「明るさ」は、性格じゃない。
赤き熱狂に染まる駒場のその真ん中に立つ、
チームメイトを、そしてスタンド全体を巻き込み
一つにする圧倒的存在感。
三菱重工浦和レッズレディースのキャプテン、高橋はな。
「明るいムードメーカー」
多くの人は彼女をこう表現する。
だがその明るさを、ただの性格だと一言で表すには物足りない。
2025アジア年間最優秀選手賞の受賞、25歳にして日本リーグを象徴する一つのクラブでの主将への就任、国内リーグを代表して求められるなでしこジャパンでの活躍。
功績という重圧にもなりかねないレッテルの数々を
彼女は笑ってパワーにしてみせる。
彼女に感じた人々を巻き込む力の根源に触れた今回のインタビュー。
明るさは、性格じゃない。
それは、彼女が選び続けた生き方だ。
「楽しくいた方が、いいことが来る」
「楽しくいることが好きなんです。笑顔で前向きにいたら、その方がいいことがたくさん来るんじゃないかなって」
第一声、彼女はそう言った。
普段の振る舞い、チームメイトからの声、それを証明するには十分すぎるほど彼女の言動にそれは表れている。
「そういう雰囲気を自分も作っていきたいしそれを巻き込めばみんなにも幸せが訪れるんじゃないかなって」
2025年8月30日の浦和駒場スタジアム。私が彼女に感じた印象もそうだった。今季初ゴールを決めた彼女に試合後サポーターからチャントが送られ、それに両手を高く挙げて応える姿。他の選手も一緒に喜び、サポーターの喜びのボルテージもより高くなる。長く浦和と共に戦う人も初めて応援にきた人も、思わず応援したくなるような目を引く軽快な明るさがあった。
「楽しくいた方が、いいことが来る」
その言葉はあまりにも素朴で、だからこそ嘘がない。
そしてまたシンプルだけど、難しいことなのも事実だ。
多くの人が分かっていてもできない事を彼女はどう実現しているのか。

「ポジティブである」という選択
とはいえ競技者であれば、困難な状況に立たされることを避けては通れない。
それでも彼女は言う。
「もちろんその都度感情はあります。でも、何かが起こったってことは、とりあえず自分に原因があるなって思うんです」
落ち込むより先に、自分が前進するために思考する。
「悩んでる暇があるなら、何かしようって。そっちのポジティブな方に考えがいくんです」
悲しみ、悔しさ、負の感情が自分の中にあることも認めたうえで意識をその先へともっていく。
現在地の確認、やるべきことへの集中。
負の感情に左右されずに未来の自分に繋がる糸口を探す。
そこにはポジティブであろうという意識さえ存在しない。
しかしこの選択の連続が結果的に彼女をポジティブに成長させ続けてきた。
クラブスタッフからも「生き物として強い」と言わしめた彼女が持つ強さは、この思考と行動の積み重ねによるものかもしれない。
だからこそ、多くの人が負の感情により足踏みをしかねない状況を彼女は価値のある過去へと昇華できてきたのだろう。
7カ月の離脱期間「いい時間だった」
2022年11月10日。代表活動中に右膝前十字靱帯断裂。
当初下された診断、全治8カ月。ほぼワンシーズンを終えかねない長いリハビリ期間。
数字以上に選手にとって目の前で行われているサッカーに自分が加われない現実を生きる時間は途方もなく長く感じるものだ。
そんな時間を、彼女はこう振り返る。
「総じて、いい時間だったなって思っています」
強がりからではなく、本心から生まれたであろうその言葉の背景には彼女らしい視点がのぞき見える。
「仲間が待ってくれて、応援してくれる人がいて、一番近くで家族がそばにいてくれた。ちょっとした人の言葉が本当に力に変わっていた」
人の言葉を真っすぐ自分のパワーに変えられる。
それと同時に、怪我は彼女に新たな“視点”を与えた。
「外からチームであったりサッカーを見たときに感じる、学べる部分がすごく多かった。もっともっとやるべきことってたくさんあるんだなっていうのを気づかされた」
今あるものに目を向けること。
その上で、常に自分の中にある課題に目を向けること。
人に与えようとしながら、思考のベクトルの先を自分から一貫してずらさない。
それでいてこう口にした。
「自分は一人では生きていけないと気づかされた」
これは決してネガティブな意味ではない。
人からもらったエネルギーを、彼女はきっと何倍にもして人々の心を動かす力に変えているのだろう。

浦和のエンブレムに懸ける想い
このインタビューを通して私の中で最も印象に残った言葉がある。
浦和レッズというクラブのエンブレムを背負ってプレーすることについて「このエンブレムを背負うという責任と覚悟っていうのは常に見せていかなくてはいけない」と言葉にした上で、そのことへの重圧はないか聞かれた時、いつもの物腰の柔らかさとは変わって彼女は力強く言い切った。
「重圧は、感じないといけないと思います」
この言葉に、2012年浦和レッズレディースジュニアユースへの加入から今現在にわたる約15年間を一つのチームに捧げ続ける上で彼女が胸に刻み続けてきた想いが詰まっている。
「日本の象徴的なクラブでもあると思う。中学生だからいい高校生だからいい大人だから背負わなきゃいけないっていうわけではなくて、このクラブに入った以上必ず持ち続けなきゃいけないところなのかなって私は思います」
彼女が長年自身に課してきた責任と覚悟を象徴するに相応しい一言だった。重圧に勝つも負けるもなく、感じて当たり前のものとして自覚する。そうすることで自分自身を律してきたのだろう。そして、築き上げてきたファンとの絆もある。
「レッズレディースのサポーターは本当に熱い。世界一の応援サポーターだと思っている。でもその熱さの中にも温かさがすごくある。負けたりした時に負けたり うまくいかなかった時にサポーターの方に 自分たちの応援が足りなくて申し訳なかったって言われたことがあった。それは結構響きましたね。そんなことないのにと思って。自分たちがやらなくてはいけないのにほんと何してんだろうと思って。これを言わせてはいけないなって改めて思いました」
海外ではなく、今ここで
国内で活躍した選手の海外移籍が主流になりつつある時代。
それでも彼女は、国内で戦い続けている。
理由はシンプルだ。
「自分自身に、やるべきことが多すぎる」
場所よりも、ここで何に目を向けるか。
環境よりも、自分が自分をどう磨くか。
「サッカーの面でも フィジカルの面でもすごい選手って国内にもたくさんいるし学ぶべきことが沢山ある。自分は本当にまだまだだなってすごい思わされる。だからこそ周りを考えるも何も、自分自身が自分自身を高めるためにとにかくやり続けている。今置かれている状況で何ができるかっていうのを常に考えているし、このチームで勝ちたいっていう想いがすごくある」
常に今あるものに目を向けて、自分の中に足りないものを見つけだそうとする姿勢とキャリアのほとんどを費やしてきたクラブへの想いが合わさった彼女らしいシンプルで真っすぐな理由だ。

日本女子サッカーの発展のために
2021年9月に開幕した日本女子サッカーのトップリーグ、WEリーグ。
「WEリーグっていう名前が世界でどれだけ知られてるかってなった時に、多分あまり知られていない」
そう言った上で、彼女自身が所属するWEリーグについてこう語る。
「日本の女子サッカーの未来を背負ってるっていうところは、選手もそうだしリーグとしても一つ意識しなければいけない。今海外でプレーしてる選手たちも最初は日本でプレーしていたわけで、やっぱりまず目指すべき場所にならないといけない」
さらになでしこジャパンとも掛け合わせて、
「代表チームがしっかり結果を残していくというところもそうだし、プラスして日本のリーグで活躍した選手が代表で活躍することでWEリーグが注目される一つのきっかけにはなっていく」
と、日本女子サッカーのあるべき未来を語った。
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編集後記
今回の取材は、あえて映像配信もすることになりました。
「映像でさらに彼女の魅力が伝わるはず」
そう周囲に思わせる魅力が彼女にあったからです。
物腰の柔らかさ、それでいて大事なところで力強く言い切る言葉と表情。
明るい軽やかさと、言葉の節々に重みを感じる覚悟。
「はなのこと嫌いな人はいない」
彼女の数々のチームメイトが口を揃えて発した言葉を私自身対面して実感しました。一緒にトレーニングする機会があった時も、その印象は変わらず。こうやって彼女は周囲を明るく照らしてきているのだなと。私が感じたスタジアムでの目を引く存在感の根源は、きっとこの澱みを感じさせない根っからのポジティブさにあるのだと思います。
狭い女子サッカー界ですが、改めて中にいる私でさえ知らない面白さや魅力ある選手たちに溢れている、そう気付かせていただいた時間でした。
はなちゃんが私の最初の書かれる側の選手になってくれて本当によかったです。ありがとう。
これからのご活躍を心より応援しています。
