BASKETBALL | [連載] 篠山竜青が今、考えていること

篠山竜青が今、考えていること【後編】(2025/05/23)

interview |

photo by Kazuki Okamoto / text by Miho Awokie

ちょうどオンエアされたばかりだったNHKの某ドキュメントバラエティの話や、子どもの習いごとの話をしているうちに、第二陣の肉が到着した。ある程度お腹の具合が落ち着いたところで、話を今シーズン──18勝42敗、中地区最下位に終わった今シーズンのことに移した。

──シーズンを通して、入団1年目にめちゃくちゃ負けた耐性があったからあまりヘッドダウンしていない、とおっしゃっていました。

「それもあるし、ロスター決定の時点である種覚悟ができてたというか。Bリーグ、そんな甘くないんで。今年のメンバーは経験値的にもタレント的にもB1上位に行くのは難しい。それはみんなわかっていたと思います。このメンバーで上位にからんでいくっていうのはきついなっていうのは最初から感じていたところはあります」

──勝ち星をたくさん挙げるのは厳しいだろうけど、それぞれがその状況で何をすべきかを考えながら戦うシーズンになったわけですが、篠山選手は何をすべきと考え、何を求めていましたか?

「(絶対的エースの)ニック(ファジーカス)がいなくなったから、もっと自分がアグレッシブにやってやるんだっていう気持ちですかね。ずっとニックとやってきたキャリアだったので、ニックがいないとどんなバスケができるんだろうってことがシンプルに楽しみだったし、ずっとその気持ちを持ちながらやれたシーズンだったんじゃないかなと思います。コンディションが上がらないときもありましたよ。もちろん。だけど、総じてずっと前向きにやれたと思いますけどね」

──とはいえ、川崎を応援している人の全員が篠山選手と同じ感覚を持っていたわけではなかったはずです。

「そこに関しては私たちがコントロールできるところじゃないので。離れていく人はやっぱり離れていくし、観客動員数も下がったし、そこを気にしだすと苦しくなっちゃうので考えないようにしていました。そういうことでなく自分たちに集中する。自分たちがやるべきことやって、前向きにバスケットを楽しんでいくことに集中すれば、わかってくれる人はわかってくれるくらいの気持ちでやるしかなかったです」

プロスポーツ界では時に、結果が出ないチームの社長や選手がファンに謝るという行動に出ることがあるが、これは篠山の主義には合わない。

「スポーツ選手が結果に対して外の人に謝るのって、なんか、あんまりしっくり来ない。個人的にはあんまり好きじゃない。謝って済む問題じゃないから。謝るくらいならやめたほうがいいんじゃないかって思う」

やめたほうがいい。すなわち選手であることを。

謝ったところで誰も許してくれない。そもそも誰かに許されようとも思っていない。何より、敗北が最も悔しいのは自分たち自身だ。

だからいつでも全力で戦い、どんな結果となろうとも会場に駆けつけたファンに感謝を伝え、行き場のない思いをガソリンにしてただ一直線に進み続けるしかない。それが篠山の考え方だ。

篠山が幸運だったのは……この連載で散々繰り返しているが、苦しい道のりを同じ思いで進める仲間たちと出会えたことだ。

「試合に出られないで苦しんだ選手たちもチームに毒を盛らないというか、とにかくチームのためにっていうところでやり続けてくれたことが今シーズンのチームの雰囲気にもたらしたものは大きかったですよね。我慢強い子たちが来てくれて、チームを思って戦ってくれた。それがすごい大きいなって思いました」

千葉ジェッツの富樫勇樹が自身のポッドキャストで「今年の竜青って一番楽しそうじゃない?」と言っていたが、筆者も同じ意見だ。

当連載で取り上げた3月の琉球ゴールデンキングス戦。4月のアルバルク東京戦。最終節の三遠ネオフェニックス戦。信頼できる仲間と強豪に一泡吹かせてやるんだ、という不敵な気持ちが全身から吹き出していた。

「ニックがいた頃はずーっと優勝候補の一角だったでしょ。だからどの試合も負けられないとか、勝たなきゃいけないとか、この相手には負けるわけにいかないとか、順位がどうとか、そういうことばかりが頭の中にあった。『◯◯がいない時間はこういう風にやるべきだ』とか、『勝つためにはこっちのほうが効率がいい』とかばかり見てバスケをしてたから。本当に仕事として、勝つ。勝ちという結果を出す仕事としてやってたのがすごい大きかったなって思います。それが悪いこととは言わないし、むしろプロなんで正しいのかもしれないですけど」

バスケットボールが対戦型の競技である以上、プレーヤーが究極的に目指すものは勝利以外にない。負けよりも勝ちのほうが何万倍も楽しいのは、競技を始めたばかりの少年ですら知っている。今シーズンはそれに至るまでの道のり全体を楽しめたが、昨シーズンまではその余裕がなかった。そういうことなのだろう。

移籍する選手たちのエピソード……例えば小針幸也と真夜中にみなとみらいまでドライブしたことなどを話した後、篠山は少し間を置いて、ぽつりと言った。

「さみしいですよ、だから。今年の移籍は」

結果は振るわなかったが、篠山の14シーズン目は進化と発見に彩られたものとなった。

ロネン・ギンズブルグヘッドコーチ(以下ネノ)の強度の高い練習に引き上げられ、さまざまな測定で最高値を叩き出した。シーズン中盤ごろに改善したシュートフォームがしっくりはまり、近年ひそかにトレーニングを重ねていたものの「おもちゃ」のような感覚だった右手も、「人の手になってきるかもしれない」と言えるくらいには使えるようになってきた。

不当なことには断固として戦うメンタリティのネノヘッドコーチの司令のもと、キャプテンとして審判に抗議することが増えた。A東京戦で岡本飛竜の激しいディフェンスにカッとなり、大人げない振る舞いでテクニカルファウルを宣せられたときは「まだこんなに熱くなれるんだ」と妙な嬉しさを覚えた。

「今シーズンは日大とか北陸のノリに久しぶりに帰れた気がします。そもそもこっちだよな、俺って。もともと全チームのファンから愛されるようなキャラではなかったのに」

筆者は篠山が大学生だったころ、誰かに向けて”どこかの指”を立てた瞬間を撮影したことがある。本人は「味方の応援席にいじられて『うるせえよ』っていう意味でやったはずです」と力説していたが、なにはともあれ若かりし頃の篠山にはそういった一面もあったのだ。

まだまだうまくなれる。まだまだ熱くなれる。まだまだ勝てる。

そんな予感を抱えながら、篠山は盛大な水しぶきの上がるクロールで15年目のシーズンに進んでいく。

PROFILE

篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
1988年生まれ、神奈川県横浜市出身。178センチ(ウイングスパンは約190センチ)。小学生のときに兄姉の影響でバスケを始め、北陸高校、日本大学時代には日本一を達成。2011年にクラブの前身にあたる東芝バスケ部に加入。主力のポイントガードとして長きに渡ってチームを牽引してきた。好きな漫画は松本大洋の「ピンポン」。

著者

青木 美帆(Miho Awokie)
青木 美帆(Miho Awokie)
フリーライター。高校3年時にたまたまインターハイを観戦したことをきっかけにバスケに取り憑かれ、早稲田大学入学後に取材・執筆活動を開始。小3の息子に口喧嘩で負ける。 X:@awokie Instagram:@miho.awokie

ご協力

炭火焼肉 食道園(JR川崎駅より徒歩5分 / 京急川崎駅より徒歩6分)
炭火焼肉 食道園(JR川崎駅より徒歩5分 / 京急川崎駅より徒歩6分)
1961年創業。川崎で世代を超えて愛されている「焼肉店」。「妥協しない味」は、老舗の頑固さと誇り。「新しい味」は、経験に裏打ちされた挑戦の気概。「川崎名物」の名に恥ない実績の証です。地元のお客様のご支持とともに守り続けてきた伝統の味とサービスで、お客様にとって心に残る「特別な時間」をお届けしています。食道園の「味」をご堪能ください。

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