BASKETBALL | [連載] 篠山竜青が今、考えていること

篠山竜青が今、考えていること(2024/02/24)

interview |

photo by Kazuki Okamoto / text by Miho Awokie

2月のインタビューは、当連載では初めてクラブハウスで実施された。

川崎ブレイブサンダースはBリーグではまだ珍しい、住居つきのクラブハウス『BRAVE THUNDERS HALL(以下BTH)』を保有している。選手1人ひとり……外国籍選手や既婚者にも個室が用意され、練習日やホームゲーム開催日は基本的にここを起点に行動する。長身選手でもストレスなく生活できるよう、天井は高め。備え付けのテーブルや椅子、階段の手すりの位置、洗面台や便座に至るまで背丈高めという、こだわりの施設だ。

篠山にとってBTHは”第二の家”のような存在だ。チーム練習前にBTHで身支度を済ませて、体育館に移動。練習が終わったらBTHに戻って管理栄養士が考えた昼食をとり、自室で休憩。トレーニングやワークアウト、その他チーム活動を終えたら夕食をとってから帰宅する。

「土日のホームゲームのときは、土曜日はだいたいここに泊まっています。18時開始の試合だとしてこっちに帰ってくるのが21時過ぎ。そこから食事とケアをしたら23時を過ぎちゃうんで。朝少しゆっくりめに起きて、トレーニングルームでバイクを漕いで一汗かいてから、食事をとって会場に行く。存分に使わせてもらっています」

この冬には、非常にレアな”クラブハウス体験”もした。

「バイウィーク中に息子がインフルエンザになってしまって、僕と生後3~4ヶ月ぐらいだった三男とで数日ここに避難しました。北さん(北卓也GM)に相談したら快くOKしてもらった上に、『夜泣きがひどいようだったら1Fの(まわりに住人のいない)部屋を使っていいから』とか、色々気を遣ってもらいましたね。僕が風呂に入るときとかは、まだプロ契約をめざして当時練習に参加していた益子(拓己)を呼んで『ちょっと抱っこしとけ』と。3人で外に朝ご飯を食べに行ったりもしましたね。俺と益子とベビーカー、みたいな」

自らの仕事場でもある場所で、首がすわっているかすわっていないかという赤子にミルクを飲ませたり、おむつを替えたりする篠山(と益子)。シュールだ。

写真提供=篠山竜青

BTHは2013-14シーズンの天皇杯とリーグ優勝を経て、連覇に向けてバスケットボール部への施策として、2015年に建設された。それ以前まで独身選手は「有心寮」という寮で共同生活を送っていた。篠山は加入から結婚するまでの3年間、そこで暮らした。

7~8畳の部屋の設備は水道と押し入れのみ。風呂とトイレは共同。「リアルディズニーランド」の異名を持つ(理由はお察しください)寮での生活はなかなかハードだったのではと向けたが、楽しい思い出のほうが多いと篠山は言った。

「高校、大学と7年間、ずっと2人部屋だったんで『23歳にしていよいよ1人部屋だ!』ってめっちゃテンション上がっていましたね。古さとか設備とか、全然気にならなかったです。隣の部屋のドライヤーの音が聞こえるくらい壁が薄かったけど、壁があるっていうだけでもう僕は幸せだったんで(笑)。寮生活にも慣れていたので、会社に行くときも帰ってくるときも誰かいて、お風呂に行っても誰かがいて……みたいなのはそこまで苦じゃなかったし、いつでも話し相手がいてくれるっていうのは僕的にはありがたかったですね」

篠山は15歳で横浜の実家を離れて福井県の北陸高校に進学し、寮生活を送っていた。日本大学でも同様だ。

「チームも会社も休みのときは、寮にいるみんなでドライブに行ったりとか。暇すぎて栗原さん(栗原貴宏=福島ファイヤーボンズヘッドコーチ)と2人で高尾山を登りに行ったこともあります(笑)。寮の食事が出ないときは「贅沢パーティーしようぜ」ってみんなで市場に買い出しに行って、木箱のウニとかサザエとか買って。サザエの下処理なんて誰も知らないから『苦いだけじゃん』って不評でしたけど(笑)。あとはゲームをしたりね。僕はあんまりゲームをやるタイプじゃないので、先輩たちがやっている横で茶々を入れてばかりでした」

改めての説明になるが、ブレイブサンダースの前身は東芝バスケットボール部。Bリーグ以前はシーズン中は8時出社で昼まで、オフシーズンはフルタイムで社業に精を出していた。自主練習を含めて体育館を出るのは20時過ぎ。そこから寮に帰って、一食に魚、鶏、豚、牛が全部入っている「とんでもない量の」食事をとって、風呂、ドラマ鑑賞、就寝。その繰り返しの日々だった。

「『3時4時まで遊んで、ちょっとでも寝られれば次の日8時から行けるぜ』っていう人、いるじゃないですか。でも僕は若いときからそういう感じじゃなかったんで、ザ・会社員という生活でした。お給料も使いどころが全然なくて、毎月けっこうな額を財形貯蓄に入れていました」

晴れてプロ選手になろうというタイミングで、篠山はこの貯金を吐き出し、キャッシュ一括でハイクラス車を購入したという。

「今考えるとアホでしたけどね。ローンを組んだほうが節税効果が高かったのに」

篠山は心底悔しそうな顔で言った。

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現在35歳。加入12シーズン目。「若い時は」という言葉が何の引っかかりもなく出てくるようになり、昼食後の休憩時間は寝つけず過ごすことも増えてきたという。歳を重ねると眠れなくなるのは一体なぜなのだろう。

インタビューが終わったのは夕食時。撮影は食堂で行うことにした。この日のメインメニューは牛丼。篠山はサラダバーから山盛りのブロッコリーをとり、食事を始めた。

篠山はブロッコリーが好きではない。3年ほど前、チームの管理栄養士をつとめる花谷遊雲子さんが「積極的に食べたいものではないけど、竜青は身体のことを考えて食べているんです」と教えてくれた。

篠山は味噌汁を一口飲むと、猛然とブロッコリーを平らげた。

規則正しい生活を送り、堅実にお金をため、苦手なものは早めに食べておく。篠山竜青はそういう男なのだ。

PROFILE

篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
1988年生まれ、神奈川県横浜市出身。178センチ(ウイングスパンは約190センチ)。小学生のときに兄姉の影響でバスケを始め、北陸高校、日本大学時代には日本一を達成。2011年にクラブの前身にあたる東芝バスケ部に加入。主力のポイントガードとして長きに渡ってチームを牽引してきた。好きな漫画は松本大洋の「ピンポン」。

著者

青木 美帆(Miho Awokie)
青木 美帆(Miho Awokie)
フリーライター。高校3年時にたまたまインターハイを観戦したことをきっかけにバスケに取り憑かれ、早稲田大学入学後に取材・執筆活動を開始。岡元氏とはご近所仲間。小2の息子に口喧嘩で負ける。 X:@awokie Instagram:@miho.awokie

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