BASKETBALL | [連載] 篠山竜青が今、考えていること

篠山竜青が今、考えていること(2025/09/26)

interview |

photo by Kazuki Okamoto / text by Miho Awokie

シーズンの振り返りや開幕に際したことは他のメディアでもお話しされているので、我々は読者のみなさんから質問を募集しました。

いいじゃないですか。

では早速参りましょう。「実在する人物でも歴史上の人物でも、物語の中の人物でも、会いたいと思う人がいたら教えてください。その理由と話してみたいことも教えて下さい」

えー誰だろう……。誰かいるかなあ。パッと思い浮かぶ人。…………誰だろうなあ。会いたい人……例えば誰かいます? 聞かれたら意外と難しくないですか。

初手から熟考なので後ほど答えていただきましょうか(笑)。次の質問です。「もし過去の自分に会えるとしたら何歳の自分に会いたいですか?会えたら何を伝えたいですか?」

なるほど。戻るんじゃなくて、会いに行くパターン。ドラえもんのタイムマシーン形式だ。そうだなあ……。中3の頃の自分に会いに行くかな!

その心は?

中3の自分に会いに行って、「もうすぐボールが6号球から7号球に変わるけど、無理してジャンプシュート打つなよ」って。「シュートが届かなくなって、悩んで、そこからシュートがぐちゃぐちゃになっていくからやめなさい」って言いますね。ハハハハハ。

7号球への対応は多くの選手が苦労しますが、篠山選手も例に漏れずでしたか。

うん。大変でした。筋力が発達してたタイプではなくガリガリだったんで、ボールが重くて重くてしょうがなくて、シュートが届かなくて、そこからアウトサイドシュートが崩れていったな~っていう感覚です。それがなければもうちょっといいところまで行ってたかもしれないな。選手として。

ジャンプシュートにしないほうがよかった、ということですか?

昔は当たり前に「3ポイントはジャンプシュートで打ちなさい」だったでしょ。だから篠山少年は無理して「ジャンプシュートを打たなきゃ」みたいな意識が強すぎて、そこがすごくしんどかった記憶があるんですよね。今はワンモーションが当たり前だから、今戻れたら「ワンモーションが流行るから無理してジャンプシュートを打たないで、ちゃんと届くシュートを打ちなさい」って言ってあげたい。

昨年のシーズン終わりに行ったインタビューで、体力の消耗を抑えるために3ポイントシュートをジャンプシュートからワンモーションのシュートに変えたとおっしゃっていましたが、もうかなりなじんできているでしょうか。

もうすっかり定着して、省エネでやれてると思います。37歳にしてやっと見つけた!って感じ。もうあんまりシュートフォームのどうだこうだで悩むことはなくなりそうです。

次の質問です。「ファミリー(ファン)にはどんな応援をしてほしいですか? 苦しい時、寄り添ってきたファミリーは、失敗を励まし、不利な判定には切り替えていましたが、チームも若返り、新しくなりました。もっと力強くエナジーを叩きつけるぐらいの、ある種の荒々しさも必要ですか? もっと厳しい応援が必要ですか?」

厳しくなくて大丈夫です(笑)。優しくいてくれるんだったら優しくいてください。SNSで「ファンが厳しくすることでチームが強くなるんだったら阪神は何回優勝してるんだよ」っていうつぶやきを見たことがあって、それがすごい好きなんです。

確かに、「ファンが厳しい=強い」という図式は世界のどのチームスポーツを見てもそう多くはなさそうです。

もう好きに見てほしいです。エンタメなんで。「このチームはこういう応援をすべき」とか、あんまりはっきりしたくないというか、それぞれが好きに見たらいいんじゃないですかって感じなんですよね。写真を撮りたかったら撮ればいいし、野次りたかったら野次ればいいし、野次ることが正解とも不正解だとも思わないし、みたいな。自分が一番楽しいと思える観戦の仕方で楽しんでもらうのが一番いいし、それがチームのエネルギーになると思うので、こちらからこういう応援をしてほしいというのは一切ないです。理想としては、思わず声を出してしまうとか、思わず「頑張れ」と言ってしまいたくなる空気感というか、勝負どころになったら思わず立ち上がってしまうとか、カメラ撮るの忘れて声を上げてしまうとか、そういう熱のあるアリーナにしたいという思いは一応ありますけど、それはみなさんにお願いすることでなく僕らが作り出していくものだと思っています。

そうそう、会いたい人のところで言うと、『SLAM DUNK』作者の井上雄彦先生に会って、自分の絵を書いてもらうっていう、こどもの時に夢にも思わなかったとんでもない出来事がもう起こっちゃったんで、もう一度クリアしてるんですよね。むしろ全クリ。自分の中で。それ以上は出てこないんですよ。

私も井上さんにインタビューをさせていただいたときに「人生が上がった」と思いました。

「会いたい」とは別ですけど、ライブに行きたい人はいっぱいいますよ。RIP SLYMEにも行きたいし、HANAも行きたいし、サザンも1回は行っておきたい。あとSMAPも今となっては1回は見ておきたかったですね。こういう文脈でなら会いたい人がたくさんいるんですけど、対面で話したい人はあんまりいないっすね。前も言ったと思うんですけど、嫌われるリスクを取りたくない。「ハマらなかった」みたいなリスクを取りたくないタイプなんで。

次はおそらくバスケをやっているだろうお子さんからの質問です。「どうしたらシュートがたくさん入りますか?」

たくさん入れるには、たくさん打つことですね。いっぱいいっぱいシュート打ってください。質より量です。

篠山選手は小学校の時、「1日何本」とかノルマを決めていましたか?

やってません(即答)。家の近くにリングがなかったし、練習が多かったから。小学生から週4~5ぐらいでやってたので、休みの日はバスケットはしていなかったっすね。

これもお子さんから。「試合中パスを出すときにふんわりパスになってしまいます。強いパスを出すにはどうしたらいいですか?」だそうです。

試合中ふんわりパスを出してしまうってことは、練習中もふんわりパスを出してしまってるのかな。うーーーーーん。(いきなり教授口調で)バスケットボールは「ハビットスポーツ」とよく言われますね。習慣のスポーツと言われております。なので、「強いパス」という習慣をつけなきゃいけない。もう無意識で、何も考えずに、意識しなくとも強いパスが出せるっていう状態まで持っていかなきゃいけない。それをやるためには、いかに練習中に「強いパスを出す」と意識しながら強いパスを出し続けるか。それが癖になって、習慣になって、試合で無意識に強いバスになるっていうことに繋がると思うので、練習中に意識して強いパスを出し続けることが試合でのいいパスに繋がるはずです。

素晴らしい回答です。

ファーガスっぽくないな……。

まだ続きます。「ガードで背が高くなくてもどうしたら自分で得点できますか?」

背が高くなくても得点できるNBA選手やBリーガーがたくさんいるので、映像を見てその人たちのプレーや技をマネしてみてください。上達はモノマネからです。

次は「フリースローの時に何を考えてますか?」。昨シーズンのフリースロー王にふさわしい質問です。

うーーーーーーーーーん。フリースローの時はルーティンのことに集中しています。ボールをもらったら、深呼吸しながら1回背伸びをして、降りる。で、くるっとボールを回しながら右足から歩き出して、左手でドリブルを1回ついたと同時に腰を少し落として、1番自分が得意なプルアップの感覚で、溜めすぎずに打つ。みたいな。それ以外のことは考えずに、体の動きのルーティンに思考もはめ込んで、邪念を払うみたいな感覚ですね。

昨シーズン終盤、「もしかしたらフリースロー王が狙えるかも」という邪念により数字が落ちたことの反省も含まれていますか。

そうです(きっぱり)。

(広報)クラブの公式YouTubeで、長谷川技選手が試合中に考えていることを当てるという企画をやったら、答えは「何も考えてない」でした。

それってある種真理なんですよ。試合中に考えているようだと全部遅れる。色んなところで「考えてプレーしなきゃいけないよ」と言ってるんですけど、なんで考えてやらなきゃいけないかというと、試合中に考えなくて済むようにするためなんですよね。試合中は考えることよりも危険察知のアンテナや「次こうなるんじゃねえか」っていう予測のアンテナを感じ取れるかどうかみたいなことがすごく大事だなって最近よく思うんで。まさに「Don’t think,Feel!」ですね。

ブルース・リーの名言ですね。

「考えるな、感じろ」。感じ取れるアンテナがどれだけいいものであるかで、5対5のうまさだったりも変わってくるんだろうなっていうのはすげえ思いますね。

何年か前に田臥勇太選手(宇都宮ブレックス)が「若い頃よりもどんどんバスケットが面白くなってきている」というようなことを話されている記事を読んだことがあります。篠山選手も共感できますか?

そうっすね。若い時に今ぐらいバスケが好きだったら、もうちょっと上手になってたんじゃねえかなっていう感じは正直すごくあるんですよ。

確かに、年代が若ければ若いほど「やらされている」と感じることも多かったでしょうね。

そう。もう原点は「怒られたくない」っていうところでしたから。怒られないためにやるみたいな。でもそれがある種、今の自分の遂行力につながっているんだろうなと思うんです。やれって言われたらもう絶対やるんで。「コーナーまで走れ」って言われたら、絶対ちゃんとコーナーまで走るんで。ダッシュで。それはもう間違いなく小さい時に培った「先生に言われたことをやらなきゃ怒られる」から来てることだから、まあ面白いなと思いますけど。

過去を否定せず、受け入れることができるのは、年齢と試行錯誤を重ねてきたからこそなのかもしれませんね。

それはそれでよかったのかなとも思うし。それこそね、こどもたちにバスケットを教えたりする機会が増えてきて、どういうアプローチで何をどう伝えるべきなのかとか、ここまでは伝えるけどこっから言わないほうがいいとか、そういうのってめちゃくちゃ大事なんだろうなって思うようになってきたからこそ、難しいなって感じることはすごい増えましたね。

いいですね。年をとるとますますわからないことだらけになってきますよね。

(笑)。いいことですかね。

年を取るとわかったような気になるじゃないですか。それよりはいいような気がします。

確かにそれはよくないですね。

再び読者からの質問です。「このオフ一番楽しかったことはなんですか?」

シュノーケリングです。こどもたちも小さい頃から魚が好きで、水族館とかも好きで、何年か前からスイミングとかも通い始めて、ようやくそういうことが楽しめる年齢になったんですよ。ちょっと前までは沖縄で海に行っても怖がって入らなかったんですけど、今回はライフジャケットを着て、海でパシャパシャと。それがもう楽しくて、ハマりましたね。趣味と言えるものがついにできたかもしれないです。趣味・シュノーケリング。

そんなに行かれたんですか?

今年の夏で2、3回は行ったかな。僕の兄貴がめちゃくちゃ海が好きなんですよ。大学も海洋系で、漁師も経験しましたし、ずっと庄屋でバイトしてたんで。だから今回初めて近くのおすすめスポットを教えてもらって、一緒に行きました。お魚、いっぱいいるんすよ。日帰りで行けるような場所にもこんなにお魚がいるんだってまず感激して、楽しかったっすね。好きなんだ、俺。って思いました。海が。もう南国のきれいな砂浜とかには全然行かなくていいっす。魚がいるところでシュノーケリングするだけで楽しかったんで。とにかく魚。魚が見たい!

えー、それではそろそろまとめに持っていきましょうか。どうですか。仕上がってますか。

急ですね(笑)。

開幕間近に公開予定なので、少し締まった感じにさせていただきます。

確かに「やる気あるのか」って思われちゃう。個人的には仕上がってはいると思いますよ。こんなに怪我なく、アクシデントなく、プレシーズンを走り抜けたのはあんまりないんじゃないかってぐらいいコンディションで、一応順調に来てます。いい感じで開幕できそうです。今のところ。

プレシーズンゲームでのガードの選手たちの起用方法を見ていて、篠山選手のプレータイムや起用方法がこれまでと変わってくるシーズンになるのかな、と思ったりもしていましたが、米須玲音選手のアクシデントを受けてそれもまた少し変わりそうでしょうか。

でも結局、ネノさん(ネノ・ギンズブルグヘッドコーチ)って調子いいやつを長く引っ張るし、「疲れてんのかな」「調子悪いな」って思ったらぱっと下げるタイプなので。去年も長く使ってもらってる試合もあれば前半で終わっちゃった試合もあるし、元気だけど出なかった、みたいな経験もしましたし。だからそこはあんまり変わんないのかなって思っています。だから変わらずにいい準備をしていいパフォーマンスをってシンプルに考えれてはいます。いい感じでやれそうですよ。

開幕節の広島ドラゴンフライズ戦をご覧になる皆さんへ、意気込みも聞かせてください。

広島、強いと思います。でもとにかくいい準備をして、ハイペースのバスケットをして、エキサイティングなゲームにできるように頑張ります。

PROFILE

篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
1988年生まれ、神奈川県横浜市出身。178センチ(ウイングスパンは約190センチ)。小学生のときに兄姉の影響でバスケを始め、北陸高校、日本大学時代には日本一を達成。2011年にクラブの前身にあたる東芝バスケ部に加入。主力のポイントガードとして長きに渡ってチームを牽引してきた。好きな漫画は松本大洋の「ピンポン」。

著者

青木 美帆(Miho Awokie)
青木 美帆(Miho Awokie)
フリーライター。高校3年時にたまたまインターハイを観戦したことをきっかけにバスケに取り憑かれ、早稲田大学入学後に取材・執筆活動を開始。 X:@awokie Instagram:@miho.awokie

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