
市船はいま、苦しみの中にいる。
プレミアリーグEASTにおいて未勝利(5/17時点)。2分5敗の勝ち点2で、全12チームの中で最下位に沈んでいる。ここから奇跡の残留を果たせるのか。その可能性を探るべく、監督の波多秀吾に話を聞いた。
苦境のなかで波多監督がチームに求めるもの
4月のプレミア開幕から現在までを振り返りながら、波多は次のように話す。
「まず、まだ一勝もできていないということに、非常に責任を感じています。ただ、あと一歩のところで勝利を逃しているゲームもある。その一勝があれば、いい流れを掴んで復調できるのではないかと。
選手たちはトレーニングでしっかりと積み上げてくれているので、よくなってきている部分はあります。その上で、今のままではまだまだ足りないという課題意識を持ちながら取り組んでいる最中です」
波多が言う“あと一歩”とは、何を指しているのだろうか。
「やはり勝利に対する執着心です。しんどい状況で頑張ってプレスバックしたり、あと一歩体投げ出してシュートを防いだり、という部分。ちょっとした意識で変わることだと思いますが、彼らが本気になって変われるか、我々スタッフ陣が彼らに本気で要求できるかどうかだと思います」

去年との違いは“強い危機感”と“まとまり”
思い起こせば、昨季も決して順風満帆とは言えない船出だった。プレミア前半戦は未勝利。誰もが降格を予想する状況から、最終的には残留を勝ち取った。去年と今年のチームの違いについて、波多は次のように考える。
「去年に比べると、選手たちがより強く危機感を持っていると思います。しかし、それゆえに気持ちが焦ってしまう。その危機感をプレーとしてうまく表現できずに、矢印を別の方向に向けてしまったり、彼ら自身がもどかしさを感じています」
今のチーム、特に3年生の選手に足りていないものは何なのだろうか。
「メンタリティーの面で言うと、チームとしてのまとまりが弱いと感じています。比べることではないかもしれませんが、昨年の3年生たちの一体感に比べると、そこが弱い。うまくいっていない仲間に対しての声かけや、モチベーションが落ちている選手への要求も少ない。
だからこそ、ここ最近は『チームだろ、仲間だろ』ということを強調して伝えています。少しずつ良くなっていますし、一つになれる力はあると信じているので、これからも要求していくつもりです。
能力面では、すぐにプロになれるような突き抜けた存在はいませんが、それぞれ異なる特徴を持った面白い選手が多い。それぞれが得意なタスクを適切に与えれば、チームとしてもハマるんじゃないかと感じています」
新チームの主将は森露羽安。チームのまとまりの無さは彼一人の責任ではないだろうが、担うべき役割は決して小さくない。彼を抜擢した理由について、波多は次のように説明する。
「人間的にはまだ不十分なところがあり、キャプテンに向いているパーソナリティとは言い切れないかもしれません。ただ、周りからの信頼や、キャプテン推薦のアンケートの結果を考慮し、『やるか?』と聞いたら、『覚悟してやります』と。立場が人を作る可能性も大いにあるので、キャプテンらしい人物に育ってほしいという期待も込めて指名しました。
決して言葉が上手なタイプでも、頭が切れるタイプでも、チームをまとめていくタイプでもないですし、あれこれ考えてしまうと、彼自身のプレーは発揮できなくなってしまいます。
彼にできるのは、とにかく突っ走って、みんなを引っ張っていくこと。なので、自分らしさをもっともっと出してほしいなと。迷わずに彼らしくプレーすれば、その姿を見て付いていく選手が出てくると思っています」

「100%の熱量で」育成年代の選手たちへの接し方
キャプテンの森も含め、高校生である彼らは精神面でもまだまだ未熟な部分が多いはず。それを踏まえた上で、監督という立場からどのような声掛けをしているのだろうか。
「まずは良い部分を褒めて、改善してもらいたい部分を伝えた上で、『選手として認めているよ』ということ、つまりポジティブな面を最後に伝えるようにしています。
もちろん、まだまだ手探りの部分もあります。ミーティングで伝えた内容が選手たちに響いていないように感じていたら、意外とすぐに実践にしてくれることもありますし、一方で毎日口酸っぱく伝えていることが、逆になかなか浸透していかなかったり。
最近強く感じているのは、伝える言葉のインパクトが強すぎると、選手の意識がそこに引っ張られてしまい、他の部分がおろそかになってしまうということ。そうすると、“言われたことだけ”をやる選手が増えてしまう。
前提として、僕の言葉が正しいとは限らないわけで、だからこそ『これがすべてではない。でも〇〇は意識してくれ』と伝えるようにしていますが、毎日が試行錯誤の連続です」
トレーニングにおいて何よりも重要視しているのは“情熱”だと力を込める。
「週末のゲームに向けた戦術的な落とし込みはもちろんありますが、それはトレーニング全体の30パーセントくらいです。残りの70%は、彼らが実力を発揮できているか、自分たちのサッカーが思いっきりできているかを見ています。
球際、切り替え、運動量という三原則をよく口にしますが、それらが伴っていないと自分たちのサッカーは成り立たない。その部分はトレーニングから厳しく要求しています。
絶対に上手くなりたい、という選手たちの情熱。成長させてあげたい、勝たせてあげたいという私自身の情熱。その熱がなければ何事もうまくいかない。だからこそ『最初の一本目のパスから100%の熱量でやろう』と選手たちには要求していています」

「まず一勝」
巻き返しへの明確な糸口は、現時点ではまだ見えていない。だが、時間は待ってくれない。5月末からはインターハイ県予選が始まる。今後の意気込みについて、波多は次のように変わる。
「まず一勝すること。一勝すればチームとしてガラッと変わるのは間違いないです。
そして、チームとしてしっかりと成長していくこと。いまの状況を含め、時にはうまくいかないこともありますが、しっかりと先を見据えてトレーニングを積んでいく。このチームは選手権あたりでピークを迎えたいわけなので、そこに至るための過程において成長を続けていきたい。
そのためにも、目の前のことに対して100%で取り組んでいく。与えられた壁を必死に越え続ける。それをチームとして絶対にやっていきたいと思っています」
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【取材後記】
本取材後、6/1(日)に行われたインターハイ県予選準々決勝において、市船は専大松戸に2-3で敗れ、準々決勝敗退が決定した。大会3連覇中だったこともあり、選手たちやコーチ陣、スタッフ、そして市船ファミリー全体が深い失望感に苛まれたことは、想像に難くない。
今年のチームがどこで浮上のきっかけを掴むのかは、まだ誰にも分からない。だが、選手たちの魂はまだ決して死んでいないはずだ。ここからの戦いにおいて、市船サッカー部に受け継がれてきた魂を呼び起こし、快進撃を見せられるか。彼らの奮闘を見守りたい。
PROFILE
波多 秀吾(Shugo Hata)

著者
佐藤 麻水(Asami Sato)
