数多くのプロサッカー選手が袖を通してきた青いユニフォーム。その左胸、金色に重く光る六つの星。日本の高校サッカーを牽引してきた名門・市立船橋高校サッカー部(以下、市船)が長く積み上げてきた輝かしい歴史は、時に選手の背筋を立たせ支える確かな伝統となり、時に越え守らないといけないものとして選手の肩に重く伸し掛かる。昨シーズンの市船にとっては後者に感じる場面が多かったかもしれない。
——「もう一度協力してくれ」
高校年代最高峰のステージ「プレミアリーグ」から、10年ぶりの降格──。昨シーズン、市船が味わった苦すぎる現実。歴代の偉大な名将たちが築き上げてきたバトンを一度落としてしまった波多秀吾監督は、当時を振り返り「逃げ出したい、寝られない夜もあった」と、抱え込んだその凄まじい重圧を明かした。
しかし、波多監督が選んだ道は「勝つべきチーム」の再建。「許されるのであればもう一度プレミアへ復帰させることで責任を取る。スタッフたちに『もう一度協力してくれ』と伝えた」そして、その名門復活の旗手として白羽の矢が立ったのが今季のキャプテン・毛利貴大(3年)と矢部翔太郎(3年)だ。
■ 新たな二人のキャプテンに託された想い
市船史上初の二人のキャプテン登用について、波多監督はこう語る。
「(毛利について)一番は彼の持っているパーソナリティ、これが一番ですし他にいないなっていう風に思っています。もう一人、Bチームの方にいる矢部、これもまたいい男で。今毛利がAチームにいてキャプテンマークを巻くことが多いですけど、矢部もすごくやっぱりチームを支えていますし、力がついていってトップチームに上がればあのキャプテンマークを巻くことができる十分な力を持っている、そういう人間性を持っている選手なので二人でチームを引っ張ってほしいという風に思っています。選手たちの投票もありましたけど、それ以外ないだろうと、それくらい強烈なリーダーシップを持った二人です」

二人をよく知るマネージャー、金子晴夏(3年)も共に最終学年を創る仲間として二人のことをこう話した。
「毛利は、世代別代表組にも分け隔てなく誰にでも厳しいことが言える。いい意味で、悪者役を買って出てくれる。矢部はAチームの子にもBチームの子にも、本当にみんなに好かれている。そこが二人の本当に凄いところ」
そう語られた二人のキャプテンのうち、今回は毛利にキャプテン登用の裏にある自身の胸の内を聞いてみた。
——「自分が勝たせてやる、市船を日本一にするっていう想いもあった」
そう力強くまっすぐに答えた言葉には、彼に投票数という仲間たちからの信頼が集まる理由があった。
「自分の選手としての価値っていうところで言うと、自分がチームを勝たせたり、チームを引っ張っていける、そういうパーソナリティを持つ選手にならなきゃいけないなっていうのは自分自身持っていて。そう思った時に、チームのみんなが自分にキャプテンをやらせてくれるのであれば、それはもう本当に、自分が勝たせてやるって、市船を日本一にするっていう想いもあったので。みんながやらせてくれるなら自分がやりたいっていうことで、やらせてもらいました」
そして、目指すキャプテン像を聞かれると迷いなくこう答えた。
「チームがうまくいっている時以上にうまくいっていない時にこそ自分が何をできるかっていう、そこは常に心掛けていて。そういう時に自分がきっかけでチームがまた何か上昇気流に乗っていけるような、そういう選手に、そういうキャプテンになりたいなって思います」

■ 新体制初戦の屈辱。「流経B」に敗北した日から始まった改革
一年でのプレミア復帰を目指し挑む高円宮JFA U-18サッカープリンスリーグ2026関東の開幕。
4月4日、ブリオベッカ浦安競技場で行われた初戦の相手は千葉県での最大のライバル、流通経済大学附属柏(以下、流経)のBチーム。しかし新体制になってからそれまでの練習で感じた手応えとは裏腹に、0-1と初戦は唇を噛むような結果に終わった。
「市船というチームは流経に絶対に負けちゃいけない。全国に出るにしても絶対に倒さないといけない相手で、新チームの期間から特に意識していたチームでした。本当に、悔しい気持ちでした」と、毛利は無念さを口にした。

波多監督は「屈辱的な敗戦でしたし、一番やってはいけない負けでした。」と振り返ると同時にこう述べた。「逆に振り返って見るとそこが一つの大きなきっかけになって良かったのかな、なんていう風に思っていて。やっぱり負けてはいけないし、そのための取り組みをしっかりとし続けないといけないということは選手たちには話しました」
その言葉通り、この屈辱こそが眠れる名門の目を覚ます最大の特効薬となった。
第2節以降5勝1分の無敗という戦績を上げ、第7節を終えた5月30日現在、市船は首位の流経Bを勝ち点1差で猛追する2位につけている。失点数は全体で2番目に少なく、得点はリーグ最多という好調ぶりだ。この好調の裏には、「今年は特に意識している」と語った波多監督の教育論がある。
「市船というのは負けてはいけないチームだし勝ち続けてきたチームなので、まず最優先に勝利が絶対条件だっていう風に考えてやっていたんですけども、今は選手を伸ばしてあげるのが一番大事だなっていう風に思っています。途中過程に勝利があって、自信をつけて、何か成果をあげられたらいいんじゃないかっていう風に、少し考え方が自分の中で変わった部分もありますね。もちろん勝利というのは絶対外しちゃいけないところなので自分でも無意識のうちに勝利の方にいってしまう部分は間違いなくあります。ただ前任の朝岡さんから『選手の成長っていうのがすごく大事なことだぞ』とお話をされて自分でもそうだなと思うところがあるので、そこは忘れないようにしたいなと思っています。」具体的なことを尋ねられると、「僕は教員なのでグラウンドだけではなくて学校生活も見ていて。ちょっとした感情の波とか、行動の変化とか、髪型なんかも結構気にしたりして見ていて(笑)。そこに声かけをすることで選手たちも『あ、見られてる』っていう感覚になってちょっと自信を持ったり、もっとやらなきゃってなったりとかっていうのはすごく大事にしています。まだまだ高校生なのでちょっとずつ波を打ちながら、だんだん立派になっていくところはすごく大事にしているところです」
その上で戦術面についてこう語った。
「自分たちのやりたいサッカーだけが正解じゃない。相手が何を嫌がるかっていうことを考えていかなければいけないですし、それをやっていくことが勝利と成長に繋がっていくと思っています。ゲームのクオリティ、技術、戦術を積み上げていきながら、やっぱり最後の勝負のところっていうのはもっと練習の中で拘らないといけないです。お互いやっぱり要求し合わなきゃいけないだろうし、諦めかけているような選手も引っ張り上げてっていうところ、お互いの厳しさっていうのはすごく必要かなと思っています」

その想いに呼応するように、毛利の言葉にも選手間同士で成長を促す意識が窺えた。
「チームの中で甘えや妥協している部分がまだまだあって。本当にそういうところを少しでも取り除かないといけないので。流経戦後からみんなで厳しい要求もするし、仲間同士で言い合うし、そういう関係を作るっていうところにフォーカスしています」
Aチーム、Bチームの垣根を越え、お互いが本音でぶつかり合う。あの敗戦以降、市船のグラウンドにはお互いが要求し合う熱い声が日常的に飛び交うようになった。
■総体予選の始まり、10度目の全国制覇に向けた戦い
市船が過去通算9回という高校サッカー史上最多の優勝実績を誇るインターハイ。その千葉県予選がいよいよ5月31日に始まろうとしている。2021-2024年に果たした県予選4連覇から一転、昨年は準々決勝で専修大松戸高校に敗れ県ベスト8というまさかの苦杯を舐める結果に終わった本大会。
「1試合1試合全部勝って全国に出て。まずはインターハイを優勝する」
そう答えた毛利の目にはインターハイをあくまでも通過点としてビジョンを描く、この1年に懸ける覚悟の強さと冷静さが見えた。
「市船は本当に『勝つべきチーム』その伝統が自分たちの甘さを潰してくれる。勝たなきゃいけないというプレッシャーを常に持ち続けられることが、本当に市船のいいところ。自分もその歴史に名を刻めるように頑張りたい」
先代たちの輝かしい歴史を受け継ぐことは、重圧か、勲章か。覚悟の決まった選手にとって、名門のプレッシャーはもはや重荷にはならない。名門の再建、その証明が今ここから始まる。