全員のモチベーションをもっと高く維持したり、チームとして戦っている意識をもっと強く持ってもらいたいなと。
あとは、駅伝のエッセンスをもっと入れていきつつ、その中でスピードを活かしたことをいかに混ぜ込んでいくか。そのためには、年間を通したトレーニングとジョグの質ももっと上げていかないといけないので、それらを大きな軸としてやっていきたいなと思っています」
実際に箱根で勝ち切るためには、プラスアルファで何が必要なのだろうか。やはり山の5区で他校の実力者と互角に渡り合える選手の育成がそのラストピースなのか、単刀直入に聞いてみた。
「やはり5区です。『たかだか10年だ』というお声もあるかもしれないですが、ここまで10年やってきて『山は育成じゃないな』と最近強く感じていて。今年の柴田大地は登りの練習をかなりやりましたし、彼は日本選手権でも結果を出している選手なので、メンタルも強い選手。その柴田でもやってきたことを出せないというのは、やはり5区独特の難しさというのがあるのだろうなと感じます。
どんな指導者さんも『山は出会いだ』と仰いますが、もっと真剣にそこについて考えて取り組んでいかないといけないなと。その出会いの人数を1人でも2人でも増やす努力をしないと、つまり大学側と協力してやっていかないと、その出会いの確率も上げれないと言いますか。
その出会いがなかった時の引き出しとしては、区間1桁から10番くらいで5区を走らせる育成というのはできるようになってきています。でも『5区が区間10番で優勝できるか』と言えば、現状そうはいかない。ですから、区間10番の選手の育成で止まった時、他の9区間でどう挽回できるかという戦略を整えるタームに次は進んでいかないといけない。
新しい10年に向けて、全体の選手層の強化、施策をもっとブラッシュアップさせていきつつ、出会いの数を増やしていく努力もしていきたい。たとえば各学年で2人増えれば、トータルで8人増えるわけですから、戦える人数がこれまでは20名くらいだったのが、25、6名まで増やせるんじゃないかと。その26名でしっかりと競り合っていく中で、もう一段チームのレベルを引き上げていきたいというのが今考えていることです。
どうやって自分が山の5区で区間賞を取れたのか、もはや分かりません(笑)。あの頃はもっと簡単だったんですが…」
痛感させられた原監督との差
山の上にある大学と言っても差し支えないほど、中大の周りには坂が多い。一度拝見した並川選手の練習でも、寮から校内のトラックまでの山道を走っている姿を見た。中央大学周辺の地形は、山の育成を図る上で有利に働かないのだろうか。また、それを活かして山専用のチームを作るのは不可能なのだろうか。
「この丘陵地で登り下りの練習をやっているから5区が強くなれるかというと、違いますね。当然、2区や8区、4区や7区というテクニカルなアップダウンに関しては強くなると思います。ただ、5区のような本当に特殊な区間に対しては、ただ登り下りを走っていればいいというものでもない。
山だけの対策をやっていた時代も当然ありましたし、それが通用していた時代もあります。ですが、今回の黒田君や前回の工藤君の走りから分かるように、平地の走力のトップオブトップが5区を登って、あれくらいの成果を出す時代になった。
原(晋)さんがすごいのは、選手として箱根を経験されていないからこそ、固定概念がないこと。箱根を走ったことがある自分からすれば、『2区はエースが走るものだ』と考えますが、これは固定概念だと思うんです。でも、原さんからすればそうじゃない。10区間のピースを並べて、どうやって当てはめるか。黒田がエースだから2区、ではなく、エースの黒田が1番生きるのは5区だと考えて、それをパッと判断できる。
仮に、今年の2区を走る選手が溜池(一太)の他に育成できていたとしても、彼を5区に使うことを決断できたかと言えば、おそらく僕はできなかった。やはりそこの差はすごく大きいなと思います」
箱根が終わり、吉居と溜池のダブルエースが引っ張ってきたチームの活動は幕を閉じた。選手たちとはどのような会話を交わしたのだろうか。
「もう色々と話しました(笑)。終わってすぐに『勝たせてやれなくて本当に申し訳なかった』という話をして。思っていた以上に壁が高かったというのは、走った選手も、裏方サポートに回ってくれた選手も、みんなが感じたこと。『じゃあそれを超えていくための努力って何かというのを、この休みの期間で考えてきて』というのを新チームでは話しました。
その後に選手一人一人と話す中で、一つ一つのトレーニングやジョグ、生活周りのいろいろな課題を出してくれたので、そこを一個一個潰していって、とにかく色々な部分のレベルを上げていこうと。少し横柄な言い方かもしれませんが、“これくらい高いレベル”になると、本当に細かいことの積み重ねの差が最後の差になっているのは間違いがないので。
青山学院さんは365日合宿生活をやっているようなもの。当然我々も寮生活をして、規律を持ってみんな過ごしていますが、我々の方針として月に1回はオフを取ってもいい日を作っています。たとえば彼らもデートしたい日もあるだろうし、悩み事があって親御さんともっと話したい時もあるだろうし、その方が人間らしいと思っていますし、自分の行動を管理できることに繋がるので、いいと思って取り入れています。
だけど、青山学院さんは門限を取るという制度もないと聞いています。彼らは本当に365日を合宿だと思ってやっている中、君たちが取るその1日のオフ、年間12日の差を、練習以外の積み重ねで埋めようと思うのであれば、それなりのことを考えて取り組まないとその差って埋まんないよと。
もしかしたら、そういうところがまさに私自身の甘さなのかもしれないし、現時点では甘いと言われても仕方がない。そこはまだずっと考え続けているところです」
自らの甘さにしっかりと言及するその姿勢は、指導者としてここから更に成長していくという、揺るぎない決意の表れだろう。ここで、箱根終了後に話題を呼んだ原監督の発言について質問をぶつけてみると、彼自身の矜持を交えながら、その胸の内明かしてくれた。
《次回へ続く》