RUNNING

限界の先へ、仲間と共に────PRE Fast Track Club 第2期 Day3 powered by NIKE & STEP SPORTS

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photo by Kazuki Okamoto / text by Asami Sato

タイムトライアル:PRE第2期最終日

7月14日。PRE Fast Track Club(プリファーストトラッククラブ)──通称「プリ」──。

中高生の中長距離ランナーを対象に、NIKEとSTEP SPORTSがタッグを組んで展開する特別育成プログラムだ。その第2期生にとって、ついに迎えた最終日。

会場であるスピアーズえどりくフィールドに吹き抜ける風は強い。午前中は雨が降り不安定な空模様だったが、午後からは陽が差し、空は澄み渡っていた。最終日の今日はタイムトライアル。空が茜色に染まる頃、選手たちが一人、また一人と会場に姿を現した。

ロッカールームに入った瞬間、彼らを迎えたのは壁に貼られたモノクロのポスターたち。そこには各選手の凛々しいランニング姿と“PRE”の文字が記されている。約1ヶ月ぶりに再会した仲間たちは、笑顔で声を掛け合う。緊張を押し隠すように談笑しながらも、その表情の奥には今日のタイムトライアルに懸ける決意が透けて見える。

「ライバルではなく自分に集中する」

午後6時。MCのイッチーさん(STEP SPORTS)の挨拶に続き、第2期PREのメインコーチを務める東海大学陸上競技部中長距離ブロック駅伝監督の両角速氏がマイクを握った。

「今日はタイムトライアルということで、うちの精鋭を揃えてきましたので頑張っていきましょう。十分な実力を持った選手たちが、君たちの走りをしっかりサポートしてくれるので、よろしくお願いします。

それともう1つ。前回からも引き続き、君たちは今日もチームとしてやっています。仲間の頑張りがあるから、自分も励まされて頑張れる。その仲間の良いところを、今日もしっかりと見つけましょう。そういう視点を持って、みんなで良い雰囲気になれるようにやっていきましょう」

続いて、 “シュンコーチ”こと川端駿介氏や主将の花岡寿哉、兵藤ジュダ、竹割真という東海大の精鋭たちが言葉を重ねる。兵頭ジュダは先日の日本選手権1500mで自己ベストの3:39.62を叩き出して5位に入ったばかり。国内トップレベルの走りを間近で見て学べる機会は、中高生ランナーたちにとって最高の刺激になる。

タイムトライアルに進む前に、選手たちは各々のPRE特製ノートに今日の目標を書き込み、互いにシェアする。

「1500mで4分20秒を切りたい」
「積極的にタイムを狙って行きたい」

声に出すことで目標はより明確に定まり、心が整っていく。

アップは入念だった。シュンコーチを先頭に5列で並び、ダイナミックストレッチからスタート。肩甲骨、股関節、ふくらはぎ、腸腰筋……コーチ陣が適宜伝えるポイントに細かく意識を向けながら、体を研ぎ澄ませていく。

続いてスプリントドリルを行い、2000mのジョグへ。ここからは1500mのタイムトライアルの目標タイム別に4チームに分かれる。ジョグの後、最後に100m流し。両角氏とシュンコーチが声をかける。

「全力ではなく、リラックスして徐々に加速するイメージで、大きい動きで」
「これは競争じゃないから隣を気にせずに走ろう。本番でスピードを出すために、腕をしっかり振って、かっこいいフォームで」

ウォーミングアップが終わり、選手たちが“Vomero 18”から“Dragonfly 2”に履き替える中、両角氏が選手たちにアドバイスを送る。

「いまから15分後にタイムトライアルが始まります。アップで体を温めて血液循環が良くなって、血圧も上がっているから、あまり体を休めすぎないように。スタートに向けては今の状態を維持していきたいです。

あとは集中力を高める時間として使おう。ウォーミングアップが終わってからレースまでの重要なポイントです。レースだと緊張して体が硬くなる。中高生にありがちなのが、ライバルに集中してしまうこと。そうではなく、自分に集中すること。場の雰囲気にのまれず、自分に集中しよう」

その言葉が、選手の体と心を本番へと導いていく。

“自分史上最速”を目指して

タイムトライアルは1500mと800mの2種目。まずは1500mから、4分15秒、30秒、45秒、5分という4つの目標タイム別にチームに分かれて計測する。

午後7時5分。1500mタイムトライアルの号砲が鳴る。目標タイム別に設定された4色のウェーブライトを目印に、コーチが集団の先頭を走って選手たちを導いていく。スタンドからは家族の声援、仲間やスタッフの拍手。両角氏がトラック脇から声を飛ばす。

「目標タイム通り、いい走りだよ!」

「先頭はウェーブライトについていけば4分15秒だ!」

風に押されながらも、選手たちは前へ前へと足を運ぶ。ラストの直線。顔を歪めながら、全身でゴールに飛び込む。

「4分11秒!」

先頭選手は目標タイムを上回る好走だ。次々と倒れ込み、汗にまみれた顔に笑みを浮かべる選手たち。苦しみの先にある達成感。それが会場全体を包み込んだ。

続く800mは、2分10秒、20秒、30秒の3チームに分かれて行われた。距離は短いが、だからこそ心肺に苦しさが突き刺さる。兵藤ジュダが58秒ペースで先頭を引っ張ると、選手たちは必死に食らいついた。

「まだいける、まだいける!」

コーチ陣の声が飛ぶ。2周目、次第に選手たちの間隔が広がり始める。それでも全員が歯を食いしばり、最後の直線に身体を投げ出す。

トップは2分7秒。倒れ込み、仰向けに空を仰ぐ者もいれば、拳を突き合わせ称え合う者もいる。それぞれの限界に挑んだ姿は、何よりも鮮烈だった。

強くなるため、自分を知る

競技が終わると、スパイクを脱ぎ、再び“Vomero 18”に履き替えてクールダウン。トラックを逆走しながら疲れを癒す。途中、足を攣る者もいたが、仲間が支え合い、最後まで一体感を持ってダウンを行った。

その後は振り返りの時間。ノートに今日の結果と気づきを記し、隣の仲間の目を見ながらお互いの“良かった点”を伝え合う。

結果として、9人もの選手が自己ベストを更新。コーチ陣による熱意ある指導と、NIKEとSTEP SPORTSによって用意された素晴らしい環境、そして何よりも選手たち自身の“準備”と挑戦が、彼らのポテンシャルを最大限まで引き出した。

コーチ陣からのメッセージの締めとして、両角氏が次の言葉を選手たちに送る。

「みんなが意欲的に取り組んでくれたおかげで、すごくいい雰囲気で最後まで活動できました。私は色々な練習会やイベントに参加しますが、『どうやったら強くなれますか?』という質問には、“自分を知ること”と答えています。

何ができて何ができないか。何が得意で何が苦手か。みんなの前にいる東海大の選手たちも、君たちが憧れるような記録を出しているかもしれないけど、苦手な部分もあります。

他人と比較する必要はなくて、自分は自分です。しっかりと自分と向き合って、自分にはどんな特徴があるかを知り、どこをどうすれば伸びるのかを試行錯誤していくこと。強くなるために、より深く自分を知って下さい。今回はありがとうございました」

Just Do It

最後は集合写真。掛け声は“Just Do It”。NIKEのスウォッシュポーズ、そしてSTEP SPORTSの“S”で締める。カメラに収められたのは、挑戦後の充足感に満ちた選手とコーチ陣の表情だ。

その後の懇親会では、おにぎりや唐揚げを頬張りながら笑顔が絶えなかった。勝負の顔から中高生らしいあどけなさへ。緊張の糸が解けた瞬間、そこにあったのは“走ることが心から好きな”少年少女の姿だった。

第2期生の挑戦は幕を閉じた。彼らが刻んだ“自分史上最速”への挑戦の記憶は、次の一歩を踏み出す糧となるに違いない。

著者

佐藤 麻水(Asami Sato)
佐藤 麻水(Asami Sato)
音楽や映画などのカルチャーとサッカーの記事が得意。趣味はヨガと市民プールで泳ぐこと。

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