~「篠山竜青が今、話したい人」ここまでのお話~
川崎ブレイブサンダースの篠山竜青と、カミナリの石田たくみ。バスケットボールとお笑いのトップシーンで活躍する同い年の2人は、中学3年の夏、横浜市立旭中と旭村立旭中で関東大会バスケットボール大会に出場している(が、対戦はしていない)。ファーガス編集部は「同い年」「旭中」「関東大会」という実に細いつながりを頼りに対談をセッティング。2人は甘かったり苦かったり、とてもスポーツメディアでは露出できなかったりする「あの頃」の思い出を存分に語らった。
「あなたすごい人なんで大丈夫ですよ」
篠山選手、これだけ目立ちたがりな人生を送ってきたのに、お正月の絵馬に「自己肯定力アップ」と書かれたそうです。
ええええ???? 自己肯定力ないんですか?
いや、なんて言ったらいいんすかね。すぐ考えすぎてしまったり、人からどう見られてるかだけで発言が変わってしまったり、自分が言いたいことよりも先に「今何を求めるられてるか」で発言しちゃったり、うまくいかなかった時にすごいネガティブになってしまったり。ずっと。この年になっても変わらないってことは、もうこれは経験がどうこうじゃなくてパーソナリティだなっていうことになったので、今年はもうちょっと…例えば周りから賞賛してもらえていることや自分のプレーを自分自身で認めていきたいなという目標を掲げていて。
自分をもうちょっと褒めてあげようと。あれですよね、フリースロー外してないっすよね。
1本だけ外しました。
でもフリースローランキング1位っすよね。すごい。すごーい。(拍手)
ありがとうございます〜。
……だから、すごいんで。あなたすごい人なんで大丈夫ですよ。
いやいや(笑)。「楽しいことやってくれるよね」「バラエティー的なこともやるよね」みたいな感じでオールスターに選んでいただいたりとか、色々取り上げてもらうこともあるんですけど、正直、スタッツとか成績的なところで言うと、大したことって何も残してないんで、私。
「数字が追いついてないのに、他の側面で呼ばれただけじゃん」って思っちゃうんですか?
若い人が「だけじゃん」って思ってるだろうなーとか。
ああ、意外とネガティブな……。でも、プロってそういうのも大事じゃないですか。さっき「アシストは(手書きの)スコアシートに載らない」って話をしましたけど、スコアに残らない部分もプロの仕事だと思うんで。だから僕「おめえら次第でもっとBリーグ盛り上がるわ」っていう目線でBリーガーを見てますよ。「プロなんだから篠山に続け」って。誰とは言わないですけど。せっかく貴さん(石橋貴明)が俺の真似して「おめえカミナリだな!」って言ったのににこ〜ってして終わって「おめえも俺の真似しろよ」って思いましたよ。誰とは言わないですけど(笑)。プロってやっぱそういうとこだなと思うんで、盛り上げは多分絶対大事ですよ。
嬉しい……。今週オールスターなんですよ。
やること決めてるんですか?
はい。いよいよ天井から登場します。
(爆笑)いいじゃないすか。それ誰でもできないですからね。
やるときは「やる」って振り切れるんですけどね。
スタッツとかそういうものの外にいる人間なんですよ、多分。インタビューで何言うかとか、会見でこういうこと言ったとかってことのほうがいろんな人の心に残るじゃないですか。俺、イチローとかプレーで見てないですもん。WBC優勝した後の記者会見を見て「この人おもしれえな」で印象に残ってるんで。
確かにそうですね。
茨城で開催されたオールスターでは水戸黄門に扮して入場されましたね。
助さん格さんは誰がやったんですか?
いや、もう周りの選手にはあまり迷惑をかけないでってことで。
そこも気を遣いすぎっすよ(笑)。「こいつなら頼めそうだけどな」みたいな、お笑い担当の仲間とか後輩とか、いないんですか? Bリーグ内で。
…あんまりいないっす。
やっぱみんなシャイなんですか?
まず僕がシャイっていう。「断られたらどうしよう」が先に勝つ。
そこ(笑)。
誘えない、声をかけられない人なんで。
でもすげえ気持ちわかります。たまに「有吉の壁」に出たときとか、他の芸人に言えないでカミナリだけでやっちゃう。四千頭身とか後輩なんで全然頼めるんですけど、仮にそれで滑ったとして、なんか言われそうなの嫌だなとか考えちゃって。
よかった(笑)。

37歳の幸福論
お二人は今年、37歳を迎えます。夫であり、父でもあり、業界でそれなりに経験を積まれている点でも共通しています。40歳という節目の年も見えてきて、生き方に悩む世代なのかなと思ったりするのですが。
あ〜、確かに。
聞いてみたい……。
これ、バスケットプレーヤーと芸人とじゃあ少し違うのかなって。37歳ってバスケット選手として多分ベテランですよね。
大ベテランです。
俺らはやっと中堅に入ってきたくらいなんで、なんて言うんすかね。37になって食えるようになっちゃったのが嫌だなと思ってて。昔は食えなかったんで、一生懸命漫才作ってたんですよ。全員振り向かせるために。でも変に食えるようになっちゃって、気づいたらM-1の優勝賞金よりも高い車が買えるようになっちゃって、モチベーションがなくなっちゃっていたというか。だから今、まなぶとちゃんと話し合って、一生懸命漫才頑張ろうって。M-1ももう少し出られるんで、優勝を目指そうとか。たまにベテラン扱いしてくれる人もいるんですけど、「まだまだ自分たちはこの位置だ」っていうのを明確にして、もう1回、あの時バスケを一生懸命やってたみたいに漫才頑張ろうって考えてます。Bリーグってロスター15人でしたっけ?
Bリーグは12人です。
俺らは多分12人っていうのがないからぽけーっとできてるだけというか。正直、マネージャーのおかげでぽけーっとしてても仕事来るんすよ。過去の「カミナリ」って看板だけで。でもそこに甘えないで、もうちょっと尻叩いて、2025年は頑張ろうって今決めてるんで、ぜひ漫才を見てほしいなと思います。
ぜひぜひ。40代・50代でどうなってるみたいなビジョンとか目標とかって立ってますか?
35歳くらいのときに、自分の幸せより子供の幸せを願う時期があったんですよ。「これが本当の幸せってやつか」で落ち着いたんすけど、少しして「ちょっとはえーな」って思って。「まだ俺の人生だから、もうちょっとかましたいな」みたいな。だから今は「子供にかっこいところを見せてやろう」とかじゃなくて「俺のために頑張ろう」っていう考えにしました。もうちょっとわがままでいいかなっていう。
えー、すごいなあ……。
なんかバスケやってる時は、とりあえず「シュートの練習しよう」「ダッシュしよう」「仲間とフォーメーション確認しよう」って努力の仕方が明確だったんですけど、お笑いってこれを頑張ったら面白くなるっていうのがないし、そもそも努力って概念が多分ないんすよ。「月にネタ10本書きました」は多分努力じゃないと思うんで。それで嫌になっちゃったんすよ。だけど、ちょっと振り出しに戻って、「人を笑わせて楽しいな」っていう原点に戻って、『チームカミナリ』でちょっと頑張っていこうかなっていうのが37歳になる年です。
すげえ……いや、めっちゃ刺さったな今の。なんか。
あ、本当っすか。

篠山選手は「他者のために」が強くて、わがままに生きられないタイプでしょうか。
そうっすね。わがままを言うほど自分のアレがないというか。
………え、天井から降りてくるのに?
(笑)。天井から降りては来るんですけど……
それ、わがままな人じゃないとできなくないですか?
確かに、だいぶリーグにご迷惑かけてるんですけど(笑)。
でもすげえ魅力的っすよね。なんかすごいA面B面がはっきりしてるっていうか。「どっちだよ」っていうのがすげえ楽しいっす。
いろんな人とお話しして、いろんな刺激をもらって、自分がちゃんと「楽しい」って思えるかどうかに向き合うというか。楽しいって思えることを、楽しいって思える人たちとやる。じゃなきゃやっぱ頑張れないと思うので、そこらへんをちゃんと整理整頓してやっていきたいなって思ってます。今後のバスケット人生とか、その後のバスケット終わった後のこととかも含めて、自分の状態にちゃんと敏感になるというか。それはなんかぼんやり思ってることですね。
うんうん。
「やってることは楽しいはずなんだけど、こいつとだと楽しくないな」みたいなこともあるじゃないですか。そこは無理しないでいい年齢になってきてるのかなっていう風には感じます。
「幸せな結末」に向けて
「アラフォー」と呼ばれる年代は、子どもとか、親とか、部下とか後輩とか、背負うものが一気に大きくなります。だからこそたくみさんのように、わがままに、改めて自分と向き合うことがすごく大切なことなんだろうなと思います。
芸能界はスポーツ選手よりも現役が長いんで、多分今後もいろんな気持ちの変化はあるとは思いますけどね。
僕はもう最終盤にきてるので。
「ここまでにこれは達成したい」みたいなものもあるんですか?
いや、それこそほんとに、そういうもの…結果とか数字だけにそれを置いてしまうとすごく苦しいなと思っていて。そこに対しても、「どういう状態で(選手を)上がれれば1番自分は幸せなのか」っていうのをすごい最近考えるようになって。1番いいのは、早くバスケット、現場、現場っていうかプレイヤー終わって、「もう早くこっちやりたい」って思える何かが見つかると1番楽しいなって思うんすよ。引退の形として。
なるほどなるほど。
未練なくというか。だから、そういうものを見つけられるようにもっともっと勇気を持って、外に出てというか……。
変なこともして(笑)。
変なこともして、自分に刺激を与えたいなっていうのが今の思いですね。もちろん優勝したいとかそういうのはもちろんあるんですけど、それだけだとすごい苦しいなって思うし、悲壮感は漂わせたくないので。
チームで最年長っすよね。だからこその余裕の部分ってことですよね。最年長の人が「よいしょよいしょ」ってなってるよりも、どしっとして。
もちろんみんな優勝したい。それはもちろん大前提であるとして、じゃあどういう状態で自分が優勝したら本当に喜べるのか、みたいなところにもっとアンテナを張って、自分が幸せになれるようにとか、周りも幸せでいられるように、みたいなことをなんかすごい考えます。
名残惜しいですが、そろそろお別れのお時間です。
個人的にずっとシンパシーを感じていて、お会いしたかったので、嬉しかったです。本当に刺激をたくさんいただけてよかったです。
こちらこそありがとうございます。僕にとって中学の関東大会って、自分がバスケやっててよかったなって思える1個の大きな思い出でもあるんですよ。芸人として関東大会の話をする場面で、「実は同じ会場に今Bリーガーの篠山さんがいたんだよ」って言えるんで。だからほんとにこうやってプロでいてくれてありがとうだし、プロになってくれてありがとうだし。バスケをやり始めた自分の子供たちの目標となる場所を作ってくれた1人だと思ってるんで、 感謝しかない方とお会いできて嬉しかったです。
ありがとうございます。こちらこそ嬉しいです。
◎取材後記
去年、ひょんなきっかけでカミナリにハマり、YouTubeチャンネルにアップされている動画をほぼ全部見た。くわえ煙草とハイボールを片手に展開される「自分たちがやりたいことをやりたいようにやる」というコンセプトの動画を見ているうちに、気づいた。
石田は美学を持っている。自分の中に「かっこいい/ダサい」の線引きが明確にあって、ダサいことは絶対しないと決めている。
例えば、自身の大きな武器であろうバスケの扱い方。先のワールドカップやオリンピックで国内バスケがこれまでにない脚光を浴びたとき、石田は「全国大会に出ました」とか「やっぱバスケ最高」というようなアピールをせず、「焼津で謎の生物を探す」という企画の中で唐突に3対3を始めたり、「ターミネーター2」の紹介動画の中でパリ五輪の日本×フランス戦の報道方法に物を申したり、スラムダンクのアプリをオマージュした無言の自主練動画(1時間超)をアップしたりするだけだった。
石田のそんなスタンスは、チームや自分がどんな状況にあるときも「悲壮感は漂わせたくない」と言い続け、すすんで道化を演じられる篠山にどことなく重なるものがあった。ついでに言うと「仕事で関わった選手が現役引退した後に酒を飲むのが夢」と話すファーガス編集部の岡元も、彼らと近しい感覚を持つ男だ。
カミナリが世間でクローズアップ始めた頃から「旭中対談」というアイディア自体は持っていたが、それぞれの人柄に触れ、この媒体に携わるようになったからこそ、ファーガスでそれを実現させたいと思ったのかもしれない。
対談とポートレート撮影を終えた2人は、名残を惜しむように、いくばくかの雑談を交わした後に別れた。SNSにアップするための2ショット写真を撮ることなく、連絡先も交換せず、なんとなくぎこちない様子で別れた。お互いの職業に対するリスペクト。自分からは『写真撮りませんか』とは言えない感。彼ららしい別れ方だった。