BASKETBALL | [連載] 篠山竜青が今、考えていること

篠山竜青が今、考えていること(2023/08/21)

interview |

photo by Kazuki Okamoto / text by Miho Awokie

しのやまりゅうせい。プロバスケットボール選手。川崎ブレイブサンダース所属。35歳。

 今考えていることを、聞かせてほしい。

 そう言うと、篠山は「え~、これ記事になんのかな…」と不安がりながら、セカンドキャリアのことだと言った。連載初回に何ちゅうことを話し始めるんだと思いながら、話を聞いた。

「35歳になって、代表活動も一段落して、オフに『篠山竜青マイナスバスケット、篠山竜青マイナスプロバスケットボール選手ってなんだろうな』っていうのを考える時間が増えましたね。自分がバスケット選手じゃなくなった時に、どんな世界が広がってるのかっていうのを考える時間が、ここ1年ぐらいで明らかに増えたなーっていうのが私の今でございます」

 2017年から2019年にかけて、篠山はバスケットボール日本代表の一員だった。Bリーグのシーズンが終わるとすぐに代表合宿に参加し、たまのシーズン中の休暇もすべて返上して合宿および試合。まともな休暇のない状況で走り続けてきた。しかし、20年以降はオフがぽっかりと空き、年齢もベテランの域に到達し、8月に第三子が生まれた。今後のことに思いを巡らせるのも当然だろう。

「ワールドカップに向けた代表戦の解説をしたり、バスケをテーマにした特番の企画に呼ばれたり、表に出る仕事もちょこちょこ増えて、自分で管理するのも難しくなってきたので、いろいろ考えたり…みたいなことも今年のオフはけっこうやりましたね。人見知りだし、出不精だし、知らない大人と会うのは苦手なんですけど、一つ自分の壁を打ち破って大人と会うっていうのは今オフの1つのテーマでした」

 2016年のBリーグ開幕時から彼を追いかけている身としては、篠山の話はいささかショックだった。ここ数年、プレータイムが減少気味であることは否めないが、篠山はそれでも特別なバスケットボール選手だと思っている。一方で、弁の立つエンターテイナーである彼を芸能関係者が放っておくわけがないとも思っているし、そちら方面でも何らかの成功を収めるだろうとも思っている。

 彼の気持ちはもう次の道へ進み始めているのか。来るべきはそんなに近づいているのか。

「例えばどんな道が思い浮かぶんですか?」と、おそるおそる聞いた。

 篠山は「うーん」と考え込んだあと、言った。

「いや、思い浮かばなくて悩んでて。やりたいことがなくて悩んでて。やりたいことがあったらね、それに向かって積み重ねていけばいいんでしょうけど、やりたいことがないということにすごく恐怖を感じているというか」

 本人には申し訳ないが、ほっとした。篠山は当分プロバスケットボール選手だ。

 篠山は空気が読める男だ。

 コート上でもコートの外でも、求められることを求められるようにやろうとするし、言葉をていねいに選び、誰かを貶めるような物言いは絶対しない。

 そのような懐深く、優しい男に、我々はシーズンを通して1ヶ月に一度ほどの頻度で取材をする予定でいる。定期的に顔を突き合わせるのだから、彼がストレスなく自然体でいられるコンテンツにしてはどうだろうか。発起人の岡元にそのように提案し、取材時に篠山自身の意向も聞いてみようということになっていた。

 そして、篠山は「いいですね」と言った後に意外な人の名前を出した。

「奥田民生ですね」

 奥田民生。3~40代以上なら当然知ってると思うが、若い読者のために説明すると、『ユニコーン』というバンドで一世を風靡し、ソロとしても成功しているのに、肩肘を張ったところがまったくないミュージシャンだ。

「僕、松本人志の『放送室』が好きなんですけど、その中でGLAYとかラルクってかっこいいけど世間的なイメージとか気にしなきゃいけないし、絶対疲れるでしょみたいな話があって。じゃあ1番ちょうどいい人って誰? ってなって、高須さんと松本さんが出した答えが奥田民生だったんです」

 篠山の話は続く。

「僕って今、 清廉潔白、聖人君子みたいな感じになってると思うんですよ。それは作り上げられてる感がやっぱ強いなって思ってて、ちょっと恐怖感があります。酔っぱらって記憶を飛ばすこととか、ファンの人は知らないじゃないですか。ハセ(チームメートの長谷川技)にゲロを受け取ってもらったことがあるとかも。チャンスがあればそういうのも出していきたいですね。綺麗で元気なエンターテイナーから、ここでちょっと力を抜かせてもらえたら、めちゃくちゃバランスが取れていく気がする」

 私はスポーツを本気でやった経験がない。それゆえ、自分ができないことを体現するアスリートという存在を盲目的に崇める傾向が強く、彼らのヒロイックな側面をフィーチャーした記事を書くことも多かった。しかし、キャリアを重ねるうちに、メディアが作り上げた”アスリートの虚像”の存在に気づき、自分の仕事が彼らを苦しめているのでは…と思い悩むことが増えた。

 この取材中、篠山に何度もそのようなことを尋ね、不明瞭ながらも「大丈夫」というような言葉を得て多少安堵したが、少なからずメディアと自分の乖離をストレスとしていることを当事者から聞けてよかった。

 篠山は「ちょっとずつ小出して、引かれない程度に。誰からも応援されなくなっちゃったみたいなのは困るので」と言って甲高い声で引き笑っていたが、クラブとしては問題ないのだろうか。傍らにいた広報担当のT氏にうかがいを立てた。

「法に触れない範囲であれば大丈夫です」

 篠山同様、川崎ブレイブサンダースも大概懐が深いクラブだ。

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FERGUSでは2023-24シーズンを戦う篠山の「今」を、1ヶ月に一度の頻度で写真と言葉で伝える。

PROFILE

篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
1988年生まれ、神奈川県横浜市出身。178センチ(ウイングスパンは約190センチ)。小学生のときに兄姉の影響でバスケを始め、北陸高校、日本大学時代には日本一を達成。2011年にクラブの前身にあたる東芝バスケ部に加入。主力のポイントガードとして長きに渡ってチームを牽引してきた。好きな漫画は松本大洋の「ピンポン」。

著者

青木 美帆(Miho Awokie)
青木 美帆(Miho Awokie)
フリーライター。高校3年時にたまたまインターハイを観戦したことをきっかけにバスケに取り憑かれ、早稲田大学入学後に取材・執筆活動を開始。岡元氏とはご近所仲間。小2の息子に口喧嘩で負ける。 X:@awokie Instagram:@miho.awokie

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