
両ヘッドコーチの記者会見を途中で切り上げ、ミックスゾーンに移動すると、琉球ゴールデンキングスの広報が少しあわてた様子で言った。
「隆一さん、もう取材準備できてるんですけど、竜青さんに会いたいらしくて…」
オーバータイムにまでもつれこんだこの日の試合、岸本隆一と篠山竜青は序盤から激しい攻防を繰り広げた。出場時間は岸本が33分49秒、篠山が32分8秒。ともにチームで2番目に長い数字だ。
とりわけ、篠山の岸本に対するディフェンスは序盤から気迫が立ち上っていた。第4クォーター残り4.9秒には、100-100の同点、琉球のラストポゼッションという状況で岸本の3ポイントシュートをブロックした。
篠山を見つけられなかったという岸本が、ミックスゾーンに戻ってきた。
オーバータイム残り16秒、琉球1点リードという場面。ヴィック・ローのリバウンドを奪おうとした篠山が5つ目のファウルを宣告され、コートを去ろうとする際に、岸本は彼に大きなジェスチャーを交えながら何かを伝えていた。内容を尋ねると、岸本は苦笑しながら答えた。
「その直前のプレーで、篠山選手がオフェンスファウルをもらったシーンがあるじゃないですか。あれ、まぁ、ファウルを誘うプレーだったかなって思って。最後のは個人的にはファウルじゃなかったのかなと思うんですけど、大事な時間帯でファウルを誘ったりすると必ず自分に戻ってくるんだよって言ってきました。神様はこういうところをちゃんと見ているんだぞ、と」

このようなやり取りがあったことも影響してか、116-111で琉球が勝利した直後、2人は笑顔で向き合った。篠山は岸本を蹴るマネをし、岸本は篠山を煽るようにガッツポーズを披露した。「楽しい時間でしたね」と岸本は言った。
思えば、オーバータイムが決まったときも岸本は笑顔を見せていた。
「今日の試合に関しては、ちょっといつもと違う気持ちだったかなというか。緊張感はもちろんあるんですけど……なんて言うんすかね、なんだか負ける気がしないという感覚もありましたし、ずっと素晴らしい雰囲気で試合をしてたので、最後は楽しもうっていう気持ちしかなかった。ちょっと語弊があるかもしれないですけど、楽しい時間がまだ続いていくっていう感覚が近いですかね」
岸本は34歳。篠山は36歳。まぎれもなくベテランの2人だが、試合終盤はまるで少年のように、1つひとつの攻防に没頭しているように見えた。そう伝えると、岸本は言った。
「きっと篠山さんも、純粋に、バスケットボールをプレーすることの楽しさを感じながらプレーしていたと思う。いい感じで共鳴し合ったかなと思います」

岸本と入れ替わるようにして、篠山がミックスゾーンに現れた。昨季よく見た、隈の浮き出た疲労困憊した姿を想定していたが、その顔色は意外なほどに明るかった。
「高さもパワーも向こうにアドバンテージがある中、全員で折れずにファイトするという点ではチームとしての成長を見せられた部分もあるかなと感じました。出た選手たちがチャレンジャー精神と勇気を持ってアタックしていたことにも成長を感じられたけど、こういうゲームをいつもできるようにスタンダードを上げて、勝ち切ることがプロとして求められる部分。もうちょっとの試合だったと思うし、勝つならこういうゲームだったと思うので、やっぱり悔しさはありますね」
気の抜けたくしゃみを2度挟みながら、篠山はそう試合を総括した。
3月5日のシーホース三河戦ぶりに現場で見る篠山の表情に、違和感を持った。籠もっているような、詰まっているような、外に発露していかない何か。その正体は、身体中にパンパンに充満し、いつか来ると信じていた正念場に向けて醸成されたエネルギーだった。
「ここ数試合意識してるのは、とにかくアグレッシブにやり続けること。自分のことを応援してくれてる人、自分を見に来てくれる人が何を求めているかを俯瞰して考えたとき、一番はそこだと思ったので。こういう、琉球みたいな強いチーム相手にとにかく1本でも多く決めてやろう。そういう思いがすごくあって序盤から気合が入っていましたし、気持ちもすごく充実していたと思います」
ひたすらにビハインドの展開を我慢して食らいつき、最大18点差を追い上げる原動力になり、最後の最後までペイントアタックやディフェンスで体を張った結果、プレータイムは今季最長となった。「明日が怖いです」と漏らすほどに体が疲れていても心は晴れていたのは、チームがようやく1つの答えを出せるところにまでたどり着いたからだ。
「要は、苦しい時間帯に我慢できるかどうかだと思うんですよ。強いチームかどうかって。シーズン序盤はそれができなかったですけど、今日はうまくいかない中でも声をかけ合って、サッシャ(・キリヤ・ジョーンズ)もよくリーダーシップを発揮してくれた。だから自分はシンプルに流れを待つっていう意味で、流れが来ていなくてもその時にやらなきゃいけないことをコツコツやり続けた。それができたのはすごい良かったです」

岸本とのマッチアップについても尋ねた。「絶対に自分が抑える」という強い気持ちをもって試合に入ったのかと。篠山は「純粋に、楽しくやれたかなっていうところが1番ですかね」と岸本と同じことを言った。
「1つのチームでいろんなものを背負ってずっと戦ってきたとか、隆一とは境遇が似ている部分があって、若い頃から…それこそオールスターで一緒になったときなんかに、お互いのこととかチームのこととか、色んな話をしながらこれまでやってきたんです。僕がもうちょっと若い時、川崎がずっと強くて、琉球は西地区では勝てるけどCS(チャンピオンシップ)では勝ち切れないみたいな時期も話をしてきた。そこから隆一がリーグのトップオブトップみたいなところに来たことをなんだか嬉しくも思っているし、そういう意味でマッチアップが楽しかったですね」
プレータイムやサラリーを求め、短いスパンでチームを渡り歩くことが当たり前になったBリーグで、2人のように1つのクラブでキャリアを積み重ねる選手は少なくなった。
ファン、クラブ、スポンサー。数え切れぬほどの人々の願いを背負い、自身やチームがどんな状態でも勝利を追い求め、フランチャイズプレーヤーとしてあるべき姿を模索し、それに殉じようとしてきた。そんな2人がバスケットボールを通した勝ち負けを、他でもない自分自身が誰よりも楽しんだこの一戦は、彼らにとって勝敗以上にかけがえのない試合だったのかもしれない。
この日の篠山の個人スタッツは、13得点10アシスト3リバウンド1ブロック1ターンオーバー。本人いわく、キャリア14年目にして初のダブル・ダブルだった。


2024-25シーズンのレギュラーシーズンも残すところ15試合となった。14勝31敗、中地区最下位の川崎に、チャンピオンシップ出場の可能性はない。
残り15試合、このチームで追い求めたいものは何か。そう問うと、篠山はしばらく考えて言った。
「今日みたいに折れずにやり続けるところじゃないですか。あとは、全員がアグレッシブに、ミスを恐れず、自分のため、チームのために戦うっていうことかなって思います」
PROFILE
篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)

PROFILE
青木 美帆(Miho Awokie)
