BASKETBALL | [連載] 篠山竜青が今、考えていること

篠山竜青が今、考えていること(2023/11/22)

interview |

photo by Kazuki Okamoto / text by Miho Awokie

3回目のインタビューは、リーグの中断期間に行われた。過去2度の取材はボディと単焦点の短いレンズのみという軽装備だった岡元が、大量の機材を運び入れている。「今回は撮影の雰囲気を変えようと思います」。少しシリアスなトーンを想定しているという。

当企画は毎回、テーマや質問項目を事前にカチッと設けていない。その日に篠山が話したいことをその時々の流れで聞く、言うなればジャズセッションのような手法で行い、原稿も肩の力が抜けた仕立てとしている。過去2回のように、酩酊して吐いた話や眉毛セットに全力投球した話がメインになったらどうしようか…。そんな一抹の不安が頭を駆けめぐる中、篠山が取材場所に現れた。念のため、こちらからもテーマを振る。バイウィーク中の出来事なら話しやすいだろうと思い、そのように提案すると、篠山は少し考え込み、話し始めた。

まあ、今考えていることっていうわけではないかもしれないですけど、ふと考えることが多いのは…選手とファンとの距離感の話というか、サインとか写真の話というか。なんかね、NBA選手ってコートサイドにいるちびっこにサインをすることとか、写真を撮ってあげることとかがすごく美談になるじゃないですか。でもBリーグはなかなかそうはならないと。

Bリーグは現在、選手のサインや写真をファンクラブの「特典」として扱うクラブが多く、この場以外でのファンサービスはむしろ「マナー違反」と指をさされがちだ。

これって、サインとか写真に対する価値っていうものがNBAとBリーグとで全然違ってるからなんだと思うんです。NBAってチケット代であったりスポンサーであったり、マーケティングがとんでもなくでかい世界なので、サインとか写真に対してもう値段が付けられない世界じゃないですか。

── 確かに、一生に一度のプライスレスなものですよね。

一方でBリーグってまだ、写真もサインも握手も商品なんですよね。値段が付けられているもの。 ファンクラブに入っていただいた方に付属している付加価値的なもの。「グッズを買ってくれるとサイン会に参加することができます」「ハイタッチ会に参加することができます」「写真を撮ることができます」っていうふうに。どっちが良い、どっちが悪いという話をしたいわけではないですよ。Bリーグはまだまだ稼がないといけないリーグなので、あの手この手を使うのは仕方がないことだと思います。


ただ、こないだ「うーん」って感じることがあったんですよ。ある遠征先で修学旅行の団体の生徒さんたちと宿舎が同じで、1階のコンビニ的な部分に行ったら生徒さんたちがいっぱいいて、多分まあバスケ部なんでしょうね。川崎のことも知ってくれてて、「ニックだ」「藤井だ」「篠山もいる」みたいな声が聞こえてきた。で、勇気を持って「写真を撮ってもらえませんか?」って声をかけてくれたんですけど、僕は心苦しい思いをしながら「ごめんね、チームウェアを着ているときは撮れないんだよ」とクラブのせいにして断るしかないわけです。


実際、チームウェア着用時のファン対応はNGになっていますし、自分としても、自分の写真であったりサインであったり握手は”商品”だと自覚しているので仕方がないことだと思っています。でもやっぱり修学旅行って、すごい思い出に残るじゃないですか。僕だったら、修学旅行で泊まったホテルにいすゞ自動車ギガキャッツがいて、佐古がいて、南山真がいて、高橋マイケルもルシアス・デービスもいたらそれは興奮するよなと思うし、サインも写真も欲しいよなって思うし。


「サインをもらってメルカリに出してやろう」っていう人たちが一定数いるからこそ断らなきゃいけない部分もあるにしても、なんかそういう…ねえ、一生の思い出に何か添えられるような機会で対応できないのは寂しいなって思ったりします。

これが、いわゆる”マイナースポーツ”の選手だったら、むしろ喜んで写真を撮るだろう。一方で、 プロ野球やJリーグの各チームは、ファンクラブ会員向けのサイン会や撮影会を実施しつつ、キャンプ会場や練習場ではファンサービスを行うことが多い。

また、NBAに精通しているベテランライターは「NBA選手が会場でファンサービスできるのは、会場のセキュリティチェックが厳格で、選手の安全がきちんと担保されていることも大きいのでは」と話していた。

Bリーグに練習見学というカルチャーが存在しないことも、ラフなファンサービスが実現しない理由の1つではあるだろうが、創設7年目のBリーグが篠山の言う通り「まだまだ」なリーグであることは間違いない。

Bリーグがもっともっと存在価値の高いリーグになって、バスケットボールっていうものが日本の中でもっともっと根付いて、選手のサインとか写真とかそういったものに値段が付けられないような存在に発展して、BリーグもNBAと同じように、たまたま選手が近くを通ったコートサイドの子どもたちとかがサインをもらえて、なんかそうやってこう夢が繋がっていくじゃないですけど、そういう世界に近づいていければいいなって。そんな話をしたかったです。

── ただ、最近はプロ野球も、転売目的でサインを求められるケースが増えていて、選手たちがファンサービスに対してナーバスになっているそうです。

メルカリで自分のサインが高値で売られているのを見たら、僕は喜んじゃうかもしれないですけどね。「え、1万円で売れたの?」って(笑)。そこらへんの感覚、僕は多分狂ってます。

── さすが、中学生にしてプリクラを売買された男ですね。

確かに、それがバックボーンにあるのかもしれない。

インタビューに帯同していたクラブ広報が、あるBリーガーのサインが18万円で売り出されていると教えてくれた。篠山は「まじかよ…」と絶句した後、「そこまで値がついたら『俺にも何パーかよこせ』って言いたくなるな」と言って一同を爆笑させた。

── ちょっと話が戻りますが、自分が商品であるということ認識することは、プロアスリートにとって必須の感覚であり、一方で自らを守る大切な処世術でもあるんだろうなと感じます。

まあそうですね。Bリーグの選手たちもそこを理解した上でファン対応を考えていなきゃいけないと思います。もっと言うと…世の中、SNS警察みたいな人がいっぱいいるじゃないですか。ハハハ(力なく)。そういうことに感情を持っていかれすぎないほうがいいんだろうなっていうのは感じますね。「スルーする力」とか言われますけど、そういうのは絶対身につけられるもんじゃないと思うので。

以前、20代に人気のあるYouTuberを取材したことがある。彼は「コメント欄で叩かれまくっているうちに何を書かれても何とも思わなくなった」と話し、同様のことを言う著名人はあちこちにいる。

しかし、度を超えた誹謗中傷で身につけたものは「メンタルが強い」などという格好のいい言葉で取り扱うべきではなく、心を硬くこわばらせ、本来のしなやかを失った先に残された”後遺症”に近いものなのではないだろうか。

だから、誹謗中傷に対しては頑張ろうとしないでほしいし、管理する側…例えばクラブ側も、「SNSを更新してほしい。誹謗中傷はスルーしてほしい」みたいなことはやるべきではないんじゃないとは感じるので。SNSは認知度や人気を高める大きな武器にもなりますけど、自分が攻撃されるくらいになったらもうきっぱりSNSをやめるとか、そういうところも含めて、一人ひとりが付き合い方やスタンスをちゃんと考えることが必要だと思いますね。

── ちなみに篠山選手はどのようにSNSと付き合っていますか?

安易に投稿を見ないようにはしています。引用リツイートの先とか、リプライを見に行かない。 SNSは発信ツールととらえる。あとはブロックよりミュート。これは世の中に伝えたい。

── SNSを「対話の場」ととらえる人もいますが、「発信の場」ととらえたほうが楽ではありますね。

あんな文字だけで人はコミュニケーション取れないです。議論もできないです。発信ツールって思ったほうが、なんか簡単な気がします。

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取材を行った当時、川崎は12勝2敗で中地区2位の位置につけていた。昨シーズン、随所に伸び悩みが感じられたチームは、システムのテコ入れや新規選手たちの加入によって再び進歩の刻を歩んでいる。川崎に限らず、変化していく組織や人を見るのは楽しいものだ。

「どうですか? 取材に来るのが億劫になっていないですか?」

期せずして岡元のビジュアルイメージに近いトーンになったインタビューを終え、撮影を行ったあと、篠山がいたずらっぽく問いかけた。

「はい、楽しんでいます」 そう伝えると、篠山は「僕もです」と言った。

PROFILE

篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
篠山 竜青(Ryusei Shinoyama)
1988年生まれ、神奈川県横浜市出身。178センチ(ウイングスパンは約190センチ)。小学生のときに兄姉の影響でバスケを始め、北陸高校、日本大学時代には日本一を達成。2011年にクラブの前身にあたる東芝バスケ部に加入。主力のポイントガードとして長きに渡ってチームを牽引してきた。好きな漫画は松本大洋の「ピンポン」。

著者

青木 美帆(Miho Awokie)
青木 美帆(Miho Awokie)
フリーライター。高校3年時にたまたまインターハイを観戦したことをきっかけにバスケに取り憑かれ、早稲田大学入学後に取材・執筆活動を開始。岡元氏とはご近所仲間。小2の息子に口喧嘩で負ける。 X:@awokie Instagram:@miho.awokie

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