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中大監督・藤原正和監督インタビューvol.7/「箱根でも上手く伍して戦える」自信を得た全日本。“平均タイム27分台”と“最後の1km”が示す、中大の強み

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photo by Kazuki Okamoto / text by Asami Sato

4月から追い続けてきた中央大学陸上競技部長距離ブロックの軌跡。出雲駅伝、全日本大学駅伝という二つの大きな前哨戦を終え、いよいよ最大の目標である第102回箱根駅伝まで残り一ヶ月を切った。全日本大学駅伝準優勝がもたらした意味、そして箱根に向けた最終戦略とは。11月末、藤原正和監督に現在の心境と展望をじっくりと伺った。

全日本での“修正”と、1位駒澤との差

前回のインタビューは出雲駅伝の後に行われ、今回は全日本大学駅伝を終えた後のタイミング。全日本での結果に対して、藤原監督はどのような印象を抱いているのだろうか。

「やはり今年の夏は“箱根優勝”というところをメインテーマに置いて、かなりしっかりとした走り込みを行いましたので、思いのほかと言いますか、私自身が思っているよりも疲労の抜けが悪かったな、というのが正直なところです。

出雲では非常に苦戦しましたが、実は9月末の段階で学生たちには『1ヶ月後には必ずグッと上がってくるから心配しなくていい』という話はしていたんです。その想定通りになり、全日本に関しては非常にみんなが良いコンディションで挑むことができました。

そこで自分の頭の中も修正できたというか、『これでやってきたことと成果がうまく結びついてくれたな』と確認できました。じゃあ次、残りの期間で箱根に向けてどうやっていこうかと、チームとしてもポジティブな気持ちで箱根に向かえているのが現状かなと思います」

出雲駅伝の結果を受けて、「ふわっと入らない」という意識付けが必要だと藤原監督は語っていた。2位という結果は、それが上手く作用した証だろうか。

「出雲を経て、『次はやってやる』というスイッチをチームとして入れてくれていました。 優勝したいというオーダーを最大限組んでいった中で、駒澤大学さんが強くて2位という結果ではありましたが、『十分にやれるな』という自信を得られた2位だったので、箱根に向けて良かった面が多かったと思います」

2位の中大に対し、約2分差を付けて優勝を果たしたのが駒澤大学。その強さに関して、藤原監督は次のように語る。

「やっぱり駒澤大学さんの強さは、全日本でも今回で17回優勝しているという、大八木さん(大八木弘明総監督)から脈々と受け継がれてきた“駅伝力”という伝統ですよね。それが遺憾無く発揮されている。箱根はもちろん、全日本という舞台でもその強みがより活きたのかなと感じます。

とはいえ、自分自身が学生だった時代から、出雲や全日本をあまり得意にしていない大学がうちなので。その中で過去最高順位タイの2位にもう一度たどり着けたというのは、選手たちにとっても箱根に向けた大きな自信になりました。

今、駒澤さんと大きな差があるのは、エースの力というよりも、いわゆる“つなぎ区間の爆発力”と言いますか。今回だとつなぎ区間の5区に伊藤蒼唯くんという、本来ならエース区間を走るような選手が入ってきて、そこで大きくやられてしまいましたので、そういう使い方ができる選手層の厚さ、という部分はあるのかなと。

ただ、箱根は10区間ありますし、山があるので、その辺りで上手く伍して戦えるのではいか、というところも十分に見えた形でした」

トラックでの嬉しい誤算と、「27分台10人」の実現可能性

全日本の後の11月22日には、MARCH対抗戦が開催され、藤田大智(3年)が 27分40秒50でPBかつ中大記録更新となる快走を見せた。

「藤田大智に関しては、夏頃から『こいつ化けはじめたな』というのは感じていたんです。どちらかというと暑いのが苦手な選手で、去年までは夏の走り込みも本当にまったくできなかった子が、今年はかなりしっかりとできた。疲労の抜けも悪い方なので、9月末の記録会では良くなかったんですけど、その後は非常に良い練習をずっと続けていましたので、『化けてるな』という感覚は持っていました。

全日本でエース区間(3区)に抜擢して、しっかりと走ってくれたので、『ひょっとしたら』と思い、直前の練習で1000m×10本というインターバルをやったんですけど、そこでも溜池(一太)の次に良かった。 

『上手くいったら40秒くらいで走れるよ』という話を本人ともしていたんですけど、本当に27分40秒きっかりで走ってきたので、3年生の核がもう1人できてきたなと。箱根においてもゲームチェンジャーになりうる選手になってきて、嬉しい誤算でした」

そして、出雲で苦しんだ濵口大和(1年) も27分53秒85と、彼本来の実力をしっかりと発揮した。

「あとはやっぱり、1年生で苦しんできた濵口。ここに来てようやく長距離に対応できてきました。夏の練習ではハーフの距離を63分台で走っていましたけど、それ以上に、やっぱりこうして結果として残すということが彼にとって重要だと思っていました。今回の結果で1つ大きな自信を持って箱根に向かってくれるので、チームにとってかなりプラスな面だったかなと思います」

同日に開催された八王子ロングディスタンスでは、岡田開成(2年)が27分37秒06の記録で、こちらもPBかつ中大記録を更新。そして本間颯(3年)も27分45秒05と、PBとなる走りで、一つ殻を破ったといえるような成長を見せつけた。

「八王子ロングディスタンスのポジティブな面でいくと、やっぱり本間ですね。練習はしっかりやれているけどなかなか結果が伴わない、というところで……全日本が終わってから、本人にはかなり厳しめに、『やろうとしているところだけど、まだまだやれてないよね』というような内容の話を、時間をかけてしました。

それでけっこう火がついてきたな、という印象があり、わずか1秒ですがベストを出せました。今までちょっと淡白なレースが続いていた中で、今回のような粘りのレースができるようになってきたので、箱根でもかなり期待したいです」

藤原監督は、「27分台を10人揃える」という一つのラインを今季の目標として掲げている。未だかつてそんな大学は存在しなかったわけで、良い意味で「とんでもなく高い目標」だと評することもできる。ただ、今回の記録会を経て、その目標がもはや夢物語ではない範疇まで近づいていることを、中大は内外に証明した。

「今年1年のコンセプトとして、『このタイミングで27分台を10人出す』というところを目標に掲げてきました。MARCH対抗戦と八王子ロングディスタンスを合わせて、これで27分台達成が6人。ただ、28分10秒近辺で走った佐藤大介と並川颯太、三宅悠斗、七枝直を(27分台で)揃えられなかったので、ちょっと悔しいなという思いの方が強いです。

とはいえ、10人平均では27分55、56秒まで持っていけたので、強化の方向性としては間違っていない、我々がやりたいことに対しての数値は出てきているのかな、と思います。その反面、3組目を走った選手たちがもう10秒ずつ上でゴールしてくれると、より選手層の厚みというのが出てくるので、まだまだ改善の余地があるのかなと」

運命のメンバー選考。“勝利”ためのラスト1ヶ月

毎年、出雲と全日本が終わって12月に入ると、XやYouTubeで「各校、誰がどの区間を走るのか」というテーマが自然と話題になる。

いまの藤原監督の頭の中では、どれくらいのメンバーが確定済みなのだろうか。また、実際にどのような選考方法で最終決断を下すのだろうか。誰もが知りたいこの質問を、聞ける範囲で聞いてみた。

「いわゆる主要区間、1区、2区、3区や山の区間に関してはけっこう早い段階で、エントリーの辺り(12月10日)では大体決まっています。その上で、今年は全体ミーティングで全部員に対して『今年は基本的にはこういう並びでいくぞ。迷っている区間は◯◯で、そこはここら辺のラインまで見て選手選考するよ』という話をして、『チームとしてこうやって戦うぞ』というのを共有します。

やっぱり優勝するために、選手たちに頭の中で何回も何回もシミュレーションしてもらいたいですし、『誰が来てもこういうふうに対応するんだ』というところまで突き詰めて、細かいところまで準備させて本番を迎えさせたいなと思っているので」

続けて、箱根までの調整方法について次のように話す。

「ここからの調整は、やっぱりコンディショニングが一番大事になります。ある程度まで追い込んでも、若い子たちは体の回復も早い。早め早めに調整すると、早めに調子が上がってしまって、ピークが落ちた状態で本番を迎えてしまう。ある程度までしっかりと体の方を叩いて、回復する期間を置いて、最後にしっかりとテーパリングをかけるという、オーソドックスなやり方をやろうかなと思っています」

2年前にチームを襲った“冬の猛威”についても、チーム全体で積極的に対応しているという。

「あとは感染症対策ですね。2年前は多くの選手に感染が広まってしまい、大会を迎える前に(チームが)終わってしまっていたので。そこはもう学生たちが敏感になって、対策を徹底しています。トレーニングの時からしっかりとマスクをつけ、外出する時も絶対にマスク、授業中も必ずマスク、寮に帰ってきたら手洗いうがいで、次亜塩素酸の空気をちゃんと浴びて除菌してから上がる。

私が言う前にそうやって徹底してくれているので、今年はすごく細かいところにもきっちりとこだわってやれているな、という自信を持っています」

インタビューの最後に、箱根駅伝での勝負のポイントを聞くと、次の言葉が返ってきた。

「これは本当に夏からずっとやってきたことですけど、最後の絞り出しのところ、タスキをつなぐ前の1kmで、5秒、10秒、しっかりとゲインして帰ってくるというところです。夏合宿でも“最後の1km”でしっかりと上げてくることを徹底してやってきましたので、そこは我々の今の強みなのかなと思います。

あとはこれから色々と考えて区間配置を決めていきますが、おそらくどの学校さんも、去年の駿恭の飛び出しを頭の中に入れてくるのではないかなと。原監督(青山学院大学)にも『どうせ行くんだろう』と言われましたが…(笑)。

その辺も含めて、一区からどういう流し方をさせていくかを学生たちとしっかり共有して、勝てる確率の一番高い戦い方で戦わせてやりたいなと思っています」

藤原監督の言葉を受けて真っ先に思い浮かぶのは、やはり全日本で吉居駿恭が見せたラストスパートだ。他大学の選手が苦しそうな顔で最後の1kmを走る中、吉居は飄々とした顔のままギアを上げ、一気にトップに躍り出た。あの走りを見せられると、箱根での優勝を期待せずにはいられない。30年ぶりの総合優勝に向けて、中大の視界は良好だ。

PROFILE

藤原正和(Masakazu Fujiwara)
藤原正和(Masakazu Fujiwara)
1981年3月6日生まれ、兵庫県出身。西脇工業高等学校を経て中央大学文学部卒業。現在は中央大学陸上競技部長距離ブロック監督を務める。世界陸上競技選手権大会男子マラソンに日本代表として過去3回出場。ユニバーシアード北京大会ハーフマラソン、2010年東京マラソン優勝者。初マラソン元日本最高記録保持者。

著者

佐藤麻水(Asami Sato)
佐藤麻水(Asami Sato)
音楽や映画などのカルチャーとサッカーの記事が得意。趣味はヨガと市民プールで泳ぐこと。

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