HOCKEY

2024シーズン副主将・稲田くるみが見つめる、チームと自身の未来|東京ヴェルディホッケーチーム

interview |

photo by Kazuki Okamoto / text by Reiya Kaji

高円宮牌ホッケー日本リーグ。多くの実業団がひしめき合う、日本ホッケー最高峰のレベルを誇るリーグである。そんなトップリーグの中で、実業団ではなくクラブチームとして活動を続けているのが、東京ヴェルディホッケーチームだ。ホッケーとは別に仕事を持って競技と両立させている選手たちと、スポンサーや運営陣の尽力が光る創設6年目のチームである。

FERGUSでは、東京ヴェルディホッケーチームで中核を担う、4人の選手へインタビューを行った。

最終回となる今回は、チーム創設当初から在籍し、2024年シーズンは東京ヴェルディの副主将としてチームを牽引した #8 稲田くるみ選手。

時間の使い方のバランス

取材は、稲田が現在在籍する株式会社イミューの会議室で行われた。日本の地域のブランドを興し、地域活性化に取り組む同社での日々は、ホッケーに全力で取り組む生活の上でもプラスに働いている。

「自分の裁量で調整できる部分が多くて、制度的に整っています。急に区役所に行くことになっても、調整できる。ホッケーの遠征なども、自分の仕事ができていればかなり信頼してもらって行かせてもらえています。目標も決めたら、それに対して会社全体でバックアップしてくれる。仕事においてのスキルアップを考えてくれています」

新卒でコンサルティングファームに入社しEC / D2Cマーケティングに携わった後、元サッカー日本代表の鈴木啓太氏が代表を務める株式会社AuBを経て、現在に至る。彼女と話していると、ホッケー選手というよりも1人のビジネスパーソンとしての自己を確立し、的確に論理的に話す姿が印象的だった。

「時間の使い方は工夫しているつもりです。仕事で1日8時間は使わないといけないけれど、その中でトレーニングをしないといけないので、どこまで時間を使うかのバランスをすごく考えています。週5回トレーニングをやることが理想だとしても、物理的にできない時もあります。空き時間をどう使うかは、気にかけています」

ホッケーは、スタートラインに立てるハードルが高い

そんな稲田がホッケーに出会ったのは、大学2年生のことだった。

「チームスポーツをやってみたくて、小学校ではサッカーをやりました。中高の6年間はハンドボールをやりましたが、そこでやりきった感があって。大学では違うスポーツをやってみたいと思っていました」

スポーツを学びたい、という一心で進学した、早稲田大学スポーツ科学部。1年生の時はバイトと授業に明け暮れたが、2年生の時に運命を変える出会いに恵まれる。

「今のクラブチームでも一緒の、井上燦選手がホッケー部に所属していました。2年生の時の大学の授業で知り合って、声をかけてもらって……そこから、大学ホッケーにのめりこみました」

そこまで「のめりこむ」ほどに感じたホッケーの魅力について、稲田はこう語る。

「ホッケーは、他のスポーツに比べてスタートラインに立てるハードルが高いと思います。トラップすら難しいです。サッカーボールくらい大きければいいですが、ホッケーは直径7cmのボールで、スティックに当てる技術を習得するのすら難しいです。でも、それが面白いです。そういう繊細な面があるのに、動きとしてはハードで迫力があるのも魅力です」

そうした魅力を感じていたが故に、大学2年生〜4年生の3年間だけでは稲田のホッケーへの情熱は消えなかった。しかし、社会人として働きはじめた2018年の段階では、稲田が求める練習環境のあるチームはなかったという。1年目は先述のコンサルティングファームで必死に働き、翌2019年に東京ヴェルディホッケーチームの設立を知ることになる。

「実業団チームではないのにもかかわらず、マネジメントの人、スポンサーの人たちがいてくれて、ホッケーに打ち込める環境があります。それが東京であるということで、いろんな人が集まりやすいですし、海外の選手が来てくれたりもします。新しい風が入りやすく、刺激があります」

スポーツと仕事を両立させたい

設立当初から、チームを支えてきた稲田。副主将に就任してからは、チームのメンバーのこともよく見えるようになった。

「及川選手・瀬川選手はオリンピックを経験していて、ホッケーの持論があり、チームに背中を見せてくれています。佐野選手はヴェルディを立ち上げたひとりで、チームを巻き込むのが上手く、みんなの士気を上げてくれます。海外の選手も、日本にきて馴染みにくい環境だと思いますが本人からもコミュニケーションを取ってくれて、河合選手はお子さんを産んでからもホッケーが好きで継続していて……個性豊かなメンバーが集まっている分、自由さを担保しながら統率を取るのが難しいチームです。ただ、みんな立ち上げ当初より団結したと思います。主体性がない、と言われていた時期もありましたが、それぞれから提案が出てきたり、日本リーグ4位という目標に向けて良い方向に進みやすいチームになったと感じます」

もちろん、チームのみならず自分自身の成長も実感している。

「試合に勝てるように個人としてのスキルアップには取り組みたいですし、チームとして足りないことへの取り組みは先導していきたいです。組織として未完成なチームである分、いろんなことに挑戦できます。チームのマネジメントやPR、広報もやらせてもらっています。本当に、ホッケーと仕事とで、試行錯誤できる場所が2倍になったと感じています。それぞれやっていることは違うけど、似てる部分はあります。マネジメントやモチベーションの管理など、色んな観点で見たときに、「なにか使えないかな?」と思うことが増えました」

人が素早く成長するには、計画を立てて取り組んだ結果に対して振り返りをし、次に活かすという地道なサイクルを高速で回していく必要がある。稲田は、オフィスとコートの両輪で走っている。当然、仕事の面でも目標がある。

「スポーツと仕事を両立させたい、というのがずっとある目標です。いまは、リーダーをさせてもらっているポジションにいます。だんだんとスキルがついてきているのを実感しているので、今の仕事は楽しいです。いつかは、利益追求だけじゃない社会貢献事業を自分で作ってみたい気持ちもあります」

「挑戦者」を体現する一人として

東京ヴェルディホッケーチームをひとことで表すなら?と取材の最後に稲田に尋ねてみた。彼女はまっすぐに私の目を見て、こう答えた。

「常に挑戦者である、ですね」

実業団チームではないものの、スポンサーが付きマネジメントを機能させ、選手たちにホッケーに打ち込む環境を用意する。その中で、稲田自身もまたプレイヤーとして、ビジネスパーソンとしての道を切り拓いていく。「挑戦者」という言葉が似合う稲田のフィールド内外での活躍は、次の挑戦者の心に火を点けるはずだ。

著者

梶 礼哉(Reiya Kaji)
梶 礼哉(Reiya Kaji)
北海道江別市出身のフォトグラファー / ビデオグラファー / ライター。小樽商科大学在学中の2017年、ドイツ野球ブンデスリーガ傘下(地域リーグ)バイロイト・ブレーブスでプレー。MAX100km/hの直球と70km/hのカーブを武器に投手としてそこそこの活躍を見せる。卒業後、紆余曲折を経て株式会社ワンライフに所属。FERGUSでは撮影とインタビュー・執筆を担当。

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