FOOTBALL | [連載] 鎌倉デザイン室

鎌倉デザイン室vol.1 | Tomoya Onuki

interview |

text by Kazuki Okamoto

鎌倉インターナショナルFC(以下:鎌倉インテル)の魅力を最大限に引き出しているのは、Tomoya Onukiによるグラフィックデザインであることは間違いないだろう。

フットボールをこよなく愛する彼の作品は、美しく、力強く、かっこいい。

その中でも、7月14日に公開した彼の作品には心を奪われた。

カメラマンとデザイナーとしての関係が4年以上経過した今、普段はあまり聞くことのない、「グラフィックデザインができるまで」について話を伺った。

Design:Tomoya Onuki 協力:鎌倉インターナショナルFC

─── 今回のグラフィックデザインを制作する背景を教えていただけますか?

Onuki まず、今年はクラブが神奈川県1部リーグに昇格したことで、クラブとして、選手のリアクションやサポーター間のコミュニケーションが昨年よりもさらに多くなることを期待して、SNSの稼働率をあげることを目標としていました。
あのグラフィックに関しては、7月9日(日)に行われたイトゥアーノFC戦が内藤洋平選手の誕生日と重なっていたこともあり、「もしゴールを決めたらバースデーゴールのグラフィックを作ろう」と頭の中で考えていました。

─── ということは、予め準備をしていたわけではない?

Onuki はい、内藤選手がゴールを決めるか分からないので、特に事前準備はしていませんでした。

─── なるほど。結果的に内藤選手が得点を決めましたが、試合は2-2の引き分けでしたよね。

Onuki そうなんです。なので、さらに悩みました。内藤選手はバースデーゴールを決めたけど、試合自体は引き分けだったので…あの試合を現地で見ていたのですが、試合終了のホイッスルと同時に悔しがっている選手の姿が印象的で、帰りの電車でずっと悩んでいました。

─── 個人の発信じゃなくて、クラブとしての発信だもんね。

Onuki はい、好き勝手につくることはできないので、かなり悩みました。結局翌日も一日中悩み続けました。

─── 今回のようにデザインする上で行き詰まった時はどうしてるの?

Onuki とにかく参考事例を集めます。今回は25個ほど集めました。

─── それだけでもかなりの時間を割くね...

Onuki はい… いつもは10個前後の参考事例を集めるのですが今回は倍以上でした。

─── 参考事例の中にはどんなデザインが多い?

Onuki 今の割合としてはNBAやNFLが多いですね。NBAやNFLのデザインは業界の中でも一歩リードしている印象があるので。

─── なるほど。アメリカの大学スポーツのデザインや写真もかっこいいよね。

Onuki そうなんですよね。スポーツに対しての予算や規模が日本と全然違う気がします。

─── 話が逸れてしまったけど、7月9日(日)に試合が行われて、翌日は悩み続けて、7月11日(火)時点でもまだ手を付けられていない状況だよね?

Onuki はい(笑)いつもはコンセプトベースで制作するのですが、今回は「色」から決めました。黒をベースとして、鎌倉インテルのカラーであるゴールドとネイビーを肌にのせようって。11日時点ではここまでです。

─── 丸2日間考え続けたわけだ…本当にすごい。

Onuki コンセプトさえ決まればもっと早いのですが、今回はバースデーゴールという喜ばしい事象と引き分けという悔しい事象が重なったので、かなり特殊でした。でも12日にひらめいたんです。

─── と言いますと??

Onuki 内藤選手の前所属クラブがギラヴァンツ北九州で、クラブのエンブレムが輝いているんですよね。実際に調べたところ、ひまわりの花びらと輝く太陽の赤をモチーフにしていて、「輝き」を今回のコンセプトに決めました。
今シーズンの試合を見ていて、烏滸がましいですけど、内藤選手のフィジカルレベルが上がっている印象がありました。内藤選手に聞いたら、「ジムに行ってる」って仰っていて、クラブ最年長でありながら輝きを失わない姿勢、そして、クラブの象徴である内藤選手に対して「輝き」というコンセプトはぴったりだと思いました。


─── 制作前の段階でこんな苦労というか、エピソードがあったんだ。内藤選手だけではなく、みんなに知ってほしいなー(笑)

Onuki たった一枚のグラフィックでも、みえないところでかなり時間はかかります(笑)

─── 間違いないよね。写真でいえば、撮るまでの準備や、撮った後の編集にも時間がかかるし、その点はデザインと似ているのかも。

Onuki はい、ただ時間をかけることに対しては苦と思っていなくて、少しでもいいものをつくりたいですし、少しでも選手たちの活力になれば嬉しいと思っています。

今シーズン制作したデザインの一例


─── ようやくデザインの大枠が固まりました。そこからどのようにデザインしたのか教えてください。

Onuki まず、写真選びの基準は内藤選手が喜んだ表情の写真よりも、可能性を示すような、鋭い視線を感じさせる表情を選びました。

─── ということは、もし、イトゥアーノFC戦に勝利していたら、写真を選ぶ基準も変わった?

Onuki はい。もし、試合に勝っていたら、もっとポジティブな表情を選んでいたと思いますし、全く違うグラフィックになっていたと思います。

─── なるほど。可能性を示すような写真を選んだ上で、今回のデザインで意識したことは何ですか?

Onuki 参考事例をみる中で、今まで絵画的なグラフィックに取り組んだことがなかったので、今回は新しい試みとして取り入れてみました。また、中央に配置した写真は皆既日食を連想させ、後光が差すような光を加えることで、今回のコンセプトである「輝き」を表現しました。

皆既日食を連想させた光(中央部分)はコンセプトである「輝き」を表現した

─── 写真の色の調整とかも大変そう…

Onuki カメラマンさんや当日の天候によって写真の色が変わってくるので、色を統一させるために一度モノクロにします。そこから色を加えたり、スモークを足して躍動感を引き出したり、他にも微調整しながらようやく完成にたどり着くことができました。

─── 5日間かけて仕上げた作品の出来はいかがでしょう?

Onuki 公開まで時間がかかってしまったことは反省点ですが、日に日に「もっとよいものを作りたい」というモチベーションにもなりました。最終的に自分が納得するものに仕上げることができましたし、あのグラフィックを通じて内藤選手がSNS上で他の方とやりとりしているところをみた時に、今年のクラブの目標である「選手のリアクションやサポーター間のコミュニケーションが昨年よりもさらに多くなることを期待して、SNSの稼働率をあげる」ことに対して、少しは貢献することができたかなと感じました。

苦労はしましたが、作って本当によかったです。

あとがき

鎌倉インテルの創設期からデザイナーとしてクラブを支えるOnuki君。
ほぼ同じ時期からこのクラブに関わっているはずなので、出会って4年くらいになるだろうか。年齢は僕の1つ下だけど、見た目は年上。忙しくなると「天下一品」のラーメンを爆食いしてしまうらしい。そんな可愛い一面があるのも彼の魅力の一つ。
色んな撮影現場に行く中で、「鎌倉インテルのデザインめっちゃかっこいいよね」って言われると、なんだか自分ごとのように嬉しく思ってしまう。
鎌倉インテルを通して彼と出会えたことはラッキーだし、一馬さんという最強の理解者が加わったことで、クラブは良い意味で目立つことができている。

5年後、10年後、鎌倉インテルがJリーグに上がった時、もしくは専用のスタジアムができたときにどんな写真を撮ろうか、どんなグラフィックをつくってくれるのか、考えるだけでワクワクする。
こうやって勝手に未来を描いているけど、今となっては描くことができるクラブに成長していることを考えると、人生って面白いもんである。

だらだらと書いてしまったけど、今やりたいことのひとつとして、年に一回、シーズンが終わった時にでも、そのシーズンで撮影した写真やデザインを見せる場を設けたいなって。
今度吉田さんに提案してみよう。

PROFILE

Tomoya Onuki
Tomoya Onuki
デザイナー。現在フリーで活動中。大学在学中に参加したアンコールタイガーFC(カンボジアプロリーグ所属)のインターンにてデザインに触れを制作を始める。その後、鎌倉インターナショナルFCに出会い、2020シーズンより主にデジタル・印刷類のクリエイティブ制作を担当。

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