メンディーサイモン友。流通経済大学附属柏高校サッカー部に所属するこの1年生CBは、U-16日本代表に選出されている期待の新星だ。
今年4月、NIKE『TIEMPO』の誕生30周年イベント【TIEMPO 30th Anniversary Project“Confiar”】がJFA夢フィールドにて開催され、全国から集まった26名のユース年代の選手の中からMAN OF THE MATCHに選出されたメンディー。1年間限定でNIKEの特別強化指定選手に任命され、その活動の一環として、鹿島アントラーズ(以下、鹿島)のトップチームの練習に参加する権利を得た。
今回の練習参加について、「もちろん嬉しかったですが、緊張の方が大きく、2日前からドキドキしていました」と語る15歳の若武者は、トップレベルの練習で何を感じ、何を学び取るのか。練習風景や鹿島の選手たちの声、そして本人へのインタビューを交えながら、当日の様子をお伝えする。
鹿島の伝統を感じる激しいインテンシティ
9月11日。鹿島の目線に立つと、インターナショナルウィークの中断期間を経て、週末には首位サンフレッチェ広島とのホーム戦が控えているという状況だ(取材時)。Jリーグが佳境を迎えるタイミングに練習参加のオファーを快く受け入れたクラブに、組織としての懐の深さを感じざるを得ない。
練習開始は午前10時。開始10分前になり、クラブハウスから出てくる選手たちの中にメンディーの姿を発見。前日から練習参加しており、この日は参加2日目で表情は明るい。メンディーと他の選手たちと体つきを見比べると、身長はすでに遜色ないものの、筋肉の付き方が大きく異なっており、まだまだ高校生の体つきということが遠くからでも分かる。
ハードルを使ったステップワークや動的なストレッチ、スプリントというメニューからトレーニングが開始。その後に7対2のロンドが始まり、メンディーは鈴木優磨選手や知念慶選手などと同じグループに参加した。
「テンポを上げて!」というポポヴィッチ監督(当時)の声が鳴り響き、パススピードやディフェンスの寄せが加速する。現時点のメンディーは鹿島のレベルに順応できているとは言い難く、パスを引っ掛けてディフェンスに回ることが多い印象だ。
ロンドの後は、20M正方形グリッドでの4対4対4のパス回し。その後、ハーフコートを3/4に狭めたグリッドでの7対7対7というトレーニングへと進んでいく。「ブラボー!」、「(球際で)負けるな!切り替え速く!」、「サイドチェンジ遅いよ!」という指揮官の声によって、選手たちのインテンシティがさらに高まっていく。試合さながらのスピード感に喰らいつくべく、メンディーも必死に戦う。
最後のメニューは、ピッチ全体を4/5ほどに狭めたコートでの11対11の試合形式のトレーニング。選手の顔ぶれを見ると、ビブス無しチームがレギュラー組で、メンディーはビブスを着てピッチ脇で出場機会を待っている。
10分後、サブ組の右CBとしてメンディーがピッチに送り込まれた。対峙するのは鹿島の顔である鈴木優磨選手だ。地上でも空中戦でもレギュラー組の攻撃に怯むことなく、CBとして安定したプレーを披露するメンディーの姿に、大器の片鱗を見出したのは筆者だけではないだろう。
こうしてトレーニングは終了。“お客さん”としてではなく、一人の選手として鹿島のトレーニングに参加できたのは、15歳のメンディーにとって非常に有意義な体験となったはずだ。
「『身体能力系の選手なのかな?』と最初は思いましたけど…」
トレーニング終了後、鹿島の選手たちに話を聞くことができた。2018年ロシアW杯日本代表でもある植田直通選手は、メンディーのクオリティと今後について次のように語る。
「高校1年生と聞いて驚きましたし、自分が高校1年生だった時と比べても、その倍以上は“やれる”選手だと思いました。これからが楽しみな選手なので、今後も注目していければなと思います。プロになることがゴールではなく、プロになった後にどう成長していくかがすごく大事だと思うので、今の自分の力をマックスだと思わずに、これからも精進して頑張ってもらいたいですし、できるだけ世界を目指してもらえればなと思います」
ポルトガルとベルギーでのプレーを経て、今季途中から鹿島に復帰した三竿健斗選手にも話を聞いた。
「15歳ですよね?年齢の割に落ち着いてプレーしていましたし、『身体能力系の選手なのかな?』と最初は思いましたけど、ボールの持ち方だったり、パスを出すところもいいなと感じました」
世界に目を向ければ、FCバルセロナのラミン・ヤマルのように高校2年生の年齢でビッククラブの主力選手として活躍する例も少なくない。海外の若手選手とメンディーを含めた日本人若手選手を比較した場合、どのような部分に違いを感じるのだろうか。
「向こうでは若ければ若いほど評価される傾向にありますけど、“走れる”とか“戦える”というフィジカル的な要素を備えていることが、まず大前提として若手にも求められます。メンディー君のような若い年代からそういう意識を高く持って取り組んで、フィジカルレベルがもっと上がっていけば、日本人の賢さや技術の高さは向こうでもかなり通用すると思うので、もっと若い年代から世界で活躍できるのかなと思います」
最後は同じ流経出身の関川郁万選手。最後のジョギング時には横に並んで走り、居残りでロングパスの練習に付き合うなど、母校の後輩であるメンディーの指導役を担っていた。メンディーによると、前日のトレーニング後には食事に誘ってもらったという。
「初めての練習参加で緊張していたと思いますし、プレーする機会はそんなに多くなかったですけど、流経の選手らしく堂々としていたと思います。能力もすごく高いと思うので、自分が得意とするプレーを伸ばしていって欲しいです。プロになれば“できないプレー”というのも出てくると思いますけど、そこは先輩たちにカバーしてもらいながら、自分のプレーができればいいのかなと思います。今後が楽しみです」
「ボールスピードが速い分、考える時間がない」
トレーニングが終わり、都内に戻る我々取材陣の車にメンディーが同乗することになり、高速道路を走る車内で話を聞いた。まずは今回の練習参加を通じて、どのような感想を率直に抱いたのだろうか。
「初めてプロの練習に参加させてもらって、高校とは違うレベルの高さを感じました。1日目の最初のメニューがパス&コントロールだったんですけど、一発目が柴崎岳選手からのパスで、かなり速いボールで本当に緊張しました。あとはプレッシャーの速さや、DFラインのスライドの速さにも驚きました。体の強さや競り合いの部分は、少しは対応できたのかなと思います」
実際に対峙して印象的だった選手について、次のように話す。
「FWだと鈴木優磨選手の印象が強いです。自分が取れると思ったところを上手く交わされたり、高校年代では体感できない上手さがありました。MFだと柴崎岳選手が凄かったです。後ろからボールを取られそうな状況でも、足首のコントロールだけで状況を変えてしまったり、『DF側からするとここが怖いな』という場所に毎回パスを差し込んでくるので、守っていてすごく嫌でした。CBは関川郁万選手です。ヘディングも強いですし、最後にロングパスをさせてもらいましたけど、自分の全力のキックと関川選手の軽いキックが同じくらいだったので衝撃を受けました」
キックの話題が出たので、NIKEのスパイクの履き心地について聞いてみた。「元々はNIKEのスパイクを履いたことがなくて、前回のイベントで初めてTIEMPOを履かせてもらいました。トラップの時もキックの時も、スパイクにボールが当たった時にかなりソフトなタッチ感で、すごくプレーしやすいです」と語る。
日頃メンディーがプレーしているJFA高円宮杯プレミアリーグEASTやプリンスリーグと今回のトレーニングでは、どのような部分で最も違いを感じたのだろうか。
「やっぱりスピードです。走るスピードもパススピードもプレースピードも、すべてが違います。一番対応が難しかったのはスライドの速さです。ボールスピードが速い分、考える時間がないんです。ボールの位置が変わればすぐにスライドしないといけないですし、なおかつ周りの選手と喋ってコミュニケーションを取らないといけないので、かなり難しかったです。こうやってプロの環境で練習していると、高校に帰ったときはすごくやりやすくなるのかなと思います」
トレーニング終了後、ある選手から「身長が伸びたら、その分筋肉もつけないといけない。もっと筋トレをして、もっと強くなったほうがいいよ」というアドバイスをもらったという。まだ身長が伸び続けているのかを聞いてみると、「伸びていると思います。まだお姉ちゃんとほとんど変わらないので」と話す。聞けば、姉のメンディーシアラさんは千葉経済大学附属高校に通う高校3年生で、バスケ女子U18日本代表とのこと。メンディーとお姉さんの恵まれたフィジカルは、セネガルとギニアのハーフで、かつてフランスでプロサッカー選手としてプレーした経験を持つ父親譲りだそうだ。
福田師王やチェイス・アンリ、高岡伶颯などのように、Jリーグを経由せずに高校サッカーから直接欧州に挑戦するケースは今や珍しくないが、メンディーはどのようなキャリアプランを思い描いているのだろうか。
「自分のレベル的に海外ではまだ通用しないと思っています。残り2年半の高校生活で自分のレベルが上がって、体も成長して、海外でもプレーできる自信が付けば海外に行きたいです。でもまずはもっともっと日本で努力して、成功したいです」
憧れの選手はイブラヒマ・コナテ。順調にステップアップを果たしていけば、将来リヴァプールでプレーするのも夢物語ではないはずだ。父親譲りの恵まれたフィジカルに、プロの練習にも物怖じしないメンタリティーとコミュニケーション能力。そして何よりも、自身の考えを正確に言語化できる思考力の高さは、今後彼の前に立ちはだかる幾多の壁を乗り越える、大きな原動力になるのではないだろうか。