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森脇良太が伝える「3、4、5人目の動き」と「一喜一憂せずやり続けること」の大切さ | NIKE FOOTBALL ACADEMY

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photo by Kazuki Okamoto / text by Asami Sato

Nike Football Academy at 修徳高校サッカー部 オンピッチ

日常の練習では学べない特別な体験を、特別な講師を呼んで提供する『NIKE FOOTBALL ACADEMY』。第11回目となる今回の舞台は、高円宮杯JFA U-18サッカーリーグT2(都2部)に所属する修徳高校サッカー部。前半戦のオフピッチ講義が終わった後、校舎横にある人工芝のピッチに移動した。

オンピッチの講師・森脇良太が登場

今回フューチャーするスパイクは「ELITE PACK」シリーズ。“ENERGIZED SPEED”と名付けられた「マーキュリアル ヴェイパー 16」に、“ENERGIZED PRECISION”の「ファントム GX 2」、そして“ENERGIZED TOUCH”の「ティエンポ レジェンド10」という3種類で構成されるスパイクたちが、ピッチ横に並べられた。新しいスパイクはいつだって気持ちを昂らせてくれるもの。選手たちは嬉々としてそれぞれのスパイクを選んでいる。

全選手が「ELITE PACK」を着用した後、選手たちはジョギングからスタート。ブラジル体操のようなメニューを挟み、5対2のワンタッチ制限のロンドが始まった。

すると突然、「こんばんは!」という大きな声がスピーカーから鳴り響いた。声の主は元日本代表の森脇良太氏。選手たちがダッシュで集合し、輪を作る。

森脇氏は2024年シーズンを以て現役を引退。現役時代はJ1、J2、J3のすべてでリーグ制覇を経験し、浦和レッズではACL優勝も成し遂げている。日本代表としてはアジアカップと東アジアカップを手にするなど、数多くのタイトルを手中に収めてきた。引退後は槙野智章が監督を務める品川CC横浜のコーチに就任し、指導者の道を歩み始めた。

「この素晴らしいイベントで皆さんとプレーさせてもらえることを嬉しく思います。

現役として20年間プレーさせてもらい、プレイヤーとしては去年終わりを迎えました。僕にとって今日は初めての指導経験になります。全力で指導させてもらうと同時に、みんなから多くのことを学ばせてもらいたいので、みんなもこのトレーニングに意欲的に取り組んで欲しいなと思います。

若い選手にいつも伝えていたのは、『喜びや楽しさを持ってプレーしてほしい』ということ。もちろんみんなにもそう伝えます。日が落ちてどんどん寒くなってくるかもしれないけど、みんなの気持ちと魂でピッチを熱くしていきましょう!オッケーですか?」

その問いかけに、選手たちは大きな声で反応。森脇氏の溌剌とした雰囲気と、元気な高校生たちの相性は抜群だ。

プロの現場で行われている練習にトライ

まずはロンドを再開し、選手の力量を見定める。「ナイス縦パス!素晴らしいよ」「緊張しなくていいよ。遊び心、余裕を持ってプレーしよう」、という森脇氏のコーチングが飛ぶ。3分ほど見守った後、森脇氏が笛を吹いた。

「事前に監督さんからチームの課題を聞いた上で、今日は “攻撃” をテーマにトレーニングしていこうと思っています。サッカーはボールの出し手と受け手の関係だけじゃないよね。ボールに関わっていない3人目、4人目、5人目の動きがすごく重要になる。みんなのボール回しを見ていたら、いいパスは出せているけど、3人目以降の選手は足が止まっている選手が多い。遠い選手も常にステップを踏んで、顔を出すことを意識してやっていこう」

森脇氏のアドバイスを受け、より集中度を高めて5分ほどプレーした後、給水を挟み、新しい練習に移行した。

【7対3】
・20M×10Mのグリッド
・グリッドをマーカーで4等分し、両奥の2つをAエリア、中心2つをBエリアと設定
・オフェンスはどちらかのAエリアに4人、その隣のBエリアに3人立ち、その間に3人のディフェンスが立つ
・オフェンス側は、反対側のAエリアへの侵入を試みる
・侵入できるのはAエリアにいた選手のみ(Bエリアの選手は不可)
・ドリブルではなく、走り込みへのパスで侵入
・アンダー3アッチ
・ディフェンスは3回ボールを取ったら交代

プロの練習動画で見られるような少し複雑な練習メニューだが、選手たちは難なく適応し、最初からしっかりと形になっている。プレーを見守る森脇氏から、次のようなアドバイスが飛ぶ。

「まずはポゼッションを安定させながら、常に遠い選手を探して、3人目以降の選手は常に状況を考えてポジショニングしよう。チャンスと感じたら積極的に飛び出して、反対側のAエリアに走り込もう。これは試合で相手の背後を突くことと同じことだよ。反対側に侵入できたら、周りの選手がすぐにサポートしよう!」

森脇氏が伝えたポイントを受け、選手たちの動き出しがより活発になっていく。日が落ちて気温がぐんと下がってきたが、ピッチ上の熱は増すばかり。約20分でこの練習は終了し、次の練習に移行する。

【3+1フリーマン対3+GK】
・横幅を5Mずつ狭めたハーフコート
・ディフェンス側はペナルティエリアのライン辺りからスタート
・オフェンス側は1トップ+2シャドーのようなバランスで配置(修徳のフォーメーションである3-4-2-1を想定)
・ハーフウェーラインから5M前の場所で、フリーマン2人が横に並び、ワンタッチでパス交換
・パス交換のタイミングを見計らい、オフェンス側の誰かが縦パスを受ける(応用では裏にラインブレイクしてもいい)
・縦パスに対するファーストタッチは必ずワンタッチで、別のオフェンスかフリーマンに落とす
・そこから先はフリータッチで、パスを出したフリーマン1人を加えた4人で攻める
・ディフェンス側は奪ったらポゼッションを安定させ、前に残ったフリーマンにワンタッチで縦パスを差し込み、その落としを受けてフリーマンが立つラインを超えたら勝ち(参加したフリーマンは、攻守によって役割を変える)

一度デモンストレーションを挟み、練習開始。開始当初はフリーマンのパス交換とオフェンスのタイミングがなかなか合わず、いい縦パスが差し込めない状況が続く。徐々に縦パスが入るようになってきたが、今度はワンタッチの落としが上手くいかない。

「ボールを受ける時に大事なのはタイミング。常に呼び込んでも良い状況でボールはもらえないよ。あと、受けたいスペースは空けておこう。初めから下がりすぎてもプレッシャーを受けやすくなるし、次に繋がらない。緩急を意識してやっていこう!」

選手たちの動きもより自由に、かつ積極的になっていく。なかなか得点には繋がらないものの、攻撃の形が見えてきた。

「チャレンジしてミスするのは問題ないよ!せっかくの数的有利なんだから、オフェンスとフリーマンは勇気を持って追い越したり、裏に飛び出そう。裏に出たら、周りは足を止めずにサポートしよう!」

この日のテーマである3、4人目の動きも増えてきた。20分ほど続けた後、最後は両ペナルティエリアのラインにゴールを置いた、少し狭いフルコートでの11対11に移行。

スタメン組のAチーム対控え組のBチーム、という構図が影響しているのか、公式戦さながらのスピード感と激しい球際の攻防が開始直後から繰り広げられる。今日のテーマを体現すべく選手たちはプレーし、森脇氏はマイク越しに大きな声でアドバイスを送る。

「足を止めるな!サポート!逆サイドにボールが渡った時のサポートももっと意識しよう!」

「サイドバック、ナイスラン!繋がらなかったけどスーパープレイだ!」

15分ほどの試合を2本行い、この日の練習は終了。森脇氏を中心に、選手たちが輪を作る。

一喜一憂せずにやり続ける

「みんなのいいプレーが多く見られました。僕自身、指導慣れしていないということもあり、上手く伝えられなかったり、みんなも戸惑う部分があったかもしれないけど、精力的に取り組んでくれたことがまず素晴らしかったと思います。

今日伝えられたことは少しだけですが、3、4、5人目のプレーはどんどん出てきていたと思う。あとは出し手と受け手がコミュニケーションを取って擦り合わせていくのも大切なので、続けていきましょう。

この中でJリーガーを目指している人は手を挙げてみて欲しい。(手を挙げる何人かの選手を見て)おお、素晴らしい。Jリーガーになることを目標にしている人も、それ以外の目標を持っている人も、やっぱり大切なのは、やり続けること。あとはその量。時間というのは誰にとっても平等で、24時間365日をどれだけ有意義に使えるかが、ものすごく大事になります。

現役時代にいろんな選手を見てきたけど、長く活躍する選手はやっぱり努力を怠らない。そういう選手は、サッカーだけじゃなく食事や睡眠、サッカーノートを書くこともトレーニングと捉えて、24時間をデザインしています。

僕の高校時代を思い出すと、自分の周りには常にスター選手がいる状況で、自分は上手な選手ではなかった。でも、そういうライバルたちに負けないように、どうすれば勝てるのかを常に考えながら、トレーニングを続けてきました。下手くそだった自分が、ありがたいことに20年間もプロとしてプレーさせてもらえたのは、そういう部分があっ宝こそ。みんなもその姿勢を無くさずにいて欲しいです。

あとは、自分がミスをしても、いいプレーをしても、一喜一憂せずにやり続けること。サッカーでも何でも、挑戦にはその姿勢が大事だと思う。

僕はいつもサインに『夢は叶う』っていう言葉を書くんだけど、いろんな人から『そんなに軽く言うなよ』と言われ続けてきました。でもこれからもそう書き続けるし、伝え続けます。もちろん、夢や目標を達成できない時もあります。でも、その姿勢を持ち続けることが大事。その姿勢がなければ、そもそも夢を叶えることはできないと思います。

僕はこれから指導者として頑張っていきますし、将来は日本を代表する監督になり、日本代表監督にもなりたい。『今日のトレーニングの出来を考えたら、(その目標は)ちょっと難しいな』と思う自分もいるけれど、ホテルに帰って今日のことを振り返って、ノートに書いて反省して、今後に活かしていきます。

みんなにもそれぞれの目標があると思うので、その目標に向かってチャレンジしていってください。皆さんの成功を祈っています。今日はありがとうございました」

多くの金言が詰まった森脇氏の言葉を以て、オンピッチの講義が終了。現役時代のプレーを再現するようなポジティブな声がけや雰囲気に溢れた今日のトレーニングについて、森脇氏に話を聞いた。

「本当に素晴らしい活動だと思いました。高校年代の選手たちが元プロの選手から直接教わる機会はなかなかないと思いますし、素晴らしい時間を共有できて、僕自身も楽しめました。

僕が思うのは、『自分で自分の魂に火を付けて、奮い立たせないといけない』ということ。そうじゃなければ、どんなトレーニングをやったとしても成長できないと思っています。サッカーでも日常でも、生きていれば落ち込むことはありますが、次の日には気持ちを切り替えて、『今日はたくさん学ぼう』というポジティブな気持ちを持って行動する。

その想いが強かったからこそ、これまでのキャリアが実現できたと思っているので、そういう部分を高校生にも感じ取って欲しいなと思い、今日のトレーニングに臨みました」

今日身に纏ったスパイクである“ENERGIZED SPEED”「マーキュリアル ヴェイパー 16」について話を聞いた。

「履いた時にびっくりしました。現役時代もマーキュリアルのシリーズを沢山履かせてもらいましたが、今回のスパイクはよりフィットして包まれる感じで、自分のプレーを最大限引き出してくれるスパイクだと感じます。多くの人に履いてみて欲しいです」

森脇氏のトレーニングとスパイクへの率直な感想を、一人の選手に聞いてみた。

チームとしても3人目の動きを意識していつもプレーしていますが、4人目、5人目の動きを森脇さんからアドバイスされて、自分からもっと動き出したり、呼び込んだり、もっと速くサポートしたり、ということが大切なんだと感じました。あとは、自分はチームの中でも下手で、声や態度でチームを盛り上げることしかできないんですが、下手なりに一生懸命もがいてやろうと思いました。

今日履いたマーキュリアルはとにかく軽かったですし、反発力があって切り替えや踏み込みもやりやすかったです。デザインも色も格好良くて、最高です

以上で、修徳高校サッカー部を舞台とした『Nike Football Academy』の全工程が終了。文化的な側面からサッカーを追求する河内一馬氏。元日本代表の森脇氏。そんな二人によるトレーニングと最新のギアを提供するNIKE。そして主役の高校生たち。フットボールに関わる様々な存在が一同に介し、ともに切磋琢磨すべくトレーニングに励む本企画は、文化レベルでも競技レベルでも、日本サッカーをより高みへと推し上げる重要な取り組みだと、改めて感じさせられた1日だった。

PROFILE

森脇 良太(Ryota Moriwaki)
森脇 良太(Ryota  Moriwaki)
1986年4月6日生まれ。広島県福山市出身。元日本代表。2005年、サンフレッチェ広島ユースからトップ昇格を果たしプロ契約を掴み取ると、2012年にはチームのJ1初優勝に貢献。2013年シーズンから在籍した浦和レッズではAFCチャンピオンズリーグ優勝も経験した。2024年をもって現役引退。2025シーズンからは愛媛FCポジティブエナジャイザーを務めるほか、槙野智章が監督を務める神奈川県リーグ1部品川CC横浜トップチームのコーチに就任している。

著者

佐藤 麻水(Asami Sato)
佐藤 麻水(Asami Sato)
音楽や映画などのカルチャーとサッカーの記事が得意。趣味はヨガと市民プールで泳ぐこと。

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