目の前(本当に目の前)でティフォがあがり、真後ろ(本当に真後ろ)で観測市場最大量の発煙筒が焚かれ、爆音で花火が上がった。それら全てがティフォの内側で行われたものだから当然視界は遮られ、花火は全てティフォにぶちあたった。
一体この国のサッカーとはなんなのか。そして私はなぜここにいるのだろうか。
キックオフ直前に緊張なのか、これまでのクラブの歴史を振り返ってなのかわからないが、わんわんと泣き出したアメリカ人の涙がその理由を代弁してくれた気がした。
5月29日 信頼
格好つけてiPhoneの言語設定をスペイン語にしたら、設定画面の難易度が一気に高くなって言語の難しさを感じた。戻した。
5月30日 サウナ in LA
この国で最も大きな問題はサウナがないことである。と数々の有識者が言葉を残し日本に帰って行った。本当にこれは、大きな、大きな問題なのであると思っていたら普通にあった。しかも1日滞在できて30ドル。コリアン系が運営している「Wi SPA」にミシェルと行った。
かつて高校生の時、昭島の「湯楽の里」でその魅力にハマり、東海大学前の「さざんか」で体内のアルコールを抜き、祖師ヶ谷大蔵の「自問自答」で企画を考え続けた私にとって、サウナがない状況は死活問題も死活問題であった。ちなみに同じ自問自答を愛し、最も尊敬するボスの連載が最近始まったみたいなのでぜひにどうぞ。私が日本で最後に企画責任を行った2023Jリーグ開幕戦の裏話もぜひにどうぞ。
川崎フロンターレ事業部長・天野春果「企画屋アマノ~アイデアのととのえかた~」
https://saunabrosweb.jp/regular_amamo_kikakuya_2_/2023/05/26/
ガラッガラのサウナにひとりで入っていると、20cm隣にモサモサの男性が座ってきたけどその辺もすべて受け入れてもいいかもと思うくらいに、久しぶりのサウナは最高であった。
5月31日 通知
5月が終わる。長い1ヶ月だった。この地に降り立ってからの1ヶ月半、毎日目まぐるしく変わる環境に流されながら、多分人生でなんとかならないことなんてないんだろうなと悟り、今がある。
思えば「LAFCイケているなぁ」と感じ、本当に近い人以外には相談もせずに前職を退職。とはいえまずは日本人選手が所属するACFCで、とボランティアに入り、面接までこぎつけたところで世界で最も一緒に働きたいひとに出会う。知り合いがかけるくんしかいなかった1ヶ月半前が考えられないような、日本にいたらいまなにしているんだろうと時々考えてしまうような、そんな期間だった。
そんな時に、携帯の通知が鳴った。
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Hi GAKU,
Thank you for taking the time to speak with me about the position. At this time, we have decided to move forward with other candidates.
Thanks again for your interest in Angel City and we wish you luck in your search.
Regards,
Angel City
6月1日 睡眠①
記憶がない。多分ショックで15時間くらい寝た。人生でなんとかならないことは普通にあった。
6月2日 睡眠②
記憶がない。多分ショックで19時間くらい寝た。夢でも面接落ちてた。
6月3日 リオオリンピック2016
久しぶりに朝から晴れた。
滞在1ヶ月半にして、日本からの友達が2人きた。時は遡って2016年、はるばるブラジルまでオリンピックを観に行った同い年のイッペイとケイスケである。当時20歳に満たない年齢でブラジルに行った経験は「行動力」にも「決断力」にも「物怖じしない力」にも繋がっているんだろう。だからいまこんな感じなんだろうなと思うと、それはそれは大きな経験だった。そしてこのクレイジーガイたちは変わらないノリではるばる西海岸にやってきた。
先入りしていたイッペイと合流して、空港にケイスケを迎えに行く。
激混みのLAXに飄々と現れたノリボーイをピックアップして、早速カジノに向かった。
(中略)
入店して早速ルーレットの黒に600ドル賭けた。ディーラーが出した数字は黒の24。勝った。入店から15分で600ドルが1,200ドルになった。んでカジノを後にした。「行動力」と「決断力」と「物怖じしない力」を身につけると『運』を手にいれることができるらしい。
帰り、フリーウェイが事故で封鎖されていて1時間近く車に閉じ込められた。
全然手に入れてないじゃないですか、運。
6月4日 CONCACAF
手越くんとさんまさんの大会(意訳)ことクラブW杯で2回戦くらいに出場してくる北中米カリブ海王者を決める大会がCONCACAFである。我らがLAFCは2度目の決勝進出を果たし、MLSクラブ初のクラブワールドカップ出場を狙う。
この大会の決勝戦はホーム&アウェイで行われ、1stレグはクラブ・レオンのホームで1-2と敗北した。結果はよくなかったものの、貴重なアウェイゴールを獲得したことでサポーターは盛り上がっていたが、なぜか決勝戦だけアウェイゴール方式は適応されないらしい。関東訛りの「なんでやねん」が飛び出した。ともあれホームで勝てばクラブW杯に出場することができる。
数年前のクラブW杯でリーベル・プレートが来日した際に、仕事を辞め、号泣しながらクラブの愛情を日本テレビのインタビューで語ったアルゼンチン人をみたことがある。そのインタビューは「これがフットボールだ」と国内で拡散されていた気がするけれど、世のフットボールに犯されたパートナーをお持ちのみなさん、残念ながら「それがフットボール」なのである。どうしようもなく愛おしく、時に論理を破壊し、時に優れたマーケティングを無効化し、時に仕事を辞めてコネもなく渡米をしてその結果ココで文章を書いている26歳成人男性をも生み出す、それがフットボールである。最悪である。はやく仕事がしたい。カズキくん本当にいつもありがとうございます。
スタジアム周辺ではキックオフ6時間前からサポーター主催の集まりが始まっていた。そこにはタコスがあり、ビールがあり、音楽とマリファナと日焼けするには十分すぎる日差しがあった。子どもみたいにビアポンをする大人と、大人みたいに応援歌を唄う子ども。10個以上あるという公式応援団グループにはそれぞれ特徴があって、それぞれが自分たちのグループの衣装を自作して身に纏う。著作権とか、ロゴ利用料とかそういう細かいことははマリファナの煙に巻かれている。スタジアムの反対ではメキシコからお越しのクラブ・レオンサポーターが集まり奇声をあげながら打ち上げ花火を上げ続けていた。
試合開始が近づく。
決勝らしく、協会が用意したであろう陽気なMCに中指を立て、かなり予算がかかっているであろうセレモニーをボーッと見るサポーター。それを例のセレブリティシートから見守るDr Dre。キックオフ直前に掲げられる巨大なティフォ。噴射する黒と金の発煙筒。ピッチに向けて発射される打ち上げ花火。突っ伏して泣いているサポーター。すでに声が枯れているキッズ。睨みつけるセキュリティ。対岸から微かに聞こえる敵の歌声。震える鼓膜。霞む視界。ファイナル。
歴史。としか言いようがない。その日勝敗を分けたものはなにかと言われたら、歴史である。プレー毎に痛がる素ぶりも、ブチギレてペットボトルを投げ込む客も、それにわざとあたって痛がる選手も、試合に勝つためになにが必要なのかをわかっている態度であった。それは多分、ほんのわずかに見えてほんとうに大きなクラブの経験値の差である。
試合後、ベラは率先してサポーターに感謝を述べ、消沈していた彼らはまた歌い出す。
あの、歌っても結果なんぞ変わらないとわかっていて歌う、あの時間、あの光景は当事者の胸にしか刻むことができない。
そしてそれを何度も経験する、いつも最後の最後でうまくいかない、それこそが ”サッカー” なのだ。