FOOTBALL | [連載] LAで求職中。

LAで求職中。 #week9 / 文・田代楽

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photo by Gaku Tashiro / text by Gaku Tashiro

「ちょっと待っていて。すぐに連絡するから」

これはアメリカ・ロサンゼルスに来た、時間に厳しい日本人が鵜呑みにして負けをみる典型的な言葉である。

「2日以内に必ず連絡するね」

そしてこれはアメリカ・ロサンゼルスに来た、時間に厳しい日本人が鵜呑みにして負けをみる典型的な言葉、第2位である。ちなみにこの発言を真に受けて2日待った後、連絡が来ず、追撃の連絡をしてみたりすると「あぁごめん、あと2日以内に連絡するから待っていてね」とか平気で言われたりする。その割にインスタのDMを1日返していないと「死んだかと思ったよ。ハハ」とかいって電話してきたりする

そんなどうしようもない日は大人しく、平たいパスタでも茹でて、洗顔はいつもよりも入念にして、中野遼太郎さんのブログを一通り見て待っていたりする。(冒頭はサンプリング)

そして連絡がくる。

「ごめん、結局無理そうだわ。またの機会ね。」

みたいな感じでこの街のバスは運行されている。Googleの乗換案内は、ページを更新するたびに遅延の分数が大きくなり、最終的に待っていたバス停の少し前の大きめなターミナル駅に到着すると同時に運休となった。

仕方がないから自転車を部屋に取りに帰って、ふと空を見上げると携帯を見つめていた時には気がつかなかった綺麗な夕焼けが空一面に拡がっていた。この国は本当にそういう、ダルいことをしてくる。もれなく許すことにした。

6月5日 レアジョブ

を再開した。レアジョブとは、21歳で初めてひとり暮らしを開始した田代楽少年が、ひとりの時間に感じる寂しさ、夜の静けさに嫌気がさしてはじめたオンライン英会話サービスである。そのオンライン英会話をブレずに5年以上ほぼ毎日継続した結果、立派に自分の言いたいことを主張する程度の英語力と、外国人にズケズケと話しかけられる謎コミュニケーションスキルが日本国内で発達し、いまロサンゼルスにいる。

そしてネイティブの英語とレアジョブで培った英語は全く別物だと早くも認識し、もはや外国人にズケズケと話しかけられる謎スキルだけで今を生きている。そんなレアジョブを再開した。理由はルームメイトが出かけている日、ひとりの時間に感じる寂しさ、夜の静けさに嫌気がさしたからである。人間の本質はどうも変わらないらしい。

6月6日 半袖

相変わらず朝は曇天で昼過ぎに晴れ、夕日が美しく、夜はかなり寒い。気温は1日の中で最大10度ほど変化があって、着る服が難しすぎる。そもそもなにも考えず荷物をパックした4月、当時の気候だけを考えたラインナップで乗り込んだものだから朝は寒く、昼は暑く、夜はスーパー寒いというなんとも使い勝手のよくないホイレンスみたいな服装で日々過ごしている。

そんな極寒のサンタモニカ沿いでは、今日もタンクトップ姿ででケラケラ笑っているやつらがいっぱいいて、あれは一体どういう皮膚の構造になっているんでしょうかね、日本人は島国なのが関係しているんでしょうかねとか思っていたところ、みんな車で移動しているから寒くないらしい。

この社会と仕事のない自分に中指を立てながら極寒のメトロに乗り込んだ。

6月7日 カルロス・ベラ

夕方、2週間前から同じシェアハウスに住んでいるベネズエラ人のクリスが爆笑しながら「アルゼンチィン!ガハハハ!」と騒音を立て家に帰ってきてすかさずエアコンを17度に勝手に設定したあと電子レンジでプラスチック容器に入ったコーヒーを過剰にチンして当たり前に容器が溶けて中身が溢れたものだから電子レンジに対して大声のスペイン語でブチギレているのを目の前で見ていた私の口から「お前もう帰れよ」と流暢な日本語が出た。

コイツ帰る先ココじゃん。むかつくんだけど。

ちなみにそいつは信じられないくらい共有のリビングを汚すのだが、ルームメイトのチャットグループでたまに流れてくる「部屋を綺麗にしましょうね」の注意勧告に対して「We can do it bro!」と流暢な英語で1番早いレスをしてくるから本当にむかつく。

行間を読む能力とは、日本古来の美しい文化なのだとあらためて認識するのであった。

そんなこんなでこの日の試合はアタランタ戦。カルロス・ベラは自身が獲得したPKを阻まれたが、キーパーがキックの前に動いたと判定され与えられた2度目のチャンスを盛大にふかし、試合は0-0のスコアレスドローで終わった。

それでもベラは象徴だし、部屋にうるさいやつもいないだろうから幸せである。

6月8日 ラスベガス

にいる。ご存知フットワークが軽いやつことケイスケが「ラスベガス行きたいよね」ということで連れて行ってもらうことになった。彼がこなければ確実に行かなかった地である。簡単に「ラスベガスにいる」といったもののカルロス・ベラがPKを外したわずか30分後にはラスベガスに向けての旅を開始した。到着したのは夜中の2時。夜から始まる4時間以上のドライブ。半分くらい電波なし。普通に寝た。

ごめんケイスケ。あのちゃんも粗品の横で寝てたからさ。

ラスベガスはなんというか「ラスベガス」を最大限再現しましたみたいな場所で、全力でラスベガスをしていた。東京でもどこでも、大抵は中心地以外栄えていなかったり、実際に足を運ぶと有名な観光地も想像以下だったりするものだけれども、ラスベガスは想像通りだった。ちなみにケイスケはそのままカジノで100ドルを1分弱で溶かしていて想像通りだった。

6月9日 グランドキャニオン

にいる。ご存知フットワークが軽いやつことケイスケが「グランドキャニオン行きたいよね」ということで連れて行ってもらうことになった。彼がこなければ確実に行かなかった地である。簡単に「グランドキャニオンにいる」といったもののラスベガスに到着して4時間くらい寝た後にグランドキャニオンに向けての旅を開始した。到着したのは夕方の19時。睡眠不足から始まる6時間以上のドライブ。半分くらい電波なし。普通に寝た。

ごめんケイスケ。浜辺美波もしくじり先生の収録中に寝てたからさ。

グランドキャニオンは大きい。と言われて想像する大きさの15倍大きい。グランドキャニオンに行って人生が変わることも不思議ではない。

自分の未知なる扉が開いてもおかしくないくらい綺麗で大きな場所だった。

6月10日 エンゼルスタジアム

にいる。大谷翔平が投げている。
ご存知フッ(以下略)

この連載はLAで奮闘する姿を生々しくお届けすることが趣旨であったはずが、外来種によって生態系が見事に崩れた。わざわざ日本から会いにきてくれて、すべての旅行を段取ってくれた10年来の友だちことケイスケ。本当にありがとう。早く帰ってくれないかしら。

とはいえ大谷翔平のユニフォームをウキウキで購入し、「大谷はホームラン打つのかな」と目を輝かせている彼を見てそんなことは言えず、せめてこの連載を盛り上げるために大谷さん以外の謎キャラの台頭とか、隣で見ていたひとが実はLAFCの役員で急に仕事が決まるとか、そういうのくださいよ、と思っていたら普通に大谷翔平がホームランを打って勝った。ケイスケは「大谷ってここ(観客席)から見ても超でかいね」とずっと生まれたてのミーハーみたいな発言をしていた。

6月11日 超不思議な言語、英語。

近そうでまだ遠い、大阪。
話せそうでまだ話せない、英語。

つくづく不思議なことだと思う。昨日は完璧に会話ができた相手の話している言葉が、今日はわからなかったりする。だから昨日はハッピーで、今日はちょっと落ち込む。そんな日々の繰り返しである。

それでも今日もベネズエラ人のクリスは大きな声で拙い英語を話す。彼が日本人なら英語の授業でクスクス笑われ、放課後には英語を話す様子をクラスメートに真似されて落ち込むことだろう。と書いているいま、たったいま、彼はイヤホンをしてパソコンに向き合っている ”いかにも忙しそうな” 僕の前にわざわざ現れてイヤホンを外させるジェスチャーをしたあと「オヤスミネ」と笑顔で行って自室に帰って行った。サムライ、スシ、オウテ(王手)(なぜ)以外のボキャブラリーがなかった彼が、おそらく私に言うためだけにわざわざ覚えたのだろう。そんな彼の優しい気持ちを考えると、異国の空が彩られた気がした。

翌朝、まだ誰も起きていない朝、クリスがドデカイ声で友だちと電話している声で起きた。

普通にむかついた。はやく帰れよ。コイツ帰る先ココじゃん。むかつくんだけど。

PROFILE

田代 楽
田代 楽
無職。26歳。ロサンゼルス在住。 大学卒業後、Jリーグ・川崎フロンターレでプロモーションを担当。国内のカルチャーと融合した企画を得意とし、22年、23年のJ開幕戦の企画責任者を務める。格闘技団体「RIZIN」とのタイアップを含む10個以上のイベントを企画・実行。配信しているPodcast「Football a Go Go」はポッドキャストランキング・スポーツカテゴリで最高6位入賞。Instagram:@gaku.tashiro

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