
高円宮牌ホッケー日本リーグ。多くの実業団がひしめき合う、日本ホッケー最高峰のレベルを誇るリーグである。そんなトップリーグの中で、実業団ではなくクラブチームとして活動を続けているのが、東京ヴェルディホッケーチームだ。ホッケーとは別に仕事を持って競技と両立させている選手たちと、スポンサーや運営陣の尽力が光る創設6年目のチームである。
FERGUSでは、東京ヴェルディホッケーチームで中核を担う、4人の選手へインタビューを行った。
第2回の今回は、低酸素ジム4店舗のエリアマネージャーとして働きながら、東京ヴェルディのMFとして活躍する #8 赤木さくら選手。
ホッケーのために、片道1時間半かけて通学
福岡県出身の赤木。とにかく外で遊ぶのが好きな元気いっぱいの少女時代は、さまざまなスポーツと共にあった。ラグビー、水球、バレーボール、アーチェリーなどを経験し、中学校ではバスケ部へ。意外にも、ホッケーを始めたのは高校生になってからだった。
「福岡では、『タレント発掘事業』として体力測定の結果から向いている競技を紹介してくれる制度がありました。そこで自分にあったスポーツを探す中で、ホッケーと出会いました。ただ、福岡でホッケー部があるのが家から遠い玄海高校だけで……家から1時間半かけて通っていました」
始発のバスに乗って博多駅へ向かい、電車に乗り換えて1時間半。苦労して通った玄海高校だったが、結果的には出会いと成長に恵まれた3年間となった。
「福岡以外の九州のチームは、小・中学校からプレーしている選手も多い中、私たちも負けじと練習して行って。監督もすごく熱心で優秀な方で、最後の年に全国3位に入ることができました」
栄光をつかむも、不完全燃焼となった大学時代
当時からMFとして頭角を現していた赤木。もっともっと強いチームの中でプレーしたい、という想いから、卒業後は天理大学に進学。すると1年生の時の2017年、いきなり大学王座優勝。ジュニア日本代表にも選出されるなど、充実の時間となった。MFというポジションの楽しさとやりがいも、はっきりと手触りを持って感じるようになっていく。
「MFは、走れないといけないポジション。ディフェンスにもオフェンスにも参加します。
自分でドリブルもしないといけないし、味方にパスをする判断力も必要です。でも、難しい方がやりがいがあります」
ところが、大学時代のピークは1年生の時となってしまう。気合いに燃えて迎えた大学4年生になったとき、世界は新型コロナウイルスの猛威にさらされていた。大学のホッケーチームも半年間は全く活動ができない状況に追い込まれた。更なる成長を求めて進んだ大学での4年間を終えるにあたって、その並々ならぬ想いは不完全燃焼となってしまった。
「就職とホッケーを両立したい、と思ったのはこの時です。ホッケーでお金を稼げる実業団やプロにも憧れました。でも、いざ競技を離れた時のセカンドキャリアの想像がつきませんでした。今から社会人としてのキャリアも積めて、ホッケーもできるクラブがいいな、と考えていました」
幸運にも、玄海高校時代の先輩が東京ヴェルディホッケーチームでプレーしていた。縁が繋がり、2021年からチームの一員となった。

あまり世間に浸透していない、だからこそ
ホッケー選手としてのみならず、社会人として、仕事への熱量も高い。現在赤木が勤務する会社では、「低酸素ジム」の運営をしており、赤木は若くして都内4店舗のエリアマネージャーを務めている。標高2,000〜3,000mの酸素が薄い環境を室内に再現し、トップアスリートが行う「高地トレーニング」のように短時間で大きなトレーニング効果を得られるという。
「低酸素ジムは、時短でトレーニングできるので時間のない社会人にもいいと思います。2時間分のトレーニングが、30分でできたりもします。ただ、あまり世間に浸透していないです(笑)。これはマイナースポーツと言われるホッケーも似ていると思っていて、どちらも良さを広げていきたいです」
もともとアルバイトとして入社していた会社だが、実力を認められて社員⇨エリアマネージャーと順調にステップアップしている。しかし、フルタイムでバリバリ仕事をしながらこのトップレベルのリーグでプレーするのは大変なことではないだろうか。そう尋ねてみると、赤木はにっこりとこう答えてくれた。
「よく聞かれます(笑)ホッケーがすごく楽しいので、ホッケーが仕事の気分転換のような気持ちです。年々チーム力も上がっていて、日本リーグでベスト4に入ることを目標にやっています。このチームで始めて実業団チームに勝った時は、本当に嬉しかったです!日本代表として活躍するメンバーも2人いますが、みんな社会人として働いていて、いろんなバックグラウンドのメンバーが集まっています。それぞれの会社のメンバーもホッケーに興味を持ってくれているようで、「ホッケーを広めるチーム」としてもすごく魅力的だと思います」
ホッケー、そして低酸素ジム。どちらもまだ日本でメジャーとは言い難い。しかし、そのふたつに赤木は惚れ込み、人生を賭して貪欲に挑戦を続けている。彼女が中心選手として輝く時、きっとヴェルディは実業団チームにも負けない強さを発揮するだろう。
著者
梶 礼哉(Reiya Kaji)
