FOOTBALL | [連載] 鎌倉デザイン室

鎌倉デザイン室vol.4-2 | Kazuma Kawauchi

interview |

text by FERGUS

我らが鎌倉インターナショナルFC(以下、鎌倉インテル)のインハウスデザイナーに焦点をあてた企画『鎌倉デザイン室』。

今回は、2025年1月25日にグランドオープンする「ゴールドクレストスタジアム鎌倉」のロゴ制作について、鎌倉インテルのTD(テクニカルディレクター)兼CBO(チーフブランディングオフィサー)である河内一馬さんに話を伺った。

鎌倉インテルというブランドを守るためにサッカーがある

河内さんは鎌倉インテルにジョインして5年目になると思いますが、現在の役割について教えていただけますか?

僕の肩書きはTD(テクニカルディレクター)とCBO(チーフブランディングオフィサー)です。主にチームに関わる仕事とクラブに関わる仕事をしています。チームに関しては、どのようなサッカーをするべきかという土台は監督時代に作ったので、今はそれを監視する役割です。今の時期では選手の補強や対外的な面談を行い、選手を見極めたりする際には監督やGMと協力してメンバーを揃えています。シーズンが始まると、ベンチに入って試合の印象を監督に伝えるなど、少し遠目でチームを見守っている感じです。

クラブに関しては、グラウンドにも定期的に訪れていて、選手から「何もしていない」って冗談を言われることもありますが、僕はそれで良いと思っています。もっと深く関わるのであれば、監督をやるべきなので。僕としては、この役職の人間がクラブにいるかいないかでチームに大きな影響を与えると思っているので、常に第三者目線で意見を持てる立ち位置を意識しています。

また、今年の春から中学生年代のアカデミーがスタートするので、そのコンセプトのディレクション、主に言葉選びや構造を作ったりしています。スクールのコンセプトも同様にディレクションをしました。そうした意味でテクニカルな部分のディレクションを担当していると言えるかなと思います。

ただ、強化部長やスポーツディレクター(SD)のように、勝敗や選手人事、予算などを全て背負っているわけではありません。あくまで僕は、どのようなサッカーをするのか、どのようなコンセプトで進むのかという部分に重きを置き、「鎌倉インテルというブランドを守るためにサッカーがある」という意識を持って、そこを踏み外さないように取り組んでいます。

今の役職について、選手に理解はされていますか?

すべての選手が、僕の立ち位置について理解をしていないかもしれませんが、それで構わないと思っています。ガッツリとチームに影響を与えすぎると、泊監督がやりづらくなったり、選手が混乱したりするので、良い塩梅で現場に出るスタンスを取っています。一方で、ブランディングに関しては引き続き全てのディレクションを行い、クラブのコンセプトや見られ方、思われ方をコントロールしています。

「友也、壁を越えたな」

今回のロゴに至った経緯を教えてください。

ロゴの方向性を決める段階では(大貫)友也と綿密に話をしました。ロゴを通じて鎌倉インテルのブランドを強化しつつ、可愛すぎずポップ過ぎないバランスを目指しました。その後、ゴールドクレストの方々にヒアリングを行い、「どんな感じにしたいか」「どんなパターンがあり得るか」といった要望やアイデアを整理し、リファレンスを集めていきました。その中で、「こういうロゴがいいよね」といったイメージを友也に投げかけ、それをもとに作成したデザインに意見を出しながら、少しずつ方向性を固めていくという協力作業でした。

正直、具体的な経緯は曖昧なところもありますが、最終的には友也が「人がいるようなロゴにしてみるのはどうか」というアイデアを出してくれました。ウルトラC的な発想ではありましたが、僕の中で「これだ!」と感じました。実際にゴールドクレストの方々もそのデザインを非常に良いと感じてくれたようで、クラブの関係者や四方さんにも意見を聞いたところ、やはり一番印象が良いという反応でした。最終的に「やっぱりこれしかないな」という形で、あのロゴに決まりました。

昨今はスポーツ業界でもスタイリッシュなデザインが多く見受けられますが、そのような現代っぽさとのバランスをどのように考えましたか?

現代的なデザインに寄せすぎると、あまり立体感のないロゴになることに違和感を覚えていたので、最終的には複雑さを許容する方向へ舵を切ることにしました。例えば、SNSのアイコンとして小さく表示した場合や、ディテールが見えにくい状態で「これが何なのかわからない」といった意見が出たとしても、「それでいい」と思っています。一目見たときに「クレスタ感」さえ伝われば十分かなと。周囲に文字があれば内容は補足されますし、文字がないバージョンでも形状が記憶に残れば良いと考えています。

ロゴに人(子供)がいるとどうしても可愛く見えてしまう部分があると思うのですが、大貫さんにはどういうことを要求されましたか?

デザインの方針として、「シンプルに」「現代的に」といった考え方を捨て、また「可愛らしく見えないようにする」ことをリクエストしました。例えば、子供たちの顔については、リアルすぎたり複雑すぎたりしないよう微調整したり、無理に表情をつけたり、装飾を足したりすることは避けました。

さらに、影の太さについても、子供たちが座っている場所の影が太すぎると立体感が強くなりすぎますし、逆に影が薄いと平面的になりすぎます。このバランスを取りながら、ロゴ全体の高さも調整しました。特に、子供たちが座っている部分が出っ張りすぎていると、文字を取り除いた場合にデザインとして成立しなくなるので、このあたりも細かく調整しました。

河内さんが考える「現代っぽさ」とは具体的にどういうものですか?

サッカーに限らず、世の中全体がソーシャルメディアやデジタルスクリーンの時代になったことで、情報量を小さな画面に最大限に詰め込められるデザインが主流になっています。以前は、例えばポルシェのように、立体感や素材感を重視したデザインが主流でした。物理的にロゴを立てたときに立体的に見えるように、そのままグラフィックに落とし込んでいたんです。しかし、最近ではその流れが大きく変わっているように感じます。

サッカー界もその影響を受けていると思いますし、たとえば先日、ジャガーがロゴを変更して平面化したのもその一例です。確かに、こうした平面化の流れには「今っぽさ」や「現代らしさ」があります。ただ、そこをあえて外してみるのも面白いのではないか、という話もしました。結果として、非常にユニークなロゴが完成しました。他にはないデザインで、見た瞬間に目を引くものになったと思います。特に、ロゴ中央にある盾の部分に人を座らせるデザインは、今までにない発想ですし、それだけでも個性があります。

他に意識したのは、デザインそのものではなく運用面の部分です。具体的には、ロゴから人の要素をすべて取り除いた場合でも、盾のモチーフだけで成立するデザインにしたいと考えていました。一方で、細かいデザインのアイデアやディテールは、すべて友也が作り上げてくれたものです。

このロゴを大貫さんから提案された時、率直にどう感じましたか?

少し偉そうかもしれませんが「友也、壁を越えたな」と感じました。鎌倉インテル自体、鳩スタやインテルのビジョンである「Club Without Borders」においても、「人」がいないと成り立たないので、人の重要性は感じていましたが、それをロゴにそのまま取り入れる発想には驚きました。

ロゴが与える影響については、どう考えていますか?

ビジュアルを作る際、企業やサービス、人など、どんなものでも、その見た目を決める最初のステップとしてロゴが必要です。ブランドが人格だとしたら、ロゴはその顔であり、顔の印象で全てが決まります。笑っているのか、怒っているのか、カッコいいと思わせたいのか、それは全てロゴ(顔)で決まります。
ロゴが決まれば、服装や喋り方、歩き方など、他のデザインも自然に決まってきます。なので、ロゴはブランディングにおいて非常に重要ですし、ブランディングをする上では一番大事かなと思っています。

スポーツ施設をブランドとして成立させたい

みんなの鳩サブレースタジアムのブランディングはどうだったのでしょうか?

鳩スタ自体素晴らしい空間でしたし、あのグラウンドのおかげで今の鎌倉インテルがあるといっても過言ではないです。ただ、鳩スタ開業の時点でリソースが足りておらず、ブランディング観点では何もできませんでした。だからこそ、クレスタというグラウンド(場所)をブランディングしていきたいと思っています。

グラウンドをブランディングする。ゴールドクレストのブランディングでは何を重視していますか?

スポーツ施設をブランドとして成立させたいと考えています。クレスタのSNSやビジュアル管理に力を入れ、訪れたくなるような世界観を作りたいです。例えば、街中のカフェや飲食店で「おしゃれでカッコいい」と感じる場所ってありますよね。そういったお店は実際に訪れても良い雰囲気があって、SNSを見ると世界観がしっかりしていて運用も行き届いている印象があります。しかし、スポーツ施設となるとどうでしょう?広島の新スタジアムのように実際に訪れて「すごい」と思える場所はあっても、それをブランディングやSNSで魅力的に発信している施設はほとんどないように感じます。

なので、クレスタという場所を一つのブランドとして成立させたいと考えています。「この場所、カッコいいから行ってみたい!」と感じてもらえるようなブランドイメージを作りたいです。例えば、鎌倉インテルでもSNSやユニフォーム、観客の雰囲気などを見て興味を持った選手やファンの方がたくさんいます。クレスタについて検索したときにも、「ちゃんと運営されていて、カッコいいし世界観がしっかりしている」と感じてもらえれば、それがクラブの利益や関心にも直接つながると思っています。

それを実現するために必要なことはなんでしょうか?

そのため、まずはブランドの基盤をしっかり作ることが大切だと考えています。SNSのアカウント運営においては、急いで動き出すのではなく、基礎を整えながら進める方針です。スマートフォンで撮った写真をそのまま投稿しない、文章が雑にならないように注意するなど、細部にこだわることで、アカウントを訪れた人にマイナスの印象を与えないよう丁寧に運営していきます。今年1年は「守備を固める期間」と位置づけ、基盤作りに集中する予定です。

また、場所そのものの魅力も大切ですが、DIY感が良い方向に働く場合もあります。そのため、過度に作り込みすぎない良さを残しつつ、SNSやブランディングで発信する部分には特に力を入れていきたいと考えています。少し落ち着いてきたら何かコンテンツを作ったりそういうことをやっていきたいなとも思っています。

クレスタも3年という期間がありますが、その期間で実現したいことを教えてください。

僕が鎌倉インテルに関わって、最初の3年間である程度「鎌倉インテル」というサッカークラブの印象を作ることができました。「粗いけれどカッコいいことをやっているクラブだよね」と思ってもらえるような印象です。それで十分だったし、結果的に次の展開につなげることができました。同じように、クレスタでもこの3年間で「場所づくりとしてカッコいいことをやっているグラウンドだよね」と認識されることを目標にしています。

具体的にどういったことを考えていますか?

数値目標を掲げるだけではなくて、ブランドとしての印象をどのように構築していくかを重視しています。例えば、鳩スタの時は「ただのスポーツのグラウンドだよね」という印象が強かった。しかし、クレスタではそのイメージを超えて、「ブランドとしてカッコいい」と思ってもらえるような取り組みをしていきたいと考えています。

そのためには、独自性を持った能動的な活動が不可欠です。例えば、マーチャンダイズやグッズの制作、SNSでの企画、さらにはリアルイベントの企画など、やれることはたくさんあります。それらを「どう見せるか」にこだわることが大切です。すべての活動を通じて、クレスタというブランドの魅力を発信し、次の展開に向けた基盤を作りたいと考えています。

次の展開。その先はどのように見据えていますか?

将来的な目標として、クラブとして大きな目標は「鎌倉にスタジアムを作ること」です。そのためには、実績を積み上げることやブランディングを確立することが欠かせません。クレスタのプロジェクトも、そのための助走期間として重要な役割を果たしています。ブランディングという観点でも、今回の取り組みには大きな意味があると思っています。鳩スタでは僕の役割としてそこまで踏み込むことができませんでしたが、クレスタではそれをしっかり実現していきたいと考えています。

その観点からですと、鳩スタにしてもクレスタにしても「3年」という期間がポジティブな要素ではありますね。

はい。一般的にサッカー場は、一度作ると10年、20年とその形で運用されることが多いですが、移転を経験することで、「悪かった部分を改善しながら進化していく」ことが可能です。資金面では課題があるかもしれませんが、こうした状況だからこそ、さまざまな試みができるという点でポジティブに捉えています。

もし鳩スタジアムがそのまま継続していた場合、3年間で定着した印象(イメージ)を覆すには多くの時間と労力がかかりますが、クレスタでは「ゼロからブランドを作る」ことができるので、ゴールドクレストスタジアム鎌倉という新たなブランドを一から築き上げることができるのは、10年単位で見据えたらとてもポジティブなことだと個人的に感じています。

私からお聞きしたいことは以上となりますが、何かお伝えしたいことはありますか?

「友也、あっぱれ!」と言いたいですね(笑)。今回のロゴについて友也がどう思っているかは分かりませんが、「とにかく自分を褒めてください」と伝えたい気持ちです。途中で相当苦しそうな時期があって、「このプロジェクトが終わったら焼肉に行こう」と声をかけたんです。そしたら「頑張ります」と答えてくれたんですが、まだ実現できていないので、近いうちにぜひ奢らせてください。

PROFILE

河内 一馬(Kazuma Kawauchi)
河内 一馬(Kazuma Kawauchi)
1992年生まれ東京都出身。国内でのコーチ経験を経て、アジアとヨーロッパ約 15 カ国を回りサッカーを視察。その後25歳でアルゼンチンに渡り、現地の監督養成学校に3年間在学、CONMEBOL PROライセンス(南米サッカー連盟最高位)を取得。帰国後は鎌倉インターナショナルFC の監督に就任し、ブランディング責任者を兼任。2024年に監督を退任後、同クラブのCBO及びテクニカル・ダイレクターに就任した。初著の『競争闘争理論 サッカーは「競う」べきか「闘う」べきか』はサッカー本大賞 2023「大賞」を受賞。鍼灸師国家資格保持者。2024年スポーツのブランディング/コンサルティング/デザインファーム(株)vennn 設立。

PROFILE

鎌倉インターナショナルFC
鎌倉インターナショナルFC
神奈川県社会人1部リーグ所属のサッカークラブ。『CLUB WITHOUT BORDERS』をビジョンに掲げ、日本と世界を隔てる国境をはじめ、人種や宗教、性別、年齢、分野、そして限界、あらゆる“BORDER”をもたないサッカークラブを目指す。

Feature
特集

Pick Up
注目の話題・情報