FOOTBALL

”恥ずべき歴史”に目を背けない、変なシャツが担うサッカークラブの社会的意義 | Pacific FC 田代楽

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text by Kazuki Okamoto

カナダのビクトリアにあるサッカークラブ「Pacific FC」のクラブスタッフとして働いている田代楽にとって、初めての海外での企画となるユニフォームローンチ。

今回は2ndユニフォームについて話を伺った。

その背景にある想いや熱意、そして歴史についてもぜひご覧いただきたい。

前回は2024年シーズンの1stユニフォームのローンチについてお話していただきましたが、今回は2ndユニフォームができあがる背景について教えていただけますでしょうか?

2ndユニフォームのデザインの背景について話す前に、少しだけこのクラブのホームタウンであるビクトリアの歴史に触れてもいいでしょうか?ここの部分がかなり重要でして。

もちろんです。お願いします。

僕が今住んでいるビクトリア(バンクーバー島)の地域はかつて先住民族が暮らしていましたが、1800年代にイギリスの植民地となり毛皮貿易の商用港、イギリス海軍の前線基地として発展しました。ビクトリアを訪れたことがある方ならわかると思うのですが、今でもブリティッシュな街並みが残っているんですよね。

そんな地域で、2021年に先住民族の子どもたちが集められていた「寄宿学校」の跡地から215人分の子どもの遺骨が発見されました。先住民族の子どもたちは親から強制的に引き剥がされ、この学校にて同化政策、いわゆる”カナダ”の教育をさせる名目の元で収容されていました。これは白人たちによる迫害の証拠として、トルドー首相も「これは我々の国の暗い、恥ずべき歴史の一幕を思い起こさせた」と述べ、各地の政府庁舎で半旗を掲げるよう命じた、という大きなニュースがありました。これがわずか2年前の出来事です。



そのような歴史をうけ、Pacific FCは先住民族との共存、彼らと共に生きるという意思表示を示しました。この点に関して「なぜ迫害を行った側の人々が共存することを望むのか」という疑問を持つ人もいるかもしれませんが、反省以外の言葉では表しようがないのかなと思っています。これは説明が難しいというより、日本人には理解しがたい感覚かもしれません。

そういった歴史がある中で、映像に映っているのは先住民族のルーツを持つ子どもたちなのでしょうか?

はい、そうです。Pacific FCは、先住民族の子どもたちが通う学校にサッカーグラウンドを寄付しており、今回はそのグラウンドで撮影しました。

ユニフォームに映っている魚とその意味を教えていただけますか?

ユニフォームのデザインは先住民族にルーツを持つデザイナーが手がけ、サーモンがモチーフになっています。

サーモンに込められた意味はふたつあり、ひとつはサーモンが彼らにとって象徴的な存在であることです。産卵期に下流から上流に向かってサーモンが泳ぐ姿は、先住民族が過去に抑圧された歴史から這い上がる姿、困難に立ち向かう決意を表しています。

もうひとつは子どもたちにとって夢を追い求める場所のひとつにPacific FCがあることをサーモンの持つ反逆心、回復力の意味を重ねたメッセージがあります。もちろん、プロサッカー選手になることがすべてではありませんが、サーモンの絵が入ったユニフォームを着用することでこの島に住む子どもに対して、そしてかつて自分の思い描く未来を生きられなかった先住民族の子どもに「何にでもなれる」という希望を伝えたかったのです。

かなり真面目な話になってしまいましたが、歴史上の過ちに対してクラブとして見て見ぬふりをせず、向き合う姿勢を示しています。また、このユニフォームには1着につき$20が先住民族コミュニティに寄付される仕組みにもなっており、これが話題になることでこの島で起こった過去を世界に周知する役割と世界のフットボール好きから購入いただくことで一部が金銭的な援助になる設計もされています。

写真に関してこだわった点はありますか?

映像と同様に先住民族のルーツを持つ子どもに絞って撮影しました。Pacific FCにもアカデミーはありますが、今回は彼らを起用せず撮影場所もこのグラウンドのみにしました。もちろん写真のクオリティが高いことは重要ですが、撮影する人や構図にこだわりすぎると、今回我々が表現したかった本質からズレる恐れがあったので、そこだけは避けたかったです。また、子どもたちにポーズを指定しすぎると、作り物っぽくなってしまう可能性もあったので、なるべく自然体を意識しました。ここで重要なのは撮影場所、ユニフォーム、そしてユニフォームを着ている先住民族ルーツの子どもたちの3つだったので、ここの部分にはとにかくこだわりました。

決裁者のフットボールへの理解が重要

田代くんにとって海外での初企画となるユニフォームローンチでしたが、事前にやりたかったこと、頭の中で考えていたイメージは実現できましたか?

1stユニフォームでビクトリアの街とファン、2ndユニフォームで街の子ども(アカデミー)にアプローチをしたいと考えていたので、実現することができました。むしろ初企画でここまでできるとは想定外でした。

そこにどのような狙いがあったのでしょうか?

Pacific FCが存在する限り、ファンや街、そして未来のクラブをつくる子どもは永遠に存在し続けます。外資系の大企業が参入してきたり、それに伴ってオーナーが変わることはあるかもしれませんが、これからもファンや街の子どもたちがこのクラブの歴史を築き、ストーリーを紡いでいく存在であることには変わりないです。だからこそ、僕がこの企画に関わっている以上は、クラブとして彼らが大事である、という意思表示をしたかったんです。

日本でそれを実現することは難しいのでしょうか?

全くわからないです。でも今のJリーグのクラブで同じことをやろうとしても決裁者にフットボールの理解が乏ければ99%できないと思っています。その他にも、前回の記事で述べた通り、ユニフォームローンチではサプライヤーが主導となり、決裁がサプライヤー側にあるというケースも存在するため難しいのではないでしょうか。
今回は若い世代に訴求したいから若いモデルを起用して撮りましょう、といった文脈と似ているものの実態は真逆なことをやっているので、このあたりを過度な説明なく受け入れてくれるボスとチームには感謝しかありません。

SNSでつぶやくことよりも、もっと大事なこと

今回の企画を通して、日本人である僕が、カナダのちいさな街のサッカークラブで過去の”恥ずべき歴史”について理解したまたは理解する努力を行い、サッカークラブというフィルターを通して世に発信する一端を担いました。日本のサッカークラブでも災害がおきたとき等に、重要なメッセージを伝えるメガホンとして、クラブと地域が密接に連携をとり、行動を示すことがあると思うのですが、これってかなり重要なことだと改めて気づきました。地域やファンとの連携は本当に時間がかかるし、大変な部分もあるのですが、クラブの価値を本気で高めたいのであれば、行政や街との関わりこそがこれからの10年を考えたときにプライスレスな価値になるんですよね。ちょうどとあるクラブの経営者がブーイングについてSNS上でつぶやいているのを見たんですけど、その現象そのものがクラブまたは経営者が地域やファンと連携ができていない証拠なのかなと思いました。そもそもフットボールを正しい文脈で解釈できていればその発言が野暮であることは明白だと思いますし、仮にそれが和式の提案であるならばその発言場所は絶対にSNSではない。基本的にSNSで行われる議論でなにかが前に進むことなんてなくて、ただただ萎えることが大半な気がするんですけどね。もちろんバランスが大事なんですけど、SNSでは極論以外が数に埋もれる傾向なのでフットボールで最も価値がある白でも黒でもなかったから面白かった存在にことごとく”優等生”がラベリングしている現状があると思っています。一度ラベルが貼られたらクラブとしては対応するほか手段がないので、その瞬間にカルチャーがひとつ死ぬ。なんかもう見てられないです。

Xで提案するよりも、すごくアナログ的ですが商店街でファンとコミュニケーションをとる方が密接な関係を築くことができそうですね。

間違いないです。収容人数4万人のスタジアムをもつサッカークラブがあるとして、2万人はデジタルマーケティングと派手な集客装置で新規のファンをスタジアムに呼ぶことができるかもしれないけど、それ以外のクラブの成績が悪い時でもスタジアムにきてくれる2万人がなんでわざわざスタジアムにきてくれるのか、というところにもう少しアンテナを張った方がいいと思います。どうせコアファンは無視していても来る。と本気で思っているとパタっと来なくなる。

この2万人が間違いなくクラブの歴史やファンとしてのプライドを次世代に継承していくんですよ。当然新しい顧客も大切ですが、彼らが熱を持ち続けるためには、もっと地域と密接に動いていく必要があるのではないかなと思います。要は、ブーイングをやめようとか、そんなこと言わずに早くXやめましょうって言いたいです。

自らがサッカークラブの主語となる

田代くんが海を渡り1年になろうとしています。最後に心境の変化やこれからの目標があれば教えていただけますか?

この1年でプロのサッカークラブでプロのクラブスタッフとして仕事をする必要性を再認識しました。フリーランスとして単発で仕事を請け負う選択肢もありますけど、そうではなく自ら組織を動かしていきたい。その方が時間がかかるし大変なこともありますけど、そうでないと自分の企画に説得力がなくなる感覚があります。きっと前職で天野春果さんを見てる分、その影響も少なからずあると思います。天野さんがすごいのは、コンサル的な立場ではなく、長年にわたりクラブのスタッフとして、責任を背負って組織を動かしてきたところにあると思います。その姿勢が今回のユニフォームローンチ含め僕の今の仕事に活きていると日々感じています。いつか日本に帰ることになったら、そういう文脈が共有できる人たちと一緒に仕事ができれば嬉しいなと思います。

本当の最後にぜひPacific FCのインスタグラムフォローしてください!

Pacific FC Instagram:@pacificfootballclub
田代楽 Instagram:@gaku.tashiro

PROFILE

田代 楽
田代 楽
カナディアン・プレミアリーグ パシフィックFC マーケティンググループ。26歳。バンクーバー在住。 大学卒業後、Jリーグ・川崎フロンターレでプロモーションを担当。国内のカルチャーと融合した企画を得意とし、22年、23年のJ開幕戦の企画責任者を務める。格闘技団体「RIZIN」とのタイアップを含む10個以上のイベントを企画・実行。配信しているPodcast「Football a Go Go」はポッドキャストランキング・スポーツカテゴリで最高6位入賞。Instagram:@gaku.tashiro

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