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アパレルブランドをパリコレに導いた高坂圭輔のリーダーシップ論 | NIKE FOOTBALL ACADEMY

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photo by Kazuki Okamoto / text by Asami Sato

ファッションとフットボール

日常の練習では学べない特別な体験を、特別な講師を呼んで提供する『NIKE FOOTBALL ACADEMY』。市立船橋高校サッカー部を舞台に開催された今回、オフピッチ(座学)の講師として呼ばれたのは高坂圭輔。アパレルブランドの代表として、東京、ミラノ、パリでのランウェイショーを開催するほどにまでブランドを育て上げた人物だ。

高坂圭輔氏

名門・前橋商業高校サッカー部として国体、インターハイ、全国高校サッカー選手権に出場したことがあるという経歴が高坂の口から明かされ、選手たちの反応もより一層真剣みを帯びる。サッカーではなくファッションの道に進んだ理由を、高坂は次のように語り始めた。

「父親がファッション好きだったのもあって、小さい頃からずっとファッションが好きで。サッカーでご飯を食べて行きたいという気持ちも頭の中にはあったけど、サッカーよりファッションが好きになり、高校でサッカーを辞めてファッションの道に行きました」

ファッション業界で働きながらもフットボールとの関わりは続き、アパレルブランドの『NEIGHBORHOOD』や『WIND AND SEA』とJリーグクラブのコラボグッズを筆頭に、さまざまなアパレルブランドとJリーグのコラボレーションを仕掛けている。

目標を言語化して言い続ける

今回の講題である“リーダーシップ”について、高坂が考える6つ重要なポイントが画面に示された。

1. ビジョンを示し、目的と手段を明確にする
2. 多様性を生かす(新しいモノ・コトを受け入れる)
3. 物事を言語化する
4. 夢中にさせ失敗を恐れずチャレンジする
5. 問題を探し解決する
6. 意味を見つける、見出す

これらのポイントに沿って、自身の経験を次のように振り返る。

「チーム作りの上で、リーダーである立場の人が現状に満足してしまうと、それがどんどん周りにも蔓延して、チームとしてそれ以上の成長を求めなくなってしまう。だからこそリーダーは目標を高く設定し続けて、どれだけ不可能に思えることでも、言葉にして伝え続けることがすごく大事。

たとえば日本代表だと、本田圭佑がずっと『ワールドカップで優勝する』と言い続けていたよね。僕はブランドを立ち上げた時から『絶対にパリコレまで目指す』と言い続けていたんだけど、やっぱり周りの人は『不可能だ』という反応がほとんどでした。でも、その目標を言語化して周りに伝え続けたことで、いつしか周りを巻き込んで、『あ、いけるかも』という雰囲気を作ることができて、最終的には実現できた。1つの目標に向かって組織が動く上で、言語化は非常に大事な要素になります」

“ゴールデンサークル理論”:WHYの重要性

次に、“言語化”する上での方法論として “ゴールデンサークル理論”が紹介された。ゴールデンサークル理論とは、“WHY→HOW→WHAT”の順で想いを伝えることで、共感を生むことができるという理論。高坂自身の経験を交えながら、次のように説明する。

「このゴールデンサークル理論を、僕のようなファッション業界の人で例えてみます。たとえば『何の仕事をしているんですか?』という質問をされた時に、『ファッションの仕事をしています』というのは、おそらくほとんどの人が答えられる。『どうやってその仕事に携わっているんですか?』という質問には、『デザインをしています』とみんな答えられます。

ただ、『なぜその仕事をしているんですか?』という問いに答えられる人は、意外と少なくて、世の中で成功者とされている数%の人たちだけがこれを答えられる、と言われています。なぜその数%の人たちが答えられるのかというと、“WHY”の部分を最初に突き詰めているから。これがゴールデンサークル理論です。

僕の場合は、『なぜファッションの仕事をするのか』という“WHY”に対して、『ファッションを通じて世界中に友達を作りたいから』という答えがあります。僕にとって、自分の生活を豊かにする大事なファクターの一つが“人との出会い”で、『世界中の人と一緒にファッションの仕事がしたい』という想いがあったから、この仕事を始めて、パリコレクションを目指したんだよね。

この『なぜ〇〇がしたいのか』が言語化できれば、人から共感を得られたり、人の心を動かしたり、感動を与えることができる。みんなは『なぜ市船サッカー部に入ったのか』という問いには『高校サッカーで優勝したいから』、『プロになりたいから』と答えられるかもしれないけど、その先にある『そもそもなぜサッカーをしているのか』という問いに答えるのは、ひょっとすると難しいかもしれない。そこまで突き詰められたらすごくいいと思う。この考え方は、就職活動でも社会に出てもきっと役に立つと思うので、ぜひ参考にしてみてください」

自分のストーリーを考え、日々を過ごそう

講義後半では、同ブランドのコンセプトの一つであった“ナルシスト”をキーワードに、思考法のヒントをさらに授けていく。

「“美意識を鍛える”ということを僕はすごく大事にしているんだけど、これは言い換えると、『少しナルシストな気持ちで日常を過ごしてもいいんじゃない?』ということ。より噛み砕くと『自分がどういう人間でありたいのか。365日24時間、どうやって日々を過ごすのか』という視点で、自分のストーリーを考えるのが大切、ということです。

そもそも、どういうことを自分はやりたいのか。その目的のために、誰にとっても唯一平等な時間という有限性の中で、自分のストーリーをどれだけ作れるか。そうやって考えれば、自分の中の美意識が自然と上がって、目的と手段がよりはっきりしてくる。

全国大会で優勝するという目的があるのであれば、どういう手段で日々の練習に向き合わないといけないのか。サッカー以外の、学校や家にいる時間もただぼんやりと過ごすのではなくて、何をすべきなのか、何をしなきゃいけないのかまで考えることが大切。

きっとみんなは小中学生の頃に高校サッカーを見て感動した経験があるよね。いまはみんながその当事者になっている。つまり、過去に自分の心が動いたストーリーを、今度は自分自身が経験していて、誰かを感動させられる立場にいるということ。そうやってストーリーを客観視して意識することもすごく大切だと思うので、ぜひ忘れないでいてもらえたらと思います」

アパレルブランドをパリコレへと導いた自身の経験を交えながら、人生の目標を見定め、力強く突き進んでいくための方法を伝授した高坂。講義を終えた高坂のもとを2人の選手が訪れ、積極的にアドバイスをもらおうとする姿が印象的だった。高校サッカーの名門出身である人物が、フットボールとは異なる世界で結果を残し、その延長線上で再びフットボールに仕事としても携わり、自分たちの前で話をしている。選手たちが自身の未来を考える上で、非常にポジティブな体験になったのではないだろうか。

講義が終わった高坂に、今日の感想を伺った。

「自分が今日伝えたことや、彼らが普段いろんな人から教え聞くことは、聞いた時には腑に落ちたり、納得できるような“当たり前のこと”ではあると思います。でも、自分が所属するチームや組織に対しての不満が募って『楽しくないな』と感じてしまった時、この当たり前のことをつい忘れがちになってしまうと思うんです。 

そういう時にこそ、この当たり前のことを思い出して、考え続けて、そのスキルを鍛えていけば、自分の哲学・思想が成長していくはず。ただぼんやりとサッカーをしたり生活するのではなくて、考えることによって人生を豊かにしていく。サッカーでも、考えることでサッカーがより楽しくなって、そこからプラスアルファで勝てるチームになっていくと思うんです。

誰もがつい楽な方向に行ってしまったり、考えることを怠ったりしがちです。でも、高いところに目標を設定して、そこに対してモチベーション高く日々を生きていくのを忘れないでいてほしいなと思います」

PROFILE

高坂 圭輔(Keisuke Kosaka)
高坂 圭輔(Keisuke Kosaka)
群馬県出身。2010年株式会社バースリー設立。アパレルブランドを立ち上げ東京、ミラノ、パリでコレクションを発表。2023年に同社を離れ2024年に株式会社高坂圭輔事務所を設立。企業のディレクションやコンサルタントを担う。また2019年には株式会社フリックデザインを設立し、Jリーグとアパレルブランドのコラボレーショングッズなどを手掛ける。

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