
3ヶ月の成果を示すタイムトライアル
NIKEとSTEP SPORTSがタッグを組み、中学生と高校生を対象に中長距離種目の特別なトレーニングを行う“PRE Fast Track Club”。 4月上旬、都内某陸上トラックに中高生ランナーたちが集まった。
2月からスタートしたこのイベントも、この日を以て一つの区切りを迎える。普段の部活動では得られない特別な体験は、彼らに何をもたらし、どれだけの成長を促したのか。その成果が、これから行われるタイムトライアルで示される。
「こんにちは!」
続々と集まってくる選手たちを、“PRE”のコーチを務めるGgoatメンバーたちが笑顔で迎え入れる。すでに打ち解けた様子の彼らは、再会を喜ぶように声を掛け合う。選手たちが身に纏う“PRE”特製のトレーニングウェアもすっかり板についている。天候は曇天。午後からは雨の予報だが、記録のことを考えれば、晴天よりも適していると言える。

自分史上最速のレースを
選手たちが座るテントに置かれたホワイトボードには、今日の目標タイムが書かれている。それぞれの持ちタイムを基準にA〜Dチームに分かれ、全国レベルのSチームも今回は特別に設定された。タイムトライアルの種目は3000m、1500m、800mの3つだ。
ちなみに、男子中学生の3000m日本記録は8分7秒29。1500mは3分49秒02。800mでは1分56秒20が記録として残る。ただ、“PRE”の目標はあくまでも“自分史上最速のレース”。そこにトライすることに、この一日、そしてこのイベントの価値が詰まっている。
12:00。全員がトラック脇のテントに集まると、Ggoat宮内斗輝さんが「今日は自分のペースでアップを」と声をかける。Ggoatに学んだ時計回りのランニングをする選手や、ダッシュで筋肉に刺激を入れる選手、一人黙々と走る選手など、それぞれが自分に合った方法で心と体を整えていく。
M Cを担当するSTEP SPORTS市川寛人さんの開幕の挨拶を合図に、いよいよ本番の時が近づく。最初の種目は3000メートル。トラックに小雨が落ち、風も強まる中、会場全体の緊張感が高まる。

12:40。3000mがスタート。Sチームの3名はイーブンペースを72秒に設定し、一歩目を踏み出した。それに続き、A、B、C、Dチームは10秒ごとにずらしてスタート。Ggaotメンバーが先頭に立ち、それぞれのペースを作る。
「一列で隠れるよ!」
「間詰めて!」
「ラスト、突っ込め!」
Ggoatメンバーの熱い声援が、選手たちの背中を押す。結果、Sチームの先頭の選手は9分03秒でフィニッシュ。「最後の粘りすごかったよ!」というGgoatメンバーの声がトラックに響いた。
続いては800m。Sチームの先頭の選手は400mを60秒で通過。そのまま最後までペースを落とすことなく、自己ベストの2分00秒をマークした(PB2分02秒)。“PRE”で学んだことを最大限に出し切る、冷静かつ熱い走りだった。
最後の種目は1500m。この日集まったほとんどの選手が参加し、トラックには一層の緊張感が漂う。
「離れちゃダメだよ!」
「ここ粘るぞ!」
「ラスト、突くよ!」
仲間を励まし、声をかけ合いながらのラストスパート。ゴール後、多くの選手がトラックに倒れ込む。全力を出し切った表情に、会場に集まった選手の親御さんやスタッフ、誰もが拍手を送った。



未来のフィニッシュラインへ
この日、6名の選手が自己ベストを更新した。選手たちは、第一回目の“PRE”に参加した感想を次のように話す。
「普段の部活と違って、コーチの方がそれぞれの持ちタイムに合わせてサポートしてくれました。あと、選抜された選手が参加するイベントなので、スパルタなトレーニングを想像していたんですけど、むしろプラスな掛け声が沢山あって、メンタル的に『みんなで頑張りたい!』と思えて、いい経験になりました」
「Ggoatのコーチに、大学や実業団で活躍するためには何が必要かを聞いたら、『一つ一つの練習に意味を持って取り組むことだよ』と教えてくれました。3回という多くはない時間でしたが、陸上競技に対して今までなかった価値観を持つことができました」
「ここに参加するまでは自分がめっちゃ速いと思っていたけど、全然そんなことなくて。持ちタイムが近い人たちと競い合えることがすごく楽しかったです。今回の経験を活かして、今年は絶対に3000mで全国大会に出場したいです」
メインコーチを務めたGgoatの宮内さんは、この取り組みについて次のように語る。
「今回の参加者に贈呈された“PRE”特製ウェアやバッグ、ノートでしたり、第二回目のウェーブライトでしたり、立派なトラックでしたり、中高生では普段なかなか触れられないような豪華なものばかりで、すごくいいイベントだと思います。また、回数を重ねる度に選手たちと僕たちGgoatの絆が深まっていき、今日もこうしてみんなが楽しめるイベントになり、お互いにとって刺激的な経験になったと思います。
自分の経験から考えると、中高生の頃は頑張って自分を追い込み過ぎてしまい、怪我に繋がったり、伸び悩んでしまうことが割と多くあります。どちらかと言えば、この時期は体をしっかりと作っていくことや、生活リズムや練習メニューなどを自分で考える力を身につけていくことが大切だと思うので、そういうことを選手たちには伝えていきました。
参加してくれたみんなには、ここで学んだ経験やアドバイスを今後に活かしてもらいたいので、“PRE”特製ノートに書き残してもらったり、部活動の仲間に伝えたりしていって欲しいなと思います」

最後は軽食を囲んでの懇親会。さっきまで真剣な表情だった選手たちは、再び年相応の顔に戻り、仲間と語らい、笑い合う。
今回の“PRE”を通して選手たちが得たのは、Ggaotからのアドバイスやトレーニング方法、自己ベストだけではない。新たに出会った仲間と競い合い、励まし合い、自分自身に挑戦したという“経験”と“記憶”が、それぞれの胸の奥に刻まれたはずだ。
彼らのたちの物語は、まだ始まったばかり。苦しみを乗り越えて踏み出した今日の一歩が、未来のフィニッシュラインへとつながっていく。

PROFILE
佐藤 麻水(Asami Sato)
