FOOTBALL | [連載] ビクトリアで就職中。

【12月】ビクトリアで就職中。/ 文・田代楽

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photo by Gaku Tashiro / text by Gaku Tashiro

契約更新

した。来シーズンからはフルタイムでの雇用となる。普通に慄いている。

12月、23シーズンの振り返りを行ったときにボスから提示を受けた条件につい声がでた。クラブスタッフなんて20人もいない小さなスタートアップクラブが必要としてくれたことも、外国で雇用を得ようなんぞノウハウも前例もなかった事柄を無事クリアできたことも、なにより外国語で普通に外国人と会話ができていることも嬉しいことだ。ちょっと真面目なことを書いてみよう。

今後、サッカー界の価値は上がっていくのだと思う。ここでいう価値とは例えば内部のサラリーがあがるとかそういうことで可視化されるだろう。娯楽を視聴するデバイスの多様化に伴い、広告のあり方がぶっ壊れてきた。いまやピッチを囲う電子看板は視聴環境によって異なるビジュアルを表示するし、数年前までは売り物にすらなっていなかったものを “コンテンツ” と過大評価する風潮もいまや変に思わない。Twitterのヘッダーがスタジアムの看板よりも広告として高値で取引される時代である。

もう少し考えてみよう。サッカークラブの価値とはなんなのか。わかりやすく、サッカークラブの資産のなかで “無駄でないもの” はなんなのか。不動産価値としてのスタジアムや保有施設、高い再生回数を誇る自社で動かせるメディア、数をあげればキリがない無駄でなく経営において大切な事柄。合理的に考えれば考えるほど「昭和的」なコミュニケーションは淘汰され、紙的な媒体は消え失せる。『令和的』な意思決定で物事が進む。無駄なものがどんどん削ぎ落とされていく。そして多分、全然面白くなくなる。

まだ日本にいたとき、知人の紹介でバスケチームの広報スタッフと話す機会があった。まだ24歳の子どもを目の前に「バスケは全天候型で〜」「健全な経営が〜」と教えてくれた。つまり集客に、人を魅了することに無駄がないということだった。このとき、僕はサッカーが好きな人間でよかったなと思った。

過激なファンは安全安心な観戦の邪魔、だから重宝するべきだ。
地域との会話は直接収入に結びつきにくい、だから愛するべきだ。

便利な世の中だ。TVerは日本のテレビを時差なく届けてくれる。YouTubeでは再生回数の稼ぎ方を、ちょっとググればあの成功の真相を経験せずとも知ることができる。だから無駄なことをするべきなんだと思う。だいたいそこにしかロマンみたいなものは生まれないんだから。熱は生まれないから。

北米スポーツ界では、もれなく合理的な意思決定とクリーンな働き方がなされてきた。もちろん莫大なマーケットが生み出す奇天烈な放映権料がその経済活動を支えていることは明白なのだが、そんなグローバルで、ドラマティックで、ワールドワイドな団体が1番大切にしているのがローカルだったりする。地域のためになにができるのかを考える部署に多くのひとが配置されているのが、合理的な彼らが考える合理的な手法なのだろう。無駄にみえるかもしれないけれど、多分それが本質なのだ。

外国で過ごす初めての年が終わる。忘年会もないし、年末っぽさもあまりないけどTVerだけが日本の暮れを感じさせる。あぁ便利な世の中だ最高ゥ。

いま一度

海外で働くためにはなにが必要なのかを考えてみよう。たった数ヶ月前の私がそうだったように漠然と「日本の湿度はいやだなぁ」「日本の冬は寒いなぁ」といった理由で人生1度は海外で生活したいなぁと考えることがあるだろう。どこの国に住むかで大きく難易度が変わりそうなものだが、一旦北米を基準に考えてみる。ここでの状況は日本で育った英語が流暢でない日本人が特にコネもないけど現地人しかいない会社で働く、である。

さて、さっそく結論だが海外で働くために最も重要なことは「海外に入国すること」である。元も子もない。これが全てである。で、これがどうにも面倒くさい。まず仕事を辞めるのって思ってるより大変だ。しまいに引き止めてくれる先輩なんていたらもうそれを断るのはなんとも心苦しいのである。海外に行くんです、と聞くとなんだかものすごくエキゾチックでチャレンジングでマッチョな印象を受けるけれど、かつての私のようなスタンスはもはや旅行者でしかない。ただのエキゾチック入国である。ちなみにこのマッチョ観光客は1番最初のロサンゼルス国際空港の入国審査で「90日います!!!!!」と馬鹿みたいに発言した結果、エルピスの冤罪死刑囚並に尋問された。部活を思い出した。

さて、入国してからすることといえば「突撃」である。

どうせコネなんてないんだから突撃する。するとなにかが起こる。誰かを紹介してもらったり、集まりを教えてもらったり。そしてそこに行く。すると次第にキーパーソンが見えてくる。だんだんと「あれこれイケるかも?」と思ってくる。

そして「絶望」である。

「あれこれイケるかも?」と思ったときは大体イケない。無理。諦めて。割と絶望的。そして若干住み慣れた異国の地で日本のYouTubeばかりみる日々が続く。数回行けば特にテンションも上がらなくなる観光地とスーパーを行き来し、なにかないかと思いながら特になにもできない日々が続く。そんな時に寄り添ってくれるひとを一生大切にしようと心に誓うタイミングでもある。iPhoneのアルバムが無邪気におすすめしてくる日本にいたときにスライドショーに揺すられる。

そうこうしている間に「奇跡」が起こる。

だいたい予想だにしなかった奇跡が飛び込んでくる。誰かがどこかから信じられない話をもってきてくれる。それがたったいちどだけ会っただけのひとだったりもする。ノコノコと信じてみると本当に夢が叶っちゃったりする。そして振り返る。こんなに大変なら日本にいたほうがよかったかも、と。

この文章を書きはじめたとき、年末だしもっと若いひとがチャレンジしやすくなるといいなと思ってパタパタ打ちはじめたけれど、あまりに再現性がなさすぎて無責任なことも言っていられないなと思った。ただ特に後ろ盾もなく海外にでることの良いことは本当に大切にすべきひとが誰かわかることなんじゃないかな。なにかあったらいつでも連絡してね。心配しないで。僕はいつだって君の味方だから。アハハ、大丈夫だよ、君はプリンセスさ。

令和ロマン

が優勝したM-1グランプリが圧倒的に良すぎて、毎度この時期になると朝日放送に入社したくなってしまう。今年はM-1グランプリの誕生秘話に関する本を買って2時間で読み終わるくらいのめり込んだので着々と入社の足音が近づいている感じもしている。

誰かが令和ロマンの面白さを「私立高校の面白いやつのノリ」と評していてマジでそれ、と思った。要所に撒かれているワードの引用先が私立高校のソレというか、あの頃流行ったドラマだったり、すしざんまいだったりじゃらんだったり、みんなが体験したことあるけどわざわざ言わないことを掘り起こす技術がとんでもない。そしてそのセンスは確かに私立高校っぽい。

例によって私は偏差値40ちょっとの都立ギャル高校に通っていたため、学生時代に面白がっていた笑いはもっと暴力的でわかりやすいものだった。しかし、意外といまだにその文脈が1番面白いと思ったりする。どっちかというとありふれるコンテンツのメイン軸はそのわかりやすいもので、令和ロマン的な立ち位置は一部に人気のあるものだった。大関れいかが主軸で、それを斜めにみるみたいな、まぁそんな感じ。

「時代だから」

ここ数年、どこでなにをしていてもこの言葉を耳にする。魔法よりも効力がある「時代だから」は誰かを傷つけそうな発言を口封じし、前時代的な表現にブルーシートをかける。1億総ツッコミ時代とはよく言ったもので、笑いのメインが馬鹿ななにかを揶揄することになってきている気もする。「いやぁそれは流石にやりすぎじゃないですか。まぁ僕は面白いと思うんですけど一応やめておきましょうよ」な感じ。1億総いやぁそれは流石にやりすぎじゃないですか。まぁ僕は面白いと思うんですけど一応やめておきましょうよ時代。ここでやめておかないとネットに叩かれちゃいますよみたいな、その他責な態度のほうがよっぽど暴力的な気がするんですけど。

その全てが週刊誌とTwitterに集約されている気がするけれど、この忙しい暮れに松本人志が生贄に贈呈された。なぜこんな時代にでもまっちゃんがトップにいたのかを考えてみると、かつて時代を作ったものが新しい時代に飲み込まれることなく適合し、むしろその新しさと共存したからだと思う。酒・タバコ・女・暴力・ギャンブルといった超前時代的な要素を特に隠していなかった大御所の首に突然ロープが巻かれるのは「時代だから」なのだろう。そしてこれ系の議論はマジョリティサイドに立っている時点でもうなにも発言権がない、そういう時代。

税金をジャブジャブする政治家と異なり、コンテンツメイカーのスキャンダル報道に辟易としているというか、このままだとリスクを背負って表現しているひとはいつか全員死ぬなと思ってしまう。それも前の時代ではイケていたとされることをいまの時代に裁かれて。それってとんでもなくグロテスクなことなんだよなと、右脳がタイピングしかけたけど左脳が「いやぁそれは流石にやりすぎじゃないですか。まぁ僕は面白いと思うんですけど一応やめておきましょうよ」と言っている。

ブリトニースピアーズのことを

カナダ人同僚がブリトって言ってたんだけど、もしかして彼のファミリーネームってニースピアーズだったってこと?

PROFILE

田代 楽
田代 楽
カナディアン・プレミアリーグ パシフィックFC マーケティンググループ。26歳。バンクーバー在住。 大学卒業後、Jリーグ・川崎フロンターレでプロモーションを担当。国内のカルチャーと融合した企画を得意とし、22年、23年のJ開幕戦の企画責任者を務める。格闘技団体「RIZIN」とのタイアップを含む10個以上のイベントを企画・実行。配信しているPodcast「Football a Go Go」はポッドキャストランキング・スポーツカテゴリで最高6位入賞。Instagram:@gaku.tashiro

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