BASKETBALL | [連載] 篠山竜青が今、考えていること

篠山竜青が今、考えていること(2024/10/17)

interview |

photo by Kazuki Okamoto / text by Miho Awokie

10人に1人。

世界における左利きの割合は、それくらいに集約されるらしい。

Bリーグはどうなのか、ざっと調べた。

B1とB2で39人。B1で25人。B1のポイントガードで6人。

世間より多少希少な存在である。

「左利きはね、肩身が狭い世の中を生きてますよ」

間延びしたハワイアンミュージックをBGMに、川崎ブレイブサンダース唯一の左利きが話す。

前回のインタビューのときにはげっそりとしていたが、この日は練習後にもかかわらずさっぱりした表情をしている。8月から始まった激しい練習に体が慣れてきたのだろう。

──どんなときに左利きの肩身の狭さを感じますか?

「まず改札。あとお玉」

──お玉ですか。

「先が尖ったやつは右利き用にできてるんですよ。だから尖ってないほうから無理やりぶち込むか、右手でがんばって入れるか。あと習字ね。あれは右手の人たちの世界観で作られてますから、筆の流れ的にも字の作り的にもまったくうまくいかないんですよ。左手でやっても『とめ、はね、はらい』ができない。お子さん、習字が始まったら壁にぶち当たると思いますよ」

筆者の息子は左利きで、まさに今年から習字の授業が始まった。聞いてみると、クラスに3人いる左利きはみな先生から右手で筆を持つよう言われているらしい。書道家の武田双雲さんも左利きだが右手で書くそうだ。

「大人になって『ゴルフを始めよう』なんていうお誘いが増えてきてますけど、左利き用のゴルフの道具って少ないし、打ちっぱなしでも端っこを確保しなきゃいけないらしいんで、そういうことを考え始めたらとても始められないですよね。子供のとき、友だちと野球をやる時は僕だけ素手でした」

──生活に支障が出るから右利きに矯正するご家庭もあるようですね。

「うちは『スポーツをやるなら左利きのほうがいい』って感じで、むしろ推奨されてたみたいです。でもスポーツやっててもいいことってあんまり感じないですけどね(笑)。ほぼ左手1本でここまで来ましたし」

──バスケットボールにおけるサウスポーの優位性、あまりないですか。

「ないんじゃないですかね。学生レベルだと初見はびっくりするかもしれないですけど、このレベルだとみんな右も左もどっちもうまいですし。強いて言うなら、右ドライブが強い選手とのピック&ロールは相性がいいですね。ニック(・ファジーカス)ともやりやすかったですよ。僕が外側の手(左手)で高い位置にパスを出したらそのままフローターでシュートに持っていけたんで」

ああだこうだとやり取りを続けている途中、サッカーの現場を主戦場とするフォトグラファーの岡元がふと、「右利きの人って左もわりと器用に扱える人が多いですけど、左利きの人ってそうじゃないかもしれないです」と言った。

いわく、サッカーでは利き足と逆の足のプレーが苦手なことを「◎足がおもちゃ」と表現し、右足がおもちゃなレフティは右利きよりも多いらしい。圧倒的少数派として突出した強みを作れている人が、逆足を使えるようになるという考えに至らないのはまあ当然だろう。

篠山はサウスポーであることの強みについて思い当たらぬようだったが、「右足おもちゃ」にはいたく共感し「私も『右手おもちゃ』なんで。普通に暮らしていても同じ神経が通っているとは思えないです」と話した。

インタビュー開始から30分ほどが経った。左利きに関する話が落ち着いたので、対象を「手」に広げた。

──手の特徴って、ありますか? 爪を割れにくくするためにジェルネイルをしたり、冷え性で大変という選手もいますが。

「あんまりないですけど、指と爪の間が乾燥ではがれちゃうことがあるので、保湿はまめにしています。あとは試合前日に爪は切りたくないですかね。切るのはだいたい日曜の夜とか月曜です」

──爪がけっこう長いですけど、こだわりですか? 折茂武彦さん(レバンガ北海道社長)みたいに爪のひっかかりでシュートの好不調を見極めるタイプだとか。

「いや、これは単純に伸びちゃっただけですけど…特に何も考えてなかったですけど、今言われてみれば、左の爪は長く残しがちですね。僕も爪がボールに引っかかって『シャカッ』っていう音をさせたいタイプです」

篠山は両の手のひらを開いてまじまじと見つめた。

身長178センチに対してウイングスパン(両手を広げた長さ)が190センチと腕の長い篠山は、指も長い。右手の薬指は「く」の字に曲がっている。度重なる突き指の影響で、おそらく大学時代からこうだという。

そして、おもむろに言葉を発した。

「手相とか見てもらいたいですけどね。前向きなことだけ言ってくれる人がいいな。『こういうことに気をつけておけば大丈夫』みたいな。そういう人、いないですかね」

提示された結果に引きずられたくないから、占いやスピリチュアルなことにあまり興味を持たないようにしている。未来を決めるのはあくまで自分。でも時には何かにすがりたいときもある。

当連載で「篠山竜青、手相占いに行く」という企画が実施するかどうかは、今のところ未定だ。

PROFILE

篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
1988年生まれ、神奈川県横浜市出身。178センチ(ウイングスパンは約190センチ)。小学生のときに兄姉の影響でバスケを始め、北陸高校、日本大学時代には日本一を達成。2011年にクラブの前身にあたる東芝バスケ部に加入。主力のポイントガードとして長きに渡ってチームを牽引してきた。好きな漫画は松本大洋の「ピンポン」。

著者

青木 美帆(Miho Awokie)
青木 美帆(Miho Awokie)
フリーライター。高校3年時にたまたまインターハイを観戦したことをきっかけにバスケに取り憑かれ、早稲田大学入学後に取材・執筆活動を開始。岡元氏とはご近所仲間。小2の息子に口喧嘩で負ける。 X:@awokie Instagram:@miho.awokie

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