BASKETBALL | [連載] 篠山竜青が今、考えていること

篠山竜青が今、考えていること(2023/12/15)

interview |

photo by Kazuki Okamoto / text by Miho Awokie

“週3ゲーム”がデフォルトという過密日程の影響で、12月はこれまでのように試合日以外のインタビュー日程が確保できなかった。クラブから指定されたのは12月15日金曜日のレバンガ北海道戦後。土日に宇都宮ブレックスと86-83、76-74、水曜に群馬クレインサンダーズと77-75という死闘を繰り広げ、中1日で迎える試合だった。

目を疑うような試合だった。

この日まで3勝11敗の北海道は、チャンピオンチームかのように高いエナジーを携え、次々とシュートを沈め、堂々と戦っていた。かたや「Bリーグの頂点を獲る」と宣言する川崎は、シュートの決定率が低く、こぼれ球を拾った北海道のスピーディな攻撃を止められなかった。後半に多少の追い上げは見せたものの大きな流れを呼び込むまでに至らず、82-93で敗れた。

リム周りで体を張るジョーダン・ヒースが欠場した。試合日程がしんどい。誰にだってわかる。しかし、この日の川崎は勝利を目指すチームでなく、うまくいかないことを下を向いてやり過ごそうとする者と、他人にそれをぶつける者が幅を利かせる集団だった。フロアサイドで試合を撮影していた岡元は、ハーフタイム中に「全然いい顔をしていないです」と言った。


試合後の記者会見に登壇した佐藤賢次ヘッドコーチは、これまで聞いたことがないような低い声で試合総括をコメントした。数分前までロッカールームで選手たちに雷を落としていた。マイクを持つ手はおそらく怒りのせいだろう、小刻みに震えていた。

会見後、別エリアで待つ篠山のもとに向かった。正直、気が重い。この日の篠山の出場時間は8分。フィールドゴールは2点。北海道の若いガードたちに何度も綺麗にディフェンスを突破された。

篠山は我々の姿を認めるとなんとも言えない表情で言った。

「え、ファーガスですか?よりによってこの試合ですか?」

我々も同じ気持ちだ。しかし指定されたのはこの一日のみなのだから、やるしかない。

試合後、コートを一周する際には下唇を「への字」になるほど強く噛み締め、その表情は泣き出しそうにも見えた。
まずは、あの時、何を考えていたのかと問うた。篠山は長らく考え込んだ末、話しだした。

「反省しなければいけないところばかりのゲームになってしまいましたけど、毎回とどろきに来てくれる人はもちろんですけど、今日しか来られない人とか、今日…今日という日をどれだけ待ちわびていたっていう人もたくさんいるだろうし、そういう人たちに対して今日のようなゲームになってしまったっていうところが、本当にこう…やるせないというか」

この日のとどろきアリーナには、篠山にとって特別なゲストがいた。

「数年ぶりに姪っ子が応援に来てくれたんです。学校のお友達を連れて。そういう状況の中で、 残念な試合になってしまって。ああいう状況になっても、お客さんの顔を見て手を振らないといけないと思うので、必死に…口はへの字になってしまいましたが、下は向かないようにと思って手は振りました」

川崎は中1日。北海道は中4日。スケジュールの影響について問うと「全体的に重かったとは正直思います」と返ってきた。

「長年経験してますけど、ビッグマッチ後の試合はやっぱり難しいです。今日はさらにJ(ヒース)も出られなかったですし。うちは激しい強度で5人全員が連動しなきゃいけないディフェンスですけど、少し裏をかかれたとしても常にJがゴールキーパーみたいにいてくれるっていうところで、悪く言うと誤魔化せていた。そういう部分を今日はやっぱり全部崩されてしまったかなと。それに、北海道さんのほうがいい準備してきたんだろうなと思います」

北海道は直近ゲームで群馬と対戦している。北海道の小野寺龍太郎ヘッドコーチは、水曜日に川崎がその群馬と対戦していたため、選手たちはプレーをイメージしやすかったと思うと話していた。また、トーマス・ウィンブッシュ、ロスコ・アレンといった強烈なポイントゲッターに目を向けず、ひたすら藤井祐眞とニック・ファジーカスを抑えることだけにフォーカスしていたとも明かした。

川崎はどうか。

「セットプレーがどれだけ頭に入っていたか。それぞれの選手の特徴やスタッツをどれだけ把握していたか。やっぱりそういうところは甘かったし、そこがディフェンスの穴につながってベースの崩壊につながったし、ブロックショットやリバウンドで誤魔化してくれたJもいない。疲労による強度の低下、準備の質の低下によってそういうものが全部失点につながってしまった。『メンタルが足りなかった』みたいな言葉以外で説明するなら、そういう感じでしたね」

第3クォーターの開始2分少々、北海道のタイムアウト明け。篠山はコートに入る選手たちをじっと見つめ、何度かうなずいた。14点差。ここから巻き返せるという手応えは確かにあった。しかしそれはかなわなかった。

「今日は北海道さんのほうがアウトサイドシュートの精度が高かったですけど、やっぱりリードがある程度あるチームのほうが思い切ってシュートを打てるんですよね。 インサイドのサイズが相手のほうが大きくてリバウンドでも優位に立てるから、普段のスタッツ以上に自信を持って打ち切っていたような感じでした。普段成功率が3割に届かない選手も、気持ちが乗ってくるとやっぱ入るよねっていうプレーが3~4ポゼッション続いて、 追いつけそうなところで追いつけなかった」

この試合、篠山は8分しかコートに立っていない。プレーについて聞けることはあまり多くない。ベンチで、キャプテンとして、何をしようとしていたのかを尋ねた。

「どうやったら状況を変えられるかってなってきたら、やっぱ、ディフェンスの強度とか、そこらへんで本当頑張るしかなかったんで、そこはみんなに発破をかけなきゃいけないなと声をかけてはいましたけど、一方で、『なんでこんなに今日はやられてしまうんだろう』『レイアップがめちゃくちゃ多いな』『各選手にバランスよく点を取られてるな』っていうところで、ベンチにいるメンバーと、何が問題なのかっていうところを含めて話をしなきゃいけないなと思って、そういうコミュニケーションを取ってましたけど…」

歯切れは悪かった。

“This is Basketball.”

インターナショナルの選手やコーチが、ネガティブな状況を表現する時に使う言葉だ。「こういう状況もバスケットボールという競技の一部なんだ」。そういうニュアンスと受け取っている。

この日の試合をフラットにとらえようとして頭に浮かんだのがこの言葉だと篠山に言うと、「かっこいいっすね。それで許してもらえるんだったらいいですけど」と苦笑いした。

「そろそろお時間が…」広報から声がかかる。篠山は立ち上がり、続けた。

「どれだけ今暗い顔をして反省しても、今日の試合はもう帰ってこないんで。やっぱリーグ戦である以上、常に次に行かなきゃいけないっていう。それが…それが逆に苦しかったりする時もあるでんすけど。だから、改めてね。すごい仕事だななんて思いながらやってはいます。いい時もあるし、悪い時もあるし、賞賛される時もあれば、批判される時もある。でも…んー、スポーツ選手としてプレーできてることこそが幸せなことだと思うし、それを忘れちゃいけないと思うんで。バスケット選手として、また新たな気持ちで明日に向かわなきゃいけない。それこそがスポーツとしての醍醐味だと思うので、それをしっかり噛み締めながら、新しい1日をまた明日始めたいと思ってます」

人はプロアスリートに夢を見る。困難に直面しても戦い続ける彼らの姿に、すぐに落ち込んだり、誰かのせいにしたりする自らを投影し、彼らが自分が思うような行動をとらなければ失望したり罵倒したりする。彼らに背中を押されて育ち、あまつさえ彼らを取り扱うことを仕事としている一人として、改めて手前勝手な存在だと思わずにいられない。

しかし、篠山は自分が市井の人々にとっての偶像(アイドル)だということをよく理解している。

「こういう状況からバシンとやり返して、また応援してもらえたり、喜んでもらえたり、賞賛してもらえるのも、やっぱりバスケットボール選手、スポーツ選手としての醍醐味の1つ。そこに麻薬のような喜びがあるからこうやって続けてるんで。今日みたいな時もあるんですけど、しっかりまた、いい集中力を持ってやりたいですね」

取材を終えてアリーナを出た瞬間、強風にあおられた。どうやら大雨が降った後のようだった。向かい風が過ぎる。自転車を漕ぐのをあきらめ、歩くことにする。

我々はいくらでも困難をやり過ごせる。しかしプロアスリートは嵐だろうが雪だろうが、試合が続く限り全力で走り続けなければいけない。つくづく過酷な仕事だと思い知らされる。

翌日の第2戦、さらに翌節の富山グラウジーズ戦に敗れた川崎は、取材前の宇都宮戦から数えるとリーグ始まって以来初となる5連敗。そして、2024年一発目のアルバルク東京戦では、今シーズン限りの引退を表明しているファジーカスが大ケガを負った。

いっそう激しい大嵐の中を突き進むことを余儀なくされたチームを、キャプテン・篠山竜青はどのように導いていくのか。

晴れの日も、雨の日も、私たちはプロアスリートとしての彼の生き様を追いかけていく。

PROFILE

篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
1988年生まれ、神奈川県横浜市出身。178センチ(ウイングスパンは約190センチ)。小学生のときに兄姉の影響でバスケを始め、北陸高校、日本大学時代には日本一を達成。2011年にクラブの前身にあたる東芝バスケ部に加入。主力のポイントガードとして長きに渡ってチームを牽引してきた。好きな漫画は松本大洋の「ピンポン」。

著者

青木 美帆(Miho Awokie)
青木 美帆(Miho Awokie)
フリーライター。高校3年時にたまたまインターハイを観戦したことをきっかけにバスケに取り憑かれ、早稲田大学入学後に取材・執筆活動を開始。岡元氏とはご近所仲間。小2の息子に口喧嘩で負ける。 X:@awokie Instagram:@miho.awokie

Feature
特集

Pick Up
注目の話題・情報