
インタビュー音声を文字に起こす作業にAIを活用している。Google Geminiでは一連のやり取りに勝手にタイトルがつけられるのだが、このインタビューの音声データをアップロードし「文字起こしをしてくれ」という指示から始まったやり取りには、次のようなタイトルがつけられた。
『篠山選手、水泳部入会インタビュー』
AI文字起こしの黎明期には「いやどうしてこうなった」と頭を抱えるような誤認識が頻発したものだが、今は違う。これは取材の一部を素晴らしく反映したタイトルである。
篠山はこのオフ、猛烈に水泳に勤しんでいる。
川崎駅近くの焼肉屋で、脂少なめの肉たちを注文した後、篠山は話し出した。
「シーズンが終わりまして、まず私は近所のジムに入会しまして。水泳部になってます、今」
── 川崎ブレイブサンダース水泳部。
「はい。1人しかいないですけど」
── なぜ水泳を始めたんですか?
「やっぱビタッと運動を止めてしまうのは年齢的にも怖いので。止まったらもう動けないんじゃないかぐらいのところもあるのでね。止まったら死ぬぐらいの感じ。だからアクティブに過ごさないといけないなっていうのは、まず1個あって。毎年風邪もひいてますし」
篠山はシーズンが終わると、決まって風邪をひいて寝込む。
「子どもももう小学生なんで、平日に旅行をガンガン入れてとかもできないんですよ。平日はやっぱ家にいるし、何かいい運動がないかなと考えて思いついたのが水泳。だから今、ガンガン泳いでますね。ウォーキングコース、初心者コース、25mコース、50mコースってあって、私は主にウォーキングコースから始めます。で、初心者コースと25mコース、空いてるほうを選んで泳ぎます」
── 50mコースをバリバリ泳ぐわけではないんですね。
「あ、そもそも泳げないです僕。プールは好きなんですけど泳ぎは下手なんで、もう必死に25mをなんとか足つかずに泳ぐみたいな。で、ああいうところで泳いでるおじいちゃんおばあちゃんたちって多分若い頃に相当泳いでいた人なんで、ひどいもんですよ本当に。上手なおじいちゃんおばあちゃんに挟まれて、1人だけ若くて、髭で、筋肉だけはあるやつがやってきて、半分溺れてるみたいなクロールでバシャバシャバシャバシャバシャバシャって。で、煽り運転みたいな感じで後ろから追いつかれちゃったりとかしながらなんとか壁タッチして、すぐ後ろから来てる人に『あ、お先どうぞ~(ニッコリ)』ってやってるんす」
── 1時間くらい泳がれるんですか?
「いや、1時間2時間泳ぐ技術ないんで。3~40分で死にそうになるんですよ。 だから午前中に帰ってきて、お昼ご飯を家で食べて、三男と一緒に昼寝して。上の子たちが帰ってきたら公園で見守り隊とかなんやかんややって、夕ご飯食べて寝るみたいな感じですね」

── 素晴らしく健康的な生活ですね。
「そうなんですよ。だからマジで風邪もひいてないし、顔もむくんでないし」
肉が到着した。焼きながら、篠山にとって人生初の個人賞となったベストフリースロー成功率賞の話題に移った。
──受賞、おめでとうございます。
「よくカムバックしたでしょ、あそこから。『入る気がしない』と嘆いていたあそこから」
4月16日の横浜ビー・コルセアーズ戦のゲーム後、篠山は「アワードを意識しまくって最近マジで緊張してて、大した確率で打っていない本来の姿に戻ってきています」と漏らし、こんな話が世に出たらさらに確率が悪くなりそうだと心配していた。
── ご家族は喜ばれてましたか?
「喜んでくれました。とっても。『みんなでアワード行っちゃう?』とか言ってたんですけど、MVPでもないやつが家族を連れていくのはちょっとはずいね、と落ち着きました」
──いつぐらいのタイミングで「フリースロー、調子いいな」と気づかれました?
「どっかの試合で8分の8したんすよね。でもそれは最近かな」
── 3月の大阪エヴェッサ戦なのでかなり終盤は終盤ですね。
「終盤は終盤かあ。もうちょっと序盤で思ってたのかな…。いやでも『調子いいな』とかって思ったことは多分ないかもしれないです。嫌いなんで。基本的にフリースローって」
── 横浜BC戦のときも「嫌い」とおっしゃっていましたね。
「入れてはホッとする、入れてはホッとするの繰り返しだったんで、そういう感覚はなかったかもしれません。で、大阪戦で『これマジでアワードあるんじゃねえか』みたいになってきてって感じですかね。明確に邪念が入り出したのは4月の島根戦の前から。いよいよ数え出したんですよ。コーチ陣に『規定まであと何本で、あと何本入れたらアワードなのか調べて』って。そこからは全然ダメでした」

フォーカスしているのは自分のプレーでチームメートが喜ぶこと。イケイケドンドンなキャラとしてならしていた高校・大学時代からそれは変わっていない。しかし、36歳になった今年、初めて個人賞が欲しいと思った。理由は何だったのか。
「憲剛さん(元サッカー選手の中村憲剛)が36歳の時に初めてMVPを取ったじゃないですか。だから36で、MVPには全然およばないですけど、アワードに出たいっていう思いはあったかもしれないですね。何でもいいから、みたいな。なにかを形にしたいみたいな意識は漠然とあったかもしれないです」
──36歳でスタッツリーダー。B2では大塚裕土選手が今年37歳で受賞していますが、B1では珍しいかもしれませんね。
「珍しくあってほしいな。歴代最年長スタッツリーダーって、けっこう嬉しくないですか? 規定本数を打たないといけないっていうことはある程度試合に出してもらわないと達成できないので、そういった意味では本当に良かったです」
──昨シーズンからプレータイムは平均3分近く減りましたが、フリースローがアテンプトは49本から60本に伸びました。
「確実にアタックする回数は増えてると思うんで、それはめちゃくちゃ良かったと思うんですけどね」
──ペイントアタックは増えたのは戦術によるものですか?それともご自身の意志ですか?
「んー……まあ、ニック(ファジーカス)がいなくなったっていうことじゃないですか。ボールの預けどころがなくなったんで、全員で攻めなきゃいけないよねっていうところです」
取材後、過去のスタッツリーダーの年齢を調べてみた。篠山はマイケル・パーカーと並んでB1歴代最年長のスタッツリーダーとして、映えあるアワードの壇上に立った。【後編に続く】
PROFILE
篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)

著者
青木 美帆(Miho Awokie)

ご協力
炭火焼肉 食道園(JR川崎駅より徒歩5分 / 京急川崎駅より徒歩6分)
