FOOTBALL

「もはやこれは声明である。」 | 2025 Pacific FC Alternate Kitローンチ

interview |

photo by Gaku Tashiro / text by FERGUS

田代楽が海をわたり、2年が経とうとしている。

昨年に引き続き、彼が手掛けた2回目となるユニフォームローンチが行われ、今年はアウェイユニフォームから披露された。

自らコンセプトメイキング、映像、写真撮影まで行ったこの企画に込められた想いを、ぜひご覧ください。

The Sky’s The Limit

今回のユニフォームができあがる背景を教えてください。

今回はアウェイ kitから先に発表しました。なぜ2nd kitを先に発表したのかというと、少し大袈裟ですが、僕らにとってこれはただのユニフォームローンチではなく、クラブの理念そのものを反映した企画だったからです。まずはプレスリリースに記載されている「kit story」を見てもらえれば嬉しいです。

(日本語訳)


The Sky’s The Limit

かつて、バンクーバー島の若きサッカー選手たちは、夢を追いかけるために故郷を離れなければなりませんでした。島でのチャンスは限られ、注目されることもほとんどなかった過去があります。プロの世界にたどり着いた選手がいる一方で、多くの有望なアスリートたちがスパイクを脱ぎました。しかし、時代は変わりました。新たな時代が幕を開け、そして、ある約束が生まれました。

「The Sky’s The Limit」

Pacific FCの最新キットは、単なるユニフォームではなく、ひとつの”声明”です。バンクーバー島の果てしない青空をまとったこのデザインは、初めてスパイクを履くすべての若き選手たちの旅路を象徴しています。それは、かつてなかった道が今ここにあることの証明。成長を続ける島のユースサッカーとその波を讃えるものです。

このキットは、Pacific FCが切り拓いた道へのオマージュです。その証拠に、ビクトリア出身のサミ・ケシャバルズは、17歳でプロデビューを果たしました。アカデミーを経て、トップチームへと駆け上がったのです。カナダのサッカーは確実に成長しています。そして、彼に続く選手たちが、これからも現れるでしょう。地元クラブのグラウンドから、スターライト・スタジアムのプロの舞台へ。かつて遠く感じた夢は、もうすぐそばにあります。これは、次世代へのメッセージです。大胆に夢を描け。全力でトレーニングせよ。そして、いつかこの島の誇りを背負ってプレーする日を信じろ、と。

試合の日、Pacific FCの選手たちはただクラブのエンブレムのためだけにプレーするのではありません。スタンドから見守る何千もの若者たちのためにも戦うのです。彼らは、この島に生まれ育った自分たちにも、同じ道があることを知っています。このキットは、その信念を形にしたもの。この島では、努力と情熱さえあれば、どんな夢も叶えられる。道は、すでに拓かれています。

誇りを持ってこのユニフォームを纏え。情熱を持ってプレーせよ。そして、大きく夢を描け。空は限りなく広がっているのだから。

企画のつくりかたとして、ユニフォームローンチするタイミングが、クラブの育成組織出身のサミ選手がプロ契約を結ぼうとしていたタイミングと重なったのが大きかったです。サミはアカデミーを経て、去年デベロップメント契約を結んでトップチームでプレーしました。今回のユニフォーム発表をサミ選手の成長ストーリーと結びつけることで、彼のプロ契約と「Sky’s the Limit」というデザインコンセプトをリンクさせて、ユニフォーム発表の時期とほぼ同じタイミングで正式にプロ契約を結んだんです。要はただのユニフォームじゃなくて、クラブのストーリーの一部として発信したかったんですよね。

ユニフォームのデザインにはどういった意味が込められているのでしょうか?

デザインには空の絵柄を使っています。大きくふたつの意味が込められていて、ひとつはバンクーバーアイランドは今の時期はすごく雨が多く、みんなが夏季シーズンの美しい青空を待ち望んでいる地域性のある意味合い。あとは、「Sky’s the Limit=空には限界がない」というクラブのアカデミーやスクールに通う選手たちへの応援のメッセージです。

このデザインはいつ頃決まったのでしょうか?

昨年の5月くらいなので、昨シーズンが始まってすぐ後に決まりました。

今回の2ndユニフォームでは、写真・映像ともに田代くんが撮影されていますよね?

はい、昨シーズンはクラブ内でディレクションと編集をやって、映像とか写真の撮影自体は外部にお願いしてたんですけど、試合の映像や写真を撮っている中で「自分で撮りたいな」って思うようになったんですよね。それで今回は、直接ボスに提案してみたんです。クラブ的にもその分の予算が浮くわけだし、OKが出て、最終的に僕が撮ることになりました。結果的にめちゃくちゃ大変でしたけど(笑)。

ローンチするまでの中で、何が大変でしたか?

やっぱり軸を決めることですね。サミについて調べていると、このプロ契約はどうやら彼だけの話じゃないなということに気付きました。それが何かって言うと、家族の存在ですね。もちろん、彼の中でクラブに対する想いや愛着はありますが、それはお母さんや家族も同様なんですよ。

具体的にどういうことでしょうか?

サミの家族は移民なんです。彼は幼い頃にカナダに来て、生活する上でいろいろ苦労があった。実際、お母さんから直接お話を聞く中で、彼らが歩んできた背景はクラブとしてしっかり発信しなきゃいけないなって思いました。クラブができてまだ7年目のこのタイミングで、アカデミーからトップチームの選手が生まれたわけなので、なにか大きな種まきをしなければなと。

トレンドとは真逆。

今回のローンチで一番伝えたかったことは何でしょうか?

前述のとおりサミのようなアカデミー出身の選手をクラブとしてどのようにセレブレーションするかです。これが今後のクラブのスタンスを決めるなと。クラブとしてなにを大切にするかと考えたときに、まず思い浮かぶのが「街」の存在です。クラブと街は相の関係でいかに共存しながら発展するかを考えることに意味があると思っています。そして今回のようなアカデミーの選手ですね。彼らは選手としては未熟な若者かもしれないけれど、その背中をみているもっと下の世代の子どもも多くいます。つまり彼らの成功をクラブとして大きく取り上げることこそが、将来クラブの物語を紡いでいく子どもたちとその親御さんへの奨励だと思うんです。

だから、ある意味トレンドとは真逆なんですよね。いまだにヨーロッパでもよくみるモデルが街中でユニフォームを着て撮るのとは正反対。むしろ、今もそういうのが主流だからこそ、あえてこの形でローンチしたんです。その方が際立つなって。

田代さんのXを拝見しましたが、「アカデミー選手への賛辞」というメッセージが、ただのユニフォームローンチではないということですね。

そうなんですよね。クラブとして何を伝えるかっていうのはすごく大事で、特に僕らみたいな小さいクラブにとっては芯を食ったストーリーテリングが重要だと思います。地に足がついてないことをやっても、今のSNS社会ではすぐ見抜かれちゃうんですよね。だからこそ、出す側が見る側以上に真摯に考えて、考えて、考え抜いて、ようやく出す。その姿勢がめちゃくちゃ必要だと思います。

その部分、もう少し詳しくお聞きしたいです。

なんて言うんだろう、薄っぺらいバズ狙いの企画ってもう見ればわかる時代じゃないですか。だから、そういうのは絶対にやりたくなかったし、正直、ユニフォームローンチってそういうのが横行してるジャンルだと思うんですよ。だからこそ、ちょっと皮肉を込めて、そういうのをフリにしたかったっていうのが本音ですね。

クラブ内部の人間がアイデアを出すっていう環境がないと組織は簡単に廃れる。

ユニフォームローンチ含め、企画そのものをアウトソーシングするクラブもあると思いますが、その辺りについてはどう思いますか?

クラブとしてどんなメッセージを残すのか、他のクラブが真似できないものをどう作るのか。そこをちゃんと示した上でアウトソーシングするのは全然アリだと思います。でも企画に代理店とかコンサルが入って、それなりに跳ねそうな案をAっていうチームで採用して、Bのチームでも同じような感じで使い回すのは違うなって思うんですよね。結局、それって楽してるだけだし、というかファン(消費者)を軽くみてますよね。

歴史あるクラブ(スポーツチーム)にイケイケの企業が入ってきて、リブランディングを進めようとするものの、古参のファンやクラブスタッフに理解されず、対立が生まれてしまう。日本のスポーツチームでも、もしかしたらこういう状況はあり得るかもしれませんね。少し話が逸れますが、もしこういった対立が起きた場合、何が必要だと思いますか?

既存のなにかを変えることが大きな目的になっていると双方苦しいですよね。クラブ内部の人間がアイデアを出すっていう環境がないと組織は簡単に廃れるなと思っていて、僕がJリーグのクラブで働いていた当時から感じていたことでもあるんですけど、アイデアそのものを外注しているパターンって結構多くないですかね?そこが一番ネックな気がするんですよね。

社内調整、予算管理だけのクラブスタッフがいて、外の人が持ってきたアイデアを跳ねる、跳ねないとかだけでジャッジしちゃうみたいな。要は金にならないけどすごく大事なクラブの歴史とかスタンスがみたいなものはそこにないんですよね。だからトラブルが起きちゃうのかなって。クラブの中の人間が悪いんじゃなくて、内側からしっかりアイデアを出していく、そういった構造そのものが必要だと思います。

田代さんは今年で3シーズン目になりますよね。Pacific FCに入って、最初はどういう行動をされましたか?

ファンとの対話ですね。アウェイの試合にも一緒に行きますし、草サッカーを一緒にして飲みにいってサッカーの話をします。あと僕の場合は、「島」っていうのが大きかったです。今の監督はクラブ創設時からいますし、ボスは島出身です。そういう環境があったので、1年目はいろんな場所に行って、話を聞きました。あとは「一緒につくろう」っていう空気をつくりました。何かを企画する上で一番最初の受け手となるようなファンとか、アカデミーの保護者みたいな人とかに。

今回のユニフォームローンチで言えば、「サミをモチーフにして映像を作ったとしたら、みなさんはどう思いますか?」みたいな話を直接アカデミーの練習を見学している親御さんにしました。そこのリアクションをみることで、自分が考えが正しいのかわかることもあるので。

他にこだわった点はありますか?

映像や写真に写っている子どもたちはみんなアカデミーやスクールに通っている選手で、彼らが将来トップチームの選手になってユニフォームを着るかもしれないという種まきの一つであることですかね。これは完全にインナーに向けたコミュニケーションで、たぶん、マクロンにとってもメインビジュアルが選手ではなく子どもというのは初めてだったと思います。ファミリーワークの感じがでていて僕は好きです。

あとは、胸スポンサー企業であるテラスとの取り組みで、1枚ユニフォームが売れるごとに、子どもを1人試合に招待する企画をやっていて、クラブとして大事にしている島の子どもや島の将来という部分をスポンサーにも理解してもらったことが企画の厚みになりました。

次回はホームユニフォームの制作についてお話をお聞きしますが、最後にお伝えしたいことがあればお願いします。

3月16日(日本時間17日)にホームユニフォームがローンチされるんですけど、島のダウンタウンの広場でお披露目会のようなイベントをやります。その時に、僕が作った映像を初めて流すんですが、外国人がどんな反応をするか想像するとちょっと怖いです(笑)。でも、次回の記事も楽しみにしていてください。あと、参考までに“みなさんのクラブのキットローンチ”を受けてどのような感想を持ったか、この記事の引用リポストで教えてくれると嬉しいです。ガッツリ今後に生かさせていただきます。

PROFILE

田代 楽(Gaku Tashiro)
田代 楽(Gaku Tashiro)
カナディアン・プレミアリーグ パシフィックFC マーケティンググループ。27歳。ビクトリア在住。 大学卒業後、Jリーグ・川崎フロンターレでプロモーションを担当。国内のカルチャーと融合した企画を得意とし、22年、23年のJ開幕戦の企画責任者を務める。格闘技団体「RIZIN」とのタイアップを含む10個以上のイベントを企画・実行。配信しているPodcast「Football a Go Go」はポッドキャストランキング・スポーツカテゴリで最高6位入賞。Instagram:@gaku.tashiro

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