KICKBOXING

「“コイツには勝たれへんやろ”っていうヤツであれば誰でもいい」打倒K-1を掲げる“最強の侵略者”山口翔大の挑戦

interview |

photo by Kazuki Okamoto / text by Asami Sato

12/9(土)に開催される『K-1 ReBIRTH2』にて、星龍之介との対戦が発表された空手家・山口翔大(TEAM3K所属)。白蓮会館の選手として、フルコンタクト空手界でその名を轟かせてきた彼は、2022年2月、31歳にしてプロのキックボクシングの試合に初参戦。以降、5戦5勝の戦績で、“最強の侵略者”という自身のキャッチコピーをリング上で体現している。

提供: TEAM 3K・Design: しょーわ

彼はなぜ、フルコンタクト空手界から飛び出し、プロの舞台であるK-1に挑戦したのか。その胸の内を聞いた。

「5歳から空手を始めて、ある程度は自分の目標をクリアできたんですけど、子供の頃にK-1ブームがあって、テレビで観るじゃないですか。当時、空手出身の選手でチャンピオンになった人はほぼいなくて。アンディ・フグ選手は優勝していますが、フランシスコ・フィリォ選手やグラウベ・フェイトーザ選手はK-1でチャンピオンになっていないので、自分の人生の答え合わせと言いますか。“K-1の舞台で、空手でどれだけ通用するねん”って思って、いま挑戦してます」

1990年前後に生まれたほとんどの男性にとって、当時のK-1ブームは馴染み深いのではないだろうか。大晦日のK-1中継は紅白歌合戦の視聴率を凌ぐほどで、筆者もよく学校でK-1について話していたのを覚えている。

山口にとってのヒーローは誰だったのだろう。

「ヒーロー、ちょっと難しいすね。子供の頃から、“憧れ=倒さなあかん”というのがあって。“自分が大人になった時にあの選手はまだ現役かな?”という感じで、勝ち負けでしか物事を考えていなかったので」

フルコンタクト空手には引き分けがない。勝つか負けるか。同時に、基本的には顔面へのパンチが禁止という競技性から、KOが少ない。つまり、多くの場合は判定によって勝敗が決まる。

「空手はアマチュア競技のスポーツでもあり、武道でもあるんですけど、“社会の縮図”やと思っていて。主催者がいて、参加者がいて、ホームとアウェーがあって、審判がいて。判定決着が9割以上の競技なので、人からどう見られるかっていうのを突き詰めなければいけない。その人の生き方や性格が出る競技だと思ってます」

子供の頃からの目標、全世界空手道選手権。4年に一度開催される無差別級の世界大会だ。新極真会が主催するこの大会に、新極真空手以外の他流派の選手で日本代表として出場した選手は“かつて”いなかった。その“初めての選手” になる。それが彼の目標だった。

2019年、山口はついにこの大会への出場を果たす。その翌年にはWFKO(全世界フルコンタクト空手道連盟)という、サッカーでいうFIFAのような世界連盟が発足。その第一回世界大会を次なる目標として見据えていたものの、コロナ禍によって大会が流れてしまった。

「闘う場所がなくなり、目標がなくなった。“じゃあどうしたらいい?”と考えて。年齢的にも、遊んでいる暇はないじゃないですか。なにか勝負をしないと生きていけない性格で、K-1はコロナ禍でも動いていたので、“ここで闘いたい”と思ったのがきっかけです」

アマチュア競技であるフルコンタクト空手と、K-1のようなプロのキックボクシングは、様々な面で大きく異なる。山口はどのような部分に違いを感じるのだろうか。

「フルコンタクト空手は、世界大会以外だと、申し込み用紙を書いてお金を払えば誰でも参戦できて、トーナメント形式なので結果がすべて。全くの無名選手でも、トーナメントを勝ち上がれば、1日でチャンピオンになれるんです。キックボクシングに関してはそんなに甘い世界ではなく、試合を組んでもらえなければ、そもそも話にならない。そこは大きな違い。一つずつしか上がっていけない」

蛇足かもしれないが、賞金の有無についても聞いてみた。

「お金をもらって闘う、という文化が自分の中にないので、無いよりは有った方がいいですけど、無しって言われても全然いいです」

賞金でも名声でもなく、「“無理やろ”って人から言われることに挑戦したい」と語る山口は、あくまでも“闘い”に飢えている。最も肝要であるその闘いの部分では難しさを感じなかったのだろうか。

「K-1ではまだ5戦しかしていないんですけど、正直、空手の方がしんどかったな、と。そもそもの競技人口も違いますし、“コイツらぬるま湯やな”っていうのは、キックボクシングの人らに思っています」

大言壮語にも聞こえてしまうような語り口だが、目の前に座る山口に虚栄心は見えない。

「多分、そもそもの練習量が少ない、とは感じていて。武尊選手であったり、ボクシングに行った那須川天心選手であったり、ほんまのトップどころはやっていると思うんですけど、それ以外は大して練習してないんやろな、と。背負ってるものも、思い入れも薄く感じる。空手界で生きてきた自分から見ると、“コイツらぬるいな”っていうのはすごく感じます」

格闘家や空手家の練習内容や練習時間は、未経験者にはなかなか想像しにくい。プロの世界ならばそれは尚更だ。勝つために、どれだけの鍛錬を積むのだろう。

「僕と一緒に練習したら、大体みんな一回で来なくなる。でも空手界の世界トップの選手と比べたら、僕もそんなに練習量は多くないんですよ。それでも、キックボクシングのプロ選手と一緒に練習してみたら1日で来なくなるので、“みんな思ってたよりやってないんや”とは感じます」

同じクルーザー級のマフムード・サッタリや、今年の『K-1 30周年記念無差別級トーナメント』でチャンピオンになった中国のリュウ・ツァーを含め、今後戦いたい相手はいるのだろうか。

「まわりから見て、“コイツには勝たれへんやろ”っていうヤツであれば誰でもいいかな、と。それを覆すのが醍醐味で、そのためにK-1に来たんで。彼らにも全然勝てると思っています」

山口の頭の中では、そういった対戦相手との闘いが鮮明にイメージされている。

「空手の時は経験値があったので、ある程度、頭の中でシミレーションできたんです。最近、キックボクシングでもちょっとずつそれができるようなり、頭の中で想定したのと実際のパフォーマンスがだいぶ合ってきたので、そろそろ行けるな、と」

彼が見定める最終目標は、はたしてどこなのだろう。

「ゴールは決めたくなくて、ぜんぶ通過点にしているんですけど、その一つとしてK-1でベルトを取ることがあります。その先で言うと、K-1のベルトを持ったまま、空手の大会に出たい。おそらく空手界の皆様は、“山口が戻ってきたとしても勝たれへんやろ”ってなると思うんですけど、その中で勝つのが好きなので、そういう世界観を作っていきたい。漫画みたいで面白いなって」

K-1に挑戦するため、山口は白蓮会館を退会した。だが、彼が着る道着の左胸と腕には、いまでも白い蓮の刺繍が施されている。白蓮会館出身の空手家としてのルーツと、そこで培ってきた自信を胸に、山口翔大はこれからも挑戦者として突き進む。

なにか言い残したことはないか、最後に聞いてみた。

「1年ちょっとしかキックボクシングをやったことのないヤツに、5連勝させちゃってるじゃないですか。“業界としての価値が下がってるよね?そろそろ止めたほうがいいんじゃないの?”とはずっと思ってます」

PROFILE

山口 翔大(Shota Yamaguchi)
山口 翔大(Shota Yamaguchi)
1990年生まれ。大阪府堺市出身。TEAM3K所属。2022年にキックボクシング参戦後、5戦5勝(2KO)0敗0分。2022年11月現在K-1の舞台でも全勝無敗を継続中。これまでの獲得タイトルは、RKSクルーザー級王者、AJKNクルーザー級王者、W.K.O世界大会優勝、KWF世界大会優勝、JFKO全日本大会2連覇、白蓮会館全日本大会5度優勝、正道会館全日本大会優勝、(一社)極真会館全日本大会優勝など。

著者

佐藤麻水(Asami Sato)
佐藤麻水(Asami Sato)
音楽や映画などのカルチャーとサッカーの記事が得意。趣味はヨガと市民プールで泳ぐこと。

デザイナー

しょーわ
しょーわ
フリーランスデザイナー。スポーツ写真を使ったビジュアル制作や、バナーデザインを請け負う。アルビレックス新潟レディース、株式会社セイカダイ、Goal Japanなどのデザイン制作を請け負っている。

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