
スポーツ大会の開催には、基本的に多くの企業がバックアップしている。自社の商品やサービス、社名をPRすることを目的に協賛する企業が多いが、協賛に至る背景は十人十色だ。
月日に開催される『FERGUS CUP』に協賛する鈴廣かまぼこ株式会社)も、強い思いを持ってその決断を下した。慶応元年(1865年)に創業し、伝統的な小田原かまぼこの製造・販売を軸に事業を展開してきた同社は、今日まで多くの食卓を彩ってきた。当日は、同社の商品を物品協賛として提供してくれる予定だ。
『FERGUS CUP』に協賛した背景、さらにはかまぼこが持つポテンシャルについて、同社の常務取締役・企画本部長である鈴木智博氏に話を聞いた。

かまぼこは高品質なタンパク源
今回の協賛の背景について鈴木氏はこう語る。
「かまぼこはおせち料理のイメージが強く、日常的に食べるものとしてはあまり認識されていません。そのため、『かまぼこは普段の生活の中で手軽にタンパク質を摂取できる優れた食材である』ということを啓発することは、企業として重要な課題の1つだと考えています。そのことを多くの人に知っていただくために今回の協賛に至りました」
続けて、かまぼこが持つポテンシャルを説明していく。
「弊社のかまぼこは1本あたり約7尾分の魚を使用していて、良質な魚肉タンパクがギュッと詰まっています。また、最近の研究からも明らかになってきましたが、動物性や植物性などさまざまなタンパク質がある中で、魚のタンパク質は“DIAAS(消化性必須アミノ酸スコア)”という、食品に含まれるタンパク質の消化吸収率を評価する指標において非常に高い数値を示しています。つまり、運動後に摂取することで効率的に筋力アップが見込める。さらに、胃腸への負担も少ないため、ハードな運動後でも無理なく食べることができるのです」

かまぼこがいかに優れたタンパク源であるかが伝わる一方で、いまだ「高タンパク食品」としての認知度は高くない。鈴木氏もこう語る。
「社内では20年ほど前から『魚肉タンパクの良さを発信しよう』という声がありましたが、大きなムーブメントを起こすことはできませんでした」
そんな中、転機となったのがプロサッカー選手・長友佑都選手の専属シェフ・加藤超也さんとの出会いだった。
「長友さんは魚のタンパク質を積極的に摂るなど魚中心の食生活を送っていることから、加藤さんは弊社の商品を持って行ってくれました。当時、長友さんはリーグ・アン(フランスプロサッカーリーグ)のマルセイユに在籍していて、チャンピオンズリーグの真っ只中という非常にハードな時期に、かまぼこを食べて『ツルッと食べられる』『最高だね』と言ってくださったそうです。それがきっかけとなり、『かまぼこの魅力をもっと広めよう』という流れが生まれ、2020年12月には長友さんとともに“魚肉タンパク同盟”というプロジェクトを立ち上げました」
日本代表として活躍してきた長友選手とのタッグの影響は大きく、かまぼこの認知は着実に広がっていったという。中でも、その手応えを感じた瞬間があった。
「弊社では『フィッシュプロテインバー(FPB)』という、手軽に美味しく魚肉タンパクを摂れる商品をリリースしているのですが、スーパーやコンビニでも同様の商品をよく見かけるようになりました。もちろん、『うちが最初だったのに!』という気持ちはゼロではありませんが。(笑)ただ、魚肉タンパクの魅力を広めるには業界全体が一枚岩となることが不可欠です。その結果、スーパーの棚に“FPB”という新たなカテゴリーが生まれたことは素直に『すごいな』と思っています」
スーパーで見かける機会も増え、かまぼこが私たちの生活に身近な食材となりつつある。とはいえ、「かまぼこ=非日常的な食材」というイメージをただただ払拭したいわけではなく、「日常的に手に取ってほしいという思いはもちろんありますが、それと同時に“特別な日に食べる”という価値や、“もらって嬉しい”と思ってもらえるギフトとしてのブランディングも進めていきたいと考えています」と幅広い市場の開拓を目指す姿勢を示した。

小さい時の経験も要因の1つ
さらには、協賛の理由には同社の長い歴史的な背景もあった。
「弊社を運営してきた鈴木家の先祖に横綱・常陸山 谷右衛門 がいます。そのご縁もあり、相撲の呼び出しさんに『鈴廣』と書かれた羽織を着用いただくなど、長きにわたってスポンサードを続けてきた歴史があります。また、弊社のすぐ近くには箱根駅伝でおなじみの“小田原中継所”があり、長年にわたりその運営もお手伝いさせていただいています。弊社は昔からスポーツと非常に近い距離にあるんです。だからこそ、スポーツに取り組む人を応援することは、特別なことではなく、ごく自然なことなんです」
他にも、「私も幼い頃、サッカーチームに所属していて、練習や試合の際に親からかまぼこを持たされていました」と自身の原体験も大きく影響しているという。
「『昼ごはん後にかまぼこパーティーしようぜ』とチームメイトに声をかけて、かまぼこを配って一緒に食べたんです。タンパク質の補給という意味合いもありますが、それ以上に“美味しいかまぼこを仲間と一緒に食べて、楽しい時間を過ごす”という経験が本当に嬉しかった。そうした体験を1人でも多くの子供たちに経験してほしいという思いもありました」
とはいえ、企業として協賛する以上、メリットがなければ成り立たないのも事実だ。“いやらしい話”になってしまうが、協賛のメリットはどのようなところに感じているのか。
「正直に言えば、スポンサードしているアスリートが『鈴廣のかまぼこを食べて優勝できました!』なんてインタビューで言ってくれれば、それは最高の宣伝効果になります。ただ、それよりも社員のモチベーションアップとして期待している部分が大きいです。実際、協賛している選手から『大会前にかまぼこを食べて好成績を残せました』というメッセージを社員向けにいただくことがあるのですが、それが社員のやりがいや自信につながっていると実感しています」
そして、ビジネスパーソンとしての視点から、スポーツの持つ“力”についても語る。
「商談がうまく進まない相手でも、スポーツを介せば話が弾むことがあります。また、異業種交流会などでも『このサッカー大会を一緒に盛り上げませんか?』と声をかければ、立場や業種に関係なく対等に話ができる。スポーツには人と人をつなぐ力があると、日々感じています」

多くのスポーツイベントやチームに協賛してきた同社だからこそ、スポーツが持つ“引力”の強さを誰よりも理解しているのだろう。
最後に、今後の展望として「弊社では『魚肉タンパク研究所』というラボを運営していて、かまぼこのポテンシャルの高さをエビデンスとして発信していけたらと思っています。そして今後も、スポーツを通じて、かまぼこの魅力をさらに多くの人に届けていきたいですね」と語った。
「かまぼこは質の良いタンパク質である」ということを世の中の常識にするためには、スポーツの存在が必要不可欠な要素なのかもしれない。鈴廣かまぼこが、スポーツの持つ力を活かしながら、今後どのようにかまぼこの魅力を発信していくのか注目したい。
著者
望月 悠木(Yuki Mochizuki)
