FOOTBALL | [連載] 鎌倉デザイン室

鎌倉デザイン室vol.4-1 | Tomoya Onuki

interview |

text by FERGUS

我らが鎌倉インターナショナルFC(以下、鎌倉インテル)のインハウスデザイナーに焦点をあてた企画『鎌倉デザイン室』。

第4回目となる今回は、2025年1月25日にグランドオープンする「ゴールドクレストスタジアム鎌倉」のロゴ制作について鎌倉インテルのデザイナーであるTomoya Onukiさんに話を伺った。

クレスタのロゴができるまで ~スタジアムに込めた想い~

いつ頃からロゴを作る話になったのでしょうか?

時期としては2023年12月ごろです。ちょうど、クラウドファンディングの準備をしている段階で、「次のスタジアムのロゴどうする?」って話になって。ブランディング責任者の(河内)一馬さんに「ロゴ制作どうします?」って聞いたら、「友也には別の仕事もあるから外注する可能性もある」という返事でした。 僕もクラブもバタバタの時期で、「もしかしたらロゴを作ることになるかも」って心構えだけはしていました。

最終的には大貫さんが制作することになったのですね。

5~6月くらいには、僕が作る方向でいこうって決まって、ネーミングライツ(命名権)パートナーであるゴールドクレストさんとミーティングを重ねて実際に動き出したのは6月ごろです。そして、完成したのが9月の頭。約3か月で仕上げたんですけど、スケジュール的にはかなりタイトでしたね。

大貫さんとCBO(ブランディング責任者)である河内一馬さんでロゴ制作を進めていったのでしょうか?

ロゴ制作のメインメンバーは、一馬さんと僕のコンビみたいな感じで進めてました。でももちろん、ゴールドクレストさんの意向も大事だったので、定期的に進捗を共有しながら意見を集めていきました。あとは、クラブ内の他のデザイナーやGMである吉田さんといったメンバーにもアドバイスをもらいながら、ロゴの方向性を固めていった感じです。

学校を連想させるロゴの方向性が決まるまで

今回のロゴは「学校」を連想させる作品となっていますが、最初から学校がテーマだったのでしょうか?

いえ、最初から「学校っぽいロゴにしよう!」ってわけではなくて、本当にいろんな可能性を探りながら進めてました。一馬さんが議論の中で「こういう方向性がいいんじゃない?」って道筋を示してくれて、それをもとに僕が形にしていく流れでした。

どういった道筋だったのでしょうか?

ロゴをつくる目的を定義していただきました。1)「ゴールドクレストスタジアム鎌倉」のシンボル(顔)を作る 2)「クレスタ」に愛着を持ってもらう 3)「ゴールドクレスト」の「スタジアムに関する活動」アピール 4)「ゴールドクレスト」と「鎌倉インターナショナルFC」の関係を示す 5)「#鳩スタ」から「#クレスタ」への5つです。その中で「クレスタ」に愛着を持ってもらうという部分が結構大きかったです。

グラウンドを建設するにあたり、地域の方々の声に真摯に向き合うことは、クラブとしても非常に重要な部分です。 なので、単にスタイリッシュでカッコいいデザインをつくるのではなく、地域とのつながりを大切にし、愛着を持っていただけるロゴにしようと決めました。グラウンドの「顔」となるロゴだからこそ、みんなに親しまれるようなデザインを目指しました。

「愛着を持てるデザイン」ですね。

最初は、もっとクールな感じとか、幾何学的なデザインとかも試していました。でも、最終的に「愛着を持てるデザイン」に重点を置くことになって、最終的に現行のデザインに落ち着きました。

最初にこのロゴの元となる原案をゴールドクレストさんにお見せした時の温度感はどんな感じだったのでしょうか?

初めは「独特だね」のようなことを言われた記憶がありますが、リアクションが良かった感触もありました。本当は30案くらい作った中で、別の案を提案する予定だったのですが、社内の松尾デザイナーから「もっと違うアプローチできるんじゃないですかね、友也くんならもっとできると思います」って言われまして。

松尾デザイナーは大貫さんの歳下ですよね?率直に言われてどう感じましたか?

何かを作る上で年齢とかは関係なく、むしろ自分の中で吹っ切れた感じがしました。なんとなく、チャレンジングな要素がないと感じていたので、思い切ってもう少し違うアプローチでもう一つ作ってみようとなって、制作したロゴが今のロゴの原案です。

特に、人で表現したことで、例えば夏祭りの時は浴衣や提灯を持たせたり、催し物に合わせて状態を変化させることができるんですよね。「動きのあるロゴ」というアイデアや「ロゴが持つ変化の可能性」の部分の説明をしたときにゴールドクレストの方や一馬さん含め社内のメンバーもとても良い評価をしてくれました。

配色も落ち着いたトーンで良いですね。

芝生の色である緑をメインにして、それに合う色として、真っ白ではなく、落ち着きがありつつも温かみを感じさせるベージュを採用してロゴ全体の印象をまとめています。

シンボルが「人」

改めてロゴをみた時に、人の存在感がかなりありますね。

先ほど、松尾デザイナーに触発された話をしましたが、その時に「シンボル」について考えました。例えば広島の「エディオンピースウイング広島」のような建築物のロゴは、そのスタジアムの特徴的な外観があり、それをロゴのモチーフにするというのがある意味常套手段とも言えるのですが、ではこのゴールドクレストスタジアムのシンボルってなんだろう、と考えた時に、人がシンボルだなって。何もない土地にみんなの鳩サブレースタジアムができて、選手やスクール生、スタッフだけではなくて、観戦に来る方、夏祭りに来る方、ふらっと立ち寄った方、そういった人たちがあの鳩スタを作り上げたんだと思っています。今回のゴールドクレストスタジアムでもきっとそんな光景が待っているだろうなと思いますし、むしろそれが僕たちのスタジアムらしさでしかないといいますか。そんな期待も込めて人をシンボルにしました。

人をシンボルにして、エンブレムに座っているのも愛着がわくと言いますか、親しみやすい印象が見受けられます。
独創的という言葉もいただいたのですが、実はそこまで珍しい事例ではないと個人的には思っていまして。例えばスペインのレアル・マドリードではエンブレムに王冠を載せていますし。そこから発想を得ている部分もあります。このロゴにはこのスタジアムを表す、サッカーボールとゴールドクレストさんのロゴ、そして「ゴールドクレスト」の木を記し、その土台に僕ら「人」がいるというイメージで制作しました。

また、ボールを一人が一個持っているのではなくて、二人で一つのボールを持っているというのもこのクラブらしいなと思いますし、この二人は特定の誰かを示しているのではなくて、スタジアムにきている人やスタジアムにいる人を表ているので、名前とかをつけたくなくて、人それぞれの想像にゆだねています。なのでこの二人は誰なんですか?と聞かれても、僕は知らないので、この二人に聞いてくださいと回答します。

大貫さん視点で、ゴールドクレストスタジアム鎌倉がどんな場所になってほしいか教えていただけますか。

今回のロゴに限った話ではなく、クラブの理念にも繋がると思っています。先日新しく入った別のスタッフに「鎌倉インテルは何を目指しているんですか?」って聞かれたんですけど、その答えは「Club Without Borders」ですし、今回の質問で言えば、Club Without Bordersを体現するスタジアムにする、僕たちが僕たちらしくあるための場所にするというのが答えになると思います。数年後に土地の使用期限がきて、その土地を離れざるを得なくなったとしても、またみんなで協力して自分たちの場所をつくりますし、それは世間からみればクレイジーかもしれませんが、鎌倉に人種も年齢も関係のない人たちが訪れる「Club Without Borders」を体現したスタジアムはこのクラブにしかできないことだと思っているので、ゴールドクレストスタジアムにはそれを実現するためにとても重要な繋ぐための場所になってほしいと思っています。

PROFILE

Tomoya Onuki
Tomoya Onuki
デザイナー。現在フリーで活動中。大学在学中に参加したアンコールタイガーFC(カンボジアプロリーグ所属)のインターンにてデザインに触れを制作を始める。その後、鎌倉インターナショナルFCに出会い、2020シーズンより主にデジタル・印刷類のクリエイティブ制作を担当。

PROFILE

鎌倉インターナショナルFC
鎌倉インターナショナルFC
神奈川県社会人1部リーグ所属のサッカークラブ。『CLUB WITHOUT BORDERS』をビジョンに掲げ、日本と世界を隔てる国境をはじめ、人種や宗教、性別、年齢、分野、そして限界、あらゆる“BORDER”をもたないサッカークラブを目指す。

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