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市船が主催する唯一無二の大会“船橋招待U-18サッカー大会”
高校サッカー界の名門、船橋市立船橋高等学校(以下、市船)。過去に選手権優勝5回(歴代4位タイ)、インターハイ優勝9回(歴代1位)を誇り、高校年代最高峰のリーグ戦、高円宮杯プレミアリーグEASTに所属している。
その市船が中心となり、数多くの強豪チームを船橋に招いて毎年3月に開催する大会“船橋招待U-18サッカー大会”。現在の名称に変更してから開催11回目を迎える本大会の裏側や、プレミアリーグ残留を果たした昨シーズンの市船、そして今季の展望について、市船サッカー部監督の波多秀吾に話を聞いた。
大学サッカーやJリーグのスカウトも観戦
船橋招待とは一体どんな大会なのか、単刀直入に聞いてみた。
「まず、我々はこれまでの歴史上、全国の様々な大会に参加させていただき、鍛えていただいてきました。なので、感謝の気持ちを込めて、逆にいろんなチームに来ていただいて、おもてなしをして、お互いにチームを強化し合う、という大会が船橋招待になります」
今年の参加チーム一覧を見ると、鹿島アントラーズユースや柏レイソルユースといったJユースに、先の選手権を制した前橋育英高校や静岡学園高校など、豪華チームがズラリと並ぶ。総勢18チームが3日間で6試合を行うレギュレーションだが、時期的にはプレミアリーグ開幕の1週間前に当たる。なぜ、そのような大変な時期に開催するのだろうか。
「リーグに入っていくための総仕上げ、という位置付けです。怪我のリスクも当然ありますし、開幕直前に3日間の連戦を行うのは、かなりハードなスケジュールではあります。ただ、参加していただいている各チームの皆様には、チームの強化という面を筆頭に、多くのメリットを感じていただいていると考えています。
オフシーズンやリーグ中断期間に、全国各地でいろいろな大会が開かれていますが、船橋招待はそれらの大会の中でもトップレベルの大会になっていくことを目指しています。我々が所属するプレミアEASTからはもちろん、WESTやプリンスからも数多く参加していただいていますし、高体連やJユースの垣根なく全国トップクラスのチームが一同に集まる大会は、他に存在しないんじゃないかなと。
大学やJリーグのスカウトの方にも来ていただいていますし、サッカー協会の方から『アンダー世代の日本代表も船橋招待に出たい』と仰っていただいているくらい、唯一無二の大会になりつつあると思います」
船橋招待の特色の一つが、1試合25分ハーフで行われる、という点だ。波多はその意図を次のように語る。
「リーグ開幕直前なので、45分ハーフの試合をしたい気持ちはもちろんあるのですが、せっかく多様なチームに参加していただいているので、より多くのチームと対戦できるように、25分ハーフに設定しています。
プラスアルファ、25分ハーフだと選手たちの集中力やプレー強度が45分ハーフよりも高く維持できるんです。また、“試合運び”という視点で言うと、先制点がすごく大事になるので、我々としてもそれを念頭に置いて毎年戦っています」
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「国際的な大会を目指していきたい」
2019年に監督に就任した波多にとって、船橋招待は今回で6回目。前任の朝岡隆蔵元監督から引き継いだという、“あるヴィジョン”について教えてもらった。
「まだ実現には至ってないのですが、国際的な大会を目指していきたいと考えています。海外のチームが来ることで注目度もより高まりますし、よりレベルの高い大会になるはずです。選手たちは将来プロになって、その先にヨーロッパの5大リーグを目指しているので、5大リーグのアカデミーチームに参加していただく、というのが大きな目標です」
昨年4月、波多は欧州視察を行なった。ヨーロッパトップレベルのユースと日本の高校年代の違いは、ズバリどんな部分なのだろうか。
「やはり強度の高さです。『日本の選手のほうがテクニックに優れているから、海外でも通用するんじゃないか?』というような論調もありますが、実際に海外のチームと対峙すると、肌で感じるプレッシャーや強度、迫力に屈してしまい、おそらく日本人選手の良さが簡単には出せないのではないかな、と個人的には感じます。
チャンピオンズリーグの前座としてユースチームが試合をする、“UEFAユースリーグ”という大会も視察させていただきましたが、強度を含めレベルの高さを目の当たりにして、我々もその基準に近づいていきたいと改めて感じました」
サッカーの競技面だけでなく、地域交流という面でも海外の好例を見習っていきたいと話す。
「“ミルクカップ”という、北アイルランドの有名なユース年代の大会をこれまでに何度も視察させていただいているのですが、それは街をあげての大会になっているんです。各チームの選手たちがパレードとして街中を歩いて、スタジアムで行われる開幕式に向かうのですが、子どもたちからご年配のかたまで沢山の人が集まり、お菓子を渡したり、選手たちがサインを書いてあげたり、ハイタッチしたりと、街全体でこの大会を盛り上げている雰囲気がすごく素敵なんです。
すぐにそのような施策を盛り込むのは簡単ではありませんが、我々としても街全体でおもてなしをして、サッカーだけではなく船橋の土地や街全体の魅力を感じてもらえるような大会にしていきたいです。
また、現在は“船橋招待”として我々を中心に開催して、今年はジェフユナイテッド市原・千葉さんと柏レイソルさんに参加してもらっていますが、今後は千葉県全体のサッカーを巻き込み、千葉県として開催する大きな大会になっていけたらな、と考えています。そうすることで船橋も千葉もさらに盛り上がっていくのではないかな、と」
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前半戦未勝利から奇跡の残留を果たした昨シーズン
昨年のプレミアリーグEASTにおいて市船は、シーズン前半戦未勝利という非常に苦しい状況から、奇跡とも呼べるリーグ残留を掴み取った。話題に事欠かなかった作シーズンについて、波多は次のように振り返る。
「一言で言うと、『びっくりさせられたな』と。本当に奇跡を起こしたと思います。前半戦でまったく勝てなかったのは反省しなければいけません。ですが、『市船である以上、諦めずに最後までしっかりと戦い、勝たなければいけない』というプレッシャーを、実際に乗り越えてみせた選手たちには、すごく感謝しています。同時に、選手たちの成長度の凄まじさ、そしてスタッフを含めたチームとしての市船の凄さを、改めて感じさせてもらいました」
プロアマ問わず、前半戦未勝利から残留を果たすケースはかなり稀だろう。後半戦での巻き返しを実現させたきっかけは何だったのだろうか。
「ターニングポイントは夏の期間です。インターハイ本戦ではあまり良い結果は残せませんでしたが(準々決勝で米子北高校に0-1で敗退)、夏の期間を通して、自分たちの甘さや“やるべきこと”を選手たちがしっかりと感じ取ったのではないかなと。
Bチームは合宿で自分たちの未熟さを自覚して、『もっとやらなければいけない』と気付き、厳しい練習を乗り越えていきました。Aチームは“石川県ユースサッカーフェスティバル”で試合経験を詰み、大会後はBチームと同じくらいの強度の練習と試合を繰り返しました。そうやって厳しい練習を乗り越えていったことがきっかけになり、後半戦で波に乗れたのではないか、と感じています」
補足すると、インターハイ千葉県予選決勝の相手は、プレミアリーグEASTにおいて無敗で首位を走っていた流経大だった。その流経大柏を破って全国への切符を掴んだことが、選手たちの自信の裏付けになったことは間違いないだろう。とはいえ、インターハイの結果がリーグに反映されるわけでもなく、“降格”の2文字がチラつく、メンタル的にも難しい状況だったはずだ。波多やスタッフは、選手たちにどのような声掛けを行なっていたのだろうか。
「中村(指揮を取る中村健太コーチ)が実際にトレーニングで伝えていたのは、『間違いなく良くなっている』という内容で、僕自身も同じように感じていました。リーグ前半戦、結果は出なかったですが、惜しい試合は沢山あったので、勝ち点3が取れれば波に乗れるのではないかな、と。夏の練習を乗り越え、中断期間が明けたリーグ後半戦の1試合目で勝利を掴めたことも、残留の大きなきっかけだったと感じます」
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市船の伝統「負けてはいけない」
後半戦で勝ち点を着実に積み上げていった市船だが、第19節と第20節の間に行われた高校サッカー選手権千葉県予選準決勝は、PK戦の末に惜しくも日体大柏に敗れてしまった。その敗戦は良くも悪くも大きな意味を持っていたと話す。
「選手たちが何のためにJクラブではなくて高体連の市船に来ているかと考えれば、やはり選手権のためです。選手とスタッフ、チームとしても1番目指しているところなので、 敗退してしまったのはやはりショックでしたし、チームとして大きな失望でした。ただ、準決勝で負けたことにより、リーグまで2週間の時間が空いたことは、逆に良かったと今は感じています。
準決勝で敗退してからの1週間の練習では、集中力もない、 覇気も迫力もない、まったくダメな状態でした。でもそこから、『これでプレミアから落ちてしまったら何にも残らない』と、選手たちがしっかりと自覚を持ち、気持ちを切り替えられたのではないかな、と思います」
大きな失望を1週間で乗り越え、新しい試合に気持ちを向けるのは簡単なことではない。市船のどのようなメンタリティや伝統が、それを可能にするのだろうか。
「私が現役時代に布啓一郎さんから教わったことであり、OBやスタッフたちが今の選手たちに伝えていっていることですが、単純に、『市船は負けてはいけない』ということです。勝利に対する執念や情熱という、我々が現役時代に感じたこと。トレーニングやミーティングを通じて、少しずつ少しずつ、それが選手たちに伝わり、選手たちはだんだん“市船の選手”になっていき、市船の血が流れていく。そういう積み重ねが、残留という結果として現れたのではないかと思います」
船橋招待を皮切りに、プレミアリーグ、インターハイ、選手権という勝負が今年も待ち受けている。去年の結果を踏まえ、どのような展望を抱いているのか、最後に聞いてみた。
「昨年から、一歩引いた立場からチームに携わっていますが、俯瞰しているからこそ、『市船の伝統や歴史、忘れてはいけないものがある』ということを改めて感じさせられました。
今シーズン、どういう戦い方ができるかはまだ分かりませんが、新しく入ってくる選手たちをいち早く“市船の選手”にすることも大切ですし、市船の伝統を受け継ぎながら、プラスアルファで今の時代に合わせた新しい市船を作り上げていかなければいけないなと思っています」
市船が市船である由縁。それは単純に言い表せるものではなく、何十年という月日をかけて紡がれてきた想いであり、覚悟であり、血肉が通った文化、伝統なのだろう。この先の市船の発展を楽しみに見守りつつ、まずは3月28日から開幕する船橋招待をこの目でしっかりと見届けたい。
PROFILE
波多 秀吾(Shugo Hata)
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著者
佐藤 麻水(Asami Sato)
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