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中大監督・藤原正和監督インタビューvol.8/『最後まで競り合った中で勝ち切りたい』30年ぶりの“総合優勝”へのシナリオ

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photo by Kazuki Okamoto / text by Asami Sato

4月から追いかけてきた中央大学陸上競技長距離ブロックの軌跡が、いよいよフィナーレを迎える。第102回箱根駅伝が目前に迫った12月23日、現在のチーム状況や区間配置の意図、そして30年ぶりの“総合優勝”へのシナリオを、藤原正和監督に聞いた。

“2区溜池一太”を宣言した理由

箱根駅伝まで残り1週間。チームの仕上がり具合を、藤原監督は次のように語る。

「ここまでは本当に選手たちがよくやってくれて、かなり順調に来ています。ここからの最後の調整が一番大事な部分にはなりますが、叩いておかないといけない強化期間もしっかりと過ごせましたし、その後の疲労抜きに関しても、しっかりと疲労を出してうまく対処してくれたなと。調整期間に入ってきて、日に日に選手たちの状態が上がってきているなと感じられますので、僕も楽しみにしているような、そんな状況です」

先日行われた箱根駅伝記者発表会の監督同士のトークバトルでは、藤原監督はエース溜池一太選手(4年)の“2区起用”を明言していた。その発言に会場は大いに沸いたが、果たしてあれはブラフなのか、もしくは本心なのか。

「“溜池を2区に”というのは、前回の箱根が終わってからずっと思っていました。『もう1回この子に2区を走らせよう』と。当然、夏の蔵王合宿で上りの内容が非常に良かったので、5区という選択肢も頭の中にチラつきましたが、それよりもやはり駅伝の流れをしっかりと作ってもらいたいなというところと、2区というコースは1回目よりも2回目、3回目の方がコースレイアウトや攻めどころが分かってきますので、おそらく今回は、65分台は十分に見えているんじゃないのかなと。なんとか区間賞争いをさせてやりたいなと思って、2区を宣言したというところです」

前回大会、吉居駿恭からトップでたすきを受け取った溜池は、首位をキープしたまま3区の本間颯に繋いだが、個人記録で見れば区間9位。東京国際大学のエティーリや創価大学の吉田響、青山学院大学の黒田朝日が見せた65分台の走りには及ばなかった。藤原監督の目には、今の溜池はどのように映っているのだろうか。

「非常に力のある選手なので、我々も彼に期待してきましたが、それ以上に彼自身が“自分自身への期待”を大きくかけてきた。こちらとしては『よくやったな』という内容でも、本人としては『いや、もっとやれた』と、評価のギャップがなかなか埋まらないところがありました。

ただ、そのギャップを埋める努力を、ここ2年でできるようになってきました。特にこの1年は本当に怪我なくずっとやれましたので、僕らとしても彼の成長を見ていてすごく楽しい1年だったなと。本番でどれくらいの走りをしてくれるんだろうと、非常に期待値が高くなっている状況です」

“自分たちのパズル”をはめる

今大会は、3連覇を狙う青山学院大学に、3年ぶりの制覇を目論む駒澤大学、山の名探偵こと工藤慎作選手を要する早稲田大学、出雲を制した國學院大學、そして中央大学を含めた5校で優勝争いが行われるという見方が強い。各校のオーダー予想は監督の頭の中でどのくらい進んでいるのだろうか。

「他の大学さんのシミュレーションは何回もします。『青山学院さんだったらこういう風に並べてくるだろうな』『駒澤さんだったらやっぱこう並べてくるよね』と。

自分たちがされたら嫌なオーダーを組んでみた時に、『どういう駅伝になるか』というのを頭の中で何回も戦わせてみて、うちの最善の策を練っていくわけですが…それ以上に、やっぱり自分たちの駅伝をしっかりとやった上で、自分たちのパフォーマンスを最高に出せるパズルをはめていかないといけない。相手があってのパズルのはめ方よりも、まずは自分たちのパズルをしっかりとはめていく、自分たちの特徴を出せるようなオーダーを組んでいく、そこに注力した方がいいと思っています。

とはいえ、思惑が外れた時に挽回する区間もちゃんと作っておかないといけない。いわば“優勝戦線に踏みとどまる区間”というのは絶対必要になってきますので、そのあたりも上手くバランスを取りながら、考えて進めているところです」

2区溜池以外のメンバーは既に決まっているのだろうか。

「最後の1区間だけまだちょっと迷っています。登録した16人みんなが非常にいい状況でやってくれているので、最後まで競ってくるのではないかなと。ただ、今年はできるだけ早めに伝えてあげようと思っていますので、こちらの判断で決めていきたいなと考えています」

藤原監督が予想するレース展開

監督の脳内では、どのようなレース展開が繰り広げられているのか、聞いてみた。

「いま頭の中にあるイメージでは、おそらく今年は1区ではそんなに差はつかないのではないのかなと。なので、まずは第一に出遅れないこと。かなり団子の状態で2区に渡って、そこから“ヨーイドン”になっていくと思います。

2区には自信を持って溜池を置きますので、ここで僕らはアドバンテージを得られると思っています。当然、他大学さんは留学生だとか、駒澤大学さんだったら佐藤圭汰くんなどのエース級が来ると思いますので、そこと伍して戦っていって、戸塚中継所にたどり着く段階で必ず3番以内にはいたい。しかもトップからできれば10秒から20秒差で渡しておきたい。

3区はもう本間で勝負するつもりでいますので、本間の区間でトップに立ちたいなと思っています。4区でその差をもう一段開けて、山の5区に繋いでいきたい。ここまでの区間では、かなり多くのチームが競ってくるはず。往路が終わった段階でも、先頭から2分以内に6校くらいが入るような展開になり、復路も非常に混戦になるだろうな、といまのところは予想しています」

前回大会、中央大学は先頭の青山学院大学に1分47秒差の2位で往路のテープを切ったものの、復路ではアンカーの藤田大智以外は振るわず、最終的には5位でゴールイン。藤原監督は、今年のレースについて次のように予想する。

「復路の6区も各大学さんは良いメンバーを揃えてくると思います。“たとえば”の話ですが、駒澤大学さんがここで伊藤蒼唯くんを使ってくると、そこで大逆転ということもあり得ますし、7区でもう一度“ヨーイドン”に近いような展開になるのではないかと予想しています。なので、7区からもう一度強い選手たちで勝負していきたいなと。

各区間とも“攻めの走り”をしていきたいですし、前目、前目で勝負がけをしていきたい。大手町で一歩でも前でゴールできればそれでいい。決して楽な駅伝ができるとは今年は考えていません。『最後まで競り合った中で勝ち切りたい』というのが今の算段と言いますか、そういうレースになるんじゃないのかなと思っています」

ゲームチェンジャーは〇〇

監督自身が非常に混戦になると予想する今大会。前回の吉居や本間のように区間賞を取る、あるいはゲームチェンジャーとなるような走りを、誰に期待しているのだろうか。

「期待しているのは、やっぱりまずは3年生世代の選手たちです。特に昨年も区間賞を取っている本間。あとは昨年アンカーを走った藤田は、今年も27分40秒台(10000m)で走っていますし、長距離の練習も安定してレベルの高い練習がずっとできてきていますので、ここには期待したいなと。あとは、昨年一度も駅伝を走れなかった3年生の柴田(大地)ですね。全日本で4区区間賞を取ってカムバックしてきて、箱根仕様の練習をきっちりといい形でできましたので、この3人には非常に期待したいです。

2年生世代にももちろん期待しています。どの大学さんも今の2年生世代は強いのですが、我々も同じように強いです。岡田(開成)は昨年7区でちょっとブレーキになってしまった分、今年はどれだけやってくれるか。中大記録も持っていますし、もう次のエースになってほしいなと思っている選手でもあるので、ゲームチェンジャーとしての活躍をかなり期待しています。

そして、昨年区間20位(8区)という苦い思いをした佐藤大介ですね。『去年の分もやってこいよ。頼むぞ』と。去年の経験をここで活かさないと『お前、男じゃねえぞ』と(笑)。そういう配置をしてあげたいなと思っていますので、活躍を期待しています。

あとは、昨年直前で変えられて悔しい思いをしている2年生の並川(颯太)ですね。本当に前日に10区を変えたので。1年生で辛い思いをさせた分、『今年はなんとしても』という想いは非常に強いでしょうから、期待しています」

本間、藤田、柴田の3年生3人に、岡田と佐藤大介、並川という2年生。吉居と溜池が引っ張ってきたチームに、これだけの実力者が揃った。彼らが上手く実力を発揮すれば、望む結果を手中に収めることは決して不可能ではないはずだ。

彼らに100%の走りをさせるべく、どのような声がけで鼓舞していくのか、聞いてみた。

「少し変な表現かもしれませんが、往路の1秒と復路の1秒では、その価値が違うと言いますか……往路だとまだ差が開いてない段階なので、案外相手も見える範囲にまだいることが多いですから、1秒を削っていく作業はそこまでストレスにはならない。また、往路を走るのは勝ち気な性格の子が多いので、たとえば『イケてるぞ』とか、『区間賞ペースに対してどれくらい上回ってるよ』ということをしっかりと伝えながら鼓舞してあげる声掛けの方が、比較的燃えるのかなと。

それが復路で30秒、1分、という差になっていくと、距離にすると400mとか空いてしまうので、そこを削っていくのはなかなかしんどくなってくる。復路の子は単独走が多くなりますから、自分のペースが今どれくらいか把握しづらい。なので、今自分自身の仕事ができているかどうか、というのをまずしっかりと評価してあげて、できていないのであれば、『ここから先、どういう頑張り方をしていこうな』みたいな話をしたり、『一人でやってるんじゃないよ』というのを伝えることが多いです。復路はやっぱり孤独感というか、自分との戦いの時間が多くなるので、そこは意識して声掛けしています」

30年ぶりの総合優勝へ

10年前、藤原監督が就任した2016年、中大はここまでのチームではなかった。箱根総合優勝を狙えるような位置にはいなかった。10年かけて、藤原監督はチームを地道に強化していった。一見すると箱根制覇には遠回りに見えるような、トラックでの結果にもこだわりながら、ただひたすら、選手を、チームを育ててきた。

おそらく、中央大学の選手もマネージャーも、監督も、コーチ陣も、そしてファンやサポーターも、正月が楽しみで仕方がないはずだ。30年ぶりの総合優勝に向けて、このチームに死角はない。

藤原監督は、次の言葉でこのインタビューを締め括った。

「今年は見ている人にとって、ものすごく楽しい大会になると思います。例年以上に各大学が競り合うシーンが多くなると思いますし、箱根駅伝の醍醐味である5区、6区の山区間を含めて『大逆転』というのが絶対にある駅伝になると思います。まずはその大学生たちの競り合いというところをぜひ楽しんでいただきたいです。

学生たちにとって一生で4回しかチャンスがない中で、人生を賭けてやっている子たちの一生懸命さみたいなところをぜひ見ていただければ、正月からいいものを感じていただけるんじゃないのかなと思います。

そして、画面には映りませんが、その裏にはメンバーに入れなかった子や、マネージャーをずっとやってきた子など、チームを支えている多くの学生たちがいて、この大会が成り立っています。そこもぜひ皆さんに知っていただいて、大学生の4年間を感じていただければ、僕らは嬉しいなという風に思います。


戦力的にも充実していますし、何がなんでも総合優勝させてやりたい。今年は学生たちが熱を持ってずっとやってきてくれたので、中大らしい駅伝をお見せできればなと思っています。大手町で一番で帰ってくる姿を、一緒に喜んでいただければ嬉しいです。応援よろしくお願いします」

PROFILE

藤原正和(Masakazu Fujiwara)
藤原正和(Masakazu Fujiwara)
1981年3月6日生まれ、兵庫県出身。西脇工業高等学校を経て中央大学文学部卒業。現在は中央大学陸上競技部長距離ブロック監督を務める。世界陸上競技選手権大会男子マラソンに日本代表として過去3回出場。ユニバーシアード北京大会ハーフマラソン、2010年東京マラソン優勝者。初マラソン元日本最高記録保持者。

著者

佐藤麻水(Asami Sato)
佐藤麻水(Asami Sato)
音楽や映画などのカルチャーとサッカーの記事が得意。趣味はヨガと市民プールで泳ぐこと。

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