西原さんとの出会いは2018年のロシアW杯だった。
日本がコロンビアを撃破するという光景を目の当たりにした私は「サッカー業界に関わる」ことを決意した。
偶然にもロシアで一緒に旅をしていた友人の先輩が、当時NECから横浜F・マリノスへ転職されるタイミングで西原さんがロシアを訪れていたことを知り、彼の紹介で西原さんを現地で紹介してもらった。
「どのような経緯で横浜F・マリノスに転職し、具体的にどのような業務をされるのか」
パブに流れていたアルゼンチンの試合よりも、とにかく西原さんの話に夢中になっていたことを思い出す。
それから4年が経った2022年の夏、横浜F・マリノスを退職した西原さんは新たな道へ進むために、スイス・ローザンヌにあるAISTSへ進学することを決断した。約1年半のプログラムの中で一体何を学び、将来はどのような道へ進むのか。
先日、西原さんから「2024年のパリオリンピック・パラリンピックで組織委員会で働くことが決まったよ!」と連絡を受け、近況について話を伺った。
新卒でNECに入社
「大学生のころから将来はスポーツ業界に関わりたいと思っていた」と話す西原さんは新卒でスポーツメーカーに就職することを考えていたが、当時はまだスポーツ業界に対しての関わり方や社会に対しての知識が浅く、内定には至らなかったようだ。
新卒でスポーツ業界へ進むことは断念し、学生時代に行なった国際ボランティア活動の経験から、「途上国や新興国で仕事をすることができる会社に入る」決意をし、NECに入社。入社後は海外営業の部署に配属され、主にブラジル、コロンビア、メキシコといった中南米地域を担当し、NECに在籍した5年間は「大きな達成感を得ることができた」と西原さんは振り返る。
転職をエージェントを利用し、横浜F・マリノスへ入社
「NECで得た経験をスポーツ業界にも活かせないか」
西原さんは学生時代からの目標であったスポーツ業界への転職を決断する。
当時転職エージェントの求人に横浜F・マリノスの募集が掲載されていたこともあり、応募した西原さんはスポーツ業界未経験ながらも見事採用された。
「経験はなかったが最終的には会社に自分の気持ちを汲んでいただいた」と謙虚に話す西原さんは、横浜F・マリノスがシティフットボールグループの一員であったことや、街の規模・クラブの歴史とポテンシャルから「自分のグローバルな経験が活かせるのではないか」とクラブに対して大きな魅力を感じていた。
広報としての業務
横浜F・マリノスに「広報」として採用された西原さんは平日の練習で取材に来ていただいたメディアへの対応が主な業務のひとつ。
「取材に来てくださったメディアの方に対しては常に対等な関係を心がけ、選手と取材者に対しては気持ちよく取材を受けてもらうために気を配っていた」と西原さんは話す。
中でも喜田拓也選手や朴一圭選手(現:サガン鳥栖)のメディア対応は特に印象的だったようで、「常にチームのことを考えて発言し、質問に対しては自分の言葉で相手に分かりやすく噛み砕いて話していた」と話す。
また、広報の役割として、「サッカーにあまり興味・関心がない人に対してもサッカーの魅力を届ける必要がある」と感じていた西原さんは、NHKで放送されているテレビ番組「沼にハマってきいてみた」に対して、クラブのキャラクターである「マリノス君」の出演を提案し、採用された。企画段階から制作スタッフと打ち合わせを続け、2019年11月に放送された「Jリーグ マリノス君が大暴れ!マスコット沼」ではファンのみならず大きな反響があり、西原さん自身も「一番の思い出」と当時を振り返る。
コロナ禍に芽生えた新たな将来設計
そんな充実した日々を送っていた中で、2020年に新型コロナウィルスの影響でJリーグが中断。リモートでの仕事が増えたことから、自身の将来の仕事について考える機会が多くなり、「将来は五輪やW杯といった国際大会に関わりたいという思いが芽生えた」と西原さんは話す。
8歳の時に西原さんの地元である長野県で開催された冬季五輪ではイギリスの選手団と交流する機会や実際に競技をみて、幼いながらも「(国際大会が)街をこんなにも変えるんだ」という強い印象が心に残っていたようだ。
また、NEC時代に何度か出張でブラジルを訪れる機会があり、2014年のブラジルW杯や2016年のリオ五輪の開催に向けて「それぞれの異なる文化やバックグラウンドを持つ人々が一つになって楽しむ姿に魅了された」と西原さんは話す。
さらに、2018年のロシアW杯でみた光景は「想像以上だった」ようで、「W杯を訪れた人々が勝敗でバチバチしているのではなく、お祭りのようにその瞬間をみんなで楽しんでいることに対して衝撃を受けた」と話す。
スイス・ローザンヌへ
西原さんは横浜F・マリノスを退職し、2022年9月からスイス・ローザンヌにあるAISTSへスポーツマネジメントの修士を取るために進学が決まった。ここには毎年各国から約30名ほどの人材が集まり、約1年半のプログラムの中で将来的に国際機関や国際連盟等といった場所で活躍するスポーツ人材の育成を主な目的としているようだ。
その中で西原さんは「特に2つのテーマについて学びたい」と話す。
1 広報のプロフェッショナルになるためにスポーツ全般において必要なことを学ぶ
2 国際大会がこれからも続くために、気候変動といった環境問題の観点からサステナビリティ(持続可能性)について学ぶ
パリ2024オリンピック・パラリンピックに向けて
AISTSのプログラムを修了した後、進路について「五輪やW杯といった国際大会に関わりたい」という方向性を持っていた西原さんは、NEC時代に海外放送事業を担当していた経験がAISTSの卒業生の目に留まり、それがきっかけでパリ2024オリンピック・パラリンピック組織委員会での採用が決まった。組織委員会ではVenue Technology Deputy Managerとして52個ある会場のひとつ、IBC(国際放送センター)を担当することになった。
「NECを離れてサッカークラブを経由しましたが 、その経験が五輪で働くきっかけになるとは当時は想像もできませんでした。今やっている経験がこの先どう活きるかなんて本当に分からないし、一見つながりのないことでも一生懸命取り組むことが大切なんだと気付かされました」と西原さんは話す。
今後の展望
最後に西原さんの今後の展望について伺った。
「五輪やW杯といった国際大会での仕事をしていきたいと思っています。メディアオペレーションの仕事をされている岩元里奈さんをはじめ、なかに入ってみると他にも活躍されている日本人の方がいます。深めていく専門性や分野はまだまだこれからですが、国際大会で働き続いていくことが一つの目標です」