BASEBALL | [連載] 篠山竜青が今、考えていること

篠山竜青が今、考えていること【前編】(2025/05/23)

interview |

photo by Kazuki Okamoto / text by Miho Awokie



インタビュー音声を文字に起こす作業にAIを活用している。Google Geminiでは一連のやり取りに勝手にタイトルがつけられるのだが、このインタビューの音声データをアップロードし「文字起こしをしてくれ」という指示から始まったやり取りには、次のようなタイトルがつけられた。

『篠山選手、水泳部入会インタビュー』

AI文字起こしの黎明期には「いやどうしてこうなった」と頭を抱えるような誤認識が頻発したものだが、今は違う。これは取材の一部を素晴らしく反映したタイトルである。

篠山はこのオフ、猛烈に水泳に勤しんでいる。

川崎駅近くの焼肉屋で、脂少なめの肉たちを注文した後、篠山は話し出した。

「シーズンが終わりまして、まず私は近所のジムに入会しまして。水泳部になってます、今」

── 川崎ブレイブサンダース水泳部。

「はい。1人しかいないですけど」

── なぜ水泳を始めたんですか?

「やっぱビタッと運動を止めてしまうのは年齢的にも怖いので。止まったらもう動けないんじゃないかぐらいのところもあるのでね。止まったら死ぬぐらいの感じ。だからアクティブに過ごさないといけないなっていうのは、まず1個あって。毎年風邪もひいてますし」

篠山はシーズンが終わると、決まって風邪をひいて寝込む。

「子どもももう小学生なんで、平日に旅行をガンガン入れてとかもできないんですよ。平日はやっぱ家にいるし、何かいい運動がないかなと考えて思いついたのが水泳。だから今、ガンガン泳いでますね。ウォーキングコース、初心者コース、25mコース、50mコースってあって、私は主にウォーキングコースから始めます。で、初心者コースと25mコース、空いてるほうを選んで泳ぎます」

── 50mコースをバリバリ泳ぐわけではないんですね。

「あ、そもそも泳げないです僕。プールは好きなんですけど泳ぎは下手なんで、もう必死に25mをなんとか足つかずに泳ぐみたいな。で、ああいうところで泳いでるおじいちゃんおばあちゃんたちって多分若い頃に相当泳いでいた人なんで、ひどいもんですよ本当に。上手なおじいちゃんおばあちゃんに挟まれて、1人だけ若くて、髭で、筋肉だけはあるやつがやってきて、半分溺れてるみたいなクロールでバシャバシャバシャバシャバシャバシャって。で、煽り運転みたいな感じで後ろから追いつかれちゃったりとかしながらなんとか壁タッチして、すぐ後ろから来てる人に『あ、お先どうぞ~(ニッコリ)』ってやってるんす」

── 1時間くらい泳がれるんですか?

「いや、1時間2時間泳ぐ技術ないんで。3~40分で死にそうになるんですよ。 だから午前中に帰ってきて、お昼ご飯を家で食べて、三男と一緒に昼寝して。上の子たちが帰ってきたら公園で見守り隊とかなんやかんややって、夕ご飯食べて寝るみたいな感じですね」

── 素晴らしく健康的な生活ですね。

「そうなんですよ。だからマジで風邪もひいてないし、顔もむくんでないし」

肉が到着した。焼きながら、篠山にとって人生初の個人賞となったベストフリースロー成功率賞の話題に移った。

──受賞、おめでとうございます。

「よくカムバックしたでしょ、あそこから。『入る気がしない』と嘆いていたあそこから」

4月16日の横浜ビー・コルセアーズ戦のゲーム後、篠山は「アワードを意識しまくって最近マジで緊張してて、大した確率で打っていない本来の姿に戻ってきています」と漏らし、こんな話が世に出たらさらに確率が悪くなりそうだと心配していた。

── ご家族は喜ばれてましたか?

「喜んでくれました。とっても。『みんなでアワード行っちゃう?』とか言ってたんですけど、MVPでもないやつが家族を連れていくのはちょっとはずいね、と落ち着きました」

──いつぐらいのタイミングで「フリースロー、調子いいな」と気づかれました?

「どっかの試合で8分の8したんすよね。でもそれは最近かな」


── 3月の大阪エヴェッサ戦なのでかなり終盤は終盤ですね。

「終盤は終盤かあ。もうちょっと序盤で思ってたのかな…。いやでも『調子いいな』とかって思ったことは多分ないかもしれないです。嫌いなんで。基本的にフリースローって」

── 横浜BC戦のときも「嫌い」とおっしゃっていましたね。

「入れてはホッとする、入れてはホッとするの繰り返しだったんで、そういう感覚はなかったかもしれません。で、大阪戦で『これマジでアワードあるんじゃねえか』みたいになってきてって感じですかね。明確に邪念が入り出したのは4月の島根戦の前から。いよいよ数え出したんですよ。コーチ陣に『規定まであと何本で、あと何本入れたらアワードなのか調べて』って。そこからは全然ダメでした」

フォーカスしているのは自分のプレーでチームメートが喜ぶこと。イケイケドンドンなキャラとしてならしていた高校・大学時代からそれは変わっていない。しかし、36歳になった今年、初めて個人賞が欲しいと思った。理由は何だったのか。

「憲剛さん(元サッカー選手の中村憲剛)が36歳の時に初めてMVPを取ったじゃないですか。だから36で、MVPには全然およばないですけど、アワードに出たいっていう思いはあったかもしれないですね。何でもいいから、みたいな。なにかを形にしたいみたいな意識は漠然とあったかもしれないです」

──36歳でスタッツリーダー。B2では大塚裕土選手が今年37歳で受賞していますが、B1では珍しいかもしれませんね。

「珍しくあってほしいな。歴代最年長スタッツリーダーって、けっこう嬉しくないですか? 規定本数を打たないといけないっていうことはある程度試合に出してもらわないと達成できないので、そういった意味では本当に良かったです」

──昨シーズンからプレータイムは平均3分近く減りましたが、フリースローがアテンプトは49本から60本に伸びました。

「確実にアタックする回数は増えてると思うんで、それはめちゃくちゃ良かったと思うんですけどね」

──ペイントアタックは増えたのは戦術によるものですか?それともご自身の意志ですか?

「んー……まあ、ニック(ファジーカス)がいなくなったっていうことじゃないですか。ボールの預けどころがなくなったんで、全員で攻めなきゃいけないよねっていうところです」

取材後、過去のスタッツリーダーの年齢を調べてみた。篠山はマイケル・パーカーと並んでB1歴代最年長のスタッツリーダーとして、映えあるアワードの壇上に立った。【後編に続く】

PROFILE

篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
1988年生まれ、神奈川県横浜市出身。178センチ(ウイングスパンは約190センチ)。小学生のときに兄姉の影響でバスケを始め、北陸高校、日本大学時代には日本一を達成。2011年にクラブの前身にあたる東芝バスケ部に加入。主力のポイントガードとして長きに渡ってチームを牽引してきた。好きな漫画は松本大洋の「ピンポン」。

著者

青木 美帆(Miho Awokie)
青木 美帆(Miho Awokie)
フリーライター。高校3年時にたまたまインターハイを観戦したことをきっかけにバスケに取り憑かれ、早稲田大学入学後に取材・執筆活動を開始。小3の息子に口喧嘩で負ける。 X:@awokie Instagram:@miho.awokie

ご協力

炭火焼肉 食道園(JR川崎駅より徒歩5分 / 京急川崎駅より徒歩6分)
炭火焼肉 食道園(JR川崎駅より徒歩5分 / 京急川崎駅より徒歩6分)
1961年創業。川崎で世代を超えて愛されている「焼肉店」。「妥協しない味」は、老舗の頑固さと誇り。「新しい味」は、経験に裏打ちされた挑戦の気概。「川崎名物」の名に恥ない実績の証です。地元のお客様のご支持とともに守り続けてきた伝統の味とサービスで、お客様にとって心に残る「特別な時間」をお届けしています。食道園の「味」をご堪能ください。

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