BASKETBALL | [連載] 篠山竜青が今、考えていること

篠山竜青が今、考えていること(2024/05/14)

interview |

photo by Kazuki Okamoto / text by Miho Awokie

今月のインタビューはクラブハウスで行う予定になっていた。しかし取材の前日、篠山のリクエストで近隣のレストランで実施することになったと、岡元から連絡が届いた。

集合時間の少し前に店に到着すると、筆者以外の関係者はみな、すでにテーブルについていた。青いストライプのシャツとシルバーのアクセサリーをまとった篠山は、くつろいだ様子でアイスコーヒーを飲んでいた。

困惑した。例年ならまだシーズンが続いている。こんなところで、こんな格好の篠山の取材はできないはずなのに。

このインタビューでは、シーズンの振り返りを含むそれなりに重い話を聞く予定でいた。しかし、5月の日差しが燦々ときらめき、多くの客でにぎわい、傍らで西村嘉展マネージャー(篠山に誘われて同行してきたらしい)がミートソースパスタをかきこんでいる状況で、どうやってそれを聞けばいいのか。ますます困惑した。

トルティーヤチップスをつまみながら、鼻毛の伸びるスピードの話や、西村マネージャーの趣味のギターの話などをする間、篠山は何度も「オフっぽい」と繰り返した。以前、オフになるとまったく考えないと言っていた、シーズンのことを掘り返すことを申し訳なく思いながら、ゆるやかに、なんとなく、本題に入り込んでいった。

まずは、シーズンが終わることが決まった10日前のことについて聞いた。

ーーどのタイミングで、あと1試合でシーズン終了だと知りましたか?

「広報に聞いたんだ。ヒーローインタビューを待っているときに『どうだった?』って聞いたら『(三河が)勝っちゃいました』って」

川崎ブレイブサンダースは『シーホース三河が1敗以上、自分たちが2勝でチャンピオンシップ進出』という状況で、レギュラーシーズン最終節の横浜ビー・コルセアーズ戦を迎えた。三河戦は15時5分試合開始。川崎戦は15時35分開始。三河の戦況は一切選手たちに伝えられていなかった。

川崎は4ピリオド開始時点の11点ビハインドを巻き返し、オーバータイムの末に98-92で勝利した。篠山は鬼気迫るパフォーマンスでそれを導いた。

ーーそれを知った時、何を思いましたか。

「本当に終わったなってなりましたね。あー終わったーってなりました」

ーー悲しみや悔しさがこみ上げてきましたか? それともすーっと力が抜けた感じでしょうか。

「すーっかな。私はあんまりわーっとはならないタイプです」

ヒーローインタビューの後、篠山は記者会見に登壇した。逆転勝利を収められた理由を尋ねられると、次のように報道陣に話した。少々長いが、最低限の編集を交えて全文を紹介させていただく。

「1つは、ディフェンスのインテンシティのところで、飯田(遼)や益子(拓己)がチームに貢献してくれたことだと思います。飯田はシーズン中盤にエントリーから外れた期間がありましたし、益子も2月までプロ契約を結べなかったけれど、普段の練習からチームのためにいろんなことを工夫してやってくれていました。

常に自分に矢印を向けて、ふてくされたり拗ねたりせずに、愚直にチームのためにやり続けられること…『人間』としての部分を評価するって、すごく大事だと思っています。理念に『BE BRAVE』、その中に『ハードワーク』『チームワーク』『リスペクト』という3本柱があるのがこのクラブ。今季でニック(・ファジーカス)が引退して、来シーズンはいろいろなところの舵を切らなきゃいけないってなった時に……なんでしょうね。クラブ側が、スタッツや試合の活躍だけを見て選手を編成するのではなくて、『フォア・ザ・チーム』のマインドを持っているとか、リスペクトし合える人間関係を築けるとか、努力し続けられるとかというところを見てほしい。チームの文化や強さはそういう人間によって築かれていく、というのが僕の考えです。

再建の時期だから、と、試合にあまり出られなくともそういったところに貢献している選手を簡単に切るようなクラブであってほしくない。心からそう思います。わかってくれているとは思いますが、社長もGMも、チームの文化の土台となる選手たちに敬意を払ってほしい。来シーズンがどういう編成になるかはわからないですが、どういう選手たちと文化を築いていくか。そこのところのクラブとしての姿勢は大事だと思います。

この言葉が北さん(北卓也GM)や川崎さん(川崎渉社長)の目に届くよう、皆さん、ぜひかっこよくまとめて書いてほしいです(笑)」

篠山はいろんなものを慮って、公の場で自分の意見をはっきりと口に出さない(出せない)タイプの人間だ。それなりに積み重なった取材の中で初めて聞いた訴えに、驚いた。

「それだけ本気で再建したいっていうことですよ」

篠山はスピーチに込めた思いを短く明かした。

あと1試合でシーズンが終わる。そして、ファジーカスの引退と共にクラブは新しい時代を歩んでいくことになる。ならば、これまでずっと飲み込み続けてきた思いをしかるべき人に伝えなければいけない。そう思い、会見場の前で待機している間に「言う」と腹をくくった。

今シーズン、特に中盤以降の川崎は、平易な言葉でまとめるとチームビルディングが立ち行かなくなっていた。

新年一発目のゲームで負傷したファジーカスの離脱を契機に、チームは徐々にベクトルを見失い、個人の力量や戦術以前の部分でいくつもの試合を落とした。記者会見では何人もの記者たちが入れ代わり立ち代わり「コート内での会話やハドルが少ないのでは」というようなことを佐藤賢次ヘッドコーチに問い、指揮官はあるとき「お互いの信頼関係が失われているように感じる」と認めた。

シーズン開幕前のインタビューで、篠山は3シーズンぶりのキャプテン就任に際して「何年も抱え続けている『コミュニケーション』という課題に真摯に向き合いたい」と語っていた。しかし、それは改善に向かっているようには見えなかった。

実は前回のインタビューで、その点について篠山の考えを聞いていた。

ーー
4月17日のファイティングイーグルス名古屋戦の後、岡田武史さん(FC今治監督)の言葉を引用されて「一体感だけを求めてもチームがいい方向に向かうとは限らない」とお話しされていました。篠山選手は一体感以外の何でチームをいい方向に向かわせようとしているんですか?

「んー………一体感って、『努力すれば成功するとは限らないけど、成功する人は努力してる』みたいな考え方と似てるなと思うんです。勝ってるチームはやっぱり一体感がありますから。だからそこの順番を間違えないようにしなきゃいけないっていうところが、自分の一つの考え方ではあります。これだけの人数が集まって組織化してるわけなので、めちゃくちゃ仲がいい選手もいれば、そうでもない選手もいる。ただ仕事をする上では、コートに入った時には、お互いを認め合って、リスペクトして、『勝つ』というターゲットに向かわなければいけないと思うんです。

『ハドルを組め!』『何でもいいから喋れ!』と言い続けるだけでは築けないものが、『勝利』というものが1個乗っかるだけで変わってくるし、お互いの絆も深くなっていく。そうしてそれが一体感に繋がっていく。まずはそこの……んー…………リスペクトをし合えるような関係値を構築していくことが必要だと思うので」

上記の言葉には、多量の編集を加えている。篠山はこの三倍以上の言葉を、立ち止まり立ち戻り連ねている。

筆者は篠山が何に逡巡しているかがわからなかった。話の核心に何があるのかもわからなかった。だから半ば乱暴に聞いた。

ーーお話しいただいたことを踏まえた上で、篠山さんは今、どういうことをされているんですか?

篠山は長らく考え込み、ため息をつき、そこを突き詰めきれなかった後悔を口にした。

「チームとしても自分としてもトライしたのは間違いないです。実らなかったですけど、去年より過程を踏めたところは間違いなくありました。ただ、最後まで言うべきことを言い切れず、全部飲み込んで勝手にストレスを抱えてしまったのは、自分の責任だなって思ってはいます」

意思疎通が取れないチームを、ポイントガードとしてコントロールしなければならなかったのだから、プレーヤーとしての苦悩も当然深かった。

ーーチームとしてトライしたことについてうかがえますか?

「(12月の)FE名古屋戦の後くらいかな。チームミーティングで『今のオフェンスでいいんだろうか』ってところは、話し合って修正されました。

同じタイミングで、僕と納見(悠仁)でポイントカードを回して
(藤井)祐眞にもっと好きにプレーさせようということになったんですけど、納見はそこから調子を落としてしまって。たらればの話をすると、あのとき、納見が行き詰まっているからこそ2人でコートに立ちたかったなと。納見をもう1回2番(シューティングガード)にして、自分がセットをコールして、納見はリングに向かって突き進むだけみたいな時間帯を作って、引き上げてあげたかった。そういう思いはあります。ただそれをやるためには、もっと自分がヘッドコーチから信頼されて、コートに出る時間を増やさなきゃいけなかった。悔やまれるところです」

ーー納見選手が調子を落としてからは、勝利のため、自分のため、そして納見選手のためというミッションも背負うことになったのですね。

「…まぁ、それはありますかね。チームメートからの『楽しいよ』『嬉しいよ』っていう言葉が、ポイントガードとしての自分に一番刺さるんですよ。何点とったとか、相手からすごくマークされるとか、相手の脅威になるとかよりも、一緒に出ている人に『楽しい』って言ってもらいたいとか、『パスが来るから走り甲斐がある』とか、それこそ『ありがとう』って言ってもらうのが1番好きなんですよ。多分。それが根っこにあるのは間違いないなっていうのはすごい思います。自分の、ポイントガードの形として」

ただ、今シーズンのチームの歩みを、自分の苦しみを、そして待ち受けた結果を「失敗だった」とはまとめたくない。篠山はそう何度も繰り返した。

「なんて言ったらいいんかな。改めて自分がこういう人間であるっていうことを自分でちゃんとわかってきたのも大きいと思うし」

ーー『こういう人間』とは?

「納得がいかないこととか、自分の感覚とずれたことを言ってくる人がいた時に、『は?』って思う前に『この人の立場だったらそう思うのもしょうがないのかな』みたいに考えちゃうんです。相手の言動に対する反射神経が鈍くて、言語化も苦手だから、全然言いたいことを言えないままやり取りが終わって、家に帰ってぐるぐるぐるぐる考えながらだんだんだんだん腹が立ったり落ち込んだりしちゃう、みたいな。いろんな人に相談して『いや、それは向こうが間違ってるでしょ』っていう意見が揃ってきて、やっと『やっぱそうだよな』ってなる。優しいからとかそういうことじゃなくて、怒りの感情を爆発させるっていうのがすごく苦手だなっていうところに行き着きました」

ーー怒らないんですね。

「怒れない、です。反抗期のときもちょっと素っ気ないくらいだったし、学生時代もコートで厳しく言うことはあってもオフコートではマジでなかったです。奥さんからも、僕があまりに打ち返してこないことに怒られたことがあります。『喧嘩しようぜ?』みたいに(笑)」

ーーらしいといえば、らしいです。

「悪いところですよね。だから喝を入れてくれる野﨑(零也)や自分に共感してくれる飯田が入ってきてくれたのは、僕にとってめちゃくちゃでかかったです。まわりに頼れるところはもっと頼っていけると思えるようになったし、来シーズンはもっと色々やれるんじゃないかという自分への期待も持てました」

篠山にとって13シーズン目となる来季に待ち受けているのは、激動の新章だ。

川崎は今オフ(6月3日現在)、前身の東芝バスケ部が誕生した1950年以降初めてとなる、外国人ヘッドコーチのロネン・ギンズブルグ氏を招聘。ファジーカスに加えて、長年共にプレーした仲間たちもチームを離れる。

しかし、篠山がやることはおそらく変わらない。

ボールを動かす。人を動かす。チームを動かす。


そのために毎日コツコツ、愚直にパフォーマンスを積み上げていく。

そして、仲間たちとともに同じ方向を見つめ、ときに意見を戦わせながら、クラブの新たな文化を築き上げ、勝利を目指す。

***

「身近な存在でありたいというのがあって。自分の性格とか、自分のパーソナリティのところを考えると、僕はどっちかって言うと、なんかどこにでもいそうな部分とか、普通の人であることを大切にしたい。まあ運が良くてここまで来たみたいなところもあるし、あくまでも近所の兄ちゃん的なポジションでいるのが楽だし」

篠山のこのような言葉から、当連載は始まった。

完全無欠のヒーローでなく、さまざまな葛藤にのたうち回りながら生きる人間としての彼と向き合い、なんとなく始まり、なんとなく終わるぬるりとしたセッションを10回にわたって重ね、撮り、書いてきた。

みなさんの瞳に、篠山竜青というプロバスケットボール選手はどのように映っただろうか。

店内でランチを楽しむ人は、だいぶ減っていた。店の外のベンチで弁当を食べていた男性は、こくりこくりとまどろんでいた。

当連載は今回をもって、一区切りを迎える。締めくくりに、聞いた。

ーーバスケは好きですか?

「うーん………いや、好きなんだと思いますよ。うん、好きだと思います。はい。好きなんだと思います」

ーーバスケをやることを楽しんでいますか?

「まぁ、楽しいだけじゃやっぱどうにもならないこともあります。楽しいだけじゃないです。やめたい時もあるし、嫌になる時もあるし、練習に行きたくない日だってあるし。でも、じゃあなんでやってんだろうって考えたら、やっぱ楽しいからやってるんじゃないですか。いろんなことをひっくるめてだと思います。結局多分、いつまで経ってもワーワーワーキャーワーキャー言われたいんですよ。コートに出て、たくさんのお客さんに見てもらって、シュート決めて、歓声を浴びたいっていう。それがあるからここまでやれてるんじゃないかなって思います」

PROFILE

篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
1988年生まれ、神奈川県横浜市出身。178センチ(ウイングスパンは約190センチ)。小学生のときに兄姉の影響でバスケを始め、北陸高校、日本大学時代には日本一を達成。2011年にクラブの前身にあたる東芝バスケ部に加入。主力のポイントガードとして長きに渡ってチームを牽引してきた。好きな漫画は松本大洋の「ピンポン」。

著者

青木 美帆(Miho Awokie)
青木 美帆(Miho Awokie)
フリーライター。高校3年時にたまたまインターハイを観戦したことをきっかけにバスケに取り憑かれ、早稲田大学入学後に取材・執筆活動を開始。岡元氏とはご近所仲間。小2の息子に口喧嘩で負ける。 X:@awokie Instagram:@miho.awokie

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