
高円宮牌ホッケー日本リーグ。多くの実業団がひしめき合う、日本ホッケー最高峰のレベルを誇るリーグである。そんなトップリーグの中で、実業団ではなくクラブチームとして活動を続けているのが、東京ヴェルディホッケーチームだ。ホッケーとは別に仕事を持って競技と両立させている選手たちと、スポンサーや運営陣の尽力が光る創設6年目のチームである。
FERGUSでは、東京ヴェルディホッケーチームで中核を担う、4人の選手へインタビューを行った。
第1回の今回は、GKからFWへの転向という異例のポジション変更をして東京ヴェルディに入団した#5 髙橋詩帆選手。
ユニフォームが可愛かったから…
日本国内でのホッケーの普及には、国体の開催が大きく影響している。髙橋の出身地の栃木県日光市も、国体の開催をきっかけにホッケーが普及した地域だ。
少年野球のコーチをしていた父の影響を受け、小学生の頃はサードを守る野球少女だったが、中学入学のタイミングでホッケーをやることになったという。
「友達のほとんどがホッケーをやっていました。中学に上がるタイミングで誘ってもらって、ユニフォームがすごく可愛い!と思って始めました」
のちに関東学生リーグで表彰されるまでになる、GK・高橋詩帆が生まれたのも中学時代。
「野球の経験を活かせると思ったことと、当時部内にGKが先輩一人だったのもあってGKになることを決めました」
周囲の環境、本人の性格など、さまざまな要素が髙橋をGKへ導いた。

「GK・髙橋」としての成功と、「点をとってみたい」の気持ち
その後、髙橋はGKとしてメキメキと実力をつけていく。高校進学後もGKとしてプレーし、2015年にはユース日本代表に選出。早稲田大学でも関東学生リーグのベストイレブンに選出されるなど、輝かしい実績を積み重ねてきた。しかし、大学を卒業し社会人になるタイミングで、「ホッケーはやり切った、という気持ちになりました」と一度ホッケーから離れている。
しかし、髙橋にとっての新卒1年目は、2020年。新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた時期と重なる。アーティストのグッズの制作・販売の会社に就職したものの、慣れない仕事への適応と、緊急事態宣言による外出規制は、当時の髙橋には大きなストレスとなった。
その時に思い出したのは、やはりホッケーだった。しかし、どこかで押し殺していた気持ちもまた、同時に胸に湧いた。
「点を取ってみたい、走ってみたいという気持ちがありました。前例のあまり無いことですが、もし転向するなら今かも、と。東京ヴェルディホッケーチームは、私が大学4年生の時(※2019年4月)に発足しました。早稲田の先輩もいましたし、合同練習でも会っていて……そのときはめっちゃ楽しそうだな、と思っていました。コートの中でも選手同士言うべきことは言うし、年齢が離れている方でも優しく話しかけてくれて。仲良いな〜、と思っていましたし、自分も入れてほしいなと」
先輩伝手にチームとコンタクトを取り、ヴェルディでFWに挑戦したい想いをまっすぐに伝えた。そして、チームもそれを受け入れ、「FW・髙橋詩帆」が誕生した。この時、ホッケーをする時間を確保するために、転職もして、強い覚悟でヴェルディの一員となった。
「私にパスを出したら決めてくれる」と思われるように
中学から大学まで10年間GKとしてプレーした髙橋。無論、転向は簡単なことではない。
「FWとして、できないことがまだ多いです。特にレシーブが苦手で、基礎力については他のチームのFWと差を感じています。ただ、悔しい思いをしているけれど、できるようになったことも多いです。点を取ることでチームを勝たせたいし、私にパスを出したら点を決めてくれる、と思われるようになりたいです」
技術向上には練習が不可欠で、髙橋は今もチームの週3回の練習には仕事の都合をつけて出席し、基礎力アップに励んでいる。職場のメンバーには、どのように見られているのだろうか。
「今の会社ではITの品質保証に携わっていて、無事にWEBのリリースができるかな?と検証するような仕事です。新たにやりたいことも出てきて、JSTQB(=日本におけるソフトウェアテスト技術者資格)取得を目指しています、実は前に1度面接して辞退していた会社ですが、ラクロスをやっている社員さんの「いつでも声かけてね」という言葉を真に受けてもう1回応募しています。社内にアスリートのメンバーも多く、パラスキー、ビーチスキー、esportsをやっている方々がいます。私がホッケーをやっていることも応援してくれていて、遠征の前乗り、練習のための早上がり等の相談にも乗ってもらっています」
FWにしか感じられない…
「点を取りたい」という自分の気持ちに素直になり、周囲に積極的に働きかけたことで理想的な環境を手に入れた髙橋。だからこそ、ここで勝ちたい気持ちは強い。
「ホッケーは点数が多く入る競技じゃないけど、チーム全員ができることをやってい勝ちに行くというのが楽しいです。「ヴェルディ」の名前を背負っていることで、他競技のサポーターさんが応援に来てくれたりもしていて、試合が始まる前から感動したこともあります」
東京ヴェルディホッケーチームに入団して、5年目。それは、FWとして迎えるホッケー人生の5年目を意味する。最後に、「FWに転向してよかったですか?」という身も蓋も無い質問をぶつけてみた。
「もちろんです!FWにしか感じられない喜びも、悔しさもあります。転向してよかったです」
髙橋がFWとして感じる、たくさんの喜びと悔しさ。いずれにせよ、これからも東京ヴェルディホッケーチームの熱い試合の源泉となるに違いない。
著者
梶 礼哉(Reiya Kaji)
