BASKETBALL | [連載] 篠山竜青が今、考えていること

篠山竜青が今、考えていること(2024/09/10)

interview |

photo by Kazuki Okamoto / text by Miho Awokie

どういう流れだったかうろ覚えだが、9月上旬に行った別件のインタビューが終わったあと、篠山と年齢に関する話になった。篠山は同席した西村嘉展マネージャーにこんなことを言った。

「35と36って全然違うのよ。35は『まだ30代』って感覚なんだけど、36になると『あと4年で40か』って。一気にアラフォー感」

篠山は7月20日に36歳になった。当日はお子さんが朝から発熱し、午前中から練習があり、お祝いどころではなかったという。

そもそも、子供の頃から誕生日に思い入れがあるタイプではなかったはずだと篠山は述懐する。

「夏休み中だから友だちに祝ってもらえるとかもなかったし、三男だから適当だし、家に友だちを呼んで誕生会をやるみたいなホスピタリティもなかったですね、うちの両親は」

――テンション高く『年を取ったな』とその日を迎えるわけではなかった。

「なんか僕、年明けで感じちゃうんすよね。1月1日になった時点で『今年36か』っていうふうに考えちゃう。よくないクセだと思うんですけど。まだ35なのに、2024年の1月1日から気持ちは36歳でした」

――今年の1月1日は、どんなことを考えられましたか?

「………いよいよ、本当にちゃんと本当にベテランって呼ばれる年齢になってるなっていう感覚。とともに『元気にやれてるな』っていう自信もあり。あと、これちゃんと調べてないんでアレですけど、田臥さん(田臥勇太=宇都宮ブレックス)ってBリーグ初年度のときに36歳だったと思うんです」

――間違いなく36歳でした。

「あの頃からリーグのレベルは上がってるし、仕組みとかも色々変わってきているけど、田臥さんは36歳でリードガードとしてリーグ初代チャンピオンになったわけですよね。憲剛さん(中村憲剛=現・フロンターレ リレーションズ オーガナイザー(FRO))が初めてJリーグでMVPをとったのも36歳ですし。だからまあ、なんて言うんすかね。色々経験してきて、いろんな角度からバスケットをとらえらえれるようになってきて、36歳も楽しくできるんじゃないかなっていうポジティブな気持ちのほうが大きかったかな」

「まあ、若い子の前とかだとね、いじられたりしながら『年だからな』とか言ったりもしますよ。『おじさん』だのなんだのっていじられることも増えてきますし。それはそれでいいんですけど、根っこの部分では『まだまだ』っていう思いもあります」

――どなたにいじられることが多いんですか?

「野﨑(零也)、長谷川(技)、スタッフ陣とかですかね。雄大(渥美雄大通訳)なんて『おじさん』を通り越して『おじいちゃん』って言ってきますよ。『疲れると顔がおじいちゃんみたいになる』って(笑)。」

――若いスタッフや選手と話をしてて、ジェネレーションギャップみたいなものを感じることもありますか?

「知ってる音楽とかだともちろんありますけど、それ以外は特に感じることはないですかね。最近思うんですけど、考え方とか仕事に対する向き合い方とかって、若いとか年をとってるとか、そういうことじゃない。今年のメンバーはそういう意味で、ジェネレーションギャップはないかなって思います」

ーー人間として成熟している。

「そうですね。物事に真摯に向き合えてるというか、 地に足がついてるというか、そういう選手が多いんじゃないかなと思います」

この世に生を受けたすべてのものは、いずれ老い、朽ちていく。とりわけ、自らの肉体を商売道具とし、華々しいスポットライトを浴びることを日常としてきたプロアスリートにとってその事実は、同業者以外の者には想像もつかぬほどの焦燥感や喪失感を与えるものだろう。

その点、36歳の篠山はまだまだ絶好調だ。

プロバスケットボール選手としてはスレンダーな部類に入るが、選手生命に影響をおよぼすようなケガをほとんどせずにキャリアを重ねてこられた。コンディショニングに対する意識は年を追うごとに高まり、ロネン・ギンズブルグヘッドコーチ新体制下では、8月の段階でスプリントの割合や練習時の運動強度のキャリアハイを更新したと話す。この日午後からの練習で、篠山はまるで短距離走者のように、低い姿勢から頭を前に突き出して走り出していた。

「姉が治療院をやってるので、ケアや最新機器の情報は色々おりてくるんですよ。酸素カプセルの中にいるような環境を作れる機器とか。今はいてるスリッパもだいぶいいっすね。昔は疲れてくると足の指が張ることがよくあったんですけど、これをはき始めてから全然なくなりました。チームでも定期的に可動域や柔軟性のチェックをしてくれているし、すごくいい状態です」

ーーコンディショニング関連の数値で、下がったものもありますか?

「特にないですね。むしろ柔軟性は上がってます」

――若い頃から体の硬さについてよく言及されていましたが、コツコツとルーティン的にトレーニングを続けられたから改善された?

「いや、継続は苦手なタイプです。すぐ飽きちゃうし。苦手なりに色々アプローチを変えながらやってる感じですね。色々試してみると『これをやっているときが一番調子いいな』みたいなものがちょっとずつわかってくる。うまく取捨選択できるようになっているところもあるのかなって感じます」

ーーチームの精神的支柱としての役割が大きくなった同年代の選手たちも増えてきたと思います。でも篠山選手はまだまだコート上で役割を求められていますね。

「そうでありたいですね。でも、何て言うんですかね。バスケット選手にはいろいろな役目があって、もちろん『試合に出てナンボ』ではあるんですけど、ロスターにいること自体に意味があると思うんです。どういう役回りでもチームの力になれるっていうとことが、年齢を経ている選手の武器だと思うので、自分自身もどういう役割になっても頑張っていければいいなと思います」

「『20分出れなかったら終わりだ』とか『他のチームのあいつは10分しか出てないけど、俺は絶対25分出てやる』という感覚はないかなあっていう。シンプルに、今チームに求められてることは何なのかっていうところに重点を置けるのが、ベテランの経験値なんじゃないかなとは思いますけどね」

ゆっくり、一つずつ言葉を発したあと、篠山は少し考え込み「難しいっすね」と続けた。

「こういう言い方をして『もっとメラメラしたものはないのか』って思われるのもちょっと嫌なんですけど(笑)」

予防線を張るまでもなく、篠山は大いにギラついている。プロバスケットボール選手として本当に欲しいものを手にしていないからだ。

2019年のワールドカップ後に行った取材。順調に行けばその後に控える東京五輪のメンバーに選ばれると思っていただろう篠山は、今より4歳も若かったが、今以上に達観した雰囲気をまとっていた。しかし東京五輪代表から落選し、チームも自身も思うような成績を出せず、今は「川崎は終わった」などという声を受け止めながら、新しく若いチームの一員として猛然と走り出した。去年までのチームがどうだったとか、自分の年齢がどうなどと考え込む余裕はない。

「優勝したいですからね。わがまま言わないんで、優勝したい。そういう意味で、求めるものはまだまだありますよね」

連日のハードな練習で疲労困憊した午前中かつ、しょっちゅう顔を突き合わせている我々相手ということもあってか、篠山のテンションは総じて低く、若干の気だるさをただよわせていた。ただ、上記の言葉を発したときだけは違った。20代のころの不敵な彼を思い出した。

ちなみに、お子さんの発熱でうやむやになった36歳の誕生日祝いは、後日改めてとり行われたという。

ーーお子さんたちからはどんなプレゼントをもらったんですか?

「(ポケモンの)リザードンをくれました。リザードンのフィギュア。なぜか」

手のひらサイズのリザードンは、かわいい三兄弟(正確には上のお兄ちゃんと下のお兄ちゃん)のはからいにより、日々、カバンの中で篠山の働きっぷりを見守っている。

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開幕まであと「5日」
チケット情報はこちらから⇩
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PROFILE

篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
1988年生まれ、神奈川県横浜市出身。178センチ(ウイングスパンは約190センチ)。小学生のときに兄姉の影響でバスケを始め、北陸高校、日本大学時代には日本一を達成。2011年にクラブの前身にあたる東芝バスケ部に加入。主力のポイントガードとして長きに渡ってチームを牽引してきた。好きな漫画は松本大洋の「ピンポン」。

著者

青木 美帆(Miho Awokie)
青木 美帆(Miho Awokie)
フリーライター。高校3年時にたまたまインターハイを観戦したことをきっかけにバスケに取り憑かれ、早稲田大学入学後に取材・執筆活動を開始。岡元氏とはご近所仲間。小2の息子に口喧嘩で負ける。 X:@awokie Instagram:@miho.awokie

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