BASKETBALL | [連載] 篠山竜青が今、考えていること

篠山竜青が今、考えていること(2025/04/16)

interview |

photo by Kazuki Okamoto / text by Miho Awokie

4月16日の横浜ビー・コルセアーズ戦の翌日。スピーカーから流れ出た曲の一節に、取材コメントをまとめていた手が止まった。

sumikaの『アイデンティティ』。

メンバーが試合を観戦して書き下ろした、2017-18シーズンの川崎ブレイブサンダースの応援ソングには、”足を踏み鳴らす”というフレーズが何度も何度も繰り返し登場する。この言葉に、篠山竜青のティップオフ直前のルーティンを想起するのはおそらく私だけではないだろう。

四股を二度踏み、両足を三度フロアに叩きつけ、得た力を頭の先まで行き届かせる。

先発を退くことが増えた数年の間に、気づかぬうちに失っていたこのルーティンを、篠山が復活させたのはちょうど昨シーズンの今ごろだった。袋小路に迷い込んだチームと自分が変わるきっかけが欲しい。それが理由だった。

優勝も降格も関わらない、いわゆる”消化試合”は、見る者にとってもプレーする者にとっても興が冷めるものだ。消化試合に突入したあるチームの選手は「来季の契約のことを考えてケガをしたくないという選手がいてもおかしくないし、自分自身もモチベーションの維持が難しい」と率直な思いを明かしていた。

その中で、川崎はここに来てギアが上がっている珍しいチームかもしれない。シーズン最終盤、ようやく納得の行く戦いができるようになった。大黒柱のサッシャ・キリヤ・ジョーンズを第1クォーター早々に負傷で欠きながらも、延長線の末に98-93で勝利した横浜BC戦は、それを象徴する一戦だった。

選手たちのシーズンを通しての成長と自信が、至るところに散りばめられた試合だった。野﨑零也のプルアップ3Pシュートやピック&ロールからの展開。アリゼ・ジョンソンの自他自在なゲームコントロール。小針幸也はオフェンスチャージングを取られた直後も臆せず攻撃的なディフェンスを仕掛け、加入当初は消極的なプレーが目立った山内ジャヘル琉人は外国籍ビッグマンの上からダンクシュートを叩き込んだ。

「めちゃくちゃいいことです。嬉しいですね」。篠山はチームメートたちのプレーについて言った。

「飯田(遼)も明らかに3&Dからペイントアタックもできる選手になろうとトライしてますし、そういうものが試合の中で見られるのは本当に喜ばしいことですよね。試合の最後のほう、森井(健太)選手が自分に対してかなりディナイを張ってたけど、もうちょっと若かったら無理やりでも自分がもらって、ボールを離さないでやるみたいな気持ちだったろうと思うんです。でも無理せずに『自分はもう張られてますからそっちでやってください』みたいな感じで零也に任せられたし、ジャヘルのアタックも見られた。勝った負けた以上にすごく意味があるステップアップだと思います」

彼らはなぜそういったことができるようになったのか。山内は言った。

「1番はもちろん自分が意識しているからなんですけど、先輩方から『チャンピオンシップに出られない状況で、残り少ない試合をどう使うか考えよう。どんどんアクティブにプレーしよう』と言われてるので、貪欲にプレーできていると思います」

野﨑はこう言った。

「日本人ウイングが相手の脅威になってないっていうのが、ここ数年の課題であり今シーズン最大の課題。ここ数試合は特に、ボールを持ったらすぐにガード陣や外国籍に返さず、ピックを呼んで使うという意識を持って、よりアグレッシブに点をとることをすごく意識しています」

篠山は、勝久ジェフリーヘッドコーチ代行の選手起用も要因の一つではないかと話す。

勝久ヘッドコーチ代行は、試合後のヒーローインタビューで「苦しい場面で選手たちから『やってることを信じ続けて』という声が出た。それが勝利につながったと思います」と話した。

記者会見でこの言葉の具体を尋ねると、勝久ヘッドコーチ代行は「名前は言いたくないんですが」と前置きして話し出した。

「選手交代について考えていた時に、ある選手から『いや、そのままでいこう。ミスしたけど交代せずに信じ続けよう。今のミスから絶対学ぶから、次のプレーで絶対何かいいことがあるから』という声が挙がったんです。選手からそういう言葉が出ることは多くないので、信じようと交代をやめました。選手たちはプロとして強い気持ちを持っているので、誰でも『自分なら立て直せますよ』『もっといい流れを引き寄せますよ』って気持ちを持ってベンチにいます。でもその選手は『いやコーチ、今は信じて』と言い、出続けた選手もいいプレーをたくさんした。なんだかその時はすごく嬉しかったです。出続けた選手にも、ベンチから声をかけてくれた選手にも『今のは絶対バスケットの神様が見ていて恩返ししてくれた』『あなたの発言がチームにいいものを与えたから返ってきた』というようなことを話しました」

ベンチに控える選手たちは、コートに立つメンバーを励まし、何度も立ち上がって好プレーを喜んだ。コートサイドで写真を撮影していた岡元はハーフタイムに、「ベンチの雰囲気がすごくいいです。こうやって喜び合えるのっていいことですね」と言った。

篠山も同じ気持ちだ。

「勝ってても苦しいチームっていっぱいあるんです。勝ってるけど、中では色々大変だっていうチーム。僕らもそういうことを経験してきたし。でも今年は本当に楽しくやらせてもらっています。これだけ勝ち星が伸びないのにチームの雰囲気がいいのって、うちぐらいなんじゃないかなって思えるぐらい。それをよく思わない人も、もしかしたらいるかもしれないですよ。『もっと危機感を持ってやれよ』とか、そういう目で見る人もいるかもしれないですけど」

5月から始まるチャンピオンシップには進めない。形に残るものは何もない。シーズン前に「『川崎は終わった』とは絶対言わせたくない」と話していた篠山にも、当然忸怩たる思いがある。ただ、最後の最後まで全力で成長することを目指し、尊敬し合える仲間たちと過ごすこのシーズンは、一人ひとりの人生にかけがえのない財産として残るのではないか。

篠山は言う。

「今年のメンバーは、いい意味で人間性が普通なやつが多い。みんな地に足が着いているのが大きいですね」。

篠山の言葉を受けて、こちらも言葉を重ねた。

──マインドは普通だけど

「そう」

──誠実に地道に努力を重ねて

「そう」

──勝ちを目指す。

「ホントにそう。ホントにみんなで作れてると思いますね」

***
作業の手が止まった『アイデンティティ』の一節。篠山のルーティン復活を当連載に書いた1年前、繰り返し繰り返し聞いていたときには心の底には落ちていかなかった言葉。

“気付けば足鳴らし笑い合って 傷跡を讃え合って 踏み鳴らした足並みは揃っていた”

PROFILE

篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
1988年生まれ、神奈川県横浜市出身。178センチ(ウイングスパンは約190センチ)。小学生のときに兄姉の影響でバスケを始め、北陸高校、日本大学時代には日本一を達成。2011年にクラブの前身にあたる東芝バスケ部に加入。主力のポイントガードとして長きに渡ってチームを牽引してきた。好きな漫画は松本大洋の「ピンポン」。

著者

青木 美帆(Miho Awokie)
青木 美帆(Miho Awokie)
フリーライター。高校3年時にたまたまインターハイを観戦したことをきっかけにバスケに取り憑かれ、早稲田大学入学後に取材・執筆活動を開始。小4の息子に口喧嘩で負ける。 X:@awokie Instagram:@miho.awokie

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